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第3部 笑顔の裏に隠された真実
4-3やらずに後悔するぐらいならやって失敗する方がいいと思う
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私は、エア・ドルフィンに乗り〈東地区〉の上空を飛んでいた。すぐ横には、ナギサちゃんも並行して飛んでいる。合同での練習飛行だけど、いつもとは、ちょっと目的が違う。
今日は〈東地区〉にある〈エメラルド・ビーチ〉から〈西地区〉の〈サファイア・ビーチ〉に向かっていた。
普段なら〈中央区〉を横切る最短ルートで、一直線に目的地に向かっていく。でも、今日は遠回りして、海沿いを道路の上を飛行していた。なぜなら『ノア・マラソン』のコースを、下見しながら飛んでいるからだ。
一応、スピで情報は集めたし、図書館に行って『映像アーカイブ』も見てきた。何となく、全体像は見えて来たんだけど、直接、見てみないと、分からない部分もある。道幅や路面の状態、勾配などは、映像では分かり辛いからだ。
私は基本、頭で学ぶタイプではない。何事も実践して、体で覚えるタイプだ。あと、基本、ぶっつけ本番が多い。
でも、何の下見もなしに、五十キロを走るのは、あまりに無謀すぎる。いくら体力に、自信があるとはいえ、いきなりこの距離は、さすがに無理だ。こっちに来てから、全然、走ってないので、この半分の距離でも厳しいと思う。
『ノア・マラソン』まで、約一ヶ月。本来なら、こんな短い期間で仕上げるのは、無理がある。しかも、一日中、走れるわけではなく、仕事の合間に、ちょこっとトレーニングする程度だ。
『サファイア・カップ』の時と同じで、かなりギリギリの状態といえる。なので、今は一刻も早く、ルートを把握し、練習を始めることが大切だった。
そんなわけで、困った時のナギサちゃん。事情を説明して、コースの下見に、付き合ってもらったのだ。
最初は『何を馬鹿なこと言ってるの?』と、呆れられた。でも、私が本気であることを熱く語ると、渋々協力を了解してくれた。相変わらず優しいよね、ナギサちゃんは。結局、何だかんだ言いながらも、付き合ってくれるんだから。
私たちは、まず〈エメラルド・ビーチ〉の、守護女神像からスタートした。スタート地点が『大地の魔女』の像、ゴール地点が『旋風の魔女』の像だ。
四人の守護女神像は、様々なイベントの、会場になることが多い。それだけ、この四人の魔女が、この町にとって大切で、皆に敬愛されるシンボルだからだ。
それに『大地の魔女』は、多くのスポーツ選手たちに信仰されている『勝利の女神』でもある。だから、この像からスタートするのは、レースにはぴったりだと思う。
ちなみに『スポーツ・フェスタ』の期間中は、沢山の選手たちが、この像に『戦勝祈願』にやって来る。もちろん私も『完走できますように』って、ちゃんとお願いしてきた。
守護女神像から出発すると、しばらくは、海岸に沿って走って行く。景色は申し分なく、穏やかな海風が吹いている。道幅も広く、非常に走りやすそうだ。
でも、この地点では、のんびり景色を見ている暇などない。なぜなら、参加者数が三万人を超え、周りには、沢山の選手たちが走っているからだ。
全員、一斉のスタートは無理なので、複数のグループに分けられる。実績のある速い選手ほど、前のグループになっていた。理由は簡単で、遅い人が前を走ると、道がつまってしまうからだ。
それぞれのグループごとに、時間差でスタートしていく。それでも、一つのグループに、数千人の選手たちがいる。
実は、最も難関なのが、スタート地点だ。物凄い群衆の中で走るため、接触や転倒の事故が、かなり起きやすい。
さらに、大勢の人に取り囲まれ、自分のペースが、非常に作り辛かった。ペースを守りつつも、隙をついて抜け出し、いかに先頭集団に向かうかが、ポイントだ。
私は、群衆が走っている様子をイメージし、どこら辺で仕掛けるかを考える。また、周囲の建物を見て距離を測り、どれぐらいのペースで走って行くのか、組み立てて行く。
普段から、練習飛行で、建物を観察したり覚えたりしているので、地形の把握は慣れていた。そういえば、昔に比べ、観察力や記憶力が増した気がする。
私は、色々考えながら、ゆっくりと飛行していた。ナギサちゃんは、少し先のほうで、徐行運転しながら、じっと待ってくれている。私は、少しスピードを上げ、彼女に追いついた。
「ごめんね、ナギサちゃん。地形を覚えたり、ペース配分を考えたりで、進むの時間かかっちゃって」
「いいわよ。今日は、そのために来たのだから。それに、私は走ることに関しては素人だから。風歌の好きなように、やればいいわ」
練習飛行をスタートしてからは、嫌な顔一つせずに、じっと私のペースに、合わせてくれていた。
「私も、マラソンは、そんなに詳しい訳じゃないんだよね。ハーフ・マラソンしか、走ったことないし」
ハーフ・マラソンも、自分で市民マラソンに参加しただけだし。陸上部では、最高でも『1500メートル走』だったから、マラソンが専門ではない。一応、ハーフ・マラソンに出る時は、顧問の先生に、色々アドバイスは、もらったけどね。
「でも、距離が違うだけで、走り方は基本、同じなのでしょ?」
「そうだね。群衆の中にいる間は、事故に気を付けて。一度、抜け出したら、あとは持久力とペース配分の勝負。ここら辺は、どのマラソンでも同じだね」
やはり、最も気を遣うのは、序盤の走りだ。ここでケガでもしたら、元も子もない。とはいえ『ノア・マラソン』の場合、五十キロという、とんでもなく厚い壁がある。こっちをどう攻略するかのほうが、はるかに問題なんだけど……。
ビーチに沿って、まっすぐ進んで行くが、この区間は非常に長かった。景色は、とてもいいんだけど、とにかく長い。それに、練習飛行では来ない、全く知らない場所だ。
基本、人が多い中心部を回っているので、島の端っこにある海沿いには、まず来ない。たまに、食事で行くのも、海水浴エリアにある店だけだ。
〈エメラルド・ビーチ〉を過ぎると、周りには店もないし、人もいない。遊泳禁止区域なので、ポツポツと、釣りをしている人の姿が、見えるぐらいだ。右手のほうには、閑静な住宅街が見える。
非常にのどかな風景だが、こういう何も変化のない場所は、かなり走り辛い。どこら辺を走っているのか、分かり辛いからだ。
特に目印もなく、どこまでも真っ直ぐ続く道は、ペース配分を間違えたり、時には、心が折れる場合もある。同じ景色がずっと続くと、全く進んでいない錯覚に、陥ることもあるからだ。
延々と、真っ直ぐに続く道を進んで行くと、やがて道が右に曲がり始める。ここからが、第二の難所だ。ゆるい登り坂になっており、しかも、かなり長い。
他の選手を抜くには、うってつけの場所だ。でも、まだ序盤のため、下手にスピードを出し過ぎると、間違いなく、後半ばててしまう。坂道の足にかかる負担は、思いのほか大きいからだ。
緩やかに続く坂道を抜けると、しばらくは、平地の直線が続く。ここも、右手は住宅街で、左手は海。あまり変化のない景色の中を、ずっと進んで行くと、途中で川が見えてきた。川には橋が架かっており、この橋の向こう側は〈南地区〉だ。
橋を渡って〈南地区〉に入ると、急に雰囲気が変わって来た。古い建物や平屋が多い〈東地区〉と違い、ビルやマンションなど、近代的な建物が多い。右手の中心部には、高層ビル・高層ホテル・デパートなどの、大型商業施設も見える。
さらに、前方のはるか先には、小さく観覧車が見えてきた。〈新南区〉の遊園地〈ドルフィン・ランド〉だ。
少し進んだところで、右のほうに道がカーブしていき、少しずつ〈新南区〉の全貌が見えて来る。〈新南区〉は見えてはいるが、実際にはかなり遠い。エア・ドルフィンでも、かなり時間が掛かるので、走るとなると大変そうだ。
ただ〈新南区〉を見ていれば、だいたいの場所や、距離感は把握できる。それに、ここら辺は、普段の練習飛行でも、よく飛んでいるので、全て覚えていた。
「ナギサちゃん、ここら辺は、だいたい覚えてるから。〈西地区〉の海岸通りまで、一気に抜けちゃおう」
「分かったわ。少し高度を上げてから、飛ばすわよ」
私は、ナギサちゃんのすぐ後ろについて、高度を上げて行く。先ほどまでは、地上をよく観察するため、低空飛行していたからだ。それに、速度を出す時は、一定以上の高度をとることが、義務付けられている。
高度計を見て『高速飛行域』まで上がると、アクセルを開いて、加速を始めた。海沿いの道路の真上を、一気に飛び抜けて行く。
真っ直ぐ進んで行くと、左手のほうに、大きな橋が見えてきた。〈新南区〉と〈南地区〉は、長い橋でつながっている。全長一キロある〈ドリーム・ブリッジ〉だ。
〈新南区〉は、カジノや飲み屋などの、繁華街もあるので、町の中心部から、離れた場所に作られた。〈グリュンノア〉には『景観保護規制』という法律がある。これは、町の景観や騒音を、規制するものだ。
カジノや居酒屋、ネオンが光るような、派手な店など。特定のレジャー施設は、住宅地・観光地・町の中心部に作ることが出来ない。この法律のお蔭で、町の景観が、美しく保たれている。
その代り〈新南区〉だけは、この規制が適用されない『自由商業エリア』だ。そのため、レジャー施設が密集した、巨大な歓楽街になっている。橋を越えると、まるで別の町のような景観だ。特に夜は、ネオンが輝く、別世界になっている。
この〈ドリーム・ブリッジ〉の辺りが、ちょうど中間地点だ。橋の前は、大きな十字路になっており、右折すると〈南地区〉の中心部に向かう、大通りになっている。
ここは、二つの地区を行き来する『ロード・カート』や『ロード・コンテナ』で、非常に交通量が多い。
ちなみに『ロード・カート』が、この世界での、最も標準的な乗り物だ。空を飛ぶタイプの『エア・カート』もあるけど、操縦のライセンスが違う。一般の人は、価格も安く、ライセンスが取りやすい『ロード・カート』に乗る場合が多い。
『ロード・コンテナ』は、荷物運搬用の大型機体だ。こちらも『エア・コンテナ』という、空を飛ぶタイプもある。でも、一般的には『ロード・コンテナ』が、使われる場合が多い。積載量が多く、価格も安いからだ。
十字路を抜けると、ここから先はまた、左手は海、右側には、店や商業ビルが立ち並ぶ風景が続く。ここら辺は、一通り覚えているので、大きな建物だけ確認しながら、一気に通りすぎる。
しばらく進んで行くと、先のほうに、運河が見えてきた。昔は、沢山の運搬船が往来していたが、今は観光用の船が通るだけだ。その運河の橋を渡ると、ようやく〈西地区〉に到着する。〈西地区〉に入ると、急に雰囲気が変わった。
商業ビルが多い〈南地区〉と違い、平屋の家が多い。〈西地区〉の海辺は、住宅街になっている。でも〈東地区〉とは、全く雰囲気が違う。
新しい建物が多く、家の敷地がとても大きい。ここら辺は、別荘や豪邸が多いからだ。大きな庭付きの家や、プール付きの家もある。お金持ちの人が、多く住んでいることから『セレブタウン』とも言われていた。
目の前の海には、ヨットやクルーザーが停まっている、小さな港もある。所々にある、レストランやスーパーなども、いかにも高級そうだ。私には、全く縁のない場所だけど、いつかこんな所に、住んでみたいかも――。
高級住宅街を見ながら進んで行くと、やがて、見知った風景になってきた。左手には〈サファイア・ビーチ〉があり、右手には、普通の住宅や商店が見えてくる。もう少し進めば〈ウインド・ストリート〉だ。
いつも見ている街並みになり、少しホッとした。やっぱり、普段、飛び慣れている、普通の住宅や商店街が、一番、落ち着くんだよね。
やがて、ビーチの先のほうに『旋風の魔女』の像が見えてくる。ゴール地点は間もなくだ。
守護女神像に到着すると、私たちは近くの駐車場に、ゆっくり着陸した。エア・ドルフィンから降りると、大きく伸びをする。
時計を見ると、二時間以上、経過していた。やはり、外周沿いに移動すると、物凄く時間が掛かる。それに、道のチェックのため、かなりゆっくり飛んでいたので。
「ふぅー、お疲れ様、ナギサちゃん。思った以上に、時間が掛かるね」
長時間、つき合ってくれたナギサちゃんに、お礼の声を掛ける。普段、ここまで長時間、空にいることは無いので、彼女も、ちょっとお疲れの様子だ。
「それはそうよ。五十キロの距離は、エア・ドルフィンで飛ばしても、一時間以上は、掛かるのだから」
「だよねぇ。いつもは、町の外周は飛ばないから、想像以上に距離があったよ」
いつもは目的地まで、一直線に、ショートカットしている。なので、地区をまたいでいても、さほど時間は掛からない。でも『ノア・マラソン』は、最も距離のある、外周を走らなければならなかった。
「風歌は、本気で、これを走るつもりなの?『サファイア・カップ』はまだしも、これは、いくらなんでも、無謀すぎるわよ」
「自分でも、正直そう思う。でも、何事も実際にやって見ないと、気が済まない性格なんだよね」
ナギサちゃんの、言いたいことも分かる。でも、走りたい気持ちが、抑えられないんだよね。
「風歌が無謀なのは、いつものことだけど。あなたは、シルフィードなのよ。これは、どう考えても、本分を越えてるわ。今でさえ、一杯一杯なのに。何故こんな大変なことを、やらなければならないのよ?」
「んー、大きな壁を越えた先にしか、見えないものが、あるからかな。達成感とか、新しい発見とか。辛くて大変なマラソンを走る人って、みんな、そうじゃないのかな?」
苦労しないと、見えないものって、あるからね。
「……私には、よく分からないわ。自分の目指すこと意外に、力を注ぐなんて。何にせよ、怪我だけは、するんじゃないわよ」
「ナギサちゃん、心配してくれて、ありがとう。ケガに気を付けながら、頑張るよ」
もちろん、ケガには、細心の注意を払うつもりだ。まぁ、元が頑丈なので、大丈夫だとは思うけど。
「別に、心配なんてしてないわよ」
プイッと、そっぽを向くナギサちゃん。素直じゃないのは、いつも通りだ。
でも、本当に、いつも心配してくれてありがとね、ナギサちゃん。やれるところまで、精一杯やってみるよ。もちろん、本業のシルフィードに影響が出ないように、気を付けながらね。
よし、ノア・マラソンに向けて、仕事もトレーニングも頑張りまっしょい!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『半年以上のブランクあるけど走るってやっぱり気持ちいい』
ご心配なく ブランクは人生経験で埋めるから
今日は〈東地区〉にある〈エメラルド・ビーチ〉から〈西地区〉の〈サファイア・ビーチ〉に向かっていた。
普段なら〈中央区〉を横切る最短ルートで、一直線に目的地に向かっていく。でも、今日は遠回りして、海沿いを道路の上を飛行していた。なぜなら『ノア・マラソン』のコースを、下見しながら飛んでいるからだ。
一応、スピで情報は集めたし、図書館に行って『映像アーカイブ』も見てきた。何となく、全体像は見えて来たんだけど、直接、見てみないと、分からない部分もある。道幅や路面の状態、勾配などは、映像では分かり辛いからだ。
私は基本、頭で学ぶタイプではない。何事も実践して、体で覚えるタイプだ。あと、基本、ぶっつけ本番が多い。
でも、何の下見もなしに、五十キロを走るのは、あまりに無謀すぎる。いくら体力に、自信があるとはいえ、いきなりこの距離は、さすがに無理だ。こっちに来てから、全然、走ってないので、この半分の距離でも厳しいと思う。
『ノア・マラソン』まで、約一ヶ月。本来なら、こんな短い期間で仕上げるのは、無理がある。しかも、一日中、走れるわけではなく、仕事の合間に、ちょこっとトレーニングする程度だ。
『サファイア・カップ』の時と同じで、かなりギリギリの状態といえる。なので、今は一刻も早く、ルートを把握し、練習を始めることが大切だった。
そんなわけで、困った時のナギサちゃん。事情を説明して、コースの下見に、付き合ってもらったのだ。
最初は『何を馬鹿なこと言ってるの?』と、呆れられた。でも、私が本気であることを熱く語ると、渋々協力を了解してくれた。相変わらず優しいよね、ナギサちゃんは。結局、何だかんだ言いながらも、付き合ってくれるんだから。
私たちは、まず〈エメラルド・ビーチ〉の、守護女神像からスタートした。スタート地点が『大地の魔女』の像、ゴール地点が『旋風の魔女』の像だ。
四人の守護女神像は、様々なイベントの、会場になることが多い。それだけ、この四人の魔女が、この町にとって大切で、皆に敬愛されるシンボルだからだ。
それに『大地の魔女』は、多くのスポーツ選手たちに信仰されている『勝利の女神』でもある。だから、この像からスタートするのは、レースにはぴったりだと思う。
ちなみに『スポーツ・フェスタ』の期間中は、沢山の選手たちが、この像に『戦勝祈願』にやって来る。もちろん私も『完走できますように』って、ちゃんとお願いしてきた。
守護女神像から出発すると、しばらくは、海岸に沿って走って行く。景色は申し分なく、穏やかな海風が吹いている。道幅も広く、非常に走りやすそうだ。
でも、この地点では、のんびり景色を見ている暇などない。なぜなら、参加者数が三万人を超え、周りには、沢山の選手たちが走っているからだ。
全員、一斉のスタートは無理なので、複数のグループに分けられる。実績のある速い選手ほど、前のグループになっていた。理由は簡単で、遅い人が前を走ると、道がつまってしまうからだ。
それぞれのグループごとに、時間差でスタートしていく。それでも、一つのグループに、数千人の選手たちがいる。
実は、最も難関なのが、スタート地点だ。物凄い群衆の中で走るため、接触や転倒の事故が、かなり起きやすい。
さらに、大勢の人に取り囲まれ、自分のペースが、非常に作り辛かった。ペースを守りつつも、隙をついて抜け出し、いかに先頭集団に向かうかが、ポイントだ。
私は、群衆が走っている様子をイメージし、どこら辺で仕掛けるかを考える。また、周囲の建物を見て距離を測り、どれぐらいのペースで走って行くのか、組み立てて行く。
普段から、練習飛行で、建物を観察したり覚えたりしているので、地形の把握は慣れていた。そういえば、昔に比べ、観察力や記憶力が増した気がする。
私は、色々考えながら、ゆっくりと飛行していた。ナギサちゃんは、少し先のほうで、徐行運転しながら、じっと待ってくれている。私は、少しスピードを上げ、彼女に追いついた。
「ごめんね、ナギサちゃん。地形を覚えたり、ペース配分を考えたりで、進むの時間かかっちゃって」
「いいわよ。今日は、そのために来たのだから。それに、私は走ることに関しては素人だから。風歌の好きなように、やればいいわ」
練習飛行をスタートしてからは、嫌な顔一つせずに、じっと私のペースに、合わせてくれていた。
「私も、マラソンは、そんなに詳しい訳じゃないんだよね。ハーフ・マラソンしか、走ったことないし」
ハーフ・マラソンも、自分で市民マラソンに参加しただけだし。陸上部では、最高でも『1500メートル走』だったから、マラソンが専門ではない。一応、ハーフ・マラソンに出る時は、顧問の先生に、色々アドバイスは、もらったけどね。
「でも、距離が違うだけで、走り方は基本、同じなのでしょ?」
「そうだね。群衆の中にいる間は、事故に気を付けて。一度、抜け出したら、あとは持久力とペース配分の勝負。ここら辺は、どのマラソンでも同じだね」
やはり、最も気を遣うのは、序盤の走りだ。ここでケガでもしたら、元も子もない。とはいえ『ノア・マラソン』の場合、五十キロという、とんでもなく厚い壁がある。こっちをどう攻略するかのほうが、はるかに問題なんだけど……。
ビーチに沿って、まっすぐ進んで行くが、この区間は非常に長かった。景色は、とてもいいんだけど、とにかく長い。それに、練習飛行では来ない、全く知らない場所だ。
基本、人が多い中心部を回っているので、島の端っこにある海沿いには、まず来ない。たまに、食事で行くのも、海水浴エリアにある店だけだ。
〈エメラルド・ビーチ〉を過ぎると、周りには店もないし、人もいない。遊泳禁止区域なので、ポツポツと、釣りをしている人の姿が、見えるぐらいだ。右手のほうには、閑静な住宅街が見える。
非常にのどかな風景だが、こういう何も変化のない場所は、かなり走り辛い。どこら辺を走っているのか、分かり辛いからだ。
特に目印もなく、どこまでも真っ直ぐ続く道は、ペース配分を間違えたり、時には、心が折れる場合もある。同じ景色がずっと続くと、全く進んでいない錯覚に、陥ることもあるからだ。
延々と、真っ直ぐに続く道を進んで行くと、やがて道が右に曲がり始める。ここからが、第二の難所だ。ゆるい登り坂になっており、しかも、かなり長い。
他の選手を抜くには、うってつけの場所だ。でも、まだ序盤のため、下手にスピードを出し過ぎると、間違いなく、後半ばててしまう。坂道の足にかかる負担は、思いのほか大きいからだ。
緩やかに続く坂道を抜けると、しばらくは、平地の直線が続く。ここも、右手は住宅街で、左手は海。あまり変化のない景色の中を、ずっと進んで行くと、途中で川が見えてきた。川には橋が架かっており、この橋の向こう側は〈南地区〉だ。
橋を渡って〈南地区〉に入ると、急に雰囲気が変わって来た。古い建物や平屋が多い〈東地区〉と違い、ビルやマンションなど、近代的な建物が多い。右手の中心部には、高層ビル・高層ホテル・デパートなどの、大型商業施設も見える。
さらに、前方のはるか先には、小さく観覧車が見えてきた。〈新南区〉の遊園地〈ドルフィン・ランド〉だ。
少し進んだところで、右のほうに道がカーブしていき、少しずつ〈新南区〉の全貌が見えて来る。〈新南区〉は見えてはいるが、実際にはかなり遠い。エア・ドルフィンでも、かなり時間が掛かるので、走るとなると大変そうだ。
ただ〈新南区〉を見ていれば、だいたいの場所や、距離感は把握できる。それに、ここら辺は、普段の練習飛行でも、よく飛んでいるので、全て覚えていた。
「ナギサちゃん、ここら辺は、だいたい覚えてるから。〈西地区〉の海岸通りまで、一気に抜けちゃおう」
「分かったわ。少し高度を上げてから、飛ばすわよ」
私は、ナギサちゃんのすぐ後ろについて、高度を上げて行く。先ほどまでは、地上をよく観察するため、低空飛行していたからだ。それに、速度を出す時は、一定以上の高度をとることが、義務付けられている。
高度計を見て『高速飛行域』まで上がると、アクセルを開いて、加速を始めた。海沿いの道路の真上を、一気に飛び抜けて行く。
真っ直ぐ進んで行くと、左手のほうに、大きな橋が見えてきた。〈新南区〉と〈南地区〉は、長い橋でつながっている。全長一キロある〈ドリーム・ブリッジ〉だ。
〈新南区〉は、カジノや飲み屋などの、繁華街もあるので、町の中心部から、離れた場所に作られた。〈グリュンノア〉には『景観保護規制』という法律がある。これは、町の景観や騒音を、規制するものだ。
カジノや居酒屋、ネオンが光るような、派手な店など。特定のレジャー施設は、住宅地・観光地・町の中心部に作ることが出来ない。この法律のお蔭で、町の景観が、美しく保たれている。
その代り〈新南区〉だけは、この規制が適用されない『自由商業エリア』だ。そのため、レジャー施設が密集した、巨大な歓楽街になっている。橋を越えると、まるで別の町のような景観だ。特に夜は、ネオンが輝く、別世界になっている。
この〈ドリーム・ブリッジ〉の辺りが、ちょうど中間地点だ。橋の前は、大きな十字路になっており、右折すると〈南地区〉の中心部に向かう、大通りになっている。
ここは、二つの地区を行き来する『ロード・カート』や『ロード・コンテナ』で、非常に交通量が多い。
ちなみに『ロード・カート』が、この世界での、最も標準的な乗り物だ。空を飛ぶタイプの『エア・カート』もあるけど、操縦のライセンスが違う。一般の人は、価格も安く、ライセンスが取りやすい『ロード・カート』に乗る場合が多い。
『ロード・コンテナ』は、荷物運搬用の大型機体だ。こちらも『エア・コンテナ』という、空を飛ぶタイプもある。でも、一般的には『ロード・コンテナ』が、使われる場合が多い。積載量が多く、価格も安いからだ。
十字路を抜けると、ここから先はまた、左手は海、右側には、店や商業ビルが立ち並ぶ風景が続く。ここら辺は、一通り覚えているので、大きな建物だけ確認しながら、一気に通りすぎる。
しばらく進んで行くと、先のほうに、運河が見えてきた。昔は、沢山の運搬船が往来していたが、今は観光用の船が通るだけだ。その運河の橋を渡ると、ようやく〈西地区〉に到着する。〈西地区〉に入ると、急に雰囲気が変わった。
商業ビルが多い〈南地区〉と違い、平屋の家が多い。〈西地区〉の海辺は、住宅街になっている。でも〈東地区〉とは、全く雰囲気が違う。
新しい建物が多く、家の敷地がとても大きい。ここら辺は、別荘や豪邸が多いからだ。大きな庭付きの家や、プール付きの家もある。お金持ちの人が、多く住んでいることから『セレブタウン』とも言われていた。
目の前の海には、ヨットやクルーザーが停まっている、小さな港もある。所々にある、レストランやスーパーなども、いかにも高級そうだ。私には、全く縁のない場所だけど、いつかこんな所に、住んでみたいかも――。
高級住宅街を見ながら進んで行くと、やがて、見知った風景になってきた。左手には〈サファイア・ビーチ〉があり、右手には、普通の住宅や商店が見えてくる。もう少し進めば〈ウインド・ストリート〉だ。
いつも見ている街並みになり、少しホッとした。やっぱり、普段、飛び慣れている、普通の住宅や商店街が、一番、落ち着くんだよね。
やがて、ビーチの先のほうに『旋風の魔女』の像が見えてくる。ゴール地点は間もなくだ。
守護女神像に到着すると、私たちは近くの駐車場に、ゆっくり着陸した。エア・ドルフィンから降りると、大きく伸びをする。
時計を見ると、二時間以上、経過していた。やはり、外周沿いに移動すると、物凄く時間が掛かる。それに、道のチェックのため、かなりゆっくり飛んでいたので。
「ふぅー、お疲れ様、ナギサちゃん。思った以上に、時間が掛かるね」
長時間、つき合ってくれたナギサちゃんに、お礼の声を掛ける。普段、ここまで長時間、空にいることは無いので、彼女も、ちょっとお疲れの様子だ。
「それはそうよ。五十キロの距離は、エア・ドルフィンで飛ばしても、一時間以上は、掛かるのだから」
「だよねぇ。いつもは、町の外周は飛ばないから、想像以上に距離があったよ」
いつもは目的地まで、一直線に、ショートカットしている。なので、地区をまたいでいても、さほど時間は掛からない。でも『ノア・マラソン』は、最も距離のある、外周を走らなければならなかった。
「風歌は、本気で、これを走るつもりなの?『サファイア・カップ』はまだしも、これは、いくらなんでも、無謀すぎるわよ」
「自分でも、正直そう思う。でも、何事も実際にやって見ないと、気が済まない性格なんだよね」
ナギサちゃんの、言いたいことも分かる。でも、走りたい気持ちが、抑えられないんだよね。
「風歌が無謀なのは、いつものことだけど。あなたは、シルフィードなのよ。これは、どう考えても、本分を越えてるわ。今でさえ、一杯一杯なのに。何故こんな大変なことを、やらなければならないのよ?」
「んー、大きな壁を越えた先にしか、見えないものが、あるからかな。達成感とか、新しい発見とか。辛くて大変なマラソンを走る人って、みんな、そうじゃないのかな?」
苦労しないと、見えないものって、あるからね。
「……私には、よく分からないわ。自分の目指すこと意外に、力を注ぐなんて。何にせよ、怪我だけは、するんじゃないわよ」
「ナギサちゃん、心配してくれて、ありがとう。ケガに気を付けながら、頑張るよ」
もちろん、ケガには、細心の注意を払うつもりだ。まぁ、元が頑丈なので、大丈夫だとは思うけど。
「別に、心配なんてしてないわよ」
プイッと、そっぽを向くナギサちゃん。素直じゃないのは、いつも通りだ。
でも、本当に、いつも心配してくれてありがとね、ナギサちゃん。やれるところまで、精一杯やってみるよ。もちろん、本業のシルフィードに影響が出ないように、気を付けながらね。
よし、ノア・マラソンに向けて、仕事もトレーニングも頑張りまっしょい!
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『半年以上のブランクあるけど走るってやっぱり気持ちいい』
ご心配なく ブランクは人生経験で埋めるから
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ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。
木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。
そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。
もう一度言う。
手違いだったのだ。もしくは事故。
出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた!
そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて――
※本作は他サイトでも掲載しています
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
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俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
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