288 / 363
第8部 分かたれる道
1-3持つべきものは親友だってつくづく思う
しおりを挟む
時間は、夜の七時を少し回ったころ。私は〈西地区〉にある、ファミレス〈シーキャット〉に来ていた。ほとんどの人は、テラス席を使うので、店内は、さほど混んではいなかった。
陽気のいい時期は、テラス席が、とても気持ちいい。それに、この町では、外で食事をするのが、昔からの伝統だからだ。ちょうど、夕食時なので、外のテラス席は、ほぼ満席状態だった。
私は、アイスコーヒーを飲み、少しソワソワしながら、窓から通りを眺めていた。とても重要な話があり、ナギサちゃんに、相談に乗ってもらう予定だ。でも、正直、どう切り出していいのか、よく分からなかった。
きっと、滅茶苦茶、驚くだろうなぁ、ナギサちゃん。気分を害さなければ、いいんだけど。やっぱり、いい気持ちはしないよね……。
今日、ここに来たのは、後日、行われる、昇進の『二次審査』の面接についての相談だ。いくら『一次審査』を通ったと言っても、それは、二人のクイーンの力が、あったからに過ぎない。二次の面接は、私、個人の力だけが試される。
ただ、正直、私には、受かる自信がなかった。コミュ力は、結構、あるほうだと思うけど。偉い人と話すのは、物凄く苦手だからだ。
かしこまり過ぎて、なかなか言いたいことが、言えないし。かと言って、つい本音を言ったり、素を出してしまったら、心証を悪くしかねない。その、バランスのとり方が、凄く下手なのだ。
私の周りの上位階級の人たちは、みんな、気さくで優しい人が多い。だから、気兼ねなく、普通に話している。でも、理事会の人たちは、そうもいかない。とんでもなく、気難しい人たちであるのは、査問会の時に、身に染みて分かっていた。
あの時は、まだ、見習いだったし。自分自身も、常識や礼節が、足りない部分があったと思う。ただ、あの時のことが、いまだに、強いトラウマになっている。だから、上手く話せるか、全く自信が持てないでいた。
私は、友好的な人となら、すぐに、仲良くなれるんだけど。上から目線や、敵対的な人とのやり取りは、極端に下手なんだよね。つい、熱くなって、感情的に反論しちゃうので――。
「はぁー……。何か、滅茶苦茶、気分が重いなぁー」
せっかくの、昇進のチャンスだというのに。通知が来て以来、ため息をついてばかりだ。夜も、中々眠れないし。食欲もなくて、何を食べても、味がしない。
重責に対する、大きなプレッシャー。それに加えて、十五人の理事に対する、恐怖心。さらに言えば、自分の実力不足に対する、自信のなさ。全てが、重くのしかかって来ている。おかげで、頭が痛かったり、胃が重かったりで、体長は最悪だ。
いつもは、平気で無茶をするし。本番には、かなり強い性格だ。でも、偉い人だけは、学生時代から、とても苦手意識が強い。怒られた記憶しか、ないからかもしれない――。
私が、外をボーッと眺めながら、ため息をついていると、横から声を掛けられた。
「ずいぶんと、大きなため息ね。また、何か失敗でもしたの?」
「あっ、ナギサちゃん?! ゴメンね、わざわざ来てもらって」
悶々としていたので、入り口から入って来たのにも、気付かなかった。
「別に、いいわよ。それで、急に『大事な用事がある』って、何なの? また、査問会とかじゃ、ないわよね?」
ナギサちゃんは、私の前の席に、静かに座る。
「いや、流石に、それはないよ。でも、そういえば、査問会の前日も、ここで、ナギサちゃんに、相談に乗って貰ったんだったよね」
「えぇ。だから、また、呼び出しでも受けたんじゃないかと、ちょっと、不安になったわよ」
「あははっ……。なんか、いつも心配かけて、ゴメンね。でも、まぁ、シルフィード協会から呼び出されたのは、事実なんだけど」
「はぁ!? いったい、今度は何をやらかしたのよ?」
ナギサちゃんは、あからさまに、驚きの表情を浮かべた。
「いやいや、そうじゃなくて。呼び出されたのは、事実だけど。別に、何も悪いことはしてないから。てか、私って、そんなに悪いイメージしかないの?」
「風歌が、いつも、失敗ばかりしてるからでしょ」
「んがっ――。それは、否定はしないけど。でも、それは、見習い時代の話であって。『エア・マスター』になってからは、何も、失敗なんてしてないよ」
「だと、いいんだけど」
うーむ、信頼ないのね、私って。まぁ、見習い時代は、失敗だらけで、よくナギサちゃんに、突っ込まれてたもんね。
私は、ポーチから、そっと封筒を取り出した。例の、協会から送られて来た手紙だ。少し緊張しながら、そっと、彼女の前に差し出す。
「実は、これが、協会から送られてきて……」
「何よ、これ?」
「読んでみて」
「――なんか、他人の手紙を見るのは、気が引けるわね」
私が目で促すと、ナギサちゃんは、少しためらったあと、封筒から、そっと手紙を取り出した。
ナギサちゃんは、静かに手紙に目を通す。その間、私は、ずっと、ドキドキしっぱなしだった。なぜなら、どんなリアクションが来るのか、全然、想像がつかなかったからだ。私は、どう突っ込まれてもいいように、覚悟を決めた。
しばらくすると、ナギサちゃんは、静かに口を開く。
「なるほどね。事情は、だいたい分かったわ」
「えっ? それだけ……?」
あまりにも、冷静なので、拍子抜けしてしまった。もっと、激しい反応があると思ったのに。ナギサちゃんは、眉一つ動かさず、全く驚いた様子もなかった。
「なによ?」
「いや『何で、あんたみたいのが』みたく、突っ込まれるかと思って――」
能力的にも、知識も品格も、全てにおいて、ナギサちゃんのほうが、はるかに上だ。ナギサちゃんも、リリーシャさん同様に、シルフィード校を、首席卒業している秀才だし。自分より、劣った人間の昇進など、絶対に、納得できないと思ってた。
「別に、そんなこと言わないわよ。私だって、ここ最近の風歌の活躍は、ニュースや、雑誌などで、全て知っているのだから。MVにも、何度か出ていたし。『月刊シルフィード』にも、載っていたでしょ?」
「えっ……見てくれてたの?」
『月刊シルフィード』は、読むとしても。その他のニュースやMVも、全部チェックしてくれていたとは、意外だった。
「情報収集は、シルフィードの常識でしょ。別に、風歌だけを、見ていた訳じゃないわよ。でも、あれだけ話題になっていれば、可能性としては、十分にあり得ると思っていたわ」
「レースの優勝で、実績を得たのもあるけれど。近年の、上位階級への昇進は、話題性が、物凄く重視されているから。それに足る、十分な注目度だったじゃない。ここ最近で、風歌の話題が、一番の盛り上がりだったし」
ナギサちゃんは、淡々と語る。
「そう――なんだ?」
「それに、この二人が推薦者なら、当然ね。間違いなく、一次審査は、通るでしょ。そもそも、クイーン二名が、推薦すること自体、異例なんだから」
「やっぱり、二人の力のお蔭だよね……?」
あまりに身近すぎて、普段は、意識してないけど。こうしてみると、改めて、二人の力の凄さを思い知る。特に、ノーラさんは、別格に影響力が強いようだ。
「それも、あるけど。〈ホワイト・ウイング〉の、社名も大きいわね。『グランド・エンプレス』の作った、有名企業だし。何より、二人も、上位階級者が出ているのだから。業界内でも、名門中の名門よ」
「一度、上位階級が出た会社は、箔がついて、信頼性も高くなるから。そのあとも、続けて、上位階級者が、出る場合が多いわ。だから、みんな、上位階級のいる、大企業に入りたがるのよ」
「上位階級を目指す、志の高い人間が集まるから。結果的に、また、上位階級が、出やすくなる。これは、シルフィード業界の常識よ」
なるほど、言われてみれば、その通りだ。『有名ブランド』みたいな、感じなのかな? 社名を出すと、誰もが驚くのは、そういうことだったんだ。
「でも、それって、結局、会社や周りの人が、凄かっただけで。私は、単に、運がよかっただけだよね――?」
「運だけで、選ばれる訳ないでしょ。レースの優勝も、観光案内の評判も、全ては、風歌自身の、今までの努力の積み重ねじゃない。選ばれたのなら、もっと、自信を持ちなさいよ」
「う……うん」
なんか、物凄く意外だった。もっと、色々批判的なことを、言われると思ってたのに。何だかんだで、結構、認めてくれてたんだ――。
「それで、今日の相談はなに?」
「あー、それなんだけどね。以前、査問会で、理事の人たちには、結構、悪い印象を与えちゃってるから。さすがに、今回は『上手くやらないと』って、思って……」
「そもそも、あれは、風歌が、私のアドバイスを、守らなかったからでしょ? 時間を掛けて、徹底的にレクチャーしたのに」
「はい――。本当に、すいませんでした……」
そうだった。夜遅くまで、礼儀作法や言葉遣い。各種質問の対応法まで、懇切丁寧に教えてくれたのに。私が、査問会で、つい、カッとなってしまって。余計なことを言ってしまったのが、全ての原因だった。
あの時は、まだ、見習いで、精神的に子供だったし。今よりも、ずっと、血気盛んだったんだよね――。
「つまり、二次審査の面接の、対策をしたい訳ね?」
「はい……、その通りです」
「はぁーー。後輩でもなく、しかも、他社の人間を。何で私が、面倒、見なければならないのよ――?」
ナギサちゃんは、大きなため息をつきながら答える。
まぁ、普通は、そうなるよね。昔から、他社の人間は、全員、敵だって言ってたし。ナギサちゃんだって、上位階級を目指しているんだから、わざわざ、敵に塩を送るようなこと、したくないのは当然だと思う……。
「まったく、しょうがないわね。なら、面接の前日に、私の家に来なさい。今度は、絶対に、失敗が許されないから。徹底的に、指導するわよ」
「えっ――?! いいの?」
「一生に一度の、物凄いチャンスなんだから。もし、ここで落ちたりしたら、私だって、目覚めが悪くなるわよ。私に相談してきた以上、絶対に受からせるわ」
「本当に、ありがとう! やっぱり、持つべきものは親友だね。ナギサちゃん、超大好きっ!!」
私は、彼女の手を取って、心の底からお礼を述べる。昔から、いつだって、困った時に頼りになるのは、ナギサちゃんだ。
「ちょっ、何を大げさな? ってか、暑苦しいから、放しなさいよ」
ナギサちゃんは、頬をほんのり赤くして、私の手を、サッと振りほどく。照れ屋なのも、昔から変わらない。
「じゃあ、火曜日の、このぐらいの時間でいい?」
「何を言ってるの? 朝から、一日中やるに、決まってるでしょ」
「えっ? でも、仕事が……」
「休みを取りなさい、私も休むから。そもそも、火曜日は、元々休みなのだから。こんな緊急事態に、のんびり、仕事をしている場合じゃないでしょ?」
「う――うん」
ナギサちゃんの目は、物凄く真剣だった。最初は、嫌がっても、結局は、全力で協力してくれる。それが、ナギサちゃんだった。私は、つくづく、いい友達を持ったものだ。
ここまでして貰ったら、絶対に、落ちるわけには行かないよね。自分のためだけじゃなく、協力してくれた先輩方や、友人たちのためにも、全力で頑張らないと。
上位階級への昇進は、私だけじゃなく、応援してくれた、全ての人たちの、夢と希望なのだから……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『面接って悪い記憶しかないんですが……』
記録よりも記憶に残るって大事だよな
陽気のいい時期は、テラス席が、とても気持ちいい。それに、この町では、外で食事をするのが、昔からの伝統だからだ。ちょうど、夕食時なので、外のテラス席は、ほぼ満席状態だった。
私は、アイスコーヒーを飲み、少しソワソワしながら、窓から通りを眺めていた。とても重要な話があり、ナギサちゃんに、相談に乗ってもらう予定だ。でも、正直、どう切り出していいのか、よく分からなかった。
きっと、滅茶苦茶、驚くだろうなぁ、ナギサちゃん。気分を害さなければ、いいんだけど。やっぱり、いい気持ちはしないよね……。
今日、ここに来たのは、後日、行われる、昇進の『二次審査』の面接についての相談だ。いくら『一次審査』を通ったと言っても、それは、二人のクイーンの力が、あったからに過ぎない。二次の面接は、私、個人の力だけが試される。
ただ、正直、私には、受かる自信がなかった。コミュ力は、結構、あるほうだと思うけど。偉い人と話すのは、物凄く苦手だからだ。
かしこまり過ぎて、なかなか言いたいことが、言えないし。かと言って、つい本音を言ったり、素を出してしまったら、心証を悪くしかねない。その、バランスのとり方が、凄く下手なのだ。
私の周りの上位階級の人たちは、みんな、気さくで優しい人が多い。だから、気兼ねなく、普通に話している。でも、理事会の人たちは、そうもいかない。とんでもなく、気難しい人たちであるのは、査問会の時に、身に染みて分かっていた。
あの時は、まだ、見習いだったし。自分自身も、常識や礼節が、足りない部分があったと思う。ただ、あの時のことが、いまだに、強いトラウマになっている。だから、上手く話せるか、全く自信が持てないでいた。
私は、友好的な人となら、すぐに、仲良くなれるんだけど。上から目線や、敵対的な人とのやり取りは、極端に下手なんだよね。つい、熱くなって、感情的に反論しちゃうので――。
「はぁー……。何か、滅茶苦茶、気分が重いなぁー」
せっかくの、昇進のチャンスだというのに。通知が来て以来、ため息をついてばかりだ。夜も、中々眠れないし。食欲もなくて、何を食べても、味がしない。
重責に対する、大きなプレッシャー。それに加えて、十五人の理事に対する、恐怖心。さらに言えば、自分の実力不足に対する、自信のなさ。全てが、重くのしかかって来ている。おかげで、頭が痛かったり、胃が重かったりで、体長は最悪だ。
いつもは、平気で無茶をするし。本番には、かなり強い性格だ。でも、偉い人だけは、学生時代から、とても苦手意識が強い。怒られた記憶しか、ないからかもしれない――。
私が、外をボーッと眺めながら、ため息をついていると、横から声を掛けられた。
「ずいぶんと、大きなため息ね。また、何か失敗でもしたの?」
「あっ、ナギサちゃん?! ゴメンね、わざわざ来てもらって」
悶々としていたので、入り口から入って来たのにも、気付かなかった。
「別に、いいわよ。それで、急に『大事な用事がある』って、何なの? また、査問会とかじゃ、ないわよね?」
ナギサちゃんは、私の前の席に、静かに座る。
「いや、流石に、それはないよ。でも、そういえば、査問会の前日も、ここで、ナギサちゃんに、相談に乗って貰ったんだったよね」
「えぇ。だから、また、呼び出しでも受けたんじゃないかと、ちょっと、不安になったわよ」
「あははっ……。なんか、いつも心配かけて、ゴメンね。でも、まぁ、シルフィード協会から呼び出されたのは、事実なんだけど」
「はぁ!? いったい、今度は何をやらかしたのよ?」
ナギサちゃんは、あからさまに、驚きの表情を浮かべた。
「いやいや、そうじゃなくて。呼び出されたのは、事実だけど。別に、何も悪いことはしてないから。てか、私って、そんなに悪いイメージしかないの?」
「風歌が、いつも、失敗ばかりしてるからでしょ」
「んがっ――。それは、否定はしないけど。でも、それは、見習い時代の話であって。『エア・マスター』になってからは、何も、失敗なんてしてないよ」
「だと、いいんだけど」
うーむ、信頼ないのね、私って。まぁ、見習い時代は、失敗だらけで、よくナギサちゃんに、突っ込まれてたもんね。
私は、ポーチから、そっと封筒を取り出した。例の、協会から送られて来た手紙だ。少し緊張しながら、そっと、彼女の前に差し出す。
「実は、これが、協会から送られてきて……」
「何よ、これ?」
「読んでみて」
「――なんか、他人の手紙を見るのは、気が引けるわね」
私が目で促すと、ナギサちゃんは、少しためらったあと、封筒から、そっと手紙を取り出した。
ナギサちゃんは、静かに手紙に目を通す。その間、私は、ずっと、ドキドキしっぱなしだった。なぜなら、どんなリアクションが来るのか、全然、想像がつかなかったからだ。私は、どう突っ込まれてもいいように、覚悟を決めた。
しばらくすると、ナギサちゃんは、静かに口を開く。
「なるほどね。事情は、だいたい分かったわ」
「えっ? それだけ……?」
あまりにも、冷静なので、拍子抜けしてしまった。もっと、激しい反応があると思ったのに。ナギサちゃんは、眉一つ動かさず、全く驚いた様子もなかった。
「なによ?」
「いや『何で、あんたみたいのが』みたく、突っ込まれるかと思って――」
能力的にも、知識も品格も、全てにおいて、ナギサちゃんのほうが、はるかに上だ。ナギサちゃんも、リリーシャさん同様に、シルフィード校を、首席卒業している秀才だし。自分より、劣った人間の昇進など、絶対に、納得できないと思ってた。
「別に、そんなこと言わないわよ。私だって、ここ最近の風歌の活躍は、ニュースや、雑誌などで、全て知っているのだから。MVにも、何度か出ていたし。『月刊シルフィード』にも、載っていたでしょ?」
「えっ……見てくれてたの?」
『月刊シルフィード』は、読むとしても。その他のニュースやMVも、全部チェックしてくれていたとは、意外だった。
「情報収集は、シルフィードの常識でしょ。別に、風歌だけを、見ていた訳じゃないわよ。でも、あれだけ話題になっていれば、可能性としては、十分にあり得ると思っていたわ」
「レースの優勝で、実績を得たのもあるけれど。近年の、上位階級への昇進は、話題性が、物凄く重視されているから。それに足る、十分な注目度だったじゃない。ここ最近で、風歌の話題が、一番の盛り上がりだったし」
ナギサちゃんは、淡々と語る。
「そう――なんだ?」
「それに、この二人が推薦者なら、当然ね。間違いなく、一次審査は、通るでしょ。そもそも、クイーン二名が、推薦すること自体、異例なんだから」
「やっぱり、二人の力のお蔭だよね……?」
あまりに身近すぎて、普段は、意識してないけど。こうしてみると、改めて、二人の力の凄さを思い知る。特に、ノーラさんは、別格に影響力が強いようだ。
「それも、あるけど。〈ホワイト・ウイング〉の、社名も大きいわね。『グランド・エンプレス』の作った、有名企業だし。何より、二人も、上位階級者が出ているのだから。業界内でも、名門中の名門よ」
「一度、上位階級が出た会社は、箔がついて、信頼性も高くなるから。そのあとも、続けて、上位階級者が、出る場合が多いわ。だから、みんな、上位階級のいる、大企業に入りたがるのよ」
「上位階級を目指す、志の高い人間が集まるから。結果的に、また、上位階級が、出やすくなる。これは、シルフィード業界の常識よ」
なるほど、言われてみれば、その通りだ。『有名ブランド』みたいな、感じなのかな? 社名を出すと、誰もが驚くのは、そういうことだったんだ。
「でも、それって、結局、会社や周りの人が、凄かっただけで。私は、単に、運がよかっただけだよね――?」
「運だけで、選ばれる訳ないでしょ。レースの優勝も、観光案内の評判も、全ては、風歌自身の、今までの努力の積み重ねじゃない。選ばれたのなら、もっと、自信を持ちなさいよ」
「う……うん」
なんか、物凄く意外だった。もっと、色々批判的なことを、言われると思ってたのに。何だかんだで、結構、認めてくれてたんだ――。
「それで、今日の相談はなに?」
「あー、それなんだけどね。以前、査問会で、理事の人たちには、結構、悪い印象を与えちゃってるから。さすがに、今回は『上手くやらないと』って、思って……」
「そもそも、あれは、風歌が、私のアドバイスを、守らなかったからでしょ? 時間を掛けて、徹底的にレクチャーしたのに」
「はい――。本当に、すいませんでした……」
そうだった。夜遅くまで、礼儀作法や言葉遣い。各種質問の対応法まで、懇切丁寧に教えてくれたのに。私が、査問会で、つい、カッとなってしまって。余計なことを言ってしまったのが、全ての原因だった。
あの時は、まだ、見習いで、精神的に子供だったし。今よりも、ずっと、血気盛んだったんだよね――。
「つまり、二次審査の面接の、対策をしたい訳ね?」
「はい……、その通りです」
「はぁーー。後輩でもなく、しかも、他社の人間を。何で私が、面倒、見なければならないのよ――?」
ナギサちゃんは、大きなため息をつきながら答える。
まぁ、普通は、そうなるよね。昔から、他社の人間は、全員、敵だって言ってたし。ナギサちゃんだって、上位階級を目指しているんだから、わざわざ、敵に塩を送るようなこと、したくないのは当然だと思う……。
「まったく、しょうがないわね。なら、面接の前日に、私の家に来なさい。今度は、絶対に、失敗が許されないから。徹底的に、指導するわよ」
「えっ――?! いいの?」
「一生に一度の、物凄いチャンスなんだから。もし、ここで落ちたりしたら、私だって、目覚めが悪くなるわよ。私に相談してきた以上、絶対に受からせるわ」
「本当に、ありがとう! やっぱり、持つべきものは親友だね。ナギサちゃん、超大好きっ!!」
私は、彼女の手を取って、心の底からお礼を述べる。昔から、いつだって、困った時に頼りになるのは、ナギサちゃんだ。
「ちょっ、何を大げさな? ってか、暑苦しいから、放しなさいよ」
ナギサちゃんは、頬をほんのり赤くして、私の手を、サッと振りほどく。照れ屋なのも、昔から変わらない。
「じゃあ、火曜日の、このぐらいの時間でいい?」
「何を言ってるの? 朝から、一日中やるに、決まってるでしょ」
「えっ? でも、仕事が……」
「休みを取りなさい、私も休むから。そもそも、火曜日は、元々休みなのだから。こんな緊急事態に、のんびり、仕事をしている場合じゃないでしょ?」
「う――うん」
ナギサちゃんの目は、物凄く真剣だった。最初は、嫌がっても、結局は、全力で協力してくれる。それが、ナギサちゃんだった。私は、つくづく、いい友達を持ったものだ。
ここまでして貰ったら、絶対に、落ちるわけには行かないよね。自分のためだけじゃなく、協力してくれた先輩方や、友人たちのためにも、全力で頑張らないと。
上位階級への昇進は、私だけじゃなく、応援してくれた、全ての人たちの、夢と希望なのだから……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『面接って悪い記憶しかないんですが……』
記録よりも記憶に残るって大事だよな
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~
さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』
誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。
辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。
だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。
学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる
これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~
サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。
ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。
木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。
そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。
もう一度言う。
手違いだったのだ。もしくは事故。
出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた!
そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて――
※本作は他サイトでも掲載しています
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる