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第2部 母と娘の関係
1-3突っ込みたい気持ちを抑え影から見守るのも意外と大変よね
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目を開けると、そこには見知らぬ天井があった。しばらくの間、ボーッ眺めたあと、むくっと上半身を起こす。そういえば、昨夜は会社の休憩室に泊めてもらったんだった。思いのほか熟睡できたので、すっかり忘れていた。
普段は、枕や布団が変わると、なかなか眠れない。しかし、初めての場所のうえ、異世界にもかかわらず、ぐっすりと眠れてしまった。
部屋が綺麗で快適なうえ、布団がとてもフカフカだったからだ。布団からは、お日様の香が漂っていたので、マメに干しているのだろう。
あと、風歌が手入れをしていると聴いたため、安心感があったのかもしれない。最初は落ち着かなかったけど、すぐに馴染んでしまった。
私は起き上がると、パジャマから私服に着替る。パジャマを綺麗にたたみ、シーツや布団を整えると、そっと厚手のカーテンを開けた。空が薄っすらと明るくなって来ている。
時計を見ると、時間は五時を回ったばかりだ。まだ早いが、風歌は六時過ぎぐらいには来るらしい。まだ、会うつもりはないので、変に鉢合わせないよう、テキパキと行動する。
一通り部屋の整理を終えると、一階に向かった。まずは洗面所に行くと、顔を洗って髪を整える。
洗面所も、とても綺麗になっていた。水回りを見れば、どれだけ清潔にしているか、すぐに分かる。これも、風歌がやっているのだろうか?
昨夜、リリーシャさんに会社の中を案内してもらい『全て自由に使ってください』と言われた。食べ物の飲食も自由で、保存庫には、朝食も入れておいてくれるそうだ。
あと、昨夜は『遠方からお越しで、お疲れでしょうから、外食は後日にいたしましょう』と言われ、会社のダイニングで、彼女が手料理を振る舞ってくれた。
料理の腕も大したもので、見た目も味も素晴らしく、主婦歴の長い私でも、思わず感心するほどだった。味付けや調理法を尋ねると、レシピや調理のコツまで、細かく説明してくれた。
テーブルに並んだ数々の料理を見るに、私のために、食材も全て用意してあったのだと思う。彼女の細やかな気遣いや、おもてなしの心には、本当に感服する。
娘の仕事の様子を見に来ただけなのに、あまりに至れり尽くせりで、高級旅館にでも泊まりに来た気分だった。お礼やお詫びがメインだったはずなのに、これでは、完全にバカンスである。
身支度が整うと、私はダイニングに向かった。壁についているパネルに軽く手を触れると、部屋全体がパッと明るくなる。
天井には『光る球体』が浮かんでいた。大きさはこぶしぐらいだが、物凄く明るい。まるで、小さな太陽が浮かんでいるようだ。
昨夜、一通りの説明を受けたが、これは『マナ・イルミネーション』という、魔力の光らしい。置いてある機械類も、全て魔力で動いていた。今一つ原理は分からないけど、使い方は向こうの世界の家電製品と似ているので、今のところ問題はない。
テーブルの上にはトレーが置いてあり、そこには一通のメモ書きがあった。
『保存庫に、サラダとサンドイッチ、ジュースが入っています。
お茶を飲む場合は、右上の戸棚に入っています。
食器棚の下には、お菓子なども入っていますので、ご自由にどうぞ』
本当に、驚くほど気の利く人だ。
ちなみに、この世界には冷蔵庫がない。見た目は、完全に冷蔵庫と同じだが『保存庫』というものが使われている。冷やすのではなく、魔法によって分子構造に作用するらしい。客室に置いてあるのも、小型の『保存庫』だ。
これについても、私にはよく分からなかった。魔力の知識は全くないし、軽く説明を受けただけなので。ただ『異世界に来たんだな』という感じが、何となくするぐらいだ。
それにしても、イメージしていた『魔法』とは全く違う。映画などで出て来る、もっと派手で、奇跡に近い力かと思っていたが、全て機械化されている。なので、本当に魔法なのか、今一つピンと来ない。
向こうの世界と同じで、安心した半面、ほんのちょっと、ガッカリしている部分もあった。もっと、魔法らしい魔法を、見てみたかったのかもしれない……。
私は保存庫から朝食を取り出し、トレーに乗せ二階に向かう。部屋に戻りソファーに座るが、柔らか過ぎて今一つ落ち着かないので、化粧台のほうに移動した。やはり、硬い椅子のほうがしっくり来る。
手早く朝食を終えると、レースのカーテンを開いた。大きな窓から、外の景色がよく見える。リリーシャさんの説明だと、この窓は『マジックミラー』になっているので、こちらからは見えても、外からは見えないらしい。
風歌に見つからないように観察するには、持って来いの場所だ。しかし、彼女の気の回りのよさを考えると、それも分かった上で、わざわざ用意したのではないだろうか――?
時間は五時三十分。まだ、風歌が来るには少し時間がある。私は、昨夜、貸してもらった、マギコンを起動した。まだ、操作はおぼつかないが、空中に画面を出し、とりあえず、天気予報やニュースを見てみる。
使用感は若干違うが、インターネットと、さほど変わらなかった。処理が速いうえに、どこでも画面が出せるので、慣れれば、むしろこっちの方が、使いやすいかもしれない。
しばし時間を潰し、時計を見ると、五時五十分。どうにも落ち着かないので、椅子から立ち上がると、窓のそばに移動する。
直接、会うわけではないのに、急に緊張してきた。元気にやっているだろうか? 変な風に変わってないだろうか? 仕事に馴染めているのだろうか? ついつい、色んなことを考えてしまう。
やきもきしながら待つこと数分。エンジン音が聞こえてきたので、私は窓にべったり張り付いた。すると、スーッと空から何かが降りてくる。
後ろ姿しか見えなかったが、間違いない……風歌だ! 時間は、五時五十八分。思ったよりも、早い到着だった。
風歌は機体から降りてくると、両腕を振ったり、屈伸したりして、準備体操をしている様子だった。これから運動する訳でもないのに、ずいぶんと念入りにやっている。
準備体操が終わると、
「よーし、今日も気合を入れて、頑張りまっしょい!」
右腕を突き上げ、大きな声をあげた。
まったく、あの子は何をやってるの? まぁ、誰も見ていないと思って、やっているんだろうけど。相変わらず、意味不明な行動が多いわね。本当に、大丈夫なのかしら? 少し不安になって来たわ……。
風歌はガレージに向かうと、バケツと雑巾、ハタキなどを手に戻って来た。そのまま、正面の水路に係留してあるゴンドラに向かい、サッと乗り込むと、掃除を開始する。
まずは、はたきを掛け、ほうきと塵取りでゴミを取って行く。最後に、丁寧に雑巾がけをして行った。一台おわると、隣のゴンドラに移り、また同じ作業を繰り返していく。
単純な作業だが、拭き掃除は真剣にやれば、結構な体力を使う、大変な仕事だ。だが、風歌は休むことなく、黙々と掃除を続けて行った。
見ていれば、一切の手抜きをせず、一生懸命にやっているのがよく分かる。それに、動きが手慣れているので、毎日やっているのだろう。
ただ、成長が嬉しい反面、複雑な気持ちもあった。昔は、どんなに口煩く注意しても、全く掃除をしなかったからだ。
リリーシャさんは、いったいどんな教育をしたのだろうか? まだ、こちらに来て数ヶ月なのに、まるで別人のように、几帳面に動いている。これでは、私の母親としての教え方が、悪かったことになってしまう――。
私は黙々と働いている風歌の姿を、ただジッと見つめていた。床に膝をついて、一心不乱に掃除をしている。時折、額の汗をぬぐいながら、必死にやっていた。一生懸命さと、本気さが、ここまでひしひしと伝わってくる。
しかし……。ちょっと、膝をついたら、制服がよごれてしまうでしょ。あぁ、何で袖で汗を拭いているのよ。ハンカチを使いなさい、ハンカチを! つい、心の中で突っ込んで、大きな声で注意したくなるのを我慢する。
やっぱり、風歌は風歌だった。随分と熱心に仕事をしているのは認めるけど、雑なところは雑なのよね。
よく見ると、寝ぐせで髪が跳ねてるし、女らしさや身だしなみは、リリーシャさんには、遠く及ばない。接客業なのだから、仕事だけ覚えても、女性として成長しないと意味がない。まだまだ、改善の余地がありそうね……。
一通り終わると、風歌はガレージの中に移動し、また一台ずつ、掃除をして行く。置かれている機体は、全部で十台以上あり、結構な重労働だ。それでも風歌は、動きを止めることなく、せっせと掃除を続けて行った。
風歌は、毎朝こんなことを――?
会社の就業開始は、九時からなので、三時間も早く出勤して掃除をしているのだ。しかも、聴いた話によると、リリーシャさんは何も言っておらず、全て自主的にやっているとか。
社会人になって、少しは成長したと、捉えるべきなのかしら……?
ガレージの中が全て終わると、今度はほうきを片手に、庭にやって来た。隅のほうから丁寧に掃いて行く。庭もかなり広いので、これも大変な作業だ。だが、一切、手を止めることなく、根気よく掃除を続ける。
ふと時計を見ると、時間は八時を回っていた。何だかんだで、二時間以上も休むことなく、掃除をしていたのだ。見ている私のほうが、疲れてしまった。
庭掃除が一通り終わると、ガレージにほうきを置きに行き、事務所に入って来る。それっきり外に出てこないので、室内の掃除をしているのだろう。
私はそーっと扉を開け、足音を殺しながら階段に向かった。階段から下を覗きこむと、姿は見えないが、人の気配がした。
もっと詳しく観察したいが、これ以上、近付くと、気付かれてしまうかもしれない。やむなく、階段の手すりから少しだけ顔を出し、様子をうかがった。
しばらくすると、一階から風歌の声が聞こえてきた。
「リリーシャさん、おはようございます。今日も一日、よろしくお願いします!」
相変わらず、無駄に大きく響く声だ。
私は音を立てないように気を付けながら、急いで休憩室に戻った。時間は八時半。結局、朝六時から、ずっと仕事の様子を見続けてしまった。
私はソファーに座ると、ほっと一息ついた。ずっと見ていて疲れたのもあるが、一番は、風歌がしっかり仕事をしているのを見て、安心したからだ。とりあえずは、上手く行っていると考えて、いいのだろうか?
でも、始業前の掃除しか見ていないし、実際の仕事はどうなのかしら? それに、普段の生活のほうは大丈夫なの? ご飯はちゃんと食べているのよね?
ホッとした瞬間、次々と心配事が浮かんで来るのだった……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『子供の出来が悪いのは教育のせいなのだろうか?』
教えるとは希望を語ること。学ぶとは誠実を胸に刻むこと。
普段は、枕や布団が変わると、なかなか眠れない。しかし、初めての場所のうえ、異世界にもかかわらず、ぐっすりと眠れてしまった。
部屋が綺麗で快適なうえ、布団がとてもフカフカだったからだ。布団からは、お日様の香が漂っていたので、マメに干しているのだろう。
あと、風歌が手入れをしていると聴いたため、安心感があったのかもしれない。最初は落ち着かなかったけど、すぐに馴染んでしまった。
私は起き上がると、パジャマから私服に着替る。パジャマを綺麗にたたみ、シーツや布団を整えると、そっと厚手のカーテンを開けた。空が薄っすらと明るくなって来ている。
時計を見ると、時間は五時を回ったばかりだ。まだ早いが、風歌は六時過ぎぐらいには来るらしい。まだ、会うつもりはないので、変に鉢合わせないよう、テキパキと行動する。
一通り部屋の整理を終えると、一階に向かった。まずは洗面所に行くと、顔を洗って髪を整える。
洗面所も、とても綺麗になっていた。水回りを見れば、どれだけ清潔にしているか、すぐに分かる。これも、風歌がやっているのだろうか?
昨夜、リリーシャさんに会社の中を案内してもらい『全て自由に使ってください』と言われた。食べ物の飲食も自由で、保存庫には、朝食も入れておいてくれるそうだ。
あと、昨夜は『遠方からお越しで、お疲れでしょうから、外食は後日にいたしましょう』と言われ、会社のダイニングで、彼女が手料理を振る舞ってくれた。
料理の腕も大したもので、見た目も味も素晴らしく、主婦歴の長い私でも、思わず感心するほどだった。味付けや調理法を尋ねると、レシピや調理のコツまで、細かく説明してくれた。
テーブルに並んだ数々の料理を見るに、私のために、食材も全て用意してあったのだと思う。彼女の細やかな気遣いや、おもてなしの心には、本当に感服する。
娘の仕事の様子を見に来ただけなのに、あまりに至れり尽くせりで、高級旅館にでも泊まりに来た気分だった。お礼やお詫びがメインだったはずなのに、これでは、完全にバカンスである。
身支度が整うと、私はダイニングに向かった。壁についているパネルに軽く手を触れると、部屋全体がパッと明るくなる。
天井には『光る球体』が浮かんでいた。大きさはこぶしぐらいだが、物凄く明るい。まるで、小さな太陽が浮かんでいるようだ。
昨夜、一通りの説明を受けたが、これは『マナ・イルミネーション』という、魔力の光らしい。置いてある機械類も、全て魔力で動いていた。今一つ原理は分からないけど、使い方は向こうの世界の家電製品と似ているので、今のところ問題はない。
テーブルの上にはトレーが置いてあり、そこには一通のメモ書きがあった。
『保存庫に、サラダとサンドイッチ、ジュースが入っています。
お茶を飲む場合は、右上の戸棚に入っています。
食器棚の下には、お菓子なども入っていますので、ご自由にどうぞ』
本当に、驚くほど気の利く人だ。
ちなみに、この世界には冷蔵庫がない。見た目は、完全に冷蔵庫と同じだが『保存庫』というものが使われている。冷やすのではなく、魔法によって分子構造に作用するらしい。客室に置いてあるのも、小型の『保存庫』だ。
これについても、私にはよく分からなかった。魔力の知識は全くないし、軽く説明を受けただけなので。ただ『異世界に来たんだな』という感じが、何となくするぐらいだ。
それにしても、イメージしていた『魔法』とは全く違う。映画などで出て来る、もっと派手で、奇跡に近い力かと思っていたが、全て機械化されている。なので、本当に魔法なのか、今一つピンと来ない。
向こうの世界と同じで、安心した半面、ほんのちょっと、ガッカリしている部分もあった。もっと、魔法らしい魔法を、見てみたかったのかもしれない……。
私は保存庫から朝食を取り出し、トレーに乗せ二階に向かう。部屋に戻りソファーに座るが、柔らか過ぎて今一つ落ち着かないので、化粧台のほうに移動した。やはり、硬い椅子のほうがしっくり来る。
手早く朝食を終えると、レースのカーテンを開いた。大きな窓から、外の景色がよく見える。リリーシャさんの説明だと、この窓は『マジックミラー』になっているので、こちらからは見えても、外からは見えないらしい。
風歌に見つからないように観察するには、持って来いの場所だ。しかし、彼女の気の回りのよさを考えると、それも分かった上で、わざわざ用意したのではないだろうか――?
時間は五時三十分。まだ、風歌が来るには少し時間がある。私は、昨夜、貸してもらった、マギコンを起動した。まだ、操作はおぼつかないが、空中に画面を出し、とりあえず、天気予報やニュースを見てみる。
使用感は若干違うが、インターネットと、さほど変わらなかった。処理が速いうえに、どこでも画面が出せるので、慣れれば、むしろこっちの方が、使いやすいかもしれない。
しばし時間を潰し、時計を見ると、五時五十分。どうにも落ち着かないので、椅子から立ち上がると、窓のそばに移動する。
直接、会うわけではないのに、急に緊張してきた。元気にやっているだろうか? 変な風に変わってないだろうか? 仕事に馴染めているのだろうか? ついつい、色んなことを考えてしまう。
やきもきしながら待つこと数分。エンジン音が聞こえてきたので、私は窓にべったり張り付いた。すると、スーッと空から何かが降りてくる。
後ろ姿しか見えなかったが、間違いない……風歌だ! 時間は、五時五十八分。思ったよりも、早い到着だった。
風歌は機体から降りてくると、両腕を振ったり、屈伸したりして、準備体操をしている様子だった。これから運動する訳でもないのに、ずいぶんと念入りにやっている。
準備体操が終わると、
「よーし、今日も気合を入れて、頑張りまっしょい!」
右腕を突き上げ、大きな声をあげた。
まったく、あの子は何をやってるの? まぁ、誰も見ていないと思って、やっているんだろうけど。相変わらず、意味不明な行動が多いわね。本当に、大丈夫なのかしら? 少し不安になって来たわ……。
風歌はガレージに向かうと、バケツと雑巾、ハタキなどを手に戻って来た。そのまま、正面の水路に係留してあるゴンドラに向かい、サッと乗り込むと、掃除を開始する。
まずは、はたきを掛け、ほうきと塵取りでゴミを取って行く。最後に、丁寧に雑巾がけをして行った。一台おわると、隣のゴンドラに移り、また同じ作業を繰り返していく。
単純な作業だが、拭き掃除は真剣にやれば、結構な体力を使う、大変な仕事だ。だが、風歌は休むことなく、黙々と掃除を続けて行った。
見ていれば、一切の手抜きをせず、一生懸命にやっているのがよく分かる。それに、動きが手慣れているので、毎日やっているのだろう。
ただ、成長が嬉しい反面、複雑な気持ちもあった。昔は、どんなに口煩く注意しても、全く掃除をしなかったからだ。
リリーシャさんは、いったいどんな教育をしたのだろうか? まだ、こちらに来て数ヶ月なのに、まるで別人のように、几帳面に動いている。これでは、私の母親としての教え方が、悪かったことになってしまう――。
私は黙々と働いている風歌の姿を、ただジッと見つめていた。床に膝をついて、一心不乱に掃除をしている。時折、額の汗をぬぐいながら、必死にやっていた。一生懸命さと、本気さが、ここまでひしひしと伝わってくる。
しかし……。ちょっと、膝をついたら、制服がよごれてしまうでしょ。あぁ、何で袖で汗を拭いているのよ。ハンカチを使いなさい、ハンカチを! つい、心の中で突っ込んで、大きな声で注意したくなるのを我慢する。
やっぱり、風歌は風歌だった。随分と熱心に仕事をしているのは認めるけど、雑なところは雑なのよね。
よく見ると、寝ぐせで髪が跳ねてるし、女らしさや身だしなみは、リリーシャさんには、遠く及ばない。接客業なのだから、仕事だけ覚えても、女性として成長しないと意味がない。まだまだ、改善の余地がありそうね……。
一通り終わると、風歌はガレージの中に移動し、また一台ずつ、掃除をして行く。置かれている機体は、全部で十台以上あり、結構な重労働だ。それでも風歌は、動きを止めることなく、せっせと掃除を続けて行った。
風歌は、毎朝こんなことを――?
会社の就業開始は、九時からなので、三時間も早く出勤して掃除をしているのだ。しかも、聴いた話によると、リリーシャさんは何も言っておらず、全て自主的にやっているとか。
社会人になって、少しは成長したと、捉えるべきなのかしら……?
ガレージの中が全て終わると、今度はほうきを片手に、庭にやって来た。隅のほうから丁寧に掃いて行く。庭もかなり広いので、これも大変な作業だ。だが、一切、手を止めることなく、根気よく掃除を続ける。
ふと時計を見ると、時間は八時を回っていた。何だかんだで、二時間以上も休むことなく、掃除をしていたのだ。見ている私のほうが、疲れてしまった。
庭掃除が一通り終わると、ガレージにほうきを置きに行き、事務所に入って来る。それっきり外に出てこないので、室内の掃除をしているのだろう。
私はそーっと扉を開け、足音を殺しながら階段に向かった。階段から下を覗きこむと、姿は見えないが、人の気配がした。
もっと詳しく観察したいが、これ以上、近付くと、気付かれてしまうかもしれない。やむなく、階段の手すりから少しだけ顔を出し、様子をうかがった。
しばらくすると、一階から風歌の声が聞こえてきた。
「リリーシャさん、おはようございます。今日も一日、よろしくお願いします!」
相変わらず、無駄に大きく響く声だ。
私は音を立てないように気を付けながら、急いで休憩室に戻った。時間は八時半。結局、朝六時から、ずっと仕事の様子を見続けてしまった。
私はソファーに座ると、ほっと一息ついた。ずっと見ていて疲れたのもあるが、一番は、風歌がしっかり仕事をしているのを見て、安心したからだ。とりあえずは、上手く行っていると考えて、いいのだろうか?
でも、始業前の掃除しか見ていないし、実際の仕事はどうなのかしら? それに、普段の生活のほうは大丈夫なの? ご飯はちゃんと食べているのよね?
ホッとした瞬間、次々と心配事が浮かんで来るのだった……。
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