私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

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第9部 夢の先にあるもの

5-4そのまばゆい光が全ての闇を切り裂くのだろうか?

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 早朝の五時。今日は、目覚ましが鳴る前に、自然に目が覚めた。いつもなら、しばらくボーッとしているが、今朝はすぐに跳ね起き、バルコニーに向かった。海からは、暖かい風が吹いて来ている。

 意識を集中すると、たくさんの風の精霊たちが、元気に飛び回る姿が見えた。今日は、やや動きが速いので、風が強くなるかもしれない。

 私は、大きく深呼吸したあと『よし、行くぞ!』と、気合を入れ、軽く頬を叩いた。一階に行き洗顔したあと、買い置きのパンで、さっと朝食を済ませる。食事を終えると、制服に着替え、鏡の前に立ち、入念に身支度を整えた。

 いつもなら、このまま出社するところだが、今日は、本業はお休みだ。その代わり〈シルフィード協会〉に、出向かなければならない。いよいよ『グランド・エンプレス』の、昇進面接が行われるからだ。 

 ただ、プリンセスの昇進の時とは違い、今回は、何一つ対策をしていない。質問の内容は、全く予想していないし。回答についても、一切、準備していなかった。つまり、完全に、ぶっつけ本番だ。

 いくら本番に強い性格とはいえ、何の準備もないので、不安はある。でも、エンプレスの昇進は、通常の上位階級とは、全く意味合いが違う。飾ってよく見せることよりも、自分自身の、決意や覚悟を示すことが、最も大事だと思うからだ。

 面接の当日は、滅茶苦茶、緊張すると思ったけど、不思議と心が穏やかだった。自分の気持ちは、完全に固まり、気持ちもスッキリしている。あとは、自分の想いを、素直に伝えるだけだ。

 仮に、それで落ちてしまったとしても、何の悔いもない。より適任者が、エンプレスをやればいいだけだ。それに、どんな立場であろうとも『世界中の人を幸せにする』という想いは、全く変わらない。自分がやれることを、やるだけだ。

 しばらく、スピでニュースなどを見て、いつも通りに、穏やかに過ごす。ほどよい時間になると、静かに、家をあとにするのだった……。
 
 
 *******


 私は、エア・カートに乗り〈シルフィード協会〉に、向かっていた。面接は、十時から行われる。以前は、一時間以上、前に行っていたけど。今日は、割とのんびりで、三十分前ぐらいに、入室の予定だ。

 いまさら、焦ってもしょうがないし。今日は、心が物凄く落ち着いている。五感も、いつもより、研ぎ澄まされている気がした。しっかり、決意を固めたからだろうか? とても晴れ晴れした気分で、すこぶる調子がいい。

 だが、順調に飛行していると、ふと、違和感を覚えた。何となく、いやな感じがするのだ。私は、西のほうに視線を向けた。

「向こうって〈南地区〉だよね? 何だろう、この感じ? 確か、地震後にも、こんな感覚が――」
 
 地震のあと、私は、がれきの中から、生き埋めになっていた人を、何度も見つけ出した。その時の感覚に、似ている気がするのだ。

「どうしよう……? まだ、一応、時間はあるけど。とても大事な面接だし――」
 時計を見ると、時間は、九時十五分。このままいけば、ニ十分ごろには〈シルフィード協会〉に、到着する予定だ。

 速度を落とし、少し考える。今日は、私の人生にとって、最も大切な日だ。何があっても、遅れる訳には行かなかった。ただの直感で、動いている場合じゃない。でも、もし、私の勘が当たっていたら――。

 ここ最近の、私の勘は、異常なほどよく当たる。しかも、当たるのは、ことごとく、悪い出来事ばかりだ。

「えぇーい、ままよ。急げば、まだ、間に合うし」
 私は、すぐにハンドルを切って、進路を変え、スピードを上げた。

 しばらく進んで行くと〈南地区〉に入った。私は、勘だけを頼りに、町の上空を飛んでいた。下に見えるのは、閑静な高級住宅街だ。

 こんな静かなところで、何があるというのだろうか? 特に、変わった様子は見えない。しかも、午前中なので、人通りも全くない。

 眼下を慎重に見ながら、ゆっくり飛んでいると、ある場所で視線がとまった。動いていないので、危うく見落とすところだったが、よく見ると、人が道でうずくまっていた。

「大変! 具合が悪いのかも?」
 私は、急いでエア・カートを下降させる。着陸すると、すぐに機体を降り、うずくまっていた女性のもとに、駆け寄った。

「大丈夫ですか? しっかりして下さい!」
 よく見ると、女性のお腹は、とても大きかった。どうやら、妊婦さんのようだ。

「う……急に、陣痛が――始まって……」
「分かりました。少しだけ待っていてください」

 私は、マギコンを取り出すと、レスキュー要請をしようとした。だが、思いとどまり、一瞬、考える。

 確か、このすぐそばに〈南地区市民病院〉が、あったはずだ。レスキューの到着には、数分から、場合によっては、十分以上かかる。私が直接、連れて行ってあげれば、五分も掛からずに行けるはず――。
 
「私が、病院にお連れします。立てますか?」
「えぇ……何とか」

 私は、彼女に肩を貸すと、ゆっくりと立ち上がらせる。カートの助手席に乗せると、すぐに、空に舞い上がった。私は、機体を揺らさないように、細心の注意を払いながらも、大急ぎで、病院に向かうのだった――。


 ******


 私は、全速力で、エア・カートを飛ばしていた。スピード超過のアラームが、けたたましく鳴るが、そんなことを、気にしている場合ではない。今は、一刻も早く、孫の元に、向かわなければならないからだ。

 今日は〈シルフィード協会〉で、理事会が行われる。『グランド・エンプレス』の昇進面接だ。今回やって来るのは、例のいけ好かない、異世界人の小娘だった。それを考えると、朝から気分が悪くなる。

 先日の会議では、結局、時流に乗って、あの小娘が、候補として選出されたのだ。『白金の薔薇プラチナローズ』も、なぜか、彼女を推していた。自分の優秀な娘を差し置いてまで、何を考えているのか、さっぱり分からない。

 ちょうど、協会へ向かおうと家を出た時、連絡が入った。孫のイザベラが、急に陣痛が始まり、病院に運ばれたらしい。

 幸いにも、通りかかった人に、病院まで、連れて行ってもらったそうだ。しかし、元々体の弱い子なので、何があるか分からないし。私にとっては、大事な初孫だった。なにより、彼女は、私に物凄くなついている。

 小さいころから、おじいちゃんっ子で、目に入れても痛くないぐらいの、とても可愛い孫なのだ。私も、彼女をかわいがり、望むことは、何でもしてあげた。

 この際、異世界人の昇進なんか、どうでもいい。それよりも、まずは、大事な孫の安否の確認が先だ。ほどなくして〈南地区市民病院〉が見えて来る。

「まったく、こんな古いところではなく、もっと、いい病院があるだろうに。あとで、転院の手続きをせねばな」 
 私は、急いで着陸させると、病院に駆け込んで行くのだった……。

 
 ******


 私は、少し息を切らせながら、病棟の三階に来ていた。受付で聴いたところ、すでに、出産は終わり、このフロアの『303号室』にいるらしい。

 早足で廊下を進み、部屋の前に着くと、空中モニターで孫の名前を確認し、すぐに、扉を開けた。中は、割と広々した個室だった。そこのベッドの上には、上半身を起こした、孫の姿が見えた。顔色もよく、特に問題はなさそうだ。

「イザベラ――。体は……大丈夫なのか?」 
 私は、息を荒げながら、彼女に尋ねる。

「あら、おじいちゃん、早かったのね。というか、凄く息が上がってない?」 
「それは――そうだ。最速で……飛んできたのだからな――」
「そんな、大げさな。ただの出産よ。子供も無事で、今は保育器の中で寝てるわ」

 イザベラは、笑みを浮かていべる。思ったよりも、元気そうだ。どうやら、出産は、無事に終わったらしい。私は、フーッと、息を吐きだした。

「だが……道で倒れていたと聞いたが――?」
「倒れていたのではなく、ただ、うずくまっていただけよ。でも、通りがかりの親切な人が、病院まで、エア・カートで連れてきてくれたの」

「その人は、どうしたんだ……?」
「今、飲み物を、買いに行ってくれているわ。すぐに、戻ってくると思うけど」

 彼女がそう言った直後、扉が開いて、一人の若い女性が入って来た。腕には、数本の、ペットボトルを抱えている。彼女は、シルフィードの制服を着ていた。しかも、見覚えのある顔だった。

「――なぜ、貴様がここにいる!?」
「えっ!? あなたこそ、何でここに……?」
 向こうも予想外だったらしく、とても驚いた表情を浮かべていた。

「彼女が、私を病院に連れてきてくれたのよ」 
「なん――だと……?」
 よりによって、この異世界人が、私の大事な孫を――?

「もしかして、二人は、お知り合いなんですか?」 
「あぁ、この人はね、私のおじいちゃん。風歌さんたちも、顔見知りなの?」

「えぇ、同業者ですから」
「それも、そうよね。おじいちゃん、協会の理事だし。シルフィードの知り合いも、多いですものね」 

 イザベラは、笑顔で頷いている。

「えーっと、どの飲み物がいいか、分からなかったから、色々買ってきました。どれがいいですか?」 
「じゃあ、そのエナジードリンク、お願いします。ちょっと、パワーをつけたくて」

 二人は笑顔で、ずいぶんと、親し気に話していた。今日、会ったばかりだというのに、いつの間に、こんなに仲良く……? 
 
「それよりも、貴様、ここで何をしているのだ? 今日は、大事な昇進面接だろう? なぜ、さっさと、協会に向かわなかった? 放っておいても、自分でレスキューを呼んだだろうし。誰か、通りかかった別の者が、見つけただろう」
 
 相変わらず、非常識な小娘だ。エンプレスが、いかに重要な立場か、分かっていないのだろうか? こんな小事に、構っている場合では、ないだろうに。

「人の命以上に、大事なものなんて有りませんよ。人を見捨てるぐらいなら、私は、昇進しないでいいです」

「はっ?! 何を言っているのだ、貴様は! エンプレスが、どれほどの地位か、分かっていないのか? 望んでなれるものでは、ないのだぞ」

 エンプレスとは、シルフィードなら誰もが憧れ、切望する立場。その地位に就けば、絶大な権力・名声・富が手に入る。そのチャンスを、みすみす手放す馬鹿などいない。

「私は、世界中の人を幸せにするために、シルフィードをやっています。だから、誰かを犠牲にしてまで、地位を手に入れたいとは、思いません。それに、いくらエンプレスとはいえ、しょせんは、ただの肩書きですから」

「そんな肩書きのために、自分の信念を曲げてしまったら、シルフィードをやっている意味がありません。それに、もし、これで昇進がダメになるなら、そういう運命だったのだと思います」

 彼女は、何の迷いなく、あっさり答えた。相変わらず、生意気な小娘だ。だが、私は、返す言葉に詰まってしまった。

 私が、気圧されている? こんな、小娘に――?

 以前、会った時とは、別人のようだった。妙に落ち着き払い、威厳と自信に満ちあふれている。まるで、ベテランのシルフィードを、相手にしているような感覚だった。

「風歌さん、もしかして、今日、エンプレスの昇進面接だったの?」
「えぇ、まぁ。十時からなんで、ちょっと、時間すぎちゃいましたけど」

「そんな、私のせいで……」
「別に、イザベラさんのせいじゃ、ありませんよ。無事に子供が生まれたんだから、良かったじゃないですか」

 如月風歌は、特に動じた様子もなく、笑顔で答えている。
 
「ちょっと、おじいちゃん。何とかしてよ!」
「えっ――何とかって?」

「おじいちゃんも、理事なんでしょ。ほら、早く、協会に連絡して!」
「いや……しかしだな。うむ――」

 イザベラに睨まれて、私は、渋々マギコンを取り出すと、議長に連絡を入れた。

『あぁ、議長、おはようございます。実は、孫の急な出産で、今、病院におりまして。えぇ、それなら知っています。ちょうど今、私の隣にいますので』

『どうやら、彼女が、孫を病院に運んでくれたようで。えぇ、大変、申し訳ないが、面接は、少し時間を延期して貰えないでしょうか? 今から、彼女と協会に向かいますので。他の理事たちにも、事情の説明を……』

『あと、人命を救うための、緊急事態の行為なので。遅刻の件は、どうか、面接の評価には入れないよう、お願いしたい――。えぇ、では、後ほど……』
 私は、通信を切ると、大きく息を吐きだした。

 まったく、何で私が、こんな尻ぬぐいを、せねばならないのだ。しかも、あの議長に、頭まで下げて――。

 とはいえ、イザベラを救ってくれたのも事実だ。それに、借りは作りたくはない。だが、何なのだ、この不思議な感情は……? 

 一瞬、彼女が、光り輝いて見えてしまった。もし、彼女が、皆の頂点に立ったら、どんな世界になるのだろうか? もしや『白金の薔薇』も、彼女に、光を見たのだろうか――?

「連絡は入れておいた。面接は、時間を延期してくれるそうだ。今すぐ、協会に向かえ。私は、あとから行く」
 私は、少し不機嫌に、如月風歌に声を掛けた。

「お気遣い、ありがとうございます。ゴドウィン理事」
 彼女は立ち上がると、静かに頭を下げる。

「おじいちゃんも、行って。大事な会議なんでしょ?」
「だが……付き添いが必要だろう」
「大丈夫。私は、見ての通り元気だし。すぐに、お母さんが来るから」

 イザベラは、元気な笑顔を浮かべた。本当は、ずっと、そばに居たいのだが。今日は、私にとっても、大事な会議だ。

「おい、ぼさっとしてないで、さっさと行くぞ」 
「あぁ、はい」
 私は、後ろ髪を引かれる思いだったが、踵を返し、部屋を出る。

 まったく、手の掛かる小娘だ。個人的には、いけ好かないが。彼女は、今のこの世界には、必要な人材なのだろうか?

 だが、慎重に決めねばならない。この業界が、いや、世界の行く末が、大きく変わるかもしれないのだから……。


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次回――
『この世界のためなら私の全人生を懸けてもいいと思う』
 
 人生とは人のために生きるから人生なのだ
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