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23.王妃権限
しおりを挟むアントワーヌはそのまま書類を読み上げるのかと思いきや、シャルルの方に向き直った。
「殿下、わたしが調べた真実についてですが、本当にこの場で明らかにしても良いかを確認したく存じます」
アントワーヌは笑顔を浮かべたまま、少し首を傾げてそう言葉を発した。
「アントワーヌ、今更何を言っているのだ。みなの前でフロレルの罪を詳らかにするという予定だったではないか。何の問題もない」
「しかし、これは犯罪に関わることでございます。国王陛下と王妃殿下がご臨席される場で、このようなことをわたしの口から申し上げて良いのかどうか……」
シャルルの戸惑ったような言葉を聞いたアントワーヌは、変わらぬ笑みのままで国王のいる来賓席へと目を向ける。その様子を見たシャルルは眉を顰めると、「王妃殿下の許可は取っていると言っただろう」と周囲には聞こえぬ声でアントワーヌに囁いた。
それに対して、アントワーヌは国王へと顔を向けた。そう、シャルルはこの場で『フロレルの悪事を暴くこと』についての許可を王妃からは得ている。しかし、国王からは許可を得ていないのだ。
国王は、最初の挨拶が終われば退席するとシャルルは認識していたからそれで良いと、いや、ちょうど良いと思っていたのだ。
みなの前で始まった断罪劇が滞っているようで、場が白け始める。もとより、卒業を祝うパーティーの最中に、いきなりシャルルがフロレルに婚約破棄を突きつけ断罪劇を始めたのだ。テンポよくいかなければ見世物としても三流となるのは当然のことである。卒業生もその家族たちからも白けた空気が出始めている。
周囲の雰囲気を察したフロレルは、この騒ぎを終わらせるべきだと思い、手を挙げた。
「第一王子殿下、発言をお許しください。国王陛下の許可がないということであれば、犯罪に関わることを明らかにされるべきではないと思われます。ここは卒業の祝いの場であることでございますし、お話は後日に……」
「うるさいっ! フロレル、お前は自分の悪事がみなの前で暴かれるのを恐れてそのようなことを言っているのであろう!」
これまで……、婚約者であったフロレルは、シャルルに誠実な提案を常に行ってきた。今、フロレルが口にしたのも、シャルルの今後を考えれば当然の提案であったのだが、既にシャルルにそれは届かなくなっていた。
恐らく最後になるであろう提案をしたことで、悪し様に罵られたフロレルは、この五年余りの婚約期間は何だったのだろうかと考える。
この後語られる話は『真実』なのか『冤罪』なのかもフロレルはわかっていない。楽し気なジョゼフの様子を見る限りは、フロレルに不利な状況にはならないだろうと予測はしているが。
だからこそ、シャルルを止めなければならないと思ったフロレルの気持ちは、元婚約者には届かなかった。
フロレルの賢しらな提案を聞いて、更に感情を、怒りを昂らせたシャルルは、その勢いのままに国王に向き直った。王妃の許可を得ていることを大義名分にしようとしていたことが叶わなかったことが、シャルルの苛立ちに拍車をかけていた。
「父上! 俺は大切なルネが暴力を受けたことを許すことができません。みながいるこの場で、数々の暴力を振るった犯罪者を明らかにします!」
シャルルは胸に手を当て、高揚した表情で国王に向けて声を張り上げた。落ち着きのないその様子は王族らしからぬものである。
国王は、第一王子の様子を見てあからさまにため息を吐いた。それは王族らしからぬ態度であったが、シャルルの行動を容認はしていないと周囲に示すためのものだったのだろう。
「シャルル第一王子よ。騎士団の捜査に関わることをこの場で発表することは許可できぬ。速やかにこの茶番を終わらせてパーティーを再開させよ」
「しかし父上っ!」
「聞こえないのか。許可はできぬ」
シャルルに不許可を告げる国王は厳しい顔をしていて、この断罪劇は終了するのだと誰もが考えた。しかし、その空気を破る甲高い声がその場に響いたのだ。
「シャルル、わたくしが、この王妃が許可します。『王妃権限』を使うわ」
「ありがとうございます! 母上!」
その王妃の発言に、ホールは喧騒に包まれた。そして、シャルルはその発言を聞いて無邪気に喜んでいる。その場にいる高位貴族たちは、自国の王妃と第一王子の様子を信じられないもののように見ていた。
「『王妃権限』だと? 其方、正気か?」
「ええ、国王の判断が信用できないのですから、今が使い時ですわ」
「そうか、そのように考えるのだな……」
「ふふふ。さあ、シャルル、真実を詳らかになさい!」
王妃権限とは、国王が独裁的な判断に陥った時にそれを防ぐために特別な許可を内閣府などの行政に出すために王妃に与えられているものだ。当然、このような場で使用されるようなものではない。
しかし、王族の言葉は重い。
国王は、無邪気に笑う王妃を見て悲壮な気持ちになるが、それを表情には出さずに沈黙した。
「アントワーヌ、お前は、義兄であるフロレルの悪事を暴くのに二の足を踏んでいるのだろうが、このままこの書類を読み上げよ。何があろうとお前の身分は保証してやる。一言一句漏らすなよ」
「かしこまりました。殿下」
シャルルは悪辣な笑みを浮かべたまま、アントワーヌに真実を明かすよう促す。
「アントワーヌ、たとえ誰に止められようとも、全て読み上げよ」
「はい、心得ましてございます」
アントワーヌはシャルルの言葉に頷いて、書面に目を落とした。
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