異世界立志伝

小狐丸

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エルレイン・フォン・バスターク

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 ノトスに戻って来て一月経った。

 ガリガリだったルキナも、すっかり子供らしい柔らかさを取り戻し、日々元気になってきた。

 ギルドの依頼も、薬草の採取などの簡単な依頼を、たまに受ける位だ。

 一緒に居る時間が長いお陰で、ルキナの精神状態も安定してきた。最初の頃は、俺かエルのどちらかにベッタリだったけど、最近は家の裏庭でひとり遊びする事もある。


 そんなのんびりとした日々を送っていた。 

 その日も三人で、ノトスの街を散歩していた。

 そんな時だった、背後から呼び止める声が掛かる。

「お嬢様!」

 エルがビクッと体を震わせた。

 後ろを振り返ると、そこには薄いロングの金髪を後ろで括り、黒い厚めの生地の長袖に黒いロングスカートを履き、銀のフレームの眼鏡をかけた女性だった。よく見ると、耳が尖っているのが確認できる。どうやらエルフのようだ。
 手に大きな革の鞄を持っている。

「ア、アンナ!ど、どうしてここが」

 エルが慌てている。

「カイトおにいちゃん、帰らないの?」

 俺に抱かれているルキナが、頬をペチペチ小さな手で叩いて、早く帰ろうと言う。

「とりあえず、家に帰らない?」

 固まるエルにそう言うと、無言でガクガクと首を縦に振る。

「あの~、道の真ん中では何ですから、僕の家が直ぐそこなので……」

 ルキナも帰りたがっているので家に招待する。
 でも怖い、なんかオーラが怖い。




 お茶を淹れてリビングへ行くと、エルはソファーに座って固まっている。その対面にアンナと呼ばれた女性が座っている。
 それぞれの前にお茶を置いて、俺もエルの横に座る。するとルキナが膝の上に登って来て、チョコンと座る。
 下から俺の顔を見上げて、えへへ~と嬉しそうに笑うルキナ。思わずニッコリしてしまう。


「お嬢様、捜しました」

 アンナさんが抑揚のない声でポツリと呟く。

「ひっ!ごめんなさい!」

 エルはアンナさんが怖いのか、条件反射のように謝っていた。

「それで、そちらの少年と兎人族の女の子は誰方ですか?」
「ルキナは、カイトおにいちゃんとエルおねえちゃんの妹なの!」

 凍りついたような空気の中、ルキナが元気よく自己紹介する。

「……それで、カイト様とはどういったご関係で?」

 凍えるようなアンナさんの視線が俺に注がれる。

「みんなで一緒に寝るの。でも時々、カイトおにいちゃんとエルおねえちゃんは別のベッドで裸で寝てるの。ルキナ風邪引くよって言ってあげるの。お風呂も三人で入るよ」

 ルキナの堕とした爆弾に、アンナさんの顔がピキリとひきつる。

「……ははっ、そ、そうよ、カイトとは愛し合っているのよ」

 エルがなかばヤケクソ気味に言い放った。

「カイト様は、エルレインお嬢様がどういう立場のお方かご存知ですか?」
「いえ、貴族の息女だとは知っていましたが、詳しい事はなにも」
「カイト様は、それをご存知なうえで、男女の仲になられたと」

 不機嫌丸出しでアンナさんが俺を睨む。

「ええ、僕にとってエルの立場に興味ないですから」

 アンナさんから濃密な魔力が溢れ出る。

(あゝ、この人強いな。見た目通りの年齢じゃないかもしれないな)

 アンナさんを、軽く上回る魔力を放出するが、ルキナが怖がらないように、殺気を込めず威圧もしない。優しい気持ちでルキナを護るように魔力を放出する。

「わぁ~!なんだかあったかい!」

 ルキナが俺にもたれて、足をぷらぷらさせて喜んでいる。

 小さなルキナの前で、大人気ないと思ったのか、アンナさんは魔力を収めた。

「……失礼しました」
「カイトおにいちゃん、お腹空いた」
「そうだな、先にご飯にしようか。構いませんか?」

 アンナさんにことわって、キッチンへ夕食を作りに向かう。

「ねえねえ、今日のご飯はなに?」

 ルキナもキッチンに付いて来て、足に抱きついている。知らない人が居るせいで、不安なのかもしれない。

「今日はね~、トライホーンバッファローのステーキにしようか」
「やったー!お肉だー!」

 ルキナがバンザイしながらクルクル回っている。

 魔導コンロに鍋を置き、水を入れコカトリスの骨でダシを取る。野菜を煮込み塩で味を整えスープを作る。
 切り分けたトライホーンバッファローの肉に、塩胡椒で味付けし、フライパンで焼くあいだ、サラダを作っておく。


「ルキナ、エルおねえちゃんにご飯だよって言ってきてくれる」
「は~い!」

 耳をピョコピョコさせながら走って行った。

 出来上がった料理をダイニングテーブルに運ぶ。

 全員がテーブルに着く。

「……これは何時もカイト様が作られるのですか?」

 テーブルに並べられた料理を見て、アンナさんが聞いてきた。

「そうだよ!エルおねえちゃんは料理出来ないの」

 どう言おうか迷っていると、ルキナが先に答えていた。

「ちょっ、ルキナ、おねえちゃん作れないんじゃないのよ。カイトおにいちゃんの方が、ほんの少しだけ料理が上手なの」
「……はぁ~、お嬢様、なに小さな子供に言い訳してるんですか。お料理なんてした事もないでしょう」

 アンナさんが呆れた目でエルを見る。

「なっ、あるわよ!私これでも冒険者よ。何日も野営するんだから、料理くらいするわよ」

 あゝ、なんて分かりやすい嘘を。

「冷めないうちに食べましょう」




 夕食を食べて、後片付けを済ませ、ルキナをお風呂に入れる。お風呂から上がると、ルキナの髪の毛を魔法で温風を出して乾かしてあげる。ルキナは髪の毛を乾かしている途中、ウツラウツラして今にも眠りそうだった。
 ルキナをベッドに寝かせて、リビングで話の続きをする為に行く。


 改めて、俺とエルの出会いから、今までの事を順番に話していく。

 深淵の森近くでエルを助けた事、その後一緒に行動するようになり、俺の買った家に一緒に住む事になり、自然とそういう関係になった事、その後、ルキナを保護して、妹として引き取った事までを話した。


 逆にエルの事情も聞いた。
 エルレイン・フォン・バスターク、サーメイヤ王国の南端。バスターク辺境伯の長女。下に弟が二人居るらしい。

 エルが家を飛び出した訳は、予想通り嫌な婚姻から逃れるためだった。
 王都の法衣貴族で、30歳以上離れた禿げデブに求婚されたらしい。
 まあ、貴族の婚姻とはそういうものだとは思うが、エルには我慢できなかったようだ。

 それで家を捨て逃げ出したという事だ。

「だから私は、家を棄てたの。連れ戻そうとしたって無駄よ!」

 アンナさんが、眼鏡をクィッと上げる。

「お嬢様は勘違いされてます」

「へっ?」

「私が一度でも連れ戻すと言いましたか?」

「えっ、じゃあなんで?」

 エルが混乱するのも仕方ないと思う。横で聞いてる俺も意味がわからない。

「私もバスターク家にお暇を頂きました」

「えっ!うそ!」

「ですから、今日からここでお世話になります」

「「えーーーー!!」」

 俺とエルの声がリビングに響き渡った。

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