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勇者召喚と逃亡
勇者逃亡 ⑯
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むぎゅっと顔を顰めた私に、川を渡る船賃が用意できないと感じ取ったレオンさんは暫し空を見て考え中。私は乗り慣れてきたからか、レーゲンがかわいく見えてきた。さすさすと背中の鱗を摩ってみる。うらやましいほどスベスベである。
ぴゅい
「そうだねぇ、いい天気だねぇ」
ワイバーン襲撃なんて異世界らしいトラブルはあったけど、とうとうこの馬車も目的地であるアーゲン国ウェルタ辺境伯領都ラントに到着する。私たちの視界に、高く築かれた城壁っぽいのが入ってきた。馬車がラントに近づくと、どうやらラントに入るために待っている旅人たちが列を成しているのがわかる。
「けっこう並んでいるわね」
パスポートなんてないから、国や街に入る人たちは身分を証明するもの、例えば各ギルドのギルドカードや市民証を提示する。それも持っていない私たちみたいな怪しい人は、門番や衛兵が見守る中で魔道具の水晶に手を翳し善人であることを証明する。それとは別に入国や入街にはお金が必要です。
今回、私たちはトリーア王国でスタンピードに遭いアーゲン国へ移動してきたことを、難民キャンプがあったノイス国の役人さんが証明してくれているから、証明証はいらないしお金もかからない。あー、よかった。
「キッカ。着いたら役人が人数を確認してすぐに解散になる」
「えっ!」
ほ、本当に運ぶだけで終わりなの? 宿泊場所や仕事の斡旋とかのアフターフォローはないの? マジか!
「冒険者ギルドでワイバーンを換金したら、俺のパーティーメンバーを紹介したい。少し時間をくれないか?」
「そ、それはいいけど……」
こうなったら、ワイバーンを売ったお金でどうにかするしかない。ついでだし、安全でご飯が美味しくて清潔で安めの宿をレオンさんたちに教えてもらおう。
アーゲン国ウェルタ辺境伯領都ラントに到着。
疲れた顔をした乗客たちがゾロゾロと馬車から下りる。もちろん私たち橘一家もね。兄が眠たそうに目を擦っている小次郎の手を引いて、私がドラゴンに乗った感想をしつこく聞いてくる姉の背中を押して。
まずは、ここまで馬車を運転してくれた御者さんにご挨拶。
「お世話になりました。無事にアーゲン国まで運んでくださってありがとうございます。これ……つまらないものですが」
兄はそっと野営中に作っておいたおやきもどきを数個包んで、御者さんに渡した。
「え? ええ?」
なんか挙動不審だったけど私たちはペコリと頭を下げたあと、護衛の冒険者パーティー「グランツ」の皆さんの元へ。
「エンリケさん。ここまでありがとうございました。お世話になりました。これ……少ないですけど、どうぞ」
ここでも兄お手製のおやきもどきを渡して、ペコリとお礼。
「ありがとうございます。いやぁ、こんなに丁寧にお礼を言われることはないんですよ。タチバナさんたちは皆さん丁寧で礼儀正しいですよね。アオイさんの作る料理は美味かったので、これもありがたく」
ひょいとおやきもどきを包んだ袋を持ち上げて、エンリケさんはお茶目にウィンクしてきた。その後ろにいるチュイさん、ドラさん、ニルダさんも笑顔だ。どうやら、乗合馬車の御者さんや馬車の護衛をしている冒険者パーティーにわざわざ挨拶をしたり、お礼をしたりする人は稀らしい。う~む、気をつけていたはずなのに、無意識に目立つことをやらかしていたとは……。しかし、生まれ育って身に付けた常識を変えるのは無理っぽいし、まぁ、いいか。
橘一家のぎこちない笑顔に見送られて馬車とエンリケさんたちは去っていった。
「さて、俺たちはとりあえず冒険者ギルドかな」
「うん。アレがお金にならないと宿代が払えないもん」
「そうねぇ。お金はあるのにねぇ」
ドラゴンに乗ったレオンさんの案内で冒険者ギルドへ向かおうとする私たちに、モーリッツさんが声をかけてきた。
「アオイさん。サクラさん。キッカさん。コジローくん」
「モーリッツさん」
どうもどうもと互いに頭を下げ合い、落ち着いたところでモーリッツさんは親戚が迎えにきているのでと、お別れの挨拶となる。
「本当にありがとうございました」
「……こちらがお世話になったと思いますが?」
そうだよね。かなり田舎者という設定で誤魔化して質問してしまったもの。正直、こんなことも知らないなんて怪しいというレベルだったと思う。
「いえいえ。ノイス国でウッツやロッツが虐められずに済んだのは、タチバナさんのおかげです」
いえいえと互いに言い合って、ズイッとモーリッツさんが兄へ顔を寄せた。
「ところで、タチバナさんたちは平民であるというならば、家名は名乗らないほうがいいですよ」
コソッと囁く。家名とは「橘」ということかな?
「家名があるのは貴族や名士です。平民には家名などありません」
あっ……そうかも。異世界ものに親しんでいた姉も「あっ」と声を漏らし手で口を覆う。
「き……気をつけます」
「ええ。こちらも、秘密にしておいてほしいことを、黙っていてもらってますから」
モーリッツさんはニコッと笑顔でなぜか私の顔を見る。なんで?
ここで別れるモーリッツさん夫婦と握手して、ウッツとロッツとハグをした。この異世界で初めてできた知り合い? いや友人だからちょっと寂しい。
「菊華。モーリッツさんの秘密ってなんだ?」
「……もらった袋のことかな?」
穴が開いた袋を繕って使っている私だが……。
忘れた頃に、どうやらモーリッツさんが扱う商品は「魔法鞄」だったらしく、スタンピードで商品を手放して逃げてきたと言っていたが、実際には「魔法鞄」にごっそりと「魔法鞄」を隠し持っていた。だからスタンピードでの損害はなかったんですよと、再会したときに教えてもらうことになるのだ。
さあ、ワイバーンを売ってフュルト国へ行く路銀を稼ごう!
ぴゅい
「そうだねぇ、いい天気だねぇ」
ワイバーン襲撃なんて異世界らしいトラブルはあったけど、とうとうこの馬車も目的地であるアーゲン国ウェルタ辺境伯領都ラントに到着する。私たちの視界に、高く築かれた城壁っぽいのが入ってきた。馬車がラントに近づくと、どうやらラントに入るために待っている旅人たちが列を成しているのがわかる。
「けっこう並んでいるわね」
パスポートなんてないから、国や街に入る人たちは身分を証明するもの、例えば各ギルドのギルドカードや市民証を提示する。それも持っていない私たちみたいな怪しい人は、門番や衛兵が見守る中で魔道具の水晶に手を翳し善人であることを証明する。それとは別に入国や入街にはお金が必要です。
今回、私たちはトリーア王国でスタンピードに遭いアーゲン国へ移動してきたことを、難民キャンプがあったノイス国の役人さんが証明してくれているから、証明証はいらないしお金もかからない。あー、よかった。
「キッカ。着いたら役人が人数を確認してすぐに解散になる」
「えっ!」
ほ、本当に運ぶだけで終わりなの? 宿泊場所や仕事の斡旋とかのアフターフォローはないの? マジか!
「冒険者ギルドでワイバーンを換金したら、俺のパーティーメンバーを紹介したい。少し時間をくれないか?」
「そ、それはいいけど……」
こうなったら、ワイバーンを売ったお金でどうにかするしかない。ついでだし、安全でご飯が美味しくて清潔で安めの宿をレオンさんたちに教えてもらおう。
アーゲン国ウェルタ辺境伯領都ラントに到着。
疲れた顔をした乗客たちがゾロゾロと馬車から下りる。もちろん私たち橘一家もね。兄が眠たそうに目を擦っている小次郎の手を引いて、私がドラゴンに乗った感想をしつこく聞いてくる姉の背中を押して。
まずは、ここまで馬車を運転してくれた御者さんにご挨拶。
「お世話になりました。無事にアーゲン国まで運んでくださってありがとうございます。これ……つまらないものですが」
兄はそっと野営中に作っておいたおやきもどきを数個包んで、御者さんに渡した。
「え? ええ?」
なんか挙動不審だったけど私たちはペコリと頭を下げたあと、護衛の冒険者パーティー「グランツ」の皆さんの元へ。
「エンリケさん。ここまでありがとうございました。お世話になりました。これ……少ないですけど、どうぞ」
ここでも兄お手製のおやきもどきを渡して、ペコリとお礼。
「ありがとうございます。いやぁ、こんなに丁寧にお礼を言われることはないんですよ。タチバナさんたちは皆さん丁寧で礼儀正しいですよね。アオイさんの作る料理は美味かったので、これもありがたく」
ひょいとおやきもどきを包んだ袋を持ち上げて、エンリケさんはお茶目にウィンクしてきた。その後ろにいるチュイさん、ドラさん、ニルダさんも笑顔だ。どうやら、乗合馬車の御者さんや馬車の護衛をしている冒険者パーティーにわざわざ挨拶をしたり、お礼をしたりする人は稀らしい。う~む、気をつけていたはずなのに、無意識に目立つことをやらかしていたとは……。しかし、生まれ育って身に付けた常識を変えるのは無理っぽいし、まぁ、いいか。
橘一家のぎこちない笑顔に見送られて馬車とエンリケさんたちは去っていった。
「さて、俺たちはとりあえず冒険者ギルドかな」
「うん。アレがお金にならないと宿代が払えないもん」
「そうねぇ。お金はあるのにねぇ」
ドラゴンに乗ったレオンさんの案内で冒険者ギルドへ向かおうとする私たちに、モーリッツさんが声をかけてきた。
「アオイさん。サクラさん。キッカさん。コジローくん」
「モーリッツさん」
どうもどうもと互いに頭を下げ合い、落ち着いたところでモーリッツさんは親戚が迎えにきているのでと、お別れの挨拶となる。
「本当にありがとうございました」
「……こちらがお世話になったと思いますが?」
そうだよね。かなり田舎者という設定で誤魔化して質問してしまったもの。正直、こんなことも知らないなんて怪しいというレベルだったと思う。
「いえいえ。ノイス国でウッツやロッツが虐められずに済んだのは、タチバナさんのおかげです」
いえいえと互いに言い合って、ズイッとモーリッツさんが兄へ顔を寄せた。
「ところで、タチバナさんたちは平民であるというならば、家名は名乗らないほうがいいですよ」
コソッと囁く。家名とは「橘」ということかな?
「家名があるのは貴族や名士です。平民には家名などありません」
あっ……そうかも。異世界ものに親しんでいた姉も「あっ」と声を漏らし手で口を覆う。
「き……気をつけます」
「ええ。こちらも、秘密にしておいてほしいことを、黙っていてもらってますから」
モーリッツさんはニコッと笑顔でなぜか私の顔を見る。なんで?
ここで別れるモーリッツさん夫婦と握手して、ウッツとロッツとハグをした。この異世界で初めてできた知り合い? いや友人だからちょっと寂しい。
「菊華。モーリッツさんの秘密ってなんだ?」
「……もらった袋のことかな?」
穴が開いた袋を繕って使っている私だが……。
忘れた頃に、どうやらモーリッツさんが扱う商品は「魔法鞄」だったらしく、スタンピードで商品を手放して逃げてきたと言っていたが、実際には「魔法鞄」にごっそりと「魔法鞄」を隠し持っていた。だからスタンピードでの損害はなかったんですよと、再会したときに教えてもらうことになるのだ。
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