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第2部 母と娘の関係
5-12私リリーシャさんの事もっと深く知りたい……
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『蒼海祭』の翌日。私は、平常運転にもどり〈南地区〉の上空を、練習飛行していた。昨日は食べ過ぎたせいか、さすがに胃がもたれており、時折、お腹をさすっている。
実は、打ち上げのあと、予約していたレストランでの『後夜祭』もあったんだよね。フィニーちゃんは、あれだけ飲食したあとも、モリモリ食べてたけど……。
いやー、本当に、よく食べたイベントだった。いくら太らない体質とはいえ、しばらくは節制しないと。金銭的な問題もあるので、今日からまた、慎ましい生活のスタートだ。
町を眺めていると、あちこちで『蒼海祭』で使った看板や出店を、片付けている様子が見えた。お祭りが終わった翌日って、何か空虚な感じというか、ちょっぴり寂しいんだよね。花火を見終わった、直後のような感じ。
この町の場合、毎月イベントがあるから、すぐに次のお祭りが始まる。けど、お祭りが終わったあと、ちょっと感傷的な気分になるのは、それだけ楽しかったからだと思う。
私は、ゆっくり飛行しながら、片付けをしている人や、町を歩く人たちを、じっくり観察した。みんな、黙々と仕事をしており、はしゃぎ過ぎたのか、お疲れの様子の人もいる。
昨日までに比べれば、人は少ないが、観光客らしき人たちの姿が、結構、目に付いた。流石は〈南地区〉だけあって、普段から観光客が多い。
私が通りを眺めていると、視界の端に、何やらこっちに、手を振っているっぽい人を発見した。かなり高度もあるし、だいぶ離れているけど、私はとても視力がいい。
元々視力は、2.0あったんだけど、こっちに来て練習飛行をしてから、さらに良くなった気がする。毎日、上空から遠くを見ているから、良くなったのかも。
私は、目を凝らして観察しながら、手を振っている人物に、ゆっくり近づいて行った。
「あれって、ツバサさんだよね? あんなに離れた場所から、私のことが分かったんだ」
流石は、シルフィード・プリンセス。私以上に、凄い目を持っているようだ。
少し速度を上げ、目的地に向かうと、スーッと地上に降りて行く。ツバサさんは、カフェのテラス席で、優雅にお茶をしている最中だった。お昼には、まだ早い時間だけど、仕事中の息抜きかな?
「ツバサさん、おはようございます! お仕事、お疲れ様です」
私は、エア・ドルフィンを降り、ツバサさんの前に進むと、頭を下げ、元気いっぱいに挨拶をする。
「おはよう、風歌ちゃん。いいね、今日も気合が入ってて」
「元気や気合だけは、自信ありますから」
ツバサさんは微笑むと、
「もし良かったら、お茶に付き合ってくれないかな? 何でも好きなものを、ご馳走するよ」
私をお茶に誘ってくれた。
「はい、喜んで」
ツバサさんのような、大人気シルフィードの先輩と話すのは、とても勉強になる。それに、私と同じ『体育会系思考』の人なので、話が合うんだよね。
私が席に着くと、ツバサさんは、すぐにウェイターを呼んで、私の注文をしてくれた。相変わらず、さりげなく気が回るところも凄い。しっかり、見習わないとね。
「まだ、お昼には早いですが、お仕事は、大丈夫なんですか?」
時間は、十一時を回ったところだ。
「お客様が、昨日の後夜祭で飲み過ぎて、体調を崩したらしくてね。急遽キャンセルが入ったんだ。当日のキャンセルは、全額入って来るから。こうしてお茶を飲んでいても、僕はちゃんと仕事をした扱いになるってわけ」
ツバサさんは、微笑みながら両手を広げる。
「あぁ、そういう事だったんですか。お客様、大丈夫ですかね?」
「ただの二日酔いだと思うから、たぶん大丈夫じゃないかな。お祭り明けは、割と多いんだ、こういうこと。お祭り中は一杯働いたから、のんびり休めて、ラッキーだけどね」
ツバサさんらしい、考え方だ。何事も、物凄くポジティブな捉え方で、どんな状況も、楽しんでる感じがする。
「ツバサさんは、お祭り中は大忙しですもんね。でも、お祭りを楽しんでいただけの新人の私が、お祭り明け早々に、こんなにのんびりして、いいんでしょうか?」
私は逆に、お祭り中は楽しみまくったから、ちょうど気を引き締めようと、思っていた矢先だ。
「それで、いいと思うよ。僕も新人時代は、かなりのんびりやってたし。『楽しむのが新人の仕事』って、アリーシャさんにも、よく言われてたからね」
そういえば、ツバサさんも子供のころから、よく〈ホワイト・ウイング〉に遊びに行ってたんだよね。リリーシャさんと、幼馴染みだし。
「リリーシャさんも、同じことを言ってました。でも、リリーシャさんが、遊び回ってる姿って、想像がつかないですね。昔は、割と遊んでいたんですか?」
ナギサちゃんほど硬くはないけど、仕事をしている姿しか、全く思い浮かばない。
「リリーは真面目だから、子供のころも、会社の手伝いとか良くしてたなぁ。見習い時代も、勉強や練習ばかりだったし」
「だから、僕が無理やり、お祭りやら何やらに、引っ張り回してたんだ。アリーシャさんにも『リリーをお願い』って、頼まれてたから」
確かに、リリーシャさんって、物凄く真面目だよね。私には物凄く甘いけど、自分には厳しいのかもしれない。
「ところで、アリーシャさんって、どんな方だったんですか? やっぱり『伝説のシルフィード』と言われるぐらいですから、物凄かったんですよね? リリーシャさんに、似てる感じですか?」
ツバサさんなら、直接、会っていたから、よく知っているはずだ。
「リリーから、アリーシャさんの話は、聴いてないの?」
「ほとんど、話はありませんね。リリーシャさんは、あまりプライベートなことは、話しませんし。こちらから訊くのも、失礼かと思いまして」
お茶の時に世間話はするけど、あまり突っ込んだ話って、しないんだよね。私の家庭の事情についても、詳しくは訊いてこないし。
それが、リリーシャさんの優しさであり、距離感なんだと思う。だから私も、リリーシャさんのプライベートについては、触れないようにしている。
「そう……何も話していないんだ」
ツバサさんは、口元に手を当て少し考えたあと、
「アリーシャさんは、一言でいえば『自由闊達』な人かな。細かいことには捕らわれず、とても大らかで楽天的で、リリーとは真逆の性格だね」
「それに、何をやるのも楽しそうで、見てるこっちまで、楽しくなって来るんだ。『アリーシャ・スマイル』って言葉が流行したぐらい、いつも楽しそうに笑っていてね」
ツバサさんは、とても嬉しそうに説明する。きっと、アリーシャさんのことが、大好きなのだろう。
「私は、まだ会ったことが無いので、リリーシャさんみたいな人を、想像していました。でも、リリーシャさんの笑顔も、とっても素敵ですよ。いつも、ニコニコしてますし」
私の中では、リリーシャさんが、最高のシルフィードだと思っている。笑顔も、最高に素敵だしね。
「リリーとは違って、アリーシャさんのは、物凄く自然な笑顔なんだ。リリーの場合は、作り笑顔が多いからね」
「えっ、そうなんですか!?」
意外な言葉に、私は驚いた。だって、凄く素敵な笑顔だもん。
「リリーは基本、感情を表に出さないからね。だから、どんなに嫌なことや、悲しいことが有っても、笑顔を浮かべるんだ。むしろ、悲しい時ほど、笑顔になるんだよね」
「そう――だったんですか。私はてっきり、自然な笑顔だとばかり、思ってました」
自然で柔らかいし、とても作り笑顔には見えない。私はてっきり、いつも心から笑っているんだと思っていた。
「まぁ、僕たちの仕事は、笑顔が大事だから。毎日、作り笑顔をしていれば、自然な笑顔に見えるようになるんだ。特に、リリーの場合は、子供のころから、あんな感じだったから。年季が違うんだよね」
「確かに、シルフィードにとって、笑顔は大事ですよね。私って、すぐ表情に出ちゃうので、ちゃんと笑顔の練習しておかないと……」
私って、素で笑ってるから、ちゃんとした、お客様向けの笑顔になってるか、全く自信がない。サービス業をやっている以上『営業スマイル』も、覚えないと。
「無理に練習しなくても、接客するようになれば、自然に身につくよ。僕も、感情が出やすい性格だから、接客の時は、気を付けるようにしてるんだ」
「でも、リリーの場合は、仕事もプライベートも関係なしに、ずっとあんな感じだから。ある意味、才能なのかもね」
ツバサさんは、少し複雑そうな表情で微笑む。
「いつも笑顔でいられるなんて、やっぱり、リリーシャさんって、凄いですよね」
私は喜怒哀楽が激しいので、常に笑顔でいるのは、絶対に無理だと思う。
「凄い――か。でも、感情を表に出さないって、物凄く辛いことじゃないかな? 自分の本当の気持ちを、周りの人に理解して貰えないし。本当は、泣きたいほど辛くても、笑っていたとしたら、誰も助けてくれないじゃない」
「確かに、そうですね……。でも、リリーシャさんに、そんな辛い悩みとかって、あるんですか? 器用で何でも出来ちゃうから、特に悩みがあるようには、見えませんけど。それとも、接客とかで、ストレスが溜まってたりするんでしょうか?」
リリーシャさんは、何をやっても、本当に上手くこなす。シルフィードの仕事はもちろん、料理や掃除などの、家事も完璧だ。
人当たりも良く、話術も素晴らしく、全てにおいて器用万能。全てが不完全な私とは、正反対だ。そんな完璧な人に、悩みなんて有るんだろうか?
「リリーだって、普通の人間だから、悩みはあるよ。ただ、実際、何でも一人で出来ちゃうし。負の感情は、全て笑顔で隠しちゃうから、気付きにくいだけで」
「周りに迷惑を掛けないのは、優しさでも有るんだけど。その分、全てを自分一人で、背負うことになってしまうんだ。ある意味、面倒な性格だよね」
ツバサさんは、軽くため息をついた。
「でも、それって――。私には、悩みを隠している、ってことですか?」
「風歌ちゃんだけじゃなくて、僕に対してもね。親友にぐらい、愚痴をこぼしてくれてもいいのに。真面目さや優しさも、度を超えると、困りものだよね」
ツバサさんは、少し困った顔で苦笑する。
リリーシャさんのこと、だいぶ理解したつもりに、なっていたけど。もしかして、全然、分かっていなかったのかな? 困った表情一つ見せないから、気付かないだけで……。
「最近、リリーはどう? 特に変わったところとかはない?」
「んー、いつも通り、ニコニコしてますし、仕事も完璧です。でも、ここ最近、外を眺める回数が、少し増えたような気がしますけど。何か、悩んでいるんでしょうか?」
私も、よく外は見るから、特に気になるほどじゃ無いんだけど。
「――まぁ、そうかもしれないね」
ツバサさんは、私から視線をそらし、空を見上げながら静かに答えた。
「やっぱり、私が頼りないから、相談してくれないんでしょうか?」
まだまだ、私は知らないことが多すぎるし、ただの見習いだし。実際に、頼りない存在だと、思われているんだろうか……?
「それは違う。それどころか、風歌ちゃんのことは、物凄く頼りにしているよ。ただ、君に心配させないための、リリーの優しさだから」
「私はもう、充分すぎるほど、優しくして貰っています。だから、リリーシャさんの力に、なりたいんです。もし、リリーシャさんの悩みを知っているなら、教えて頂けませんか?」
私はいつも、リリーシャさんに与えて貰ってばっかりだ。この世界に来て、リリーシャさんに会ってから、ずっと助けてもらっている。でも、私はまだ、何一つ返せていない。
「リリーのことは、好きかい?」
ツバサさんは、少し考えたあと、私に訊ねてきた。
「もちろん、大好きです。シルフィードの先輩としても、女性としても、一人の人間としても。全てにおいて尊敬していますし、超大好きです」
私は迷わず即答した。
「そこまで想われてるとは、リリーが羨ましいよ。でもね、好きだからと言って、全てを知る必要があるかどうかは、別の問題だ」
「悩みを知るとは、自分もその悩みを一緒に抱える、ということだからね。苦しみや悲しみ、痛みを共有する覚悟は、あるのかい?」
ツバサさんは静かに語ると、私をジッと見つめて来る。
「覚悟はあります! リリーシャさんのためなら、私何でもやりますから」
私は本当に、何でもやるつもりだ。だって、リリーシャさんは、私の命の恩人だもん。
「本当に風歌ちゃんは、いい子だね。リリーが君を、過保護にする気持ちが、よく分かるよ。でも、これからも、リリーと共に歩むのであれば、いずれは知ることだからね――」
ツバサさんは目を閉じ、しばし黙り込んだ。次に目を開いた瞬間、真剣な表情になり、雰囲気がガラリと変わっていた。
「重い話になるけど、大丈夫かい?」
私はコクリと無言でうなずいた。
「なら、一年前に起きた、ある事件を話さないといけないね」
ツバサさんは一呼吸すると、重みのある言葉で、少しずつ語り始めるのだった……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
第3部 予告――
「……なるほどね。ようやく全てが理解できたよ」
「この天使像って、アリーシャさんがモデルなんだよね」
「えっ……そんな、嘘っ――?!」
「引退って、シルフィードを辞めるつもりだったんですか?」
『でも、それって、なんか違うと思う』
「だから私は、毎日こうして空を見上げてる」
「そのこと、ちゃんと言葉で伝えたかい?」
「憧れの人の背中を追うことの、何が悪いんですか?」
「疲れた……もう帰りたい」
「軽い気持ちでやっている子たちとは違いますよ。人生賭けてますから」
『名誉のため? 意地のため?』
「風歌、生きてる……?」
「頑張り過ぎるのもダメって、難しいなぁー……」
coming soon
実は、打ち上げのあと、予約していたレストランでの『後夜祭』もあったんだよね。フィニーちゃんは、あれだけ飲食したあとも、モリモリ食べてたけど……。
いやー、本当に、よく食べたイベントだった。いくら太らない体質とはいえ、しばらくは節制しないと。金銭的な問題もあるので、今日からまた、慎ましい生活のスタートだ。
町を眺めていると、あちこちで『蒼海祭』で使った看板や出店を、片付けている様子が見えた。お祭りが終わった翌日って、何か空虚な感じというか、ちょっぴり寂しいんだよね。花火を見終わった、直後のような感じ。
この町の場合、毎月イベントがあるから、すぐに次のお祭りが始まる。けど、お祭りが終わったあと、ちょっと感傷的な気分になるのは、それだけ楽しかったからだと思う。
私は、ゆっくり飛行しながら、片付けをしている人や、町を歩く人たちを、じっくり観察した。みんな、黙々と仕事をしており、はしゃぎ過ぎたのか、お疲れの様子の人もいる。
昨日までに比べれば、人は少ないが、観光客らしき人たちの姿が、結構、目に付いた。流石は〈南地区〉だけあって、普段から観光客が多い。
私が通りを眺めていると、視界の端に、何やらこっちに、手を振っているっぽい人を発見した。かなり高度もあるし、だいぶ離れているけど、私はとても視力がいい。
元々視力は、2.0あったんだけど、こっちに来て練習飛行をしてから、さらに良くなった気がする。毎日、上空から遠くを見ているから、良くなったのかも。
私は、目を凝らして観察しながら、手を振っている人物に、ゆっくり近づいて行った。
「あれって、ツバサさんだよね? あんなに離れた場所から、私のことが分かったんだ」
流石は、シルフィード・プリンセス。私以上に、凄い目を持っているようだ。
少し速度を上げ、目的地に向かうと、スーッと地上に降りて行く。ツバサさんは、カフェのテラス席で、優雅にお茶をしている最中だった。お昼には、まだ早い時間だけど、仕事中の息抜きかな?
「ツバサさん、おはようございます! お仕事、お疲れ様です」
私は、エア・ドルフィンを降り、ツバサさんの前に進むと、頭を下げ、元気いっぱいに挨拶をする。
「おはよう、風歌ちゃん。いいね、今日も気合が入ってて」
「元気や気合だけは、自信ありますから」
ツバサさんは微笑むと、
「もし良かったら、お茶に付き合ってくれないかな? 何でも好きなものを、ご馳走するよ」
私をお茶に誘ってくれた。
「はい、喜んで」
ツバサさんのような、大人気シルフィードの先輩と話すのは、とても勉強になる。それに、私と同じ『体育会系思考』の人なので、話が合うんだよね。
私が席に着くと、ツバサさんは、すぐにウェイターを呼んで、私の注文をしてくれた。相変わらず、さりげなく気が回るところも凄い。しっかり、見習わないとね。
「まだ、お昼には早いですが、お仕事は、大丈夫なんですか?」
時間は、十一時を回ったところだ。
「お客様が、昨日の後夜祭で飲み過ぎて、体調を崩したらしくてね。急遽キャンセルが入ったんだ。当日のキャンセルは、全額入って来るから。こうしてお茶を飲んでいても、僕はちゃんと仕事をした扱いになるってわけ」
ツバサさんは、微笑みながら両手を広げる。
「あぁ、そういう事だったんですか。お客様、大丈夫ですかね?」
「ただの二日酔いだと思うから、たぶん大丈夫じゃないかな。お祭り明けは、割と多いんだ、こういうこと。お祭り中は一杯働いたから、のんびり休めて、ラッキーだけどね」
ツバサさんらしい、考え方だ。何事も、物凄くポジティブな捉え方で、どんな状況も、楽しんでる感じがする。
「ツバサさんは、お祭り中は大忙しですもんね。でも、お祭りを楽しんでいただけの新人の私が、お祭り明け早々に、こんなにのんびりして、いいんでしょうか?」
私は逆に、お祭り中は楽しみまくったから、ちょうど気を引き締めようと、思っていた矢先だ。
「それで、いいと思うよ。僕も新人時代は、かなりのんびりやってたし。『楽しむのが新人の仕事』って、アリーシャさんにも、よく言われてたからね」
そういえば、ツバサさんも子供のころから、よく〈ホワイト・ウイング〉に遊びに行ってたんだよね。リリーシャさんと、幼馴染みだし。
「リリーシャさんも、同じことを言ってました。でも、リリーシャさんが、遊び回ってる姿って、想像がつかないですね。昔は、割と遊んでいたんですか?」
ナギサちゃんほど硬くはないけど、仕事をしている姿しか、全く思い浮かばない。
「リリーは真面目だから、子供のころも、会社の手伝いとか良くしてたなぁ。見習い時代も、勉強や練習ばかりだったし」
「だから、僕が無理やり、お祭りやら何やらに、引っ張り回してたんだ。アリーシャさんにも『リリーをお願い』って、頼まれてたから」
確かに、リリーシャさんって、物凄く真面目だよね。私には物凄く甘いけど、自分には厳しいのかもしれない。
「ところで、アリーシャさんって、どんな方だったんですか? やっぱり『伝説のシルフィード』と言われるぐらいですから、物凄かったんですよね? リリーシャさんに、似てる感じですか?」
ツバサさんなら、直接、会っていたから、よく知っているはずだ。
「リリーから、アリーシャさんの話は、聴いてないの?」
「ほとんど、話はありませんね。リリーシャさんは、あまりプライベートなことは、話しませんし。こちらから訊くのも、失礼かと思いまして」
お茶の時に世間話はするけど、あまり突っ込んだ話って、しないんだよね。私の家庭の事情についても、詳しくは訊いてこないし。
それが、リリーシャさんの優しさであり、距離感なんだと思う。だから私も、リリーシャさんのプライベートについては、触れないようにしている。
「そう……何も話していないんだ」
ツバサさんは、口元に手を当て少し考えたあと、
「アリーシャさんは、一言でいえば『自由闊達』な人かな。細かいことには捕らわれず、とても大らかで楽天的で、リリーとは真逆の性格だね」
「それに、何をやるのも楽しそうで、見てるこっちまで、楽しくなって来るんだ。『アリーシャ・スマイル』って言葉が流行したぐらい、いつも楽しそうに笑っていてね」
ツバサさんは、とても嬉しそうに説明する。きっと、アリーシャさんのことが、大好きなのだろう。
「私は、まだ会ったことが無いので、リリーシャさんみたいな人を、想像していました。でも、リリーシャさんの笑顔も、とっても素敵ですよ。いつも、ニコニコしてますし」
私の中では、リリーシャさんが、最高のシルフィードだと思っている。笑顔も、最高に素敵だしね。
「リリーとは違って、アリーシャさんのは、物凄く自然な笑顔なんだ。リリーの場合は、作り笑顔が多いからね」
「えっ、そうなんですか!?」
意外な言葉に、私は驚いた。だって、凄く素敵な笑顔だもん。
「リリーは基本、感情を表に出さないからね。だから、どんなに嫌なことや、悲しいことが有っても、笑顔を浮かべるんだ。むしろ、悲しい時ほど、笑顔になるんだよね」
「そう――だったんですか。私はてっきり、自然な笑顔だとばかり、思ってました」
自然で柔らかいし、とても作り笑顔には見えない。私はてっきり、いつも心から笑っているんだと思っていた。
「まぁ、僕たちの仕事は、笑顔が大事だから。毎日、作り笑顔をしていれば、自然な笑顔に見えるようになるんだ。特に、リリーの場合は、子供のころから、あんな感じだったから。年季が違うんだよね」
「確かに、シルフィードにとって、笑顔は大事ですよね。私って、すぐ表情に出ちゃうので、ちゃんと笑顔の練習しておかないと……」
私って、素で笑ってるから、ちゃんとした、お客様向けの笑顔になってるか、全く自信がない。サービス業をやっている以上『営業スマイル』も、覚えないと。
「無理に練習しなくても、接客するようになれば、自然に身につくよ。僕も、感情が出やすい性格だから、接客の時は、気を付けるようにしてるんだ」
「でも、リリーの場合は、仕事もプライベートも関係なしに、ずっとあんな感じだから。ある意味、才能なのかもね」
ツバサさんは、少し複雑そうな表情で微笑む。
「いつも笑顔でいられるなんて、やっぱり、リリーシャさんって、凄いですよね」
私は喜怒哀楽が激しいので、常に笑顔でいるのは、絶対に無理だと思う。
「凄い――か。でも、感情を表に出さないって、物凄く辛いことじゃないかな? 自分の本当の気持ちを、周りの人に理解して貰えないし。本当は、泣きたいほど辛くても、笑っていたとしたら、誰も助けてくれないじゃない」
「確かに、そうですね……。でも、リリーシャさんに、そんな辛い悩みとかって、あるんですか? 器用で何でも出来ちゃうから、特に悩みがあるようには、見えませんけど。それとも、接客とかで、ストレスが溜まってたりするんでしょうか?」
リリーシャさんは、何をやっても、本当に上手くこなす。シルフィードの仕事はもちろん、料理や掃除などの、家事も完璧だ。
人当たりも良く、話術も素晴らしく、全てにおいて器用万能。全てが不完全な私とは、正反対だ。そんな完璧な人に、悩みなんて有るんだろうか?
「リリーだって、普通の人間だから、悩みはあるよ。ただ、実際、何でも一人で出来ちゃうし。負の感情は、全て笑顔で隠しちゃうから、気付きにくいだけで」
「周りに迷惑を掛けないのは、優しさでも有るんだけど。その分、全てを自分一人で、背負うことになってしまうんだ。ある意味、面倒な性格だよね」
ツバサさんは、軽くため息をついた。
「でも、それって――。私には、悩みを隠している、ってことですか?」
「風歌ちゃんだけじゃなくて、僕に対してもね。親友にぐらい、愚痴をこぼしてくれてもいいのに。真面目さや優しさも、度を超えると、困りものだよね」
ツバサさんは、少し困った顔で苦笑する。
リリーシャさんのこと、だいぶ理解したつもりに、なっていたけど。もしかして、全然、分かっていなかったのかな? 困った表情一つ見せないから、気付かないだけで……。
「最近、リリーはどう? 特に変わったところとかはない?」
「んー、いつも通り、ニコニコしてますし、仕事も完璧です。でも、ここ最近、外を眺める回数が、少し増えたような気がしますけど。何か、悩んでいるんでしょうか?」
私も、よく外は見るから、特に気になるほどじゃ無いんだけど。
「――まぁ、そうかもしれないね」
ツバサさんは、私から視線をそらし、空を見上げながら静かに答えた。
「やっぱり、私が頼りないから、相談してくれないんでしょうか?」
まだまだ、私は知らないことが多すぎるし、ただの見習いだし。実際に、頼りない存在だと、思われているんだろうか……?
「それは違う。それどころか、風歌ちゃんのことは、物凄く頼りにしているよ。ただ、君に心配させないための、リリーの優しさだから」
「私はもう、充分すぎるほど、優しくして貰っています。だから、リリーシャさんの力に、なりたいんです。もし、リリーシャさんの悩みを知っているなら、教えて頂けませんか?」
私はいつも、リリーシャさんに与えて貰ってばっかりだ。この世界に来て、リリーシャさんに会ってから、ずっと助けてもらっている。でも、私はまだ、何一つ返せていない。
「リリーのことは、好きかい?」
ツバサさんは、少し考えたあと、私に訊ねてきた。
「もちろん、大好きです。シルフィードの先輩としても、女性としても、一人の人間としても。全てにおいて尊敬していますし、超大好きです」
私は迷わず即答した。
「そこまで想われてるとは、リリーが羨ましいよ。でもね、好きだからと言って、全てを知る必要があるかどうかは、別の問題だ」
「悩みを知るとは、自分もその悩みを一緒に抱える、ということだからね。苦しみや悲しみ、痛みを共有する覚悟は、あるのかい?」
ツバサさんは静かに語ると、私をジッと見つめて来る。
「覚悟はあります! リリーシャさんのためなら、私何でもやりますから」
私は本当に、何でもやるつもりだ。だって、リリーシャさんは、私の命の恩人だもん。
「本当に風歌ちゃんは、いい子だね。リリーが君を、過保護にする気持ちが、よく分かるよ。でも、これからも、リリーと共に歩むのであれば、いずれは知ることだからね――」
ツバサさんは目を閉じ、しばし黙り込んだ。次に目を開いた瞬間、真剣な表情になり、雰囲気がガラリと変わっていた。
「重い話になるけど、大丈夫かい?」
私はコクリと無言でうなずいた。
「なら、一年前に起きた、ある事件を話さないといけないね」
ツバサさんは一呼吸すると、重みのある言葉で、少しずつ語り始めるのだった……。
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第3部 予告――
「……なるほどね。ようやく全てが理解できたよ」
「この天使像って、アリーシャさんがモデルなんだよね」
「えっ……そんな、嘘っ――?!」
「引退って、シルフィードを辞めるつもりだったんですか?」
『でも、それって、なんか違うと思う』
「だから私は、毎日こうして空を見上げてる」
「そのこと、ちゃんと言葉で伝えたかい?」
「憧れの人の背中を追うことの、何が悪いんですか?」
「疲れた……もう帰りたい」
「軽い気持ちでやっている子たちとは違いますよ。人生賭けてますから」
『名誉のため? 意地のため?』
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「頑張り過ぎるのもダメって、難しいなぁー……」
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スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
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