私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

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第6部 飛び立つ勇気

2-3これで人生が終わりでも私には何の悔いもない

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 会社が休みの水曜日。私は早起きして身支度を整えると、ダダダッと、階段を勢いよく駆け下りて行った。これから、朝市に向かうためだ。実家の件が、一応、解決したせいか、心も体も物凄く軽い。

 ちなみに、実家に帰った際に、お母さんとお父さんから、お年玉をもらった。勝手なことをしたうえに、もう社会人なので、丁重に断ったんだけど。『念のため、持っておきなさい』と言われ、結局、受け取ってしまったのだ。

 毎日、美味しい料理を、おなか一杯、食べさせてもらって。お土産代も交通費も、全て出してくれた。お蔭で、久しぶりに懐に余裕がある。それでも、こっちに戻ってからは、ずっと節約を続けていた。一日も早く、生活を元に戻すためだ。

 甘いままの考えじゃ、これからは、やって行けない。頂点を目指すなら、なおさらだ。今の私に必要なのは、ハングリー精神。今までだって、そのお蔭で、頑張って来れたんだから。

 階段を駆け下り、一階の廊下が見えてくると、一気に、数段とばして飛び降りた。スタッと着地すると、そのままアパートの出口に向かう。だが、奥の部屋の扉が、勢いよく開いた。

「階段は静かにって、いつも、言ってるだろ!」
「うわっ……す、すいません! おはようございます、ノーラさん」
 
 私は、急いで頭を下げて、お詫びと挨拶をする。

「ったく、ここ最近、ようやく大人しくなったと思ったら。また、元に戻ってるじゃないか?」
「あははっ――そうですね」

 私は、苦笑いを浮かべる。初心に戻った代わりに、落ち着きのなさも、元に戻ったみたいだ。

「買い物にでも、行くのかい?」
「はい。朝市で、お買い得品でも、見つけようかと思いまして」

「ちょうど、パンが焼けたところだ。食べていきな」
「えっ、いいんですか?」
「別に、一人増えたところで、何も変わんないよ」

 私は、一瞬、考え込んだ。節制を始めたばかりで、いきなり、ご馳走になるのも何だし。でも、ノーラさんのご飯は、超美味しいからなぁ……。

「では、お言葉に甘えて、ご馳走になります」
 結局、朝食にお呼ばれすることにした。

 まぁ、ハングリー精神は、次の食事からということで。そう、次から頑張る――。

 ノーラさんについて、部屋に入ると、いつもながら、綺麗に掃除と整理がされていた。本当に、ノーラさんって、几帳面だよね。掃除も、好きみたいだし。

 ダイニングに行くと、お皿やカップが二人分、机の上に用意されていた。最初から、朝食に招待してくれるつもりだったのだろう。

 私は、ノーラさんの邪魔にならないように、大人しく席についた。焼き立てのパンの、甘く香ばしい匂いが、鼻孔をくすぐり、急にお腹がすいてくる。

 ほどなくして、サラダ・スープ・オムレツなどの皿が運ばれてきた。相変わらず、どれも美味しそうだ。見た目も素晴らしく、レストランで出てきても、おかしくないほどの完成度だった。

「じゃあ、食事にするか」
「はい、いただき……。豊かな恵みに感謝します」

 いただきます、を言おうとしたが、両手を組み目を閉じると、祈りを捧げる。食べ物と、料理を作ってくれたノーラさんに、心から感謝するためだ。

「なんだい、急に改まって?」
「いえ、色々ありまして。食べ物や人の優しさに、今まで以上に、感謝するようになったんです」

 先日、実家に帰った時。今まで自分が、どれだけ恵まれていて、どれだけ優しくして貰っていたのか、改めて認識した。それが、分かっただけでも、向こうに帰った意味は、大きいと思う。

「で、故郷は、どうだったんだ?」
「まぁ、何と言うか、楽しかったです。親とも、一応、和解できましたし」

「シルフィードになることは、認めて貰えたのか?」
「まだ、完全に、認めてもらった訳ではないですけど。同意書には、サインしてもらいました」

 課題は、色々残っているけど。これからも、シルフィードを、続けて行くことが出来る。今は、それだけで十分だ。

「認めて貰っていないって、ずいぶんと曖昧だな。ちゃんと、自分の気持ちを、話さなかったのか?」

「もちろん、全て本音で話しました。ただ、昔があまりに、だらしなかったせいで。まだ、本当に本気なのか、信じて貰えてない感じですかね」

 昔が、あまりに酷すぎたので。いきなり真剣にやると言っても、信じて貰えないのは、仕方がない。

「どれだけ、酷かったんだ、昔は?」
「いやー、本当にもう、超ダメダメで。自分でも、思い出したくないぐらいですよ――」

 シルフィードの存在を見つけるまでは、特に目標もなく、何事も適当にやっていた。あのころは、本気で何かを頑張ることを、まだ知らなかった。

「これから先、態度で示して行くしかないな。信用ってのは、失うのは簡単でも、得るのは、何倍も大変だぞ」

「はい、覚悟はしています。向こうを去る時に、とんでもなく、大きな約束をしてしまいましたし。本当に、全身全霊を懸けて、必死にならないといけないので――」

「何なんだ、その大きな約束って?」
 ノーラさんは、静かに視線を向けて来る。

 私は、その問いに対して、答えるのをためらった。なぜなら、かつて同じことを言って、大笑いされたからだ。

 そりゃそうだ。元シルフィード・クイーンに対して、ど新人が『グランド・エンプレスになる!』なんて、自信満々に言っちゃったんだから。あの頃はまだ、ノーラさんが、元シルフィードだったことすら、知らなかったし。

 私は、手にしていたフォークを静かに置くと、大きく息を吸い込んだ。そのあと、ノーラさんの目を見ながら、静かに話し始めた。

「頑張るだけなら、誰でも言える。どうせなら、頂点を獲るぐらいのことをしろ。その程度の覚悟がない人間が、上をめざせるはずがないって、母親に言われました」

「今までの私は、日々が楽しくて、いずれ、一人前になれればいいや。そんな考えでした。でも、思い出したんです。私が、何をしに、こっちの世界に来たのか」

「ただの、子供の甘い幻想なのは、分かっています。私みたいな、未熟な人間が言ったって、ただの大口なのも。それでも、私は目指したいです。全てのシルフィードの頂点である『グランド・エンプレス』を」

 ノーラさんほどの、凄い人から見たら、本当に、馬鹿馬鹿しい話だと思う。まだ、一人前にすらなっていない、ひよっこが言っているのだから。

 でも、それでも私は、本気で目指そうと思う。約束したから、だけじゃない。元々そのつもりで、こっちの世界に来たのだから。

 でも、誰だって思うはずだ。どうせやるなら、ちょっとの成功じゃなくて、大成功を。どうせやるなら、中途半端な位置じゃなくて、頂点を。

 ノーラさんは、私の話を聴いて、しばらく黙っていた。また、大笑いされるのは、覚悟していたけど、意外にも、そうはならなかった。

「そうかい。なら、頑張んな」
 一言だけ静かにいうと、食事を再開する。

 私は、唖然として、その様子を、しばし眺めていた。

「あの……何をバカなことを、と笑わないんですか?」
「何で、笑う必要があるんだ?」
「でも、以前、言った時は、物凄く大笑いされましたけど――」

 あれは、今でもよく覚えている。何気に、ショックだったので。

「お前、あの時は、真剣に言ってなかっただろ? 覚悟もしてなかったし」
「はい。確かに、思い付きでした」

 もちろん、ふざけて言った訳じゃない。でも、あの時は、ただの夢ぐらいにしか、考えていなかった。単に、勢いで言っただけだ。

「目を見りゃ、分かるんだよ。そいつが、本気かどうかなんて。もし、本気で言ったんだとしたら、親にも、ちゃんと伝わっただろうよ。けどな、本気になったから、それで上手く行くって訳じゃない」

「本気の奴なんて、周りにゴロゴロいるからな。本気になるっていうのは、今度は、本気の奴らと、戦うってことなんだよ。本気の奴らと戦って勝ち残る。それが、覚悟ってもんだ。お前に、その覚悟はあるのか? 本気と覚悟は、別物だぞ」

 ノーラさん目は、とても真剣で、言葉は静かだけど、物凄い重圧感があった。沢山の本気の人たちと戦って、シルフィード・クイーンにまで、上り詰めた人だ。流石に、言葉の重みが違う。

 私には、まだ何の実績もない。でも、気持ちで負けるつもりはないし、覚悟だってある。不器用だし、頭も悪いけど、昔から『有言実行』が、私のポリシーだ。

「もちろん、ありますよ。もし、覚悟がなかったら、一度、大笑いされたことを、もう一度、言おうとは思わないです。それに、私は人生、懸けてますから。もし、ダメなら、これで人生が終わりでも、いいと思ってます」

 私は、シルフィード以外に、やりたいことがなかった。他に選択肢や道もないし、目標もない。だから、もし、シルフィードで成功できなければ、これで人生が終わりでも、本当にいいと思っている。

 投げやりに聞こえるかもしれないけど、逃げ道だけは、作りたくなかった。まぁ、私の今まで人生は、いつだって、選択肢は一つだけ。複数の選択肢を準備できるほど、器用じゃないので。

「そうかい。ならいいさ」
 ノーラさんは、ほんの一瞬だけ、口元を上げて微笑み、静かに食事を再開した。

 私は今まで、全力で頑張って来た。でも、考えて見れば、大なり小なり、誰もが努力している。特に、上を目指す人たちは、本気で頑張っているはずだ。それは、ナギサちゃんを見ていれば、よく分かる。

 これからは、本気で頑張っている人たちと、競わなければならない。みんなの本気が上か、私の本気が上か。そういう戦いだ。

 正直、私は、人と争うのは好きじゃない。なぜなら、誰とでも仲良くするのが、私の信条だからだ。でも、頂点は一人。なら、やるしかないよね。それが、覚悟だというなら、例え親友が相手だったとしても、戦うしかない。

 今よりも、もっと全力で、もっと本気にならないと。人生を懸けるとは、命を燃やし尽くすぐらい、頑張ることだと思うから……。


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次回――
『優しい嘘は時には必要なのかもしれない』

 真実は残酷だというのなら、きっと嘘は優しいのだろう
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