私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

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第4部 理想と現実

5-2シルフィードなら立場と誇りをわきまえた行動をするべきだわ

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 私は本館の三階にある『第三ミーティング・ルーム』に来ていた。毎朝、行われる、見習い階級のミーティングに参加するためだ。いつも通り、一番乗りで部屋に入り、最前列の窓側の、決まった席に座っている。

 このミーティングは『煩い』だの『面倒』だのと、嫌がる新人が多い。でも、私はむしろ、ありがたかった。朝から気を引き締めるには、ちょうどいいからだ。逆に、これに参加しないと、一日の仕事が始まった気がしない。

 あと、担当マネージャーのミス・ハーネスは、非常に厳しいため、嫌っている子も多かった。しかし、私はとても好意的に受け止めていた。非常に几帳面で、何事も完璧にこなす。これはまさに、私が目指している姿だからだ。

 何より、あの厳しさは、我々を想ってのことだった。皆を、優秀な一人前のシルフィードに育てようという、熱意がヒシヒシと伝わって来る。

 それが分からない者は、将来、上位階級には、絶対に行くことは出来ないだろう。甘い考えで、この競争社会を、勝ち抜けるはずが無いのだから。

 朝のミーティングが終わると、私は席を立ち、早々に部屋を退出する。面倒な連中に絡まれたくないし、一分一秒たりとも、無駄にはしたくないからだ。

 さっさと、午前中の定例業務を終わらせ、練習飛行に向かいたい。私には、まだまだ、学ぶべきことが沢山あるのだから。

 だが、私が廊下に出てすぐに、呼び止められた。このよく通る声は、ミス・ハーネスだった。

「ナギサさん。ちょっと話があるので、部屋まで来てもらえますか?」
「はい、分かりました」
 私は素直に即答する。目上の者の指示には、従うのが常識だからだ。

 しかし、ミス・ハーネスに、個人的に声を掛けられるのは、初めてだった。通常は、何か問題を起こしたりして、注意をされる者が呼び出される。

 全て完璧にこなしているはずなのに、何か落ち度があったのだろうか……? ミス・ハーネスの教えも、全て守っている。色々考えてみるが、全く理由が思い当たらない。

 ここ最近の業務は、全て完璧だし、定期考査も、毎回、満点だ。私は頭の中で思考を巡らせながら、彼女のあとをついて行くのだった――。


 ******


 私は、マネージャー室に入ると、来客用の黒いソファーに腰掛けた。机を挟んだ正面には、ミス・ハーネスが座っている。いつもと同じ、ピリッとした空気が流れていた。彼女の表情を見る限り、あまりいい話ではなさそうだ。

「今回、あなたに一つ、お願いがあります」
「……何でしょうか?」

 私は予想外の言葉に、少し驚く。てっきり、何かの問題点を、指摘されるものだとばかり思っていたからだ。

「まずは、この件は、他言しないと約束できますか?」
「はい、必ず約束いたします」

 私は迷わず即答した。元々口は堅いし、余計なことは絶対に言わない。それに、一度した約束は、何があろうと必ず守る。

 ミス・ハーネスは、小さくうなずくと、静かに話し始めた。

「実は、つい最近、新人の中で、夜間の無断外出をしている者がいるようなのです。しかも、帰って来るのが、明け方なのです」 
「それは、無断外泊ということですか――?」

 実に信じがたいことだ。シルフィードとしてはもちろん、由緒正しき〈ファースト・クラス〉の社員として、あるまじき行動だ。

 新人は全寮制になっており、十八時以降は、許可なく外出することはできない。例え一人前の社員でも、寮には、二十一時の門限があった。

 つまり、寮生活をしている限りは、夜遊びはもちろん、外泊は出来ないことになっている。厳格な〈ファースト・クラス〉では、別におかしなことではない。至って、常識的なルールだった。

「詳しくは分かりませんが、その可能性もあります」
 ミス・ハーネスは、表情を変えず、冷静に答える。

「事情は理解しました。しかし、なぜその話を、私にしたのでしょうか?」
 一番の謎は、そこだった。当然、私は夜間外出はもちろん、門限を破ったことなど、一度たりともない。

 ルールは『絶対に順守』するのが、私の信念だ。別にルールじゃなくても、常識的に考えて、夜遊びなどあり得ない。それに、夜は翌日の準備や勉強の、大事な時間だからだ。

「この件について、あなたに調べて貰いたいのです」 
「はっ?! 私がですか?」

 あまりにも、意外すぎる提案に、思わず驚きの声を上げてしまった。

 そもそも、私は夜の街を出歩いたことが、一度もない。昼間だって、お茶を飲みに行くぐらいで、遊びに行くことはなかった。つまり、遊びについては、何の知識もない。明らかに、人選ミスだ。

 それに、私もまた、入ったばかりの新人だ。立場的な問題も含め、私には全く向いていないと思う。普通なら、一人前の社員に頼むべき内容だ。

「まだ、確たる証拠が、ある訳では有りません。なので、しっかりと、調べる必要があるのです。私は厳しくはありますが、過去に一度も、濡れ衣を着せたことはありませんから」

 ミス・ハーネスは、淡々と語る。

 確かに、彼女は厳しいが、とても公正な人だ。言っていることは、全て筋が通っており、注意されるのは、言われるほうに原因がある。私が尊敬する、数少ない人の一人だ。ただ、問題はそこではない。

「話は分かりましたが……。なぜ、私が調べなければ、ならないのでしょうか? 私はまだ、見習いの立場ですし、会社の管理関係者でもありません。このようなことをするのに、適任とは思えませんが」

 それに、昼間ならまだしも、夜はあまり出歩きたくはない。夜、出歩くのは、素行不良の人間がすることだ。私は、そんな不真面目な行動はしたくない。

「いいえ、あなたが適任です。まだ、確定していない以上、大事にはしたくありません。なので、同期である、あなたに頼むのが一番です。それに、あなたであれば、私情を挟まずに、公正に調査をするでしょう?」

「もちろん、物事の調査には、一切の私情は入れません。特に、このような重大な問題に関しては。しかし、私は影でコソコソするのは、好きではないのです」

 私は何事においても『正々堂々』が信念だ。だから、陰口をたたくような輩は大嫌いだし、それと似たような行為も、絶対にしたくはない。

「あなたの、その性格も知っています。しかし、あなたの能力や人柄を信じてのこと。それに、タダでとは言いません。今後の昇級などに際して、私が推薦人になりましょう。本気で上を目指す者にとって、悪い話ではないはずですが?」

 悪い話ではないどころか、願ってもない好条件だ。ミス・ハーネスの推薦を受けられるのであれば、今後の昇級が、物凄くスムーズになる。少なからず『エア・マスター』までは、保証されたも同然だ。 

 しかし、だからと言って、影でコソコソ同期の人間を探るのは、いかがなものだろうか? しかも、自分の昇進のために――。それは、物凄く姑息な行為なのではないだろうか?

「あなたは、今の新人の間での風紀を、どう考えていますか? 率直な意見を聴かせてください」
 私が悩んでいると、彼女はそっと問を投げかけて来た。

「……表面上は、ルールを守ってはいます。しかし、普段においては『少し緩んでいるのでは?』と感じるのが、正直な意見です」

「プライベートで何をやるかは、本人の自由。とはいえ、我々は伝統ある〈ファースト・クラス〉の一員です。常に誇りと責任を持って、行動すべきだと思いませんか?」

「私も同感です。しっかりと自分の立場を自覚し、それにふさわしい行動をすべきだと思います」

 ミス・ハーネスの意見には、全くもって同感だ。私は〈ファースト・クラス〉の一員であることに、強い誇りを持っていた。だから、この会社にふさわしい、気品と優れた能力のあるシルフィードになることを、常に心掛けている。

 だが、全ての社員が、そう思っている訳ではなかった。特に、うちの会社は、ずば抜けてネームバリューが高い。そのため、会社の知名度や、大企業であることに、憧れて入った者も多かった。

 だが、会社の看板をひけらかすのではなく、自分がそれに、ふさわしい人間になるべきだ。皆、社名に頼りすぎな気がする。名企業に入っただけで、自分の価値が上がる訳ではないのだから。

「今、その伝統と誇りが、汚されようとしています。もし、うちの新入社員が、毎夜、夜遊びをして朝帰りをしていると、周りに知れたら、どうなると思いますか?」

「それは、大変な大事件になると思いますし、絶対にあってはならないことです。〈ファースト・クラス〉の名を汚すことなど、決して許されません」

 シルフィード業界一の、伝統と格式ある会社。それが、この業界はもちろん、全ての人たちの共通認識だ。それを崩すようなことは、絶対にあってはならない。

「そう、その通りです。ただ、伝統や誇りを理解しない者は、そうは感じないでしょう。最近の子は、そこまで真剣には、考えていません。なぜ、あなたが適任なのか、分かりましたか?」

「はい――理解しました」
 そう、社名を守ろうなど、真剣に考えている者は、私の他にいないのだ。

「この依頼、受けて貰えますか?」
「謹んで、お受けいたします」
 私以外にいないのであれば、やるしかないだろう。

 何としてでも、不祥事になって、社命に傷がつくことは避けたい。もし、何かあれば、過去に先輩方が築き上げてきたものが、水泡に帰してしまう。もちろん、その中には、私の母の功績もある。

「それでは、お願いします。今の段階で分かっている情報を、全てお話しします。あと、夜間の外出許可も、出しておきましょう」

 ミス・ハーネスは、淡々と情報を説明する。信じがたいことだが、本当に夜遊びをしている人間が、同期の中にいるようだった。全くもって、ゆゆしき事態だ。いったい、何を考えているのだろうか――? 

 あまり、面倒な問題には、関わりたくない。だが、引き受けた以上、しっかりとやり遂げよう。それに、さっさと終わらせないと、気になって、勉強にも手がつかない。

 まったく、余計な手間を掛けさせないで欲しいわ。これだから、甘い考えで入ってきた、やる気も覚悟もない人間は……。


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次回――
『仕事とはいえ犯人を尾行することになるなんて……』

 他人の過ちや、罪深いすべてのものに目を閉じ、神の美徳をさがす
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