迷惑異世界のんびり道中記~ちびっ子勇者とともに~

沢野 りお

文字の大きさ
41 / 52
安住の地を求める勇者とぬいぐるみ

勇者挑戦 ⑦

しおりを挟む
転移トラップで飛ばされてきたダンジョンのボス部屋で、小次郎は二足歩行のブタ、オークに捕まり私は払い飛ばされて床に転がっていた。

ボス部屋は中にいる者がボスを倒すが、中にいる者が死ぬまで部屋の扉は開かない仕組み。ここまで一緒にいた「ライゼ」のメンバーや兄姉の助けも期待できない場所で、絶望に目の前が真っ暗になりそうなとき、眩しい閃光と共に現れたのは一匹の犬だった。

「クゥン」

犬と呟いたら、その犬が悲しそうに鳴いてこちらを向いた。いやいや、アンタはさっきオークの腕をその前足の鋭い爪で斬り飛ばしたでしょう? そんな哀愁たっぷりの瞳で非難がましく見つめられても……って、この犬の顔……見覚えがあるような?

「かっは……、菊華ちゃん、だ、大丈夫?」

オークの汚い手で首を絞められ持ち上げられていた小次郎は、犬がその腕を斬り飛ばしたおかげで解放された。よかったぁ、息ができなくて小次郎の顔が段々と青褪めていくのを見ているのは怖かったもん。とにかく、命が助かってよかった。そして、小次郎は自分が危なかったんだから、自分の心配をしなさい。私はただ派手に転んだだけです。

「イタタ。ありゃ、擦りむいてた」

姉に会ったら、治癒魔法で治してもらおう。それより小次郎だ。小次郎の体を両手で引き寄せてオークに絞められていた首、投げだされたときに打っている背中や腕をペタペタと触って確かめる。

「だ、大丈夫だよ、菊華ちゃん。ちょっと喉が、痛いけど」

「ひどいわ。どこも赤くて……痣になっている」

首に残る痛々しい痕に、じんわりと涙が出てくる。でも、泣いている場合じゃない。あのブタもどきを倒さないと、ここからは出られないんだもの!

……あ、あの犬はどうしたっけ?

「小次郎、あの犬はなに?」

「……えっとね、犬じゃないみたい」

二人して犬へと顔を向けると、そこに映るのは白い犬がブタもどきを蹂躙しているスプラッターシーンだった。うげげ。片腕を切り飛ばされたオークの腕はボコボコと肉片が蠢き、まるで新しい腕が生えてきそう。犬はオークの顔に爪を立て、片目と鼻を潰していた。そのヤバい牙で腹の肉を食い千切り、痛みで尻もちをつき手足をバタつかせているオークの顔を後ろ足で蹴っ飛ばしていく。

「……この犬は味方なの?」

「菊華ちゃん。この子……オオカミだって」

へ? ああ……小次郎には「鑑定」というスキルがあるんだっけ。へぇぇ、あの犬、オオカミなんだぁ。だから、あんなに鋭い爪とか牙とかあるんだぁ。あれれ?

「え? オオカミなの?」

「う、うん。それで、あの子……菊華ちゃんのオオカミ」

「はああああぁぁぁ?」

なによ、なんで私があの口の周りをオークの血で真っ赤にさせているオオカミの主人なのよ! 髪を掻きむしりたい衝動に駆られたけど……そういえば、あの犬じゃない、オオカミの毛の色に見覚えがあるのよねぇ。足先と尻尾の先と片耳の先がベージュであとは真っ白。黒いクリクリのお目目にちょっと笑っているような口元。私は無意識に自分の布バッグへと手を滑らせる。……ない。ないないないない!

「も……もしかして」

私が振るえる指でオオカミを指すと、それに気づいたオオカミは顔を上に向け「ウオオオォォォン」と歓喜に吠えた。

マジか……。





















オーク相手に爪と牙で戦っている白い犬じゃなくてオオカミは、私が作った編みぐるみです。そんな、バカな! え? どうして、手のひらサイズの編みぐるみがあんなに大きくなってぴょんぴょんと跳ねるように動いているの? しかも、「ウオン」とか吠えているよね? なんで? どうして?

「菊華ちゃん、たぶん、神様に貰ったスキルだと思う」

「スキル……ええーっ! あの「手芸創作」とかいう、わけわからんスキル?」

小次郎はコクンと頷いた。そういや、手芸に関わるスキルだったわ。もしかして、手芸で作ったものに命を吹き込むことができるという、神の領域に到達する神スキルだったの? じゃあ、編みぐるみでドラゴンとか強い魔物を作っておけば、シルビオさんみたいなテイマーっぽくなれて、どんなダンジョンでもウハウハなのでは? 私、Sランク冒険者として有名人になっちゃうとか?

ボス部屋に閉じ込められて危険な状態だというのに、ちょっと欲望に目が眩んでしまいました。すみません。ぽやんとした私の腕を掴んで小次郎がゆさゆさと揺さぶってます。

「菊華ちゃん。あのオオカミは菊華ちゃんのスキルだから……」

「スキルだから?」

「菊華ちゃんが込めた魔力が尽きたら……ぬいぐるみに戻っちゃう」

な、なんだってぇぇぇぇぇっ! バッとオオカミに目をやれば、ガブッとオークの首に牙を立てて、……立てて、シュルルルルと体が小さくなっていくぅぅぅぅっ。

「ああーっ」

そんな、あと一撃、あと一撃でオークが倒れるのに……。ポトンと元のぬいぐるみに戻った白い犬はオークの体が落っこちて床に転がった。

「ひいいいっ」

オークはあちこち血を流しながら、恨めしそうにこちらを睨み、一歩近づいてくる。

「菊華ちゃん、ぼくの後ろに」

「ダメよ! こいつは、あの剣じゃ倒せなかったのよ」

聖剣なのに、ワイバーンは斬れたのに、オークには傷ひとつ付けることができなかった。なのに、小次郎はその剣を両手で握って構えた。

「さっきはただ突っ込んでいったから。でも違う。この剣は……」

小次郎は止めようとする私の手をすり抜けてオークへと走り出した。

「ぬいぐるみと同じ。魔力を込めて振るうんだっ!」

「小次郎ーっ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界のんびり放浪記

立花アルト
ファンタジー
異世界に転移した少女リノは森でサバイバルしながら素材を集め、商人オルソンと出会って街アイゼルトヘ到着。 冒険者ギルドで登録と新人訓練を受け、採取や戦闘、魔法の基礎を学びながら生活準備を整え、街で道具を買い揃えつつ、次の冒険へ向けて動き始めた--。 よくある異世界転移?です。のんびり進む予定です。 小説家になろうにも投稿しています。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

錬金術にしか興味のない最弱職アルケミストの異世界勘違い道中

奏穏朔良
ファンタジー
「俺は人外じゃないし、女神の子供でもないし、救国の英雄でも、治癒を司る神でもないし、権力も信仰も興味無いから錬金術だけやらせてよ。」 女神の事情でVRゲームの元になった異世界に転移した男子高校生が何故かめちゃくちゃ勘違いされる話。 **** またもや勘違いものです。 主人公に対して各キャラ(男女問わず)から矢印を向けられる総愛され気味ですが、本編で特定の誰かとくっ付くことはありません。 目指せ毎週月、金16時更新。(1話と2話のみ同日更新です。) どうしても間に合わない場合はXにて告知します。 感想!貰えたら!!嬉しいです!!

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

処理中です...