迷惑異世界のんびり道中記~ちびっ子勇者とともに~

沢野 りお

文字の大きさ
38 / 52
安住の地を求める勇者とぬいぐるみ

勇者挑戦 ④

しおりを挟む
白とベージュの毛糸で編まれた手袋は、そこでキャンキャンと屋台のおじさんに吠えている貴族の女の子の持ち物なのだろう。なぜ私の足にポスンと当たったかというと……自称貴族のお嬢さんが、金貨で払えないなら他の物で払うとばかりに、自分の持ち物をえいっえいっと投げているからだ。しかし、コントロールが下手過ぎて、屋台おじさんへ届く物はなく、周りの野次馬にポスン、ポスンと当たって落ちているのだ。

少女が投げているのは手袋だけでなく、帽子やケープ、靴。宝石があしらわれているブローチや指輪、腕輪、髪飾りなどのアクセサリー類。本人もやけくそなのだろう。半泣きで両手をブンブンと振り回して投げている。
周りの野次馬も屋台のおじさんも、癇癪を起した子どもに成す術なしの状態である。

「どうしたらいいの?」

投げられた手袋を手にオロオロする私の肩を兄ががっしりと掴んで、耳元に囁く。

「菊華、落ち着け。ほら、お目付け役が来たみたいだぞ」

兄の視線の向こうには、お仕着せを着た男女が青い顔して走ってくるところだった。

「お、お嬢様ーっ」

必死である。たぶん、ちょっと目を離した隙に抜け出したお嬢様を探して、あちこち走り回ったのだろう。だが、貴族家に仕える者として平民たちにペコペコと頭を下げることはせず、やや横柄な物言いでこの場を治めていた。文句を言いたいのをグッと堪える屋台のおじさんには、幾何の迷惑料が払われたようだった。野次馬はいい見世物が終わったとばかりにサァーッとこの場から引けていく。

私は彼女が投げた手袋を返そうとメイド服を着た女性に声をかけたが、受け取ってもらえなかった。貴族のお嬢様である彼女が手放した手袋は然程高価な品物ではないため、お好きにどうぞとのことだ。

ええーっ、もったいなぁーい!

「貴族だから、一度投げた物を拾って使うことはできないんだろう」

兄の言葉に納得はしたが、もったいない。キレイな手袋は小次郎の手よりも小さくて、どう再利用しろっていうのか……。でも捨てるのはもったいないから、私は布バッグの中へしまった。

「あれ、お姉ちゃんは?」

いつの間にか、姉の姿が見えないし、一緒にいた小次郎はどこ?

「あそこだ。いつの間に屋台へ」

屋台とは、例のお嬢様が金貨で買おうとして断られていた屋台では? 姉は小次郎と手を繋いでニコニコと屋台で焼かれている肉を買っている。
く、空気が読めない姉だわーっと脱力していると、姉と小次郎のニコニコ顔に遠巻きに見ていた人たちが寄ってくる。

「まさか……客引きになっている?」

「まあ、あれだけ楽しそうに美味しそうだの、お腹が減っただの言ってたら、気になるわな」

お嬢様の突撃のせいでお客さんが引いていた屋台にも、ちらほらとお客さんが戻ってきた。そして、両手に焼き立ての肉串を持って姉と小次郎が戻ってくる。

「……ああいうところ、好きだわ」

「そうだな。桜のイイところだな」

これで、もう少し社会に適応してくれていたらと願うが、その社会が異世界に変わってしまったことに気づき、乾いた笑いが漏れ出てしまった。
































明日はダンジョン研修だーっ! と荷物の確認をしています。レオンさんに事前に教えてもらった道具類は購入済。ナイフ類は腰に巻いた革ベルトに差し込み、お金は少量ずつ分けて持つ。靴下の中やポケットに入れておけば、身ひとつで逃げ出しても大丈夫!

「あら? 菊華ちゃん、何を作っているの?」

新しく買ってもらった肩掛けのバッグに荷物を詰めてもらっている姉は、私の手元を見て首を傾げた。

「ああ、これ? 例の手袋をどうしようかと思って。解いて毛糸に戻して、編みぐるみをね、作っているの」

こんな僅かな毛糸ではマフラーもニット帽も作れないから、編みぐるみです。手袋のまま所持していて何かのときに泥棒と間違えられても困る。貴族の持ち物を盗んだら手を切り落とされるだけでなく、下手したら処刑である。こわっ。法の下の平等なんて貴族社会にはないのである。

「かわいいわね? これは白いワンちゃん?」

「そう。ベージュの部分は足先に使った。あとは買ってきたビーズで目と鼻。口は糸で縫うわ」

一時期、編みぐるみ作りにハマったことがあるから、このサイズなら楽勝、楽勝。コロンと手のひらに乗るサイズで、ちょっと丸っこいのがかわいい。

「バッグにつけたら? かわいいもの」

これから冒険者となって、魔物討伐をしにダンジョンへ潜る女子のバッグに編みぐるみのチャーム……ま、いっか。

「そうね。目印にもなるし。お姉ちゃんもなんか欲しい? 今度、毛糸見つけたら買って作ってあげるけど?」

「……アニメのキャラはダメよね?」

セリフの途中で私がしょっぱい顔をしたので、ちゃんと自己判断してくれた。ちょんちょんと人差し指同士を突き合わせ、白い小鳥を希望した。それはあれでしょ? 大人気のシマエナガでしょ? 

「お、菊華。いいもの付けてるな」

兄もめざとく編みぐるみを見つけた。この兄は妹二人よりもかわいいもの大好きな人だ。きっと兄も欲しがるだろう。希望を聞いてやろうじゃないの。

「う~んと、ピンクの豚か、サバトラ柄の猫かな?」

「ピンクはともかくサバトラか……。白とグレーでいいかな?」

この世界の毛糸事情は知らないが、カラフルな毛糸が存在することを望む。ちなみに小次郎にも希望を聞きましたよ?

「えっとね、ヘラクレスオオカブト!」

……そんな、見た目ゴキ……みたいなものは作りたくないなぁ……。ごめん、小次郎。それは却下で。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界のんびり放浪記

立花アルト
ファンタジー
異世界に転移した少女リノは森でサバイバルしながら素材を集め、商人オルソンと出会って街アイゼルトヘ到着。 冒険者ギルドで登録と新人訓練を受け、採取や戦闘、魔法の基礎を学びながら生活準備を整え、街で道具を買い揃えつつ、次の冒険へ向けて動き始めた--。 よくある異世界転移?です。のんびり進む予定です。 小説家になろうにも投稿しています。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

錬金術にしか興味のない最弱職アルケミストの異世界勘違い道中

奏穏朔良
ファンタジー
「俺は人外じゃないし、女神の子供でもないし、救国の英雄でも、治癒を司る神でもないし、権力も信仰も興味無いから錬金術だけやらせてよ。」 女神の事情でVRゲームの元になった異世界に転移した男子高校生が何故かめちゃくちゃ勘違いされる話。 **** またもや勘違いものです。 主人公に対して各キャラ(男女問わず)から矢印を向けられる総愛され気味ですが、本編で特定の誰かとくっ付くことはありません。 目指せ毎週月、金16時更新。(1話と2話のみ同日更新です。) どうしても間に合わない場合はXにて告知します。 感想!貰えたら!!嬉しいです!!

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

処理中です...