迷惑異世界のんびり道中記~ちびっ子勇者とともに~

沢野 りお

文字の大きさ
34 / 52
安住の地を求める勇者とぬいぐるみ

勇者旅立 ⑨

しおりを挟む
無事に兄と冒険者登録を済ませた私たちの手には、クレジットカードみたいな金属製のギルドカードがある。色は鈍い銅色。チラリとシルビオさんとレオンさんのギルドカードを見せてもらったら、金色だった。どうやらランクによって色が変わるらしい。最高ランクは黒色、次は金、その次は銀……最低ランクと見習いは銅色で私と兄のギルドカードである。

ギルドに登録したら永久的に所属できるわけではなく、決められた期間中に決められた回数の依頼をこなし、実績を積む必要がある。この期間や依頼回数はランクが上がれば条件が緩くなり、シルビオさんたちは無期限で必要な依頼回数もないけど、緊急招集には応えないとダメ。これはスタンピードや凶悪な魔獣討伐隊の際、高ランク冒険者にかけられる招集らしい。

私たちは冒険者成り立てほやほやだから緊急招集されることはないけど、定期的に依頼をこなさないと失効されてしまうのだ。ギルドカードの色なんてどうでもいいの。ちょっと銀色がいいなぁと思ってもね。

冒険者ギルドに出入りしているあらゆる種族の人に興味を引かれ挙動不審な姉を連れ、シルビオさんたちと一緒に外に出たらもうお昼を過ぎていた。

「リーダー。どっかでご飯食べていく?」

目を瞑りヒクヒクと鼻を動かすカルラさんに、シルビオさんは腕を組んでう~んと考えてしまう。

「このままマクデルを出てイルブロンの街に向かうか……。昼飯は……どうするか……」

そんなお昼ご飯のことで、世界が終わるみたいな苦悶の表情を浮かべなくてもいいと思うのですが? でも、「ライゼ」の皆さんが同じ表情で迷っておられる。

「屋台で買ってヴィントの背で食べればいいのでは?」

兄の何気ない一言に、みんなの眼がグワッと開く。……いやいや、長い冒険者生活でこんな簡単なことも気が付かなかったの? 大丈夫?

「では、それぞれ屋台で食いたいものを買い、冒険者ギルド前に集合だ。時間はそうだな、あの時計塔の短い針が反対側を指すまでだ」

シルビオさんが指で示したのは、冒険者ギルドの上にある時計。見慣れた形だし、時計の読み方も同じみたい。短針が真反対を指すまでということは、三〇分ぐらいかな?

「お兄ちゃん、私たちはどうする?」

「バラバラに動いたらとんでもないことになると思う。一緒に屋台を見にいこう」

はい、賛成です。小次郎もニッコリ笑って私の手を握っているので、不満はない。姉? なんかギャーギャー言っているけど無視。あんたが一番、迷子になりそうだから、大人しく言うこと聞きなさい!



























時間どおりに集合した私たちは、そのままマクデルの街を出た。短い滞在時間だったけど、私は忘れない。だって、ここで冒険者登録したんだもん。生活に余裕ができれば、再び訪れたいものである。

「……なぜ、言うことをきかない?」

レオンさんが元の大きさに戻ったレーゲンを前に腕組みして困っている。それもそのはず。レーゲンはまた私をその背に乗せて飛びたいと我儘を言い出したからだ。本当に止めていただきたい。
私はなるべくレーゲンの視界に入らないように、ヴィントの体に隠れる。不思議そうに私を見るヴィントだが、あなたもレーゲンのお母さんなら子どもの我儘を諫めてほしい。切実に。

「……レーゲンが小さくなって、一緒にヴィントの背に乗ればいいんじゃないか?」

両手に串焼きやらスープやら昼食を持った兄が首を傾げて提案すると、レーゲンは口をパカリと開けて驚いた。……そう、そんな簡単なことに気が付かなかったのね? あれ? レオンさんたち「ライゼ」って冒険者仲間でも有名な高ランク冒険者パーティーなんだよね? だ、大丈夫なのかな?

「よし、レーゲンは小さくなってレオンが抱えておけ。それじゃ、ヴィントに乗って移動するぞ。メシを食いながらこれからのことを少し話そう」

シルビオさんが満足そうに頷くと、私たちはヴィントの背に乗る。前回、必死な形相でよじ登った私たちを憐れんでか、ヴィントが少し小さくなってくれた。私たちが登ったあとは元の大きさに戻ったけど……レオンさんたちはヒラリヒラリと軽い足さばきで登ってくるんだよなぁ。

ヴィントが軽い動作で浮遊したら、お昼ご飯タイムです。姉が大人しいのはお腹が空きすぎて省エネモードに入ったからです。ほら、肉でもお食べ。

「イルブロンの街へ向かうが、街から徒歩で二~三日程度の場所でヴィントからは下りるぞ」

シルビオさんの発言に橘一家は衝撃を受ける。希少種のドラゴニュートである美丈夫なシルビオさんの口に肉串のタレが付いているからではなく、イルブロンの街に着く前に「ライゼ」とはお別れだと思ったからだ。
そ、そんなぁ……。そりゃ、ほとんど初対面の皆さんにいろいろと面倒をみてもらったとは思うけど……身寄りも親戚もない異世界だから、できればイルブロンの街に入るまでは同行してほしかった……。

「キッカ。そんな泣きそうな顔をするな。ちゃんと俺たちはイルブロンの街まで付き合うぞ」

「……アオイたちは旅の仕方もわからないだろう? もしイルブロンの街で仕事が見つからなかったら、他の街へ移動するのに今のままだと心配だからな。俺たちがいる間に野営のことを教えておこうと思って」

シ、シルビオさーん。あんた、本当にイイ人だよおおぉぉぉっ。今日から心の中でアニキって呼びます!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界のんびり放浪記

立花アルト
ファンタジー
異世界に転移した少女リノは森でサバイバルしながら素材を集め、商人オルソンと出会って街アイゼルトヘ到着。 冒険者ギルドで登録と新人訓練を受け、採取や戦闘、魔法の基礎を学びながら生活準備を整え、街で道具を買い揃えつつ、次の冒険へ向けて動き始めた--。 よくある異世界転移?です。のんびり進む予定です。 小説家になろうにも投稿しています。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

錬金術にしか興味のない最弱職アルケミストの異世界勘違い道中

奏穏朔良
ファンタジー
「俺は人外じゃないし、女神の子供でもないし、救国の英雄でも、治癒を司る神でもないし、権力も信仰も興味無いから錬金術だけやらせてよ。」 女神の事情でVRゲームの元になった異世界に転移した男子高校生が何故かめちゃくちゃ勘違いされる話。 **** またもや勘違いものです。 主人公に対して各キャラ(男女問わず)から矢印を向けられる総愛され気味ですが、本編で特定の誰かとくっ付くことはありません。 目指せ毎週月、金16時更新。(1話と2話のみ同日更新です。) どうしても間に合わない場合はXにて告知します。 感想!貰えたら!!嬉しいです!!

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

処理中です...