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第3部 笑顔の裏に隠された真実
3-5道に迷っている人を案内するのも大事なお仕事です
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青空の広がる午後。とてもいい天気になったので、張り切って練習飛行に来ていた。久々に気持ちよく飛べるので、超テンションが上がっている。まるで、初めて空を飛んだ時のような、新鮮な気分だった。
私って、常に元気よく動いてないと、ダメなんだよね。最近、少しは、大人しさを身につけたけど。じっとしていられない性格は、昔と変わっていない。
そんな訳で『空を自由に飛び回れるって、やっぱ最高!』なんて、幸せを噛みしめながら、今日は〈南地区〉に来ている。
メインストリートは、天気がいいせいか、いつもより人が多く、ごった返していた。沢山の人達が、元気に動き回っている姿を見ると、私まで元気が出てくる。やっぱり、にぎやかなのって、大好き。
私は、地上の建物と、通りを歩く人達を観察しながら、ゆっくり南に向かって行った。このまま〈グリュンノア国際空港〉まで、行ってみようと思う。
ここ最近、会社で待機していることが多かったので、とにかく、賑やかな場所に行きたかったからだ。元気の補充には、人が一杯いる所が、一番だからね。
ここら辺の建物は、ほぼ全て覚えているので、今日は『マン・ウォッチング』に集中する。一人前になっても、最初は、全く指名が来ない。なので、タクシーと同じように、自分でお客様を、探す必要があった。
そのための訓練が、マン・ウォッチングだ。『どこから来たのかな?』『どこに向かうんだろう?』なんて考えながら見ると、なかなか楽しい。
しばらく、通りの人たちの観察を続けていると、ふと気になる人物が、目に入った。大きな荷物を抱え、時折り立ち止まり、キョロキョロと視線が泳いでいた。
「おそらく、初めて来た人じゃないかな?」
私も、初めてこの町に降り立った時は、あんな感じだった。イメージしていたよりも、はるかに都会で、人が多かったからだ。
私は、素早く駐車スペースを見つけると、スーッと降下し、街路樹のすぐ脇に着地した。エア・ドルフィンから降りると、先ほどの男性を見つけ、近づいて行く。
男性は、スーツを着てネクタイを締め、帽子をかぶっている。メガネを掛け、白い髭をはやした、老紳士だった。
ビシッとした服装の割には、手に抱えている、リボンの掛かった大きなプレゼント・ボックスが、不釣り合いだ。観光じゃなくて、誰かに会いに来たのかな?
「こんにちは。何かお探しですか?」
「何だね、君は?」
男性は、やや不機嫌そうに、疑いの眼差しを向けてくる。
「私は、シルフィードです。もし、目的地が分からないようでしたら、ご案内いたしますが」
「……あぁ、あの観光案内人かね」
彼は、鋭い視線で見つめてきた。なんか、値踏みされてるみたいで、やり辛い。
「この町のことでしたら、隅々まで分かりますので」
日々の練習飛行のおかげで、よほどマイナーな場所じゃない限りは、大丈夫だ。
彼は少し考えたあと、空に視線を向け、険しい表情になった。
「あれに乗らねば、ならんのだろ? 私は絶対に、あんな危険なものには乗らんぞ。歩いて行くので、結構だ」
「それならば、ちょうど良かったです。私も歩いてしか、ご案内できませんので」
近場なら、普通に歩いて案内するし。目的地が遠いようなら、乗り物を手配しようと、思ってたので。
「ん――? シルフィードとは、空を飛ぶ仕事ではないのかね?」
「私は、まだ見習いなので、お客様を乗せて、飛ぶことは出来ないんです。でも、歩いてご案内する分には、問題ありませんので」
迷子を保護したり、道に迷っている人を案内したりも、とてもいい練習だ。今までにも、何回か、徒歩で案内した経験がある。
紳士風の男性は、少し考えたあと、ちらっと私を見て、すぐに視線をそらす。
「……なら、案内を頼もうか」
「はい、喜んで!」
一瞬、断られるのかと思ったけど、OKしてくれて、本当によかった。練習もあるけど、何より困っている人には、力になりたいからだ。私はいつも、助けてもらってばかりなので、その分、しっかり他の人の、力にならないとね。
「目的地は、どこですか? 地図もしくは、住所の分かるものは、お持ちですか?」
「確か、ポケットに地図が――」
しばらく、服のポケットを、ゴソゴソやっていたが、動きが止まる。
「どうやら、どこかに、落としてしまったみたいだ。探しに戻らねばならないか」
彼は、ため息をつきながら、今来た道を振り返った。
「あの、地名や建物だけでも分かれば、探せますけど」
「建物……確か『マーカス・グリーン・ファーム』という、名前だったはずだが」
「少しお待ち下さい。今調べてみます」
有名な建物や観光地は、押さえているけど、さすがに、農場までは分からない。特に〈北地区〉の奥のほうは、割とノーマークだ。私は、マギコンを取り出し、検索をかけてみる。ヒットしたのは一件で、思いの他、簡単に見つかった。
「〈北地区〉に、同じ名前の農場がありました。これで、間違いないですか?」
農場の写真を、空中モニターに表示して、見てもらう。
「あぁ、間違いない。娘が写っている」
「娘さんに、会いに来られたんですか?」
「断じて違う! 先日、生まれた、孫の顔を見に来ただけだ」
少し語調が強くなる。もしかして、娘さんと仲良くないのだろうか? 私も、親とは上手く行ってないので、ちょっと複雑な気分。それはさておき、一つ大きな問題が発生した。
「ここは、歩いて行ける距離では、ありませんね。やはり、乗り物で移動したほうが、よいのではないでしょうか?」
農場までは、めちゃくちゃ距離があるからだ。エア・ドルフィンで行っても、結構な時間が掛かる。
「そんなに、遠いのかね?」
彼は、ますます不機嫌な表情になった。
「ここは〈南地区〉ですから。まずは、しばらく歩いて〈中央区〉に入り、そこをずっと歩いて〈北地区〉に入ります」
「農業エリアは〈北地区〉のずっと奥なので、そこからさらに、かなりの距離、歩かなければなりません。徒歩だと、一時間半から二時間から近く、かかると思います」
私もこの距離は、さすがに、歩いたことは無かった。ざっと見積もってなので、歩く速度によっては、もっと掛かるかもしれない。
「なっ?! そんなに、辺鄙な場所にあるのかね? 船を降りて、少し歩けば着くと、思っていたのだが――」
「飛行艇で、来られたのでは、ないのですか?」
大陸からなら、普通は飛行艇で来る。速いし、揺れもないので、快適だからだ。船のほうが安いけど、時間がかかるし、本数も少ないので、あまり使う人はいない。
「あんな危険なものに、乗るわけがなかろう。空は危険だ」
安全運転をすれば、全然、危険ではないんだけど。どうやら、空を飛ぶ乗り物は、苦手のようだ。昔、何かあったのかな?
「どうされますか? 徒歩で行くなら、私も歩いて、ご案内いたしますが。もし、歩くのが厳しそうでしたら、乗り物を手配します。タクシーなら、そこら中に、走っていますので」
私は、道路のほうを手で指した。基本、タクシーは『ロード・カート』が多い。空を飛んでお客様を案内する、シルフィードとは、上手く棲み分けている。
ただ、移動するだけなら、タクシー。観光案内や会話を楽しみたい人は、シルフィードを選ぶ。
「何度も言うが、空を飛ぶ危険なものに、乗るつもりはない」
「でも、ロード・カートは、ほんのちょっと、浮いているだけですので」
「だが、飛んでいるには、変わりあるまい?」
物凄く鋭い視線を向けてくるので、それ以上は反論できなかった。なんかこの人、眼力が物凄い……。
「では、のんびり歩いて、行きましょうか。散歩がてら、街の見どころも、ご案内いたしますので」
「あまり、のんびりという訳にもいかん。さっさと行くぞ」
彼は、スタスタと歩き始めた。
「でも、物凄く距離があるので。飛ばしすぎると、体力がもたないと思いますが」
「わしは、学生時代、登山部に入っていた。足腰なら、十分に鍛えておる」
確かに、足取りは、しっかりしているようだ。歩くスピードも速い。
「それなら、安心ですね。私も学生時代は陸上部で、結構、鍛えてたんですよ。元体育会系どうし、頑張って、目的地を目指しましょう!」
私は、両手の拳を握り、元気一杯に声を掛けた。体育会系の人を見ると、ついテンションが上がってしまう。老紳士は、体型がほっそりしてるし、どちらかというと、インテリ系かと思ったけど。人は見かけに、よらないからね。
そんな訳で、まずは〈中央区〉を目指して、進んで行った。彼は、硬い表情を崩さず、黙々と歩き続けていた。だが、私は少しでも場をなごまそうと、元気に街の紹介を続ける。
全然、表情が変わらないので、聴いて貰えているかは、分からない。でも、知っている知識を、どんどん話していった。色んなタイプのお客様がいるし、これも貴重な練習だからね。
天気もいいし、風も心地よいので、私は弾む足取りで、軽やかに歩く。でも、隣の老紳士は、かなりキツそうだった。口にこそ出さないものの、息遣いが乱れ、だんだん表情に辛さが表れる。
私は、老紳士に合わせ、少しずつ歩調を緩めていた。だが、ついには、彼は立ち止まってしまった。街灯のポールに掴まり、苦しそうに、息を吐き出している。
「あの――大丈夫ですか? 辛いようでしたら、タクシーを呼びますけれど」
「いや、そんなものいらん。ただ、朝から歩きづめで、ほんの少し疲れただけだ」
「歩き詰めって、船に乗る前も、ずっと歩かれていたんですか?」
「まったく、最近は空を飛ぶ乗り物ばかりで、不便になったものだ」
不便どころか、むしろ物凄く便利だと思う。この世界は、空を飛ぶ乗り物が主流で、車輪を使った地面を走る乗り物は、全く見かけない。道を走る『ロード・カート』も浮いているので、実際には、飛んでいるのと同じだ。
一応、自転車は、あるんだけど。移動用ではなく、スポーツや体を鍛えたい、一部の人しか乗っていなかった。
なぜ、空を飛ぶ乗り物を、ここまで嫌うかは、よく分からない。けれど、乗れないとなると、移動手段が、物凄く限られてしまう。
「まだ、先は長いですし〈中央区〉に入ったら、一度、お茶でも飲んで、休憩しましょう。〈中央区〉までは、もう少しですので、頑張ってください」
「この程度、何ということはない。だが、少し喉が渇いたので、お茶を飲む案には賛成だ」
表情を変えず、淡々と答えると、彼は再び歩き始めた。
「やっぱり、そのお荷物、私が預かりましょうか?」
「いいや、結構だ」
手ぶらなら、もっと楽に歩けると思うんだけど。頑なに、渡そうとしなかった。おそらく、お孫さんへの、大事なプレゼントなのだろう。
私はまた、街の案内をしながら、彼と一緒に歩き始めた。目的地は、まだ遠いけど、誰かと一緒なら苦にならない。それに、せっかく遠くから、お孫さんに会いに来たんだから。何が何でも、目的地に送り届けてあげないとね。
私もシルフィードの一員として、全力で頑張りまっしょい!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『町の中を二時間も歩くなんてまるで旅行気分だよね』
長い旅行に必要なのは大きなカバンじゃなく、口ずさめる一つの歌さ
私って、常に元気よく動いてないと、ダメなんだよね。最近、少しは、大人しさを身につけたけど。じっとしていられない性格は、昔と変わっていない。
そんな訳で『空を自由に飛び回れるって、やっぱ最高!』なんて、幸せを噛みしめながら、今日は〈南地区〉に来ている。
メインストリートは、天気がいいせいか、いつもより人が多く、ごった返していた。沢山の人達が、元気に動き回っている姿を見ると、私まで元気が出てくる。やっぱり、にぎやかなのって、大好き。
私は、地上の建物と、通りを歩く人達を観察しながら、ゆっくり南に向かって行った。このまま〈グリュンノア国際空港〉まで、行ってみようと思う。
ここ最近、会社で待機していることが多かったので、とにかく、賑やかな場所に行きたかったからだ。元気の補充には、人が一杯いる所が、一番だからね。
ここら辺の建物は、ほぼ全て覚えているので、今日は『マン・ウォッチング』に集中する。一人前になっても、最初は、全く指名が来ない。なので、タクシーと同じように、自分でお客様を、探す必要があった。
そのための訓練が、マン・ウォッチングだ。『どこから来たのかな?』『どこに向かうんだろう?』なんて考えながら見ると、なかなか楽しい。
しばらく、通りの人たちの観察を続けていると、ふと気になる人物が、目に入った。大きな荷物を抱え、時折り立ち止まり、キョロキョロと視線が泳いでいた。
「おそらく、初めて来た人じゃないかな?」
私も、初めてこの町に降り立った時は、あんな感じだった。イメージしていたよりも、はるかに都会で、人が多かったからだ。
私は、素早く駐車スペースを見つけると、スーッと降下し、街路樹のすぐ脇に着地した。エア・ドルフィンから降りると、先ほどの男性を見つけ、近づいて行く。
男性は、スーツを着てネクタイを締め、帽子をかぶっている。メガネを掛け、白い髭をはやした、老紳士だった。
ビシッとした服装の割には、手に抱えている、リボンの掛かった大きなプレゼント・ボックスが、不釣り合いだ。観光じゃなくて、誰かに会いに来たのかな?
「こんにちは。何かお探しですか?」
「何だね、君は?」
男性は、やや不機嫌そうに、疑いの眼差しを向けてくる。
「私は、シルフィードです。もし、目的地が分からないようでしたら、ご案内いたしますが」
「……あぁ、あの観光案内人かね」
彼は、鋭い視線で見つめてきた。なんか、値踏みされてるみたいで、やり辛い。
「この町のことでしたら、隅々まで分かりますので」
日々の練習飛行のおかげで、よほどマイナーな場所じゃない限りは、大丈夫だ。
彼は少し考えたあと、空に視線を向け、険しい表情になった。
「あれに乗らねば、ならんのだろ? 私は絶対に、あんな危険なものには乗らんぞ。歩いて行くので、結構だ」
「それならば、ちょうど良かったです。私も歩いてしか、ご案内できませんので」
近場なら、普通に歩いて案内するし。目的地が遠いようなら、乗り物を手配しようと、思ってたので。
「ん――? シルフィードとは、空を飛ぶ仕事ではないのかね?」
「私は、まだ見習いなので、お客様を乗せて、飛ぶことは出来ないんです。でも、歩いてご案内する分には、問題ありませんので」
迷子を保護したり、道に迷っている人を案内したりも、とてもいい練習だ。今までにも、何回か、徒歩で案内した経験がある。
紳士風の男性は、少し考えたあと、ちらっと私を見て、すぐに視線をそらす。
「……なら、案内を頼もうか」
「はい、喜んで!」
一瞬、断られるのかと思ったけど、OKしてくれて、本当によかった。練習もあるけど、何より困っている人には、力になりたいからだ。私はいつも、助けてもらってばかりなので、その分、しっかり他の人の、力にならないとね。
「目的地は、どこですか? 地図もしくは、住所の分かるものは、お持ちですか?」
「確か、ポケットに地図が――」
しばらく、服のポケットを、ゴソゴソやっていたが、動きが止まる。
「どうやら、どこかに、落としてしまったみたいだ。探しに戻らねばならないか」
彼は、ため息をつきながら、今来た道を振り返った。
「あの、地名や建物だけでも分かれば、探せますけど」
「建物……確か『マーカス・グリーン・ファーム』という、名前だったはずだが」
「少しお待ち下さい。今調べてみます」
有名な建物や観光地は、押さえているけど、さすがに、農場までは分からない。特に〈北地区〉の奥のほうは、割とノーマークだ。私は、マギコンを取り出し、検索をかけてみる。ヒットしたのは一件で、思いの他、簡単に見つかった。
「〈北地区〉に、同じ名前の農場がありました。これで、間違いないですか?」
農場の写真を、空中モニターに表示して、見てもらう。
「あぁ、間違いない。娘が写っている」
「娘さんに、会いに来られたんですか?」
「断じて違う! 先日、生まれた、孫の顔を見に来ただけだ」
少し語調が強くなる。もしかして、娘さんと仲良くないのだろうか? 私も、親とは上手く行ってないので、ちょっと複雑な気分。それはさておき、一つ大きな問題が発生した。
「ここは、歩いて行ける距離では、ありませんね。やはり、乗り物で移動したほうが、よいのではないでしょうか?」
農場までは、めちゃくちゃ距離があるからだ。エア・ドルフィンで行っても、結構な時間が掛かる。
「そんなに、遠いのかね?」
彼は、ますます不機嫌な表情になった。
「ここは〈南地区〉ですから。まずは、しばらく歩いて〈中央区〉に入り、そこをずっと歩いて〈北地区〉に入ります」
「農業エリアは〈北地区〉のずっと奥なので、そこからさらに、かなりの距離、歩かなければなりません。徒歩だと、一時間半から二時間から近く、かかると思います」
私もこの距離は、さすがに、歩いたことは無かった。ざっと見積もってなので、歩く速度によっては、もっと掛かるかもしれない。
「なっ?! そんなに、辺鄙な場所にあるのかね? 船を降りて、少し歩けば着くと、思っていたのだが――」
「飛行艇で、来られたのでは、ないのですか?」
大陸からなら、普通は飛行艇で来る。速いし、揺れもないので、快適だからだ。船のほうが安いけど、時間がかかるし、本数も少ないので、あまり使う人はいない。
「あんな危険なものに、乗るわけがなかろう。空は危険だ」
安全運転をすれば、全然、危険ではないんだけど。どうやら、空を飛ぶ乗り物は、苦手のようだ。昔、何かあったのかな?
「どうされますか? 徒歩で行くなら、私も歩いて、ご案内いたしますが。もし、歩くのが厳しそうでしたら、乗り物を手配します。タクシーなら、そこら中に、走っていますので」
私は、道路のほうを手で指した。基本、タクシーは『ロード・カート』が多い。空を飛んでお客様を案内する、シルフィードとは、上手く棲み分けている。
ただ、移動するだけなら、タクシー。観光案内や会話を楽しみたい人は、シルフィードを選ぶ。
「何度も言うが、空を飛ぶ危険なものに、乗るつもりはない」
「でも、ロード・カートは、ほんのちょっと、浮いているだけですので」
「だが、飛んでいるには、変わりあるまい?」
物凄く鋭い視線を向けてくるので、それ以上は反論できなかった。なんかこの人、眼力が物凄い……。
「では、のんびり歩いて、行きましょうか。散歩がてら、街の見どころも、ご案内いたしますので」
「あまり、のんびりという訳にもいかん。さっさと行くぞ」
彼は、スタスタと歩き始めた。
「でも、物凄く距離があるので。飛ばしすぎると、体力がもたないと思いますが」
「わしは、学生時代、登山部に入っていた。足腰なら、十分に鍛えておる」
確かに、足取りは、しっかりしているようだ。歩くスピードも速い。
「それなら、安心ですね。私も学生時代は陸上部で、結構、鍛えてたんですよ。元体育会系どうし、頑張って、目的地を目指しましょう!」
私は、両手の拳を握り、元気一杯に声を掛けた。体育会系の人を見ると、ついテンションが上がってしまう。老紳士は、体型がほっそりしてるし、どちらかというと、インテリ系かと思ったけど。人は見かけに、よらないからね。
そんな訳で、まずは〈中央区〉を目指して、進んで行った。彼は、硬い表情を崩さず、黙々と歩き続けていた。だが、私は少しでも場をなごまそうと、元気に街の紹介を続ける。
全然、表情が変わらないので、聴いて貰えているかは、分からない。でも、知っている知識を、どんどん話していった。色んなタイプのお客様がいるし、これも貴重な練習だからね。
天気もいいし、風も心地よいので、私は弾む足取りで、軽やかに歩く。でも、隣の老紳士は、かなりキツそうだった。口にこそ出さないものの、息遣いが乱れ、だんだん表情に辛さが表れる。
私は、老紳士に合わせ、少しずつ歩調を緩めていた。だが、ついには、彼は立ち止まってしまった。街灯のポールに掴まり、苦しそうに、息を吐き出している。
「あの――大丈夫ですか? 辛いようでしたら、タクシーを呼びますけれど」
「いや、そんなものいらん。ただ、朝から歩きづめで、ほんの少し疲れただけだ」
「歩き詰めって、船に乗る前も、ずっと歩かれていたんですか?」
「まったく、最近は空を飛ぶ乗り物ばかりで、不便になったものだ」
不便どころか、むしろ物凄く便利だと思う。この世界は、空を飛ぶ乗り物が主流で、車輪を使った地面を走る乗り物は、全く見かけない。道を走る『ロード・カート』も浮いているので、実際には、飛んでいるのと同じだ。
一応、自転車は、あるんだけど。移動用ではなく、スポーツや体を鍛えたい、一部の人しか乗っていなかった。
なぜ、空を飛ぶ乗り物を、ここまで嫌うかは、よく分からない。けれど、乗れないとなると、移動手段が、物凄く限られてしまう。
「まだ、先は長いですし〈中央区〉に入ったら、一度、お茶でも飲んで、休憩しましょう。〈中央区〉までは、もう少しですので、頑張ってください」
「この程度、何ということはない。だが、少し喉が渇いたので、お茶を飲む案には賛成だ」
表情を変えず、淡々と答えると、彼は再び歩き始めた。
「やっぱり、そのお荷物、私が預かりましょうか?」
「いいや、結構だ」
手ぶらなら、もっと楽に歩けると思うんだけど。頑なに、渡そうとしなかった。おそらく、お孫さんへの、大事なプレゼントなのだろう。
私はまた、街の案内をしながら、彼と一緒に歩き始めた。目的地は、まだ遠いけど、誰かと一緒なら苦にならない。それに、せっかく遠くから、お孫さんに会いに来たんだから。何が何でも、目的地に送り届けてあげないとね。
私もシルフィードの一員として、全力で頑張りまっしょい!
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『町の中を二時間も歩くなんてまるで旅行気分だよね』
長い旅行に必要なのは大きなカバンじゃなく、口ずさめる一つの歌さ
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