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第6部 飛び立つ勇気
1-5とても幸せなのに心が満たされない理由とは……?
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一月三日の早朝。時間は、六時ちょっと過ぎ。お正月で、本来なら、のんびり寝ているところだ。でも、向こうにいた時の習慣で、早朝に目が覚めてしまった。結局、こっちに来てからも、毎日、早朝に目が覚めていた。
朝起きたら、顔を洗ったあと、庭に出る。その後、軽く準備運動をしてから、庭と家の前の道の、はき掃除をする。でも、これだけだと、ちょっと物足りない。
会社なら、このあと機体を磨いたり、事務所の中を掃除したりと、やることが結構、多いからだ。しかも、こっちに来てから、全く勉強もしてないし。食事も全て作ってもらってるので、何もやることがなかった。
毎日、ご飯やお菓子を食べながら、テレビを見る生活。昔なら、最高に幸せだったはずなのに、日が経つにつれて、辛くなってきた。というのも、日に日に、罪悪感が大きくなって来たからだ。
別に、悪いことをしている訳ではない。お正月の過ごし方って、たいていの人は、こんな感じだと思うから。でも、向こうにいた時の生活を考えると、あまりに差があり過ぎる。
勉強も仕事も、何もしてないのに、こんなに贅沢な生活を、していいのだろうか? どんどん不安が、大きくなってきている。
それに、何をやっている時も、チラチラと向こうの世界のことが、思い浮かぶ。妙に向こうの世界のことや、向こうにいる人たちが、気になってしまう。こんなに恵まれた環境に、身を置いているのに。まるで、心が満たされる感じがしなかった。
何もやることがないし、心がモヤモヤしているので、早朝の散歩に出ることにした。本当は、思いっきり、走りたい気分なんだけど。正月、早々なので、そこは自重しておく。
「やっぱり、こっちの世界のほうが、寒いなぁ……」
フーッと息を吐くと、真っ白になる。今日は、とりわけ気温が低いようで、道端の雑草に、霜が降りていた。
一応、コートは羽織って来たけど、かなり冷える。マフラーや手袋も、して来たほうがよかったかも。
ポケットに手を突っ込み、体を温めるために、早足で歩いて行く。目的もなく、家を出て来てしまったけど、足が勝手に、ある場所に向かっていた。ここは、かつての通学路。向かう先は、昔通っていた中学校だ。
お正月の、しかも、こんな早朝に行っても、門は閉まってるし、誰もいないだろう。でも、何となく、見ておきたくなった。前々から『どうなってるんだろう?』って、気になってたし。
周囲を見回しながら進んで行くが、何も変わっていなかった。立ち並ぶ家も店も、木々や電柱の風景も、あのころと、何一つ変わっていない。違うのは、かつての通学路は、同じ制服の生徒で、あふれ返っていたことだけだ。
通学中は、色んな子たちと、挨拶したり世間話をしたり、声を掛け合っていた。私にとっての通学路は、社交場みたいな感じだった。クラスも学年も関係なしに、色んな人たちと、仲良くしていたので。
「あのころは、楽しかったなぁ――」
自分の周りに、沢山の生徒たちがいるのを思い浮かべながら、そっとつぶやく。
「って、今も、すっごく楽しいけどね」
私はすぐに、その言葉を訂正する。寒さに加え、懐かしさもあって、ちょっと感傷的な気分になっていたようだ。
しばらく進んで行くと、中学の校庭が見えてきた。私は敷地内を見ながら、校門に向かった。やはり、人っ子一人おらず、完全な静寂に包まれていた。人がいる時は、賑やかなだけに、妙に閑散として、とても寂しく感じる。
校門に到着すると、ジッと校舎を眺めた。やはり、何も変わっていない。でも、今の私からは、物凄く遠い世界に感じる。私は、白い息を吐きながら、しばらくの間、ボーッと学校を眺めていた。
だが、後ろから、唐突に声を掛けられる。
「あれっ、風歌? こんなところで、何してるの?」
「えぇっ、早紀ちゃん?! 早紀ちゃんこそ、何で?」
私は、予想外の出会いに、驚きの声をあげてしまった。だって、お正月の早朝に、こんな所に来る人なんて、誰もいないと思ってたから……。
彼女は、藤崎早紀。三年間、ずっと同じクラスで、部活も一緒の陸上部だった。いつもつるんでいた、四人の友人のうちの一人。その中でも、一番、仲がよかったのが、彼女だ。
「私は、この子の散歩。凄く早起きだし。毎日、散歩しないと、いけないから」
彼女は、犬につないだリードを手にしていた。
「あぁ、犬の散歩ね。ってか、小次郎、超久しぶりー! 元気してた?」
私は、かがみこむと、柴犬の小次郎の体を、ワシャワシャとなでる。
うーん、あったかいし、もっふもふー!
小次郎は、嬉しそうにしっぽを振ると、私の顔をペロペロと舐めてきた。
「ちゃんと、風歌のこと、覚えてたみたいだね」
「あははっ、だねぇー」
「で、風歌はどうしたの? こんな朝早くに」
「えっ、あぁ。何か朝早くに、目が覚めちゃって。やることないから、散歩してた」
暇なのは、本当だけど。一番は、この謎のモヤモヤだった。本来の目的である、同意書のサインは貰えたし。一応は、親との和解もできた。毎日、ご飯はおいしいし、のんびりできて、最高に幸せなはずなのに。なぜか、満たされていなかった。
「ふーん。両親と、上手く行ってないの?」
「いや、家出の件も、一応、許してもらえたし。それなりに、仲良くやってるよ」
「って、風歌?! あんた、家出してたの?」
「あれっ、そういえば、言ってなかったっけ――?」
「全く聴いてないわよ! そもそも、卒業後、完全に音信不通になってたじゃない」
「あははっ、だよねぇー。ゴメン、異世界にいたし、色々忙しくて……」
向こうに行った直後は、本当に大変だった。しばらくの間は、仕事探しで走り回ってたし。〈ホワイト・ウイング〉に入社したあとだって、色んな仕事を覚えたり、日々の生活だけで精一杯だった。
目の回るような忙しさで、こっちの世界のことに、気が回らなかったのだ。それに、家出の件があったから。こちらの世界は、あえて考えないようにしていたのもある。
「ねぇ、風歌。ちょっと、コンビ二寄ってかない? お腹空いちゃった」
「うん、いいよ。私も、ちょうどお腹空いてたから」
私たち二人は、静かに話しながら、コンビニに向かって行くのだった……。
******
私たちは、コンビニの窓側にある、カウンター席に座っていた。私は肉まんと缶コーヒー。早紀ちゃんは、あんまんとココアだ。昔と買うものは、何も変わっていない。早紀ちゃんは、相変わらずの、超甘党だ。
以前は、店内にカウンター席なんてなかった。何でも、最近、設置されたばかりらしい。昔は、熱い夏は外でアイスを食べ、寒い冬は外で中華まんを食べていた。それはそれで、季節感があって、なかなか楽しかったけどね。
私は、早紀ちゃんに質問され、昨年の卒業式の日から、今日に至るまでを全てを、包み隠さずに話した。まぁ、隠すことじゃないし。早紀ちゃんは、ペラペラと他人の事情を、周りに話すような性格でもない。
彼女は、私の話を静かに聴いていたが、
「ちょっと風歌。それは流石に、チャレンジャーを通り越して、馬鹿じゃないの?」
話し終わったあと、冷静な突っ込みが返って来た。
「んがっ――。まぁ、無謀だったのは、自覚してるけど。馬鹿って……」
「あははっ、風歌らしいと言えば、らしいけどね。でも、本当に、無茶し過ぎだよ」
早紀ちゃんは、微笑みながら返して来る。別に、馬鹿にして言ってる訳じゃない。昔から彼女は、世話焼きな性格で、無謀な私を、よく止めてくれていた。
「いやー、昔は、分からなかったんだよね。無謀なことやってるって。自分一人の力で、何でも出来るって、思ってたから。色々と、過信しすぎてたんだ。でもね、向こうの世界に行ってから、その甘い考えが、粉々に砕かれて――」
「今はもう、同じことは、絶対にやらないよ。人の言葉に、ちゃんと耳を貸すし。自分の行動の結果がどうなるか、考えて動くし。勢いだけで行動すると、周りに迷惑を掛けるのが、よく分かったから」
早紀ちゃんは、時折り頷きながら、私の話を静かに聴いていた。
昔から、私の壮大な夢や、くだらない思い付きも、早紀ちゃんだけは、笑わずに真剣に聴いてくれていたっけ。
早紀ちゃんは、しばらく間を置いてから、静かに答える。
「すっかり変わったね、風歌。まるで、別人みたい」
「えっ、そう? でも、先日みんなに会った時『変わってない』って、言われたけど」
久しぶりとはいえ、まだ、一年もたってないし。そう簡単には、変わらないよね。
「私も、最初はそう思ってた。でも、見てて分かったよ。もう、昔の風歌じゃないんだなぁーって。何か、別の世界に、行ってしまったみたい。まぁ、異世界にいたんだから、そりゃそうだ、って話だけど」
「それに、たまに、遠い目をしてたでしょ? 一緒にいるのに、こことは、別の場所を見ている感じで。もしかして、私たちと一緒にいるの、つまらなかった?」
早紀ちゃんは、真剣な表情で、私を見つめてきた。
「えっ?! ないない、そんなことないよ! 私、久しぶりにみんなに会えて、本当に、心の底から嬉しかったんだから。でも……」
「でも、何?」
「上手く言えないんだけどね。こっちに帰って来てから、ずっと違和感があるんだ。本当にここが、私のいるべき場所なんだろうかって? いつも、向こうの世界のことばかり考えて。まるで、こっちが、異世界みたいな感覚なんだ――」
自分でもよく分からない、複雑な感情だ。生まれ故郷なのに、どうしても、違和感が拭い去れない。
「そっか……。それは、ホームシックだね」
「へっ? 実家に帰って来たのに、ホームシック――?」
「早く帰りたいんでしょ? 向こうの世界に」
その言葉を言われた時、私はハッとした。そう……なのかな? いや、きっとそう。一刻も早く、向こうに帰りたいんだ。でも、何で? こっちのほうが、向こうよりも、ずっと幸せな環境なのに――。
「そう……かもしれない。こっちに来てから、ずっとモヤモヤしてたのは、そのせいかも。でも、何でだろう? 帰って来れたことは、素直に嬉しいし。こっちの世界も、大事なのに――」
「きっと、向こうの世界に、やり掛けたことを、残して来たんじゃない? それが、今の風歌にとっては、一番、大事なんじゃないの?」
あぁ、そうだ。向こうの世界には、まだまだ、やり残したことが、一杯ある。こっちの世界には、自分なりの、ケジメを付けに来ただけ。だから、ここで甘い空気に、身をゆだねている訳には、行かないんだ。
「早紀ちゃん、私……」
「ま、いくら成長したとはいえ、悩むのは、風歌らしくないよ。自分のやりたいようにやるのが、風歌でしょ?」
「うん、ありがとう、早紀ちゃん。自分の気持ちに、素直に行動するよ」
「でも、たまには、連絡よこしなよ」
早紀ちゃんは、微笑みながら、私の背中をポンポンと叩く。
この時私は、自分がやるべきことが、ハッキリ見えた気がした。ここからが、本当のスタートラインなのかもしれない……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『やっぱり家族って言わなくても伝わるものなんだね』
無条件に相手を許せるから家族なんじゃない
朝起きたら、顔を洗ったあと、庭に出る。その後、軽く準備運動をしてから、庭と家の前の道の、はき掃除をする。でも、これだけだと、ちょっと物足りない。
会社なら、このあと機体を磨いたり、事務所の中を掃除したりと、やることが結構、多いからだ。しかも、こっちに来てから、全く勉強もしてないし。食事も全て作ってもらってるので、何もやることがなかった。
毎日、ご飯やお菓子を食べながら、テレビを見る生活。昔なら、最高に幸せだったはずなのに、日が経つにつれて、辛くなってきた。というのも、日に日に、罪悪感が大きくなって来たからだ。
別に、悪いことをしている訳ではない。お正月の過ごし方って、たいていの人は、こんな感じだと思うから。でも、向こうにいた時の生活を考えると、あまりに差があり過ぎる。
勉強も仕事も、何もしてないのに、こんなに贅沢な生活を、していいのだろうか? どんどん不安が、大きくなってきている。
それに、何をやっている時も、チラチラと向こうの世界のことが、思い浮かぶ。妙に向こうの世界のことや、向こうにいる人たちが、気になってしまう。こんなに恵まれた環境に、身を置いているのに。まるで、心が満たされる感じがしなかった。
何もやることがないし、心がモヤモヤしているので、早朝の散歩に出ることにした。本当は、思いっきり、走りたい気分なんだけど。正月、早々なので、そこは自重しておく。
「やっぱり、こっちの世界のほうが、寒いなぁ……」
フーッと息を吐くと、真っ白になる。今日は、とりわけ気温が低いようで、道端の雑草に、霜が降りていた。
一応、コートは羽織って来たけど、かなり冷える。マフラーや手袋も、して来たほうがよかったかも。
ポケットに手を突っ込み、体を温めるために、早足で歩いて行く。目的もなく、家を出て来てしまったけど、足が勝手に、ある場所に向かっていた。ここは、かつての通学路。向かう先は、昔通っていた中学校だ。
お正月の、しかも、こんな早朝に行っても、門は閉まってるし、誰もいないだろう。でも、何となく、見ておきたくなった。前々から『どうなってるんだろう?』って、気になってたし。
周囲を見回しながら進んで行くが、何も変わっていなかった。立ち並ぶ家も店も、木々や電柱の風景も、あのころと、何一つ変わっていない。違うのは、かつての通学路は、同じ制服の生徒で、あふれ返っていたことだけだ。
通学中は、色んな子たちと、挨拶したり世間話をしたり、声を掛け合っていた。私にとっての通学路は、社交場みたいな感じだった。クラスも学年も関係なしに、色んな人たちと、仲良くしていたので。
「あのころは、楽しかったなぁ――」
自分の周りに、沢山の生徒たちがいるのを思い浮かべながら、そっとつぶやく。
「って、今も、すっごく楽しいけどね」
私はすぐに、その言葉を訂正する。寒さに加え、懐かしさもあって、ちょっと感傷的な気分になっていたようだ。
しばらく進んで行くと、中学の校庭が見えてきた。私は敷地内を見ながら、校門に向かった。やはり、人っ子一人おらず、完全な静寂に包まれていた。人がいる時は、賑やかなだけに、妙に閑散として、とても寂しく感じる。
校門に到着すると、ジッと校舎を眺めた。やはり、何も変わっていない。でも、今の私からは、物凄く遠い世界に感じる。私は、白い息を吐きながら、しばらくの間、ボーッと学校を眺めていた。
だが、後ろから、唐突に声を掛けられる。
「あれっ、風歌? こんなところで、何してるの?」
「えぇっ、早紀ちゃん?! 早紀ちゃんこそ、何で?」
私は、予想外の出会いに、驚きの声をあげてしまった。だって、お正月の早朝に、こんな所に来る人なんて、誰もいないと思ってたから……。
彼女は、藤崎早紀。三年間、ずっと同じクラスで、部活も一緒の陸上部だった。いつもつるんでいた、四人の友人のうちの一人。その中でも、一番、仲がよかったのが、彼女だ。
「私は、この子の散歩。凄く早起きだし。毎日、散歩しないと、いけないから」
彼女は、犬につないだリードを手にしていた。
「あぁ、犬の散歩ね。ってか、小次郎、超久しぶりー! 元気してた?」
私は、かがみこむと、柴犬の小次郎の体を、ワシャワシャとなでる。
うーん、あったかいし、もっふもふー!
小次郎は、嬉しそうにしっぽを振ると、私の顔をペロペロと舐めてきた。
「ちゃんと、風歌のこと、覚えてたみたいだね」
「あははっ、だねぇー」
「で、風歌はどうしたの? こんな朝早くに」
「えっ、あぁ。何か朝早くに、目が覚めちゃって。やることないから、散歩してた」
暇なのは、本当だけど。一番は、この謎のモヤモヤだった。本来の目的である、同意書のサインは貰えたし。一応は、親との和解もできた。毎日、ご飯はおいしいし、のんびりできて、最高に幸せなはずなのに。なぜか、満たされていなかった。
「ふーん。両親と、上手く行ってないの?」
「いや、家出の件も、一応、許してもらえたし。それなりに、仲良くやってるよ」
「って、風歌?! あんた、家出してたの?」
「あれっ、そういえば、言ってなかったっけ――?」
「全く聴いてないわよ! そもそも、卒業後、完全に音信不通になってたじゃない」
「あははっ、だよねぇー。ゴメン、異世界にいたし、色々忙しくて……」
向こうに行った直後は、本当に大変だった。しばらくの間は、仕事探しで走り回ってたし。〈ホワイト・ウイング〉に入社したあとだって、色んな仕事を覚えたり、日々の生活だけで精一杯だった。
目の回るような忙しさで、こっちの世界のことに、気が回らなかったのだ。それに、家出の件があったから。こちらの世界は、あえて考えないようにしていたのもある。
「ねぇ、風歌。ちょっと、コンビ二寄ってかない? お腹空いちゃった」
「うん、いいよ。私も、ちょうどお腹空いてたから」
私たち二人は、静かに話しながら、コンビニに向かって行くのだった……。
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私たちは、コンビニの窓側にある、カウンター席に座っていた。私は肉まんと缶コーヒー。早紀ちゃんは、あんまんとココアだ。昔と買うものは、何も変わっていない。早紀ちゃんは、相変わらずの、超甘党だ。
以前は、店内にカウンター席なんてなかった。何でも、最近、設置されたばかりらしい。昔は、熱い夏は外でアイスを食べ、寒い冬は外で中華まんを食べていた。それはそれで、季節感があって、なかなか楽しかったけどね。
私は、早紀ちゃんに質問され、昨年の卒業式の日から、今日に至るまでを全てを、包み隠さずに話した。まぁ、隠すことじゃないし。早紀ちゃんは、ペラペラと他人の事情を、周りに話すような性格でもない。
彼女は、私の話を静かに聴いていたが、
「ちょっと風歌。それは流石に、チャレンジャーを通り越して、馬鹿じゃないの?」
話し終わったあと、冷静な突っ込みが返って来た。
「んがっ――。まぁ、無謀だったのは、自覚してるけど。馬鹿って……」
「あははっ、風歌らしいと言えば、らしいけどね。でも、本当に、無茶し過ぎだよ」
早紀ちゃんは、微笑みながら返して来る。別に、馬鹿にして言ってる訳じゃない。昔から彼女は、世話焼きな性格で、無謀な私を、よく止めてくれていた。
「いやー、昔は、分からなかったんだよね。無謀なことやってるって。自分一人の力で、何でも出来るって、思ってたから。色々と、過信しすぎてたんだ。でもね、向こうの世界に行ってから、その甘い考えが、粉々に砕かれて――」
「今はもう、同じことは、絶対にやらないよ。人の言葉に、ちゃんと耳を貸すし。自分の行動の結果がどうなるか、考えて動くし。勢いだけで行動すると、周りに迷惑を掛けるのが、よく分かったから」
早紀ちゃんは、時折り頷きながら、私の話を静かに聴いていた。
昔から、私の壮大な夢や、くだらない思い付きも、早紀ちゃんだけは、笑わずに真剣に聴いてくれていたっけ。
早紀ちゃんは、しばらく間を置いてから、静かに答える。
「すっかり変わったね、風歌。まるで、別人みたい」
「えっ、そう? でも、先日みんなに会った時『変わってない』って、言われたけど」
久しぶりとはいえ、まだ、一年もたってないし。そう簡単には、変わらないよね。
「私も、最初はそう思ってた。でも、見てて分かったよ。もう、昔の風歌じゃないんだなぁーって。何か、別の世界に、行ってしまったみたい。まぁ、異世界にいたんだから、そりゃそうだ、って話だけど」
「それに、たまに、遠い目をしてたでしょ? 一緒にいるのに、こことは、別の場所を見ている感じで。もしかして、私たちと一緒にいるの、つまらなかった?」
早紀ちゃんは、真剣な表情で、私を見つめてきた。
「えっ?! ないない、そんなことないよ! 私、久しぶりにみんなに会えて、本当に、心の底から嬉しかったんだから。でも……」
「でも、何?」
「上手く言えないんだけどね。こっちに帰って来てから、ずっと違和感があるんだ。本当にここが、私のいるべき場所なんだろうかって? いつも、向こうの世界のことばかり考えて。まるで、こっちが、異世界みたいな感覚なんだ――」
自分でもよく分からない、複雑な感情だ。生まれ故郷なのに、どうしても、違和感が拭い去れない。
「そっか……。それは、ホームシックだね」
「へっ? 実家に帰って来たのに、ホームシック――?」
「早く帰りたいんでしょ? 向こうの世界に」
その言葉を言われた時、私はハッとした。そう……なのかな? いや、きっとそう。一刻も早く、向こうに帰りたいんだ。でも、何で? こっちのほうが、向こうよりも、ずっと幸せな環境なのに――。
「そう……かもしれない。こっちに来てから、ずっとモヤモヤしてたのは、そのせいかも。でも、何でだろう? 帰って来れたことは、素直に嬉しいし。こっちの世界も、大事なのに――」
「きっと、向こうの世界に、やり掛けたことを、残して来たんじゃない? それが、今の風歌にとっては、一番、大事なんじゃないの?」
あぁ、そうだ。向こうの世界には、まだまだ、やり残したことが、一杯ある。こっちの世界には、自分なりの、ケジメを付けに来ただけ。だから、ここで甘い空気に、身をゆだねている訳には、行かないんだ。
「早紀ちゃん、私……」
「ま、いくら成長したとはいえ、悩むのは、風歌らしくないよ。自分のやりたいようにやるのが、風歌でしょ?」
「うん、ありがとう、早紀ちゃん。自分の気持ちに、素直に行動するよ」
「でも、たまには、連絡よこしなよ」
早紀ちゃんは、微笑みながら、私の背中をポンポンと叩く。
この時私は、自分がやるべきことが、ハッキリ見えた気がした。ここからが、本当のスタートラインなのかもしれない……。
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次回――
『やっぱり家族って言わなくても伝わるものなんだね』
無条件に相手を許せるから家族なんじゃない
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