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安住の地を求める勇者とぬいぐるみ
勇者挑戦 ⑥
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初心者用ダンジョンだし、高ランク冒険者パーティー「ライゼ」が同行してくれるからと、私の気持ちに油断があったことは否定しない。だからといって、異世界に転移させられて、魔法も攻撃スキルも与えられなかった元女子大生に、転移トラップはハードルが高すぎると思います!
たとえ、勇者召喚された小次郎が一緒でも、小次郎はまだ子どもだし、レベルも低いから、大人である私が守る立場でしょう?
「菊華ちゃん……」
「だ……大丈夫! 絶対に大丈夫よ、小次郎」
ギュッと小次郎の体を抱きしめて、私は自分に言い聞かせた。大丈夫、大丈夫。絶対に大丈夫。すぐにシルビオさんたちが助けにきてくれるわ。いいえ、ここは初心者用ダンジョンだから、ダンジョンアタックしている冒険者の人に助けを求めれば……。
「あれ?」
地下へと下りてきても、冒険者の姿はあちこちに見つけられたのに、ここには私たち以外は誰もいない。そして……ダンジョンの中は広くて、いくつも枝分かれした道があったのに……ここはずいぶんと狭いのね?
「き、菊華ちゃん、ちょっと、離して」
腕の中の小次郎がもぞもぞと身じろぎしながら訴えてくるので、腕の力を弱めた。小次郎はキョロキョロと辺りを見回したあと、背中のリュックに手を突っ込みゴソゴソと何かを探しているようだけど?
「小次郎?」
「菊華ちゃん、気をつけて! たぶんここは……このダンジョンの最下層だよ」
「え? そ、それは、このダンジョンの中でも強い魔物が出現するという?」
スライムなら酸や毒を吐くタイプで、ウサギは頭に角があり、犬型魔物は狼へとモデルチェンジした魔物が闊歩する階層のこと?
「そうだけど……たぶん、ここはもっとヤバいんだ。ここはね……ダンジョンボスが出るボス部屋だよ」
「ボス?」
ダンジョンボス……それって……。私が現実を飲み込めないうちに小次郎はリュックから剣、例の聖剣を取り出し両手に握って構えた。
「菊華ちゃん、レオンさんの話だと、ボス部屋に入ったらボスを倒さないと部屋からは出られない。そして……外から助けが入ってくることもできないんだ」
「え? シルビオさんたちの助けを待ってても無駄ってこと? 他の冒険者たちもここには来れないってこと?」
私の絶望混じりの問いに、小次郎は小さく頷いた。つまりそれって、つまり……ここで私たちがボスを倒さないとみんなと合流できないってこと?
「だ、だって……私は攻撃スキルなんてないし……。小次郎だって……」
「それでも、菊華ちゃん。倒さないと出られないんだ!」
小次郎が大きな声を出すと同時に「ブモオォォォォォッ!」と獣の吠える声が聞こえた。私たちの前に、ここのダンジョンボスが姿を現した!
これは、いったいなんでしょう?
事前に教えてもらったダンジョン情報では、スライムやネズミ、ウサギの魔物が多く、強くても犬型魔物が出没するダンジョンだったはず。犬型魔物も数頭が群れているだけで、数十頭もの多数での襲撃はないってレオンさんが言っていた。
小次郎がダンジョンボスが出る部屋だと言っていたとおり、ブモブモと鼻息が荒い魔物は一体だけ。でも、二足歩行のブタである。シルビオさんと同じくらいの大きさのほぼ人型で顔がブタの魔物。人語は喋れずブモブモとしている、半裸でピンクのもち肌がたゆんたゆんしている魔物。これ、なに?
あまりの衝撃にボーッとそのブタもどきを眺めていた私は、小次郎に横からタックルを受けて横倒しになる。私がいた場所……私の頭があった場所にブタもどきが持っていた棍棒がブゥ~ンと通り過ぎていった。
「あ、あっぶなーっ! なに、このブタ! 危ないでしょう」
あまりのことに頭に血がカーッと昇ったが、小次郎が剣を手に私の前に出る。まるで、私を守るように。
「菊華ちゃん、下がって。こいつ……オークって魔物みたい。スライムとかよりもレベルが高い」
「オーク。ブタ面の人間みたい」
それでも人とは違う禍々しいオーラがあるように感じる。私は小次郎の後ろでナイフを手に持ち、震えていた。
「ブモモモモッ!」
ブタもどき……オークは棍棒を高く振り上げて小次郎を狙う。小次郎は棍棒をギリギリで避けてからオークの懐へと足を進めた。聖剣を大きく振りかぶって、ザシュッとオークの脇腹へ……って。
「切れない! 嘘でしょ?」
あの聖剣はワイバーンの首をスパッと切ったのよ? なのに、あのポヨポヨのオークのお腹に傷がつかないなんて、あり得ないでしょう? 剣を持った小次郎も目を見開いて驚いている。けど……それは戦いでは致命的な隙となる。
「小次郎ーっ!」
小次郎の動きが止まったのがわかったオークはいやらしくニヤリと笑うと、小次郎の首を掴みその小さな体を上へと持ち上げた。
「ブモブモーッ」
オークが勝利の雄叫びをあげ、小次郎の足が息苦しさからバタバタと暴れる。
ど……どうしよう。私は震える足に力を入れ、ナイフを両手に持ってオークへと突進した。倒せなくてもいい、小次郎の拘束が解ければ。しかし、目を瞑って突進してくる私など脅威でもなんでもないとばかりに、片手で払われてしまった。
ズザザザッと床を転がる私の眼に、オークの手に両手の爪を立てて藻掻く小次郎が……。
「こ、こじろ。……だれ……たす……て」
誰か小次郎を助けて。私が代わりになってもいい。誰か……。
そのとき、部屋に閃光が走った。
「ウオオオオオォォォォォォン!」
狼? 獣の吠える声。そして、私の横を白い何かが走り抜けていき、小次郎を拘束しているオークの腕を切り飛ばしていったのが霞む視界に映った。
たとえ、勇者召喚された小次郎が一緒でも、小次郎はまだ子どもだし、レベルも低いから、大人である私が守る立場でしょう?
「菊華ちゃん……」
「だ……大丈夫! 絶対に大丈夫よ、小次郎」
ギュッと小次郎の体を抱きしめて、私は自分に言い聞かせた。大丈夫、大丈夫。絶対に大丈夫。すぐにシルビオさんたちが助けにきてくれるわ。いいえ、ここは初心者用ダンジョンだから、ダンジョンアタックしている冒険者の人に助けを求めれば……。
「あれ?」
地下へと下りてきても、冒険者の姿はあちこちに見つけられたのに、ここには私たち以外は誰もいない。そして……ダンジョンの中は広くて、いくつも枝分かれした道があったのに……ここはずいぶんと狭いのね?
「き、菊華ちゃん、ちょっと、離して」
腕の中の小次郎がもぞもぞと身じろぎしながら訴えてくるので、腕の力を弱めた。小次郎はキョロキョロと辺りを見回したあと、背中のリュックに手を突っ込みゴソゴソと何かを探しているようだけど?
「小次郎?」
「菊華ちゃん、気をつけて! たぶんここは……このダンジョンの最下層だよ」
「え? そ、それは、このダンジョンの中でも強い魔物が出現するという?」
スライムなら酸や毒を吐くタイプで、ウサギは頭に角があり、犬型魔物は狼へとモデルチェンジした魔物が闊歩する階層のこと?
「そうだけど……たぶん、ここはもっとヤバいんだ。ここはね……ダンジョンボスが出るボス部屋だよ」
「ボス?」
ダンジョンボス……それって……。私が現実を飲み込めないうちに小次郎はリュックから剣、例の聖剣を取り出し両手に握って構えた。
「菊華ちゃん、レオンさんの話だと、ボス部屋に入ったらボスを倒さないと部屋からは出られない。そして……外から助けが入ってくることもできないんだ」
「え? シルビオさんたちの助けを待ってても無駄ってこと? 他の冒険者たちもここには来れないってこと?」
私の絶望混じりの問いに、小次郎は小さく頷いた。つまりそれって、つまり……ここで私たちがボスを倒さないとみんなと合流できないってこと?
「だ、だって……私は攻撃スキルなんてないし……。小次郎だって……」
「それでも、菊華ちゃん。倒さないと出られないんだ!」
小次郎が大きな声を出すと同時に「ブモオォォォォォッ!」と獣の吠える声が聞こえた。私たちの前に、ここのダンジョンボスが姿を現した!
これは、いったいなんでしょう?
事前に教えてもらったダンジョン情報では、スライムやネズミ、ウサギの魔物が多く、強くても犬型魔物が出没するダンジョンだったはず。犬型魔物も数頭が群れているだけで、数十頭もの多数での襲撃はないってレオンさんが言っていた。
小次郎がダンジョンボスが出る部屋だと言っていたとおり、ブモブモと鼻息が荒い魔物は一体だけ。でも、二足歩行のブタである。シルビオさんと同じくらいの大きさのほぼ人型で顔がブタの魔物。人語は喋れずブモブモとしている、半裸でピンクのもち肌がたゆんたゆんしている魔物。これ、なに?
あまりの衝撃にボーッとそのブタもどきを眺めていた私は、小次郎に横からタックルを受けて横倒しになる。私がいた場所……私の頭があった場所にブタもどきが持っていた棍棒がブゥ~ンと通り過ぎていった。
「あ、あっぶなーっ! なに、このブタ! 危ないでしょう」
あまりのことに頭に血がカーッと昇ったが、小次郎が剣を手に私の前に出る。まるで、私を守るように。
「菊華ちゃん、下がって。こいつ……オークって魔物みたい。スライムとかよりもレベルが高い」
「オーク。ブタ面の人間みたい」
それでも人とは違う禍々しいオーラがあるように感じる。私は小次郎の後ろでナイフを手に持ち、震えていた。
「ブモモモモッ!」
ブタもどき……オークは棍棒を高く振り上げて小次郎を狙う。小次郎は棍棒をギリギリで避けてからオークの懐へと足を進めた。聖剣を大きく振りかぶって、ザシュッとオークの脇腹へ……って。
「切れない! 嘘でしょ?」
あの聖剣はワイバーンの首をスパッと切ったのよ? なのに、あのポヨポヨのオークのお腹に傷がつかないなんて、あり得ないでしょう? 剣を持った小次郎も目を見開いて驚いている。けど……それは戦いでは致命的な隙となる。
「小次郎ーっ!」
小次郎の動きが止まったのがわかったオークはいやらしくニヤリと笑うと、小次郎の首を掴みその小さな体を上へと持ち上げた。
「ブモブモーッ」
オークが勝利の雄叫びをあげ、小次郎の足が息苦しさからバタバタと暴れる。
ど……どうしよう。私は震える足に力を入れ、ナイフを両手に持ってオークへと突進した。倒せなくてもいい、小次郎の拘束が解ければ。しかし、目を瞑って突進してくる私など脅威でもなんでもないとばかりに、片手で払われてしまった。
ズザザザッと床を転がる私の眼に、オークの手に両手の爪を立てて藻掻く小次郎が……。
「こ、こじろ。……だれ……たす……て」
誰か小次郎を助けて。私が代わりになってもいい。誰か……。
そのとき、部屋に閃光が走った。
「ウオオオオオォォォォォォン!」
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