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7.王妃様とのお茶会で情報を得ます
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僕は、ラインハルト様の婚約者であるため、王宮で王子の伴侶になるための教育を受けている。その授業の後の時間に王妃様とのお茶の席に招かれることがある。週に一回程度の頻度だが、曜日が決まっているわけではなく、王妃様の公務の隙間を縫って設定されるようだ。
王妃様はご多忙であられるのに、僕のために時間を作ってくださっているのだ。そのお心配りには、感謝しかない。
お話の内容は多岐にわたり、その会話についていくだけの教養と、王妃様の前で過ごせるだけの所作を求められる。僕と親しくなるためだという名目であるが、おそらく王妃様は、僕に対する教育の進行度を確認なさっているのだと思う。
王族の伴侶となるからには、厳しい教育がなされて当然である。
しかし、王妃様も教育係の方も僕には高度なことを求めていらっしゃるものの、基本的にはお優しい方ばかりだ。僕は、環境に恵まれていると思う。
香り高い紅茶と、王宮の美味しい菓子を前に、王妃様は何気ないようにお話をされる。紅茶は南東部にある島の初摘みのものだ。そして、一口大のサンドイッチはハムときゅうりだけをはさんだシンプルなもの。発酵バターを使用した焼き菓子には、クリームと季節のベリーが何種類か添えられている。
「学校での様子を聞いたが、相変わらずラインハルトは、そなたから離れようとしないようだのう」
「いえ、ラインハルト殿下は、至らぬ僕が婚約者の務めを果たせるようにと配慮してくださっていて、ありがたいことです」
王妃様は、ラインハルト様と同じ黄金の髪をしていて、瞳は水色だ。王妃様は、僕の母とは従妹同士で、同じ色の瞳をしていらっしゃる。そして、僕も瞳は同じ色だが、髪が銀色であるため、冷たそうな印象を与えるといわれている。
そのお美しい顔立ちは、ラインハルト様に受け継がれている。
ちなみにヘンドリック殿下は黄金の髪に青い瞳はラインハルト様と同じだけれど、精悍な顔立ちは、国王陛下譲りでいらっしゃる。
「ふふ、謙遜せずとも良いぞ。これからも、息子を支えてやってくれ。ラインハルトは、そなたが傍におらねば、生きていくことが難しいぐらいであるからの」
「身に余る評価です。今後も、僕が、ラインハルト様を支えることができるよう、精進いたします」
「ヘンドリックが王となったときに、ラインハルトには兄を支えてもらうことになる。そのときにそなたのような賢い伴侶がいるということは、得難いことだ。
わたくしも、美しくて聡明なそなたが息子になる日を楽しみにしておる」
「身に余るお言葉、ありがとうございます」
楽し気にお話をされる王妃様は、「そなたがおらねば」などという大げさな表現を使って僕のことを盛り立ててくださる。なんてお優しい方なのだろうか。
しかし、やはりラインハルト様が立太子されるというのは、現実的ではないことなのだ。物語ではそうだったけれど、それとは違う流れになるのだろう。
だけど、もしシモンが神子となれば王家で囲う必要が出てくるのではないだろうか。
いや、王妃様の前でこのようなことを考えていてはいけない。
僕が無表情といわれる顔に、笑みを浮かべると、王妃様も微笑んでくださった。
「ところで、話はかわるが、近頃おかしな魔獣が出るという話があるが、聞いておるかの?」
「はい、これまでよりも凶暴なものが、王都の近隣で出没していると聞いております」
この世界には魔獣がいる。魔素が増えればそこに魔獣が生まれるのだ。そして、魔素の量が多くなれば、それだけ魔獣は凶暴化する。
魔素が多いのは主に山の中や森の中などで、そういう場所で魔獣は多く発生する。また、凶暴化した個体がいる確率も高くなるのだ。逆に、人里に近づけば魔素が減るため、魔獣も少なくなるのが一般的である。
人がいるから魔素が少ないのか、魔素が少ないから人が住み着くようになったのかはわからない。とにかく、人が多い王都の近くにも魔獣はいるが、これまではそれほど凶暴な個体はいなかったのだ。
しかし、最近になって冒険者や商人等から、王都近くの街道でかなり凶暴な魔獣に出会ったという報告が、増えている。騎士団や魔法騎士団も、対策に乗り出していると聞く。
「商人も護衛の冒険者を多く雇うなどして対策をしていると聞き及んでおりますが」
「原因がわからねば、小手先の対策だけではいろいろと難しかろうな。魔法学校の実地演習にも影響があるかもしれぬ」
魔獣の凶暴化を防げなければ、魔法学校の授業にも影響があるだろう。
「いざとなれば、そなたの力を借りねばならぬかもしれん。心得ておくとよかろう。
わたくしが、それを指示するわけではないがな」
「我が身はシュテルン王国のものでごさいますれば、身を投げ打ってもお役に立ちます」
「いや、そなたがおらねばラインハルトがただではすまん。無事でいられる範囲で役立ってくれ」
「かしこまりました。ありがとうございます」
僕の返答に、王妃様は満足げに頷き、その日のお茶会はお開きになった。
家に帰ってから、ノートを開いて記憶をたどる。僕の記憶の中には、魔獣が凶暴化するようなエピソードはない。記憶が曖昧だから、細かいことはわからないのだ。
魔獣被害でけがをする者が増えれば、光魔法使いである神子の存在はより注目を浴びることになるだろう。
物語としては、何かしら神子が登場する必然性のある出来事があると考える方が合理的だ。
王妃様との会話を振り返っても、ヘンドリック殿下の立太子は揺るぎないものだろう。
立太子に関してはそうだとしても、やはり、神子は王家で囲うのが良いと考えられる。そうとなれば、王家としては、神子をラインハルト様の伴侶にするのが無難といえるのではないだろうか。
その方が現実的であるし、シモンが神子と認定されてから、ラインハルト様と親密になるという方があり得る話なのか。
今のところは僕という婚約者を、形式上でもないがしろにはしにくいであろうし。
いずれにしても、ラインハルト様の幸せを考えれば、僕が悪役令息として役目をまっとうするべきなのだろうと思う。
大切なラインハルト様のためなら、いくらでも頑張ることができるのだから。
王妃様はご多忙であられるのに、僕のために時間を作ってくださっているのだ。そのお心配りには、感謝しかない。
お話の内容は多岐にわたり、その会話についていくだけの教養と、王妃様の前で過ごせるだけの所作を求められる。僕と親しくなるためだという名目であるが、おそらく王妃様は、僕に対する教育の進行度を確認なさっているのだと思う。
王族の伴侶となるからには、厳しい教育がなされて当然である。
しかし、王妃様も教育係の方も僕には高度なことを求めていらっしゃるものの、基本的にはお優しい方ばかりだ。僕は、環境に恵まれていると思う。
香り高い紅茶と、王宮の美味しい菓子を前に、王妃様は何気ないようにお話をされる。紅茶は南東部にある島の初摘みのものだ。そして、一口大のサンドイッチはハムときゅうりだけをはさんだシンプルなもの。発酵バターを使用した焼き菓子には、クリームと季節のベリーが何種類か添えられている。
「学校での様子を聞いたが、相変わらずラインハルトは、そなたから離れようとしないようだのう」
「いえ、ラインハルト殿下は、至らぬ僕が婚約者の務めを果たせるようにと配慮してくださっていて、ありがたいことです」
王妃様は、ラインハルト様と同じ黄金の髪をしていて、瞳は水色だ。王妃様は、僕の母とは従妹同士で、同じ色の瞳をしていらっしゃる。そして、僕も瞳は同じ色だが、髪が銀色であるため、冷たそうな印象を与えるといわれている。
そのお美しい顔立ちは、ラインハルト様に受け継がれている。
ちなみにヘンドリック殿下は黄金の髪に青い瞳はラインハルト様と同じだけれど、精悍な顔立ちは、国王陛下譲りでいらっしゃる。
「ふふ、謙遜せずとも良いぞ。これからも、息子を支えてやってくれ。ラインハルトは、そなたが傍におらねば、生きていくことが難しいぐらいであるからの」
「身に余る評価です。今後も、僕が、ラインハルト様を支えることができるよう、精進いたします」
「ヘンドリックが王となったときに、ラインハルトには兄を支えてもらうことになる。そのときにそなたのような賢い伴侶がいるということは、得難いことだ。
わたくしも、美しくて聡明なそなたが息子になる日を楽しみにしておる」
「身に余るお言葉、ありがとうございます」
楽し気にお話をされる王妃様は、「そなたがおらねば」などという大げさな表現を使って僕のことを盛り立ててくださる。なんてお優しい方なのだろうか。
しかし、やはりラインハルト様が立太子されるというのは、現実的ではないことなのだ。物語ではそうだったけれど、それとは違う流れになるのだろう。
だけど、もしシモンが神子となれば王家で囲う必要が出てくるのではないだろうか。
いや、王妃様の前でこのようなことを考えていてはいけない。
僕が無表情といわれる顔に、笑みを浮かべると、王妃様も微笑んでくださった。
「ところで、話はかわるが、近頃おかしな魔獣が出るという話があるが、聞いておるかの?」
「はい、これまでよりも凶暴なものが、王都の近隣で出没していると聞いております」
この世界には魔獣がいる。魔素が増えればそこに魔獣が生まれるのだ。そして、魔素の量が多くなれば、それだけ魔獣は凶暴化する。
魔素が多いのは主に山の中や森の中などで、そういう場所で魔獣は多く発生する。また、凶暴化した個体がいる確率も高くなるのだ。逆に、人里に近づけば魔素が減るため、魔獣も少なくなるのが一般的である。
人がいるから魔素が少ないのか、魔素が少ないから人が住み着くようになったのかはわからない。とにかく、人が多い王都の近くにも魔獣はいるが、これまではそれほど凶暴な個体はいなかったのだ。
しかし、最近になって冒険者や商人等から、王都近くの街道でかなり凶暴な魔獣に出会ったという報告が、増えている。騎士団や魔法騎士団も、対策に乗り出していると聞く。
「商人も護衛の冒険者を多く雇うなどして対策をしていると聞き及んでおりますが」
「原因がわからねば、小手先の対策だけではいろいろと難しかろうな。魔法学校の実地演習にも影響があるかもしれぬ」
魔獣の凶暴化を防げなければ、魔法学校の授業にも影響があるだろう。
「いざとなれば、そなたの力を借りねばならぬかもしれん。心得ておくとよかろう。
わたくしが、それを指示するわけではないがな」
「我が身はシュテルン王国のものでごさいますれば、身を投げ打ってもお役に立ちます」
「いや、そなたがおらねばラインハルトがただではすまん。無事でいられる範囲で役立ってくれ」
「かしこまりました。ありがとうございます」
僕の返答に、王妃様は満足げに頷き、その日のお茶会はお開きになった。
家に帰ってから、ノートを開いて記憶をたどる。僕の記憶の中には、魔獣が凶暴化するようなエピソードはない。記憶が曖昧だから、細かいことはわからないのだ。
魔獣被害でけがをする者が増えれば、光魔法使いである神子の存在はより注目を浴びることになるだろう。
物語としては、何かしら神子が登場する必然性のある出来事があると考える方が合理的だ。
王妃様との会話を振り返っても、ヘンドリック殿下の立太子は揺るぎないものだろう。
立太子に関してはそうだとしても、やはり、神子は王家で囲うのが良いと考えられる。そうとなれば、王家としては、神子をラインハルト様の伴侶にするのが無難といえるのではないだろうか。
その方が現実的であるし、シモンが神子と認定されてから、ラインハルト様と親密になるという方があり得る話なのか。
今のところは僕という婚約者を、形式上でもないがしろにはしにくいであろうし。
いずれにしても、ラインハルト様の幸せを考えれば、僕が悪役令息として役目をまっとうするべきなのだろうと思う。
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