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勇者召喚と逃亡
勇者逃亡 ⑤
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ノイス国での避難生活も半月が過ぎました。こちらの暦もほぼ前の世界と同じで助かっています。
兄は炊き出しの達人として同じ避難キャンプの奥様方から絶大の信頼と人気を得て、さりげなく日常生活などの知識を収集してくれている。
こちらの常識がわからないと、変に目立った行動をしてしまいそうだし、とても助かっている。
姉はテキパキと書類仕事をこなす能力に加え儚げ美人として、避難民を受け入れているノイス国辺境伯の文官たちに大人気だ。
その魅力を最大限に活かし、私たちの逃亡先及び永住先の選定に重要な情報収集を担っている。
いつもはぼんやりしていて、オタク文化にしか興味がない姉だが、デキル人ではあるのだ。ただ、ヤル気にならないだけで……。
私と小次郎は、抜きんでた活躍はない代わりに地道にお手伝いをした。
野菜の下拵えもしたし、薬草の採取にも精を出し、医療室での治療のお手伝いや、洗濯、ゴミ捨ての雑用まで進んで請け負った。
このお手伝いに獣人のウッツちゃんとロッツくんも付き合わせ、あちこちへと連れ回しました。
隣のテントの住人である二人のご両親は、獣人差別の文化があるトリーア国民である避難キャンプの人たちの目に晒されることを危惧したが、そんなモン見慣れてしまえば問題ない。
種族間の差別はそんな簡単な問題ではないが、ここの避難民たちトリーア国の外れの村で細々と暮らしていた村人たちだ。
きっと、獣人なんて会ったことも見たこともないのだろう。だったら言葉を交わして笑ってはしゃぐ姿を見せればいい。
実際、私たちがそうしていて眉を顰める人もいたが、三日もすれば慣れたらしい。誰も冷たい視線を向けてくることもなければ、文句も言われなくなった。
二人の両親であるモーリッツさんとレオニーさんに感謝されるほど、避難キャンプでの暮らしが楽になったそうだ。
よかった、よかった。
そして、今夜も橘一家とモーリッツさん一家は共に夕食を囲みながら、今後の相談をし合う。
「やっぱり、俺たちは一度故郷に帰ろうと思います。無料送迎馬車が隣国アーゲン国の国境まで行きますので。そこから乗合馬車を乗り継いで北方の獣人集落まで、来た道を戻ることになりますな」
ハハハと乾いた笑いを漏らすモーリッツさんは悔しいんだと思う。
真面目に仕事を頑張って開店資金を貯めて、新天地へ向かっている途中でスタンピードに遭い、家族全員の命は助かったけれど財産はすべて失ってしまったんだもの。
「確か……アーゲン国の国境の町。ウェルタ辺境伯が治める領都ラントまで馬車は連れていってくれます。護衛の冒険者はCランクのパーティーで、アーゲン国の隣国フュルト国の出身でしたわ」
フーフーと熱いスープを冷ましながら姉が伝えると、モーリッツさんはその冒険者パーティーを知っているのか、ほーっと息を吐き出していた。
「それは助かりました。そのパーティーのメンバーは種族混合だったはずです。旅の間、ウッツやロッツに嫌がらせする人も減るでしょう」
私たちと一緒にキャンプの広場で遊んでいても文句を言ってくる人や、嫌な視線を送ってくる人はいないけど、馬車という狭い空間でずっと一緒だと、イライラして八つ当たりをされることも考えられるもんね。
「ところで、アオイさんたちは行き先が決まったのですか?」
冷ましたスープをスプーンでロッツ君に飲ましているレオニーさんの質問に、こちらの口がムググと閉じる。
「お兄ちゃん、どうする?」
「う~ん。アーゲン国だと、ちょっとキツいかもなぁ。でも馬車はアーゲン国までしか出してもらえない……」
そう、トリーア国に戻ることは断固拒否として、残る選択は二つ。このままノイス国に残り生活をしていくか、送迎馬車を利用して隣国のアーゲン国へ行くか。
まず、ノイス国に残るには飲み込めないことが幾つかある。獣人やエルフなどに対する異種族への扱いが不平等なことと、奴隷政策があること。この奴隷は罪人、借金の他に、異種族や身寄りのない孤児などを無理やりに売買して奴隷するということが合法化されている。
あと……私たちみたいな移住者にも優しくない。土地や家は買えないし、起業したり店を開いたりすることは移住からある程度の年月が経たないと認められない。
この「ある程度」はその領地を治める領主、貴族の胸三寸である。つまり適当である。
ほとんどは賄賂を渡して融通してもらうらしい。実は姉がこっそりとそういうお誘いを受けていた。
なので、ノイス国の移住はナシ! 絶対にいらないトラブルに巻き込まれるわ! しかも小次郎が異世界からの勇者だとバレたらどうなるのか……。トリーア国と同じく利用されるだけ利用されるのがオチだっつーの!
「でも、アーゲン国も難しいでしょう?」
姉の言う通り。モーリッツさんたちの故郷ではあるが、アーゲン国は国の数か所にダンジョンがあり、冒険者たちが行き来する活気ある国ではある。活気もあるが犯罪も多い。ダンジョンなんて力試しか一攫千金狙いの輩が好んで挑戦するところなので、その手にしたお宝狙いの強盗や詐欺が横行し、ダンジョンから戻らない冒険者の子どもや奥さんが路頭に迷い、喧嘩や大騒ぎがあちこちで頻発するお国柄。
とにかく武勇を尊ぶので……正直、異世界人でひょろりとした兄やおっとりしとた姉では、馴染むことができない。
「そうですねぇ。確かにアーゲン国の移住者は冒険者の方が多いですし、腕っぷしで決めることも多いです」
モーリッツさんは苦笑しているが、この人もそれなりに強いらしい。
「では、その隣のフュルト国へ行かれては? 多種族国家ですし、文化水準も高く、貴族の横行も少ないと聞きます。特に王家の力が強く、ここ数代は賢王が続いています」
「……ただ、アーゲン国からフュルト国までの旅が……」
そう……ノイス国が出してくれる馬車はアーゲン国との国境まで。そこからアーゲン国を横断してさらに隣のフュルト国まで私たちだけで旅をするなんて……無理だよぉ。
兄は炊き出しの達人として同じ避難キャンプの奥様方から絶大の信頼と人気を得て、さりげなく日常生活などの知識を収集してくれている。
こちらの常識がわからないと、変に目立った行動をしてしまいそうだし、とても助かっている。
姉はテキパキと書類仕事をこなす能力に加え儚げ美人として、避難民を受け入れているノイス国辺境伯の文官たちに大人気だ。
その魅力を最大限に活かし、私たちの逃亡先及び永住先の選定に重要な情報収集を担っている。
いつもはぼんやりしていて、オタク文化にしか興味がない姉だが、デキル人ではあるのだ。ただ、ヤル気にならないだけで……。
私と小次郎は、抜きんでた活躍はない代わりに地道にお手伝いをした。
野菜の下拵えもしたし、薬草の採取にも精を出し、医療室での治療のお手伝いや、洗濯、ゴミ捨ての雑用まで進んで請け負った。
このお手伝いに獣人のウッツちゃんとロッツくんも付き合わせ、あちこちへと連れ回しました。
隣のテントの住人である二人のご両親は、獣人差別の文化があるトリーア国民である避難キャンプの人たちの目に晒されることを危惧したが、そんなモン見慣れてしまえば問題ない。
種族間の差別はそんな簡単な問題ではないが、ここの避難民たちトリーア国の外れの村で細々と暮らしていた村人たちだ。
きっと、獣人なんて会ったことも見たこともないのだろう。だったら言葉を交わして笑ってはしゃぐ姿を見せればいい。
実際、私たちがそうしていて眉を顰める人もいたが、三日もすれば慣れたらしい。誰も冷たい視線を向けてくることもなければ、文句も言われなくなった。
二人の両親であるモーリッツさんとレオニーさんに感謝されるほど、避難キャンプでの暮らしが楽になったそうだ。
よかった、よかった。
そして、今夜も橘一家とモーリッツさん一家は共に夕食を囲みながら、今後の相談をし合う。
「やっぱり、俺たちは一度故郷に帰ろうと思います。無料送迎馬車が隣国アーゲン国の国境まで行きますので。そこから乗合馬車を乗り継いで北方の獣人集落まで、来た道を戻ることになりますな」
ハハハと乾いた笑いを漏らすモーリッツさんは悔しいんだと思う。
真面目に仕事を頑張って開店資金を貯めて、新天地へ向かっている途中でスタンピードに遭い、家族全員の命は助かったけれど財産はすべて失ってしまったんだもの。
「確か……アーゲン国の国境の町。ウェルタ辺境伯が治める領都ラントまで馬車は連れていってくれます。護衛の冒険者はCランクのパーティーで、アーゲン国の隣国フュルト国の出身でしたわ」
フーフーと熱いスープを冷ましながら姉が伝えると、モーリッツさんはその冒険者パーティーを知っているのか、ほーっと息を吐き出していた。
「それは助かりました。そのパーティーのメンバーは種族混合だったはずです。旅の間、ウッツやロッツに嫌がらせする人も減るでしょう」
私たちと一緒にキャンプの広場で遊んでいても文句を言ってくる人や、嫌な視線を送ってくる人はいないけど、馬車という狭い空間でずっと一緒だと、イライラして八つ当たりをされることも考えられるもんね。
「ところで、アオイさんたちは行き先が決まったのですか?」
冷ましたスープをスプーンでロッツ君に飲ましているレオニーさんの質問に、こちらの口がムググと閉じる。
「お兄ちゃん、どうする?」
「う~ん。アーゲン国だと、ちょっとキツいかもなぁ。でも馬車はアーゲン国までしか出してもらえない……」
そう、トリーア国に戻ることは断固拒否として、残る選択は二つ。このままノイス国に残り生活をしていくか、送迎馬車を利用して隣国のアーゲン国へ行くか。
まず、ノイス国に残るには飲み込めないことが幾つかある。獣人やエルフなどに対する異種族への扱いが不平等なことと、奴隷政策があること。この奴隷は罪人、借金の他に、異種族や身寄りのない孤児などを無理やりに売買して奴隷するということが合法化されている。
あと……私たちみたいな移住者にも優しくない。土地や家は買えないし、起業したり店を開いたりすることは移住からある程度の年月が経たないと認められない。
この「ある程度」はその領地を治める領主、貴族の胸三寸である。つまり適当である。
ほとんどは賄賂を渡して融通してもらうらしい。実は姉がこっそりとそういうお誘いを受けていた。
なので、ノイス国の移住はナシ! 絶対にいらないトラブルに巻き込まれるわ! しかも小次郎が異世界からの勇者だとバレたらどうなるのか……。トリーア国と同じく利用されるだけ利用されるのがオチだっつーの!
「でも、アーゲン国も難しいでしょう?」
姉の言う通り。モーリッツさんたちの故郷ではあるが、アーゲン国は国の数か所にダンジョンがあり、冒険者たちが行き来する活気ある国ではある。活気もあるが犯罪も多い。ダンジョンなんて力試しか一攫千金狙いの輩が好んで挑戦するところなので、その手にしたお宝狙いの強盗や詐欺が横行し、ダンジョンから戻らない冒険者の子どもや奥さんが路頭に迷い、喧嘩や大騒ぎがあちこちで頻発するお国柄。
とにかく武勇を尊ぶので……正直、異世界人でひょろりとした兄やおっとりしとた姉では、馴染むことができない。
「そうですねぇ。確かにアーゲン国の移住者は冒険者の方が多いですし、腕っぷしで決めることも多いです」
モーリッツさんは苦笑しているが、この人もそれなりに強いらしい。
「では、その隣のフュルト国へ行かれては? 多種族国家ですし、文化水準も高く、貴族の横行も少ないと聞きます。特に王家の力が強く、ここ数代は賢王が続いています」
「……ただ、アーゲン国からフュルト国までの旅が……」
そう……ノイス国が出してくれる馬車はアーゲン国との国境まで。そこからアーゲン国を横断してさらに隣のフュルト国まで私たちだけで旅をするなんて……無理だよぉ。
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