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安住の地を求める勇者とぬいぐるみ
勇者挑戦 ④
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白とベージュの毛糸で編まれた手袋は、そこでキャンキャンと屋台のおじさんに吠えている貴族の女の子の持ち物なのだろう。なぜ私の足にポスンと当たったかというと……自称貴族のお嬢さんが、金貨で払えないなら他の物で払うとばかりに、自分の持ち物をえいっえいっと投げているからだ。しかし、コントロールが下手過ぎて、屋台おじさんへ届く物はなく、周りの野次馬にポスン、ポスンと当たって落ちているのだ。
少女が投げているのは手袋だけでなく、帽子やケープ、靴。宝石があしらわれているブローチや指輪、腕輪、髪飾りなどのアクセサリー類。本人もやけくそなのだろう。半泣きで両手をブンブンと振り回して投げている。
周りの野次馬も屋台のおじさんも、癇癪を起した子どもに成す術なしの状態である。
「どうしたらいいの?」
投げられた手袋を手にオロオロする私の肩を兄ががっしりと掴んで、耳元に囁く。
「菊華、落ち着け。ほら、お目付け役が来たみたいだぞ」
兄の視線の向こうには、お仕着せを着た男女が青い顔して走ってくるところだった。
「お、お嬢様ーっ」
必死である。たぶん、ちょっと目を離した隙に抜け出したお嬢様を探して、あちこち走り回ったのだろう。だが、貴族家に仕える者として平民たちにペコペコと頭を下げることはせず、やや横柄な物言いでこの場を治めていた。文句を言いたいのをグッと堪える屋台のおじさんには、幾何の迷惑料が払われたようだった。野次馬はいい見世物が終わったとばかりにサァーッとこの場から引けていく。
私は彼女が投げた手袋を返そうとメイド服を着た女性に声をかけたが、受け取ってもらえなかった。貴族のお嬢様である彼女が手放した手袋は然程高価な品物ではないため、お好きにどうぞとのことだ。
ええーっ、もったいなぁーい!
「貴族だから、一度投げた物を拾って使うことはできないんだろう」
兄の言葉に納得はしたが、もったいない。キレイな手袋は小次郎の手よりも小さくて、どう再利用しろっていうのか……。でも捨てるのはもったいないから、私は布バッグの中へしまった。
「あれ、お姉ちゃんは?」
いつの間にか、姉の姿が見えないし、一緒にいた小次郎はどこ?
「あそこだ。いつの間に屋台へ」
屋台とは、例のお嬢様が金貨で買おうとして断られていた屋台では? 姉は小次郎と手を繋いでニコニコと屋台で焼かれている肉を買っている。
く、空気が読めない姉だわーっと脱力していると、姉と小次郎のニコニコ顔に遠巻きに見ていた人たちが寄ってくる。
「まさか……客引きになっている?」
「まあ、あれだけ楽しそうに美味しそうだの、お腹が減っただの言ってたら、気になるわな」
お嬢様の突撃のせいでお客さんが引いていた屋台にも、ちらほらとお客さんが戻ってきた。そして、両手に焼き立ての肉串を持って姉と小次郎が戻ってくる。
「……ああいうところ、好きだわ」
「そうだな。桜のイイところだな」
これで、もう少し社会に適応してくれていたらと願うが、その社会が異世界に変わってしまったことに気づき、乾いた笑いが漏れ出てしまった。
明日はダンジョン研修だーっ! と荷物の確認をしています。レオンさんに事前に教えてもらった道具類は購入済。ナイフ類は腰に巻いた革ベルトに差し込み、お金は少量ずつ分けて持つ。靴下の中やポケットに入れておけば、身ひとつで逃げ出しても大丈夫!
「あら? 菊華ちゃん、何を作っているの?」
新しく買ってもらった肩掛けのバッグに荷物を詰めてもらっている姉は、私の手元を見て首を傾げた。
「ああ、これ? 例の手袋をどうしようかと思って。解いて毛糸に戻して、編みぐるみをね、作っているの」
こんな僅かな毛糸ではマフラーもニット帽も作れないから、編みぐるみです。手袋のまま所持していて何かのときに泥棒と間違えられても困る。貴族の持ち物を盗んだら手を切り落とされるだけでなく、下手したら処刑である。こわっ。法の下の平等なんて貴族社会にはないのである。
「かわいいわね? これは白いワンちゃん?」
「そう。ベージュの部分は足先に使った。あとは買ってきたビーズで目と鼻。口は糸で縫うわ」
一時期、編みぐるみ作りにハマったことがあるから、このサイズなら楽勝、楽勝。コロンと手のひらに乗るサイズで、ちょっと丸っこいのがかわいい。
「バッグにつけたら? かわいいもの」
これから冒険者となって、魔物討伐をしにダンジョンへ潜る女子のバッグに編みぐるみのチャーム……ま、いっか。
「そうね。目印にもなるし。お姉ちゃんもなんか欲しい? 今度、毛糸見つけたら買って作ってあげるけど?」
「……アニメのキャラはダメよね?」
セリフの途中で私がしょっぱい顔をしたので、ちゃんと自己判断してくれた。ちょんちょんと人差し指同士を突き合わせ、白い小鳥を希望した。それはあれでしょ? 大人気のシマエナガでしょ?
「お、菊華。いいもの付けてるな」
兄もめざとく編みぐるみを見つけた。この兄は妹二人よりもかわいいもの大好きな人だ。きっと兄も欲しがるだろう。希望を聞いてやろうじゃないの。
「う~んと、ピンクの豚か、サバトラ柄の猫かな?」
「ピンクはともかくサバトラか……。白とグレーでいいかな?」
この世界の毛糸事情は知らないが、カラフルな毛糸が存在することを望む。ちなみに小次郎にも希望を聞きましたよ?
「えっとね、ヘラクレスオオカブト!」
……そんな、見た目ゴキ……みたいなものは作りたくないなぁ……。ごめん、小次郎。それは却下で。
少女が投げているのは手袋だけでなく、帽子やケープ、靴。宝石があしらわれているブローチや指輪、腕輪、髪飾りなどのアクセサリー類。本人もやけくそなのだろう。半泣きで両手をブンブンと振り回して投げている。
周りの野次馬も屋台のおじさんも、癇癪を起した子どもに成す術なしの状態である。
「どうしたらいいの?」
投げられた手袋を手にオロオロする私の肩を兄ががっしりと掴んで、耳元に囁く。
「菊華、落ち着け。ほら、お目付け役が来たみたいだぞ」
兄の視線の向こうには、お仕着せを着た男女が青い顔して走ってくるところだった。
「お、お嬢様ーっ」
必死である。たぶん、ちょっと目を離した隙に抜け出したお嬢様を探して、あちこち走り回ったのだろう。だが、貴族家に仕える者として平民たちにペコペコと頭を下げることはせず、やや横柄な物言いでこの場を治めていた。文句を言いたいのをグッと堪える屋台のおじさんには、幾何の迷惑料が払われたようだった。野次馬はいい見世物が終わったとばかりにサァーッとこの場から引けていく。
私は彼女が投げた手袋を返そうとメイド服を着た女性に声をかけたが、受け取ってもらえなかった。貴族のお嬢様である彼女が手放した手袋は然程高価な品物ではないため、お好きにどうぞとのことだ。
ええーっ、もったいなぁーい!
「貴族だから、一度投げた物を拾って使うことはできないんだろう」
兄の言葉に納得はしたが、もったいない。キレイな手袋は小次郎の手よりも小さくて、どう再利用しろっていうのか……。でも捨てるのはもったいないから、私は布バッグの中へしまった。
「あれ、お姉ちゃんは?」
いつの間にか、姉の姿が見えないし、一緒にいた小次郎はどこ?
「あそこだ。いつの間に屋台へ」
屋台とは、例のお嬢様が金貨で買おうとして断られていた屋台では? 姉は小次郎と手を繋いでニコニコと屋台で焼かれている肉を買っている。
く、空気が読めない姉だわーっと脱力していると、姉と小次郎のニコニコ顔に遠巻きに見ていた人たちが寄ってくる。
「まさか……客引きになっている?」
「まあ、あれだけ楽しそうに美味しそうだの、お腹が減っただの言ってたら、気になるわな」
お嬢様の突撃のせいでお客さんが引いていた屋台にも、ちらほらとお客さんが戻ってきた。そして、両手に焼き立ての肉串を持って姉と小次郎が戻ってくる。
「……ああいうところ、好きだわ」
「そうだな。桜のイイところだな」
これで、もう少し社会に適応してくれていたらと願うが、その社会が異世界に変わってしまったことに気づき、乾いた笑いが漏れ出てしまった。
明日はダンジョン研修だーっ! と荷物の確認をしています。レオンさんに事前に教えてもらった道具類は購入済。ナイフ類は腰に巻いた革ベルトに差し込み、お金は少量ずつ分けて持つ。靴下の中やポケットに入れておけば、身ひとつで逃げ出しても大丈夫!
「あら? 菊華ちゃん、何を作っているの?」
新しく買ってもらった肩掛けのバッグに荷物を詰めてもらっている姉は、私の手元を見て首を傾げた。
「ああ、これ? 例の手袋をどうしようかと思って。解いて毛糸に戻して、編みぐるみをね、作っているの」
こんな僅かな毛糸ではマフラーもニット帽も作れないから、編みぐるみです。手袋のまま所持していて何かのときに泥棒と間違えられても困る。貴族の持ち物を盗んだら手を切り落とされるだけでなく、下手したら処刑である。こわっ。法の下の平等なんて貴族社会にはないのである。
「かわいいわね? これは白いワンちゃん?」
「そう。ベージュの部分は足先に使った。あとは買ってきたビーズで目と鼻。口は糸で縫うわ」
一時期、編みぐるみ作りにハマったことがあるから、このサイズなら楽勝、楽勝。コロンと手のひらに乗るサイズで、ちょっと丸っこいのがかわいい。
「バッグにつけたら? かわいいもの」
これから冒険者となって、魔物討伐をしにダンジョンへ潜る女子のバッグに編みぐるみのチャーム……ま、いっか。
「そうね。目印にもなるし。お姉ちゃんもなんか欲しい? 今度、毛糸見つけたら買って作ってあげるけど?」
「……アニメのキャラはダメよね?」
セリフの途中で私がしょっぱい顔をしたので、ちゃんと自己判断してくれた。ちょんちょんと人差し指同士を突き合わせ、白い小鳥を希望した。それはあれでしょ? 大人気のシマエナガでしょ?
「お、菊華。いいもの付けてるな」
兄もめざとく編みぐるみを見つけた。この兄は妹二人よりもかわいいもの大好きな人だ。きっと兄も欲しがるだろう。希望を聞いてやろうじゃないの。
「う~んと、ピンクの豚か、サバトラ柄の猫かな?」
「ピンクはともかくサバトラか……。白とグレーでいいかな?」
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