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安住の地を求める勇者とぬいぐるみ
勇者挑戦 ⑦
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転移トラップで飛ばされてきたダンジョンのボス部屋で、小次郎は二足歩行のブタ、オークに捕まり私は払い飛ばされて床に転がっていた。
ボス部屋は中にいる者がボスを倒すが、中にいる者が死ぬまで部屋の扉は開かない仕組み。ここまで一緒にいた「ライゼ」のメンバーや兄姉の助けも期待できない場所で、絶望に目の前が真っ暗になりそうなとき、眩しい閃光と共に現れたのは一匹の犬だった。
「クゥン」
犬と呟いたら、その犬が悲しそうに鳴いてこちらを向いた。いやいや、アンタはさっきオークの腕をその前足の鋭い爪で斬り飛ばしたでしょう? そんな哀愁たっぷりの瞳で非難がましく見つめられても……って、この犬の顔……見覚えがあるような?
「かっは……、菊華ちゃん、だ、大丈夫?」
オークの汚い手で首を絞められ持ち上げられていた小次郎は、犬がその腕を斬り飛ばしたおかげで解放された。よかったぁ、息ができなくて小次郎の顔が段々と青褪めていくのを見ているのは怖かったもん。とにかく、命が助かってよかった。そして、小次郎は自分が危なかったんだから、自分の心配をしなさい。私はただ派手に転んだだけです。
「イタタ。ありゃ、擦りむいてた」
姉に会ったら、治癒魔法で治してもらおう。それより小次郎だ。小次郎の体を両手で引き寄せてオークに絞められていた首、投げだされたときに打っている背中や腕をペタペタと触って確かめる。
「だ、大丈夫だよ、菊華ちゃん。ちょっと喉が、痛いけど」
「ひどいわ。どこも赤くて……痣になっている」
首に残る痛々しい痕に、じんわりと涙が出てくる。でも、泣いている場合じゃない。あのブタもどきを倒さないと、ここからは出られないんだもの!
……あ、あの犬はどうしたっけ?
「小次郎、あの犬はなに?」
「……えっとね、犬じゃないみたい」
二人して犬へと顔を向けると、そこに映るのは白い犬がブタもどきを蹂躙しているスプラッターシーンだった。うげげ。片腕を切り飛ばされたオークの腕はボコボコと肉片が蠢き、まるで新しい腕が生えてきそう。犬はオークの顔に爪を立て、片目と鼻を潰していた。そのヤバい牙で腹の肉を食い千切り、痛みで尻もちをつき手足をバタつかせているオークの顔を後ろ足で蹴っ飛ばしていく。
「……この犬は味方なの?」
「菊華ちゃん。この子……オオカミだって」
へ? ああ……小次郎には「鑑定」というスキルがあるんだっけ。へぇぇ、あの犬、オオカミなんだぁ。だから、あんなに鋭い爪とか牙とかあるんだぁ。あれれ?
「え? オオカミなの?」
「う、うん。それで、あの子……菊華ちゃんのオオカミ」
「はああああぁぁぁ?」
なによ、なんで私があの口の周りをオークの血で真っ赤にさせているオオカミの主人なのよ! 髪を掻きむしりたい衝動に駆られたけど……そういえば、あの犬じゃない、オオカミの毛の色に見覚えがあるのよねぇ。足先と尻尾の先と片耳の先がベージュであとは真っ白。黒いクリクリのお目目にちょっと笑っているような口元。私は無意識に自分の布バッグへと手を滑らせる。……ない。ないないないない!
「も……もしかして」
私が振るえる指でオオカミを指すと、それに気づいたオオカミは顔を上に向け「ウオオオォォォン」と歓喜に吠えた。
マジか……。
オーク相手に爪と牙で戦っている白い犬じゃなくてオオカミは、私が作った編みぐるみです。そんな、バカな! え? どうして、手のひらサイズの編みぐるみがあんなに大きくなってぴょんぴょんと跳ねるように動いているの? しかも、「ウオン」とか吠えているよね? なんで? どうして?
「菊華ちゃん、たぶん、神様に貰ったスキルだと思う」
「スキル……ええーっ! あの「手芸創作」とかいう、わけわからんスキル?」
小次郎はコクンと頷いた。そういや、手芸に関わるスキルだったわ。もしかして、手芸で作ったものに命を吹き込むことができるという、神の領域に到達する神スキルだったの? じゃあ、編みぐるみでドラゴンとか強い魔物を作っておけば、シルビオさんみたいなテイマーっぽくなれて、どんなダンジョンでもウハウハなのでは? 私、Sランク冒険者として有名人になっちゃうとか?
ボス部屋に閉じ込められて危険な状態だというのに、ちょっと欲望に目が眩んでしまいました。すみません。ぽやんとした私の腕を掴んで小次郎がゆさゆさと揺さぶってます。
「菊華ちゃん。あのオオカミは菊華ちゃんのスキルだから……」
「スキルだから?」
「菊華ちゃんが込めた魔力が尽きたら……ぬいぐるみに戻っちゃう」
な、なんだってぇぇぇぇぇっ! バッとオオカミに目をやれば、ガブッとオークの首に牙を立てて、……立てて、シュルルルルと体が小さくなっていくぅぅぅぅっ。
「ああーっ」
そんな、あと一撃、あと一撃でオークが倒れるのに……。ポトンと元のぬいぐるみに戻った白い犬はオークの体が落っこちて床に転がった。
「ひいいいっ」
オークはあちこち血を流しながら、恨めしそうにこちらを睨み、一歩近づいてくる。
「菊華ちゃん、ぼくの後ろに」
「ダメよ! こいつは、あの剣じゃ倒せなかったのよ」
聖剣なのに、ワイバーンは斬れたのに、オークには傷ひとつ付けることができなかった。なのに、小次郎はその剣を両手で握って構えた。
「さっきはただ突っ込んでいったから。でも違う。この剣は……」
小次郎は止めようとする私の手をすり抜けてオークへと走り出した。
「ぬいぐるみと同じ。魔力を込めて振るうんだっ!」
「小次郎ーっ!」
ボス部屋は中にいる者がボスを倒すが、中にいる者が死ぬまで部屋の扉は開かない仕組み。ここまで一緒にいた「ライゼ」のメンバーや兄姉の助けも期待できない場所で、絶望に目の前が真っ暗になりそうなとき、眩しい閃光と共に現れたのは一匹の犬だった。
「クゥン」
犬と呟いたら、その犬が悲しそうに鳴いてこちらを向いた。いやいや、アンタはさっきオークの腕をその前足の鋭い爪で斬り飛ばしたでしょう? そんな哀愁たっぷりの瞳で非難がましく見つめられても……って、この犬の顔……見覚えがあるような?
「かっは……、菊華ちゃん、だ、大丈夫?」
オークの汚い手で首を絞められ持ち上げられていた小次郎は、犬がその腕を斬り飛ばしたおかげで解放された。よかったぁ、息ができなくて小次郎の顔が段々と青褪めていくのを見ているのは怖かったもん。とにかく、命が助かってよかった。そして、小次郎は自分が危なかったんだから、自分の心配をしなさい。私はただ派手に転んだだけです。
「イタタ。ありゃ、擦りむいてた」
姉に会ったら、治癒魔法で治してもらおう。それより小次郎だ。小次郎の体を両手で引き寄せてオークに絞められていた首、投げだされたときに打っている背中や腕をペタペタと触って確かめる。
「だ、大丈夫だよ、菊華ちゃん。ちょっと喉が、痛いけど」
「ひどいわ。どこも赤くて……痣になっている」
首に残る痛々しい痕に、じんわりと涙が出てくる。でも、泣いている場合じゃない。あのブタもどきを倒さないと、ここからは出られないんだもの!
……あ、あの犬はどうしたっけ?
「小次郎、あの犬はなに?」
「……えっとね、犬じゃないみたい」
二人して犬へと顔を向けると、そこに映るのは白い犬がブタもどきを蹂躙しているスプラッターシーンだった。うげげ。片腕を切り飛ばされたオークの腕はボコボコと肉片が蠢き、まるで新しい腕が生えてきそう。犬はオークの顔に爪を立て、片目と鼻を潰していた。そのヤバい牙で腹の肉を食い千切り、痛みで尻もちをつき手足をバタつかせているオークの顔を後ろ足で蹴っ飛ばしていく。
「……この犬は味方なの?」
「菊華ちゃん。この子……オオカミだって」
へ? ああ……小次郎には「鑑定」というスキルがあるんだっけ。へぇぇ、あの犬、オオカミなんだぁ。だから、あんなに鋭い爪とか牙とかあるんだぁ。あれれ?
「え? オオカミなの?」
「う、うん。それで、あの子……菊華ちゃんのオオカミ」
「はああああぁぁぁ?」
なによ、なんで私があの口の周りをオークの血で真っ赤にさせているオオカミの主人なのよ! 髪を掻きむしりたい衝動に駆られたけど……そういえば、あの犬じゃない、オオカミの毛の色に見覚えがあるのよねぇ。足先と尻尾の先と片耳の先がベージュであとは真っ白。黒いクリクリのお目目にちょっと笑っているような口元。私は無意識に自分の布バッグへと手を滑らせる。……ない。ないないないない!
「も……もしかして」
私が振るえる指でオオカミを指すと、それに気づいたオオカミは顔を上に向け「ウオオオォォォン」と歓喜に吠えた。
マジか……。
オーク相手に爪と牙で戦っている白い犬じゃなくてオオカミは、私が作った編みぐるみです。そんな、バカな! え? どうして、手のひらサイズの編みぐるみがあんなに大きくなってぴょんぴょんと跳ねるように動いているの? しかも、「ウオン」とか吠えているよね? なんで? どうして?
「菊華ちゃん、たぶん、神様に貰ったスキルだと思う」
「スキル……ええーっ! あの「手芸創作」とかいう、わけわからんスキル?」
小次郎はコクンと頷いた。そういや、手芸に関わるスキルだったわ。もしかして、手芸で作ったものに命を吹き込むことができるという、神の領域に到達する神スキルだったの? じゃあ、編みぐるみでドラゴンとか強い魔物を作っておけば、シルビオさんみたいなテイマーっぽくなれて、どんなダンジョンでもウハウハなのでは? 私、Sランク冒険者として有名人になっちゃうとか?
ボス部屋に閉じ込められて危険な状態だというのに、ちょっと欲望に目が眩んでしまいました。すみません。ぽやんとした私の腕を掴んで小次郎がゆさゆさと揺さぶってます。
「菊華ちゃん。あのオオカミは菊華ちゃんのスキルだから……」
「スキルだから?」
「菊華ちゃんが込めた魔力が尽きたら……ぬいぐるみに戻っちゃう」
な、なんだってぇぇぇぇぇっ! バッとオオカミに目をやれば、ガブッとオークの首に牙を立てて、……立てて、シュルルルルと体が小さくなっていくぅぅぅぅっ。
「ああーっ」
そんな、あと一撃、あと一撃でオークが倒れるのに……。ポトンと元のぬいぐるみに戻った白い犬はオークの体が落っこちて床に転がった。
「ひいいいっ」
オークはあちこち血を流しながら、恨めしそうにこちらを睨み、一歩近づいてくる。
「菊華ちゃん、ぼくの後ろに」
「ダメよ! こいつは、あの剣じゃ倒せなかったのよ」
聖剣なのに、ワイバーンは斬れたのに、オークには傷ひとつ付けることができなかった。なのに、小次郎はその剣を両手で握って構えた。
「さっきはただ突っ込んでいったから。でも違う。この剣は……」
小次郎は止めようとする私の手をすり抜けてオークへと走り出した。
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「小次郎ーっ!」
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