【本編完結】断罪必至の悪役令息に転生したので断罪されます

中屋沙鳥

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8.魔法実技の合同演習があります

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 シュテルン魔法学校は、魔法技術の操作についての高度な授業が行われるところに、ほかの学校との違いがある。当然、魔術師や魔法騎士、魔法薬師を目指している生徒が多くいる。僕の身近な人物でも、ディートフリート様は魔術師を目指していらっしゃるし、フローリアン様は魔法薬師を目指していらっしゃる。

 しかし、魔術師や魔法騎士になることを希望していなくても、魔獣が出ればそれを退治しなければならない。
 王都に魔獣が出ることはめったにないといわれているが、絶対にないともいえない。更に、王都の城壁から一歩外へ出れば、魔獣の繁殖している森はあるし、街道を走る馬車が魔獣に襲われることもある。
 冒険者は、依頼を受けて魔獣を狩る。ドロップ品が高額である魔獣は、特に依頼がなくても狩りに行く。また、騎士団や魔法騎士団は定期的に魔獣を狩ることで、民への被害がないようにするのも仕事のうちだ。

 また、魔獣に立ち向かうのは、魔力量を多く持つ者の義務と言っても良い。僕自身も、そういう教育を受けている。ましてや僕たちは高位貴族なのだから、民を守らなければならないのは当たり前の義務なのだ。

 魔獣退治の技能を学ぶため、シュテルン魔法学校では、魔獣退治の演習が行われる。人為的に作り出した疑似魔獣と戦う訓練をした後に、比較的弱い魔獣が出る王都に隣接した森で実地演習を行うのだ。

 最近は、王都近郊の魔獣が凶暴化しているというので、取りやめになるのではないかと危惧していたが、騎士団や魔法騎士団の協力を得て、今年も実地演習を行うことになった。


 新入生は、疑似魔獣と戦う訓練をする前に、攻撃魔法と防御魔法の魔法実技の授業を受ける。そして、適性によって教師が戦闘訓練をするメンバーの組み合わせを作るのだ。

 魔法実技では、実地演習の前に校内合同演習の時間がある。実地演習も三学年合同で行うため、一年生が疑似魔獣と戦う様子を二年生、三年生が見学し、状況によっては支援するのだ。
 合同演習では三学年合同の仮メンバーが設定されていて、そのままの組み合わせが本メンバーになることも多い。

 合同演習の第三学年の仮メンバーも、すでに決まっている。第三学年では、ラインハルト様とディートフリート様、マルティン様、僕の四人は予備メンバーとしてエントリーされている。二年生では、魔法騎士団副団長ビュッセル侯爵の令息や、戦闘能力が高いことで有名なクレーベ伯爵令息が、予備メンバーとしてエントリーされている。

 ちなみに、自慢ではないが、僕は攻撃魔法も防御魔法も得意だ。教会で鑑定した時にわかる魔法適性からもそれは予想できることだった。それでラインハルト様を守るために婚約者になったのかもしれないと、オスカー兄上が言っていた記憶がある。
 他の人たちからそんな話を聞いたことはないので、完全な憶測であるが。

 シュテルン魔法学校には、合同演習のための広い演習場がある。演習場の中央には、戦闘のための広場があり、周囲には観覧場所がある。
 合同演習の疑似魔獣を前にして一年生たちは、様々な反応を見せる。興奮して立ち向かおうとする生徒やしり込みする生徒、冷静な生徒などだ。実際に魔獣に遭遇したことがある生徒は、例年三割程度いると聞いたことがある。今年はどうなのだろうか。

 疑似魔獣は、王宮の魔術師団が開発したもので、人形に魔石を入れることで魔獣の動きを再現する。魔石に注入する魔力のレベルによって多少の強弱をつけることができるので、近年、初心者の訓練に使われるようになった。今日の疑似魔獣も、魔術師団から提供されているはずだ。

 今回演習で使用されている疑似魔獣は、オウルベアを模したものだ。立ち回りは本物と同じように見えるが、戦闘力は比べ物にならないぐらい弱い。
 一年生が退治できなければ、教師が疑似魔獣を破壊するが、場合によっては上級生が支援することもある。

 中盤に登場したヴァネルハー辺境伯令息ゲレオン・フォン・ハッセンは、すでに本物の魔獣と何度も対峙したことがあるらしく、落ち着いて疑似魔獣を屠っていたのが印象的だった。
 ただし、戦闘演習担当のフィンク先生からは、組んでいるメンバーと協力するようにと注意されていた。同じ組だったバーデン伯爵令息などは「楽だった」と発言していて、そちらも注意の対象になっていたが。

「ふむ、ヴァネルハー辺境伯令息か。学校を卒業したら、国境線の防衛のために領地で魔法騎士になるのだろうな。魔法騎士団は喉から手が出るほど欲しい人材だろうに、残念だな」

 マルティン様が、楽しそうに感想を口にしていらっしゃる。ヴァネルハー辺境伯令息は、来年の合同演習では予備メンバーにエントリーされることだろう。

 ふと、次の組をみると、ピンクブロンドの髪が揺れているのが見える。あれは、シモンだ。

「みんなー! がんばるからねええ! 応援してねええ!」

 シモンはいつもの甲高い叫び声を上げて、周囲に手を振っている。にこにこと笑っている様子はとても可愛らしい。
 まるで当然のように、こちらに向かっても手を大きく振っている。おそらく、ラインハルト様を意識してのことだろう。戦闘前なので、フィンク先生も他の教師もすぐには注意しない。戦闘後に怒られるのだろうと思う。

 あの落ち着きのなさは、無意識なのだろうか、それとも、わざとなのだろうか。

 同じ組になっているのは、マルティン様の弟のグスタフで、顔立ちがよく似ている。兄のマルティン様ほどの技能はないと聞いているが、一年生の中では剣技に優れた生徒であるはずだ。これからの成長が楽しみな逸材だろう。
 マルティン様の視線が、鋭くなる。身内の力を客観的に見極められる、良い機会でもあるといえる。
 後の二人は、レーネ・フォン・ケスナー子爵令嬢とベングラー商会のハンスだ。

 吠え掛かる疑似魔獣に向かって、前衛のグスタフが長剣を向け、レーネが短剣を投げる間合いを取っている。後衛のシモンとハンスが防御魔法を展開しているが、攻撃との連携がうまくいくか不安な感じだ。

 疑似魔獣が両手を挙げて威嚇した後、レーネに向かって突進する。

「あれ……?」

 疑似魔獣の動きが速い。レーネが身を躱して短剣を投げるけれど、毛皮をかすめただけで、傷は与えなかったようだ。疑似魔獣がレーネに気を取られている隙にグスタフが後ろから長剣で切りかかると、疑似魔獣はそれを払うように腕を振った。いくら疑似魔獣といえ、腕が当たれば結構なダメージだ。

 いや、違う。

 疑似魔獣は、どうやら鋭い爪でグスタフを切り裂こうとしたようだ。間一髪で腕を避けたグスタフが、青ざめている。
 レーネが再び投げた短剣を叩き落とした疑似魔獣は、近くにいるグスタフを捕えようと腕を伸ばした。グスタフは、転がって疑似魔獣の攻撃を避ける。ハンスが展開している防御魔法もうまく機能しているようではあるが、どれだけ持つだろうか。

「疑似魔獣の様子がおかしいですね。動きが速すぎる。学校の生徒相手にしては爪が鋭いし、毛皮も刃物を通していない。そんな設定にはしないはずですが。ラインハルト殿下、失礼いたします」
「ああ、頼む」

 ディートフリート様は、そうつぶやかれると同時に、ラインハルト様を守るように防御魔法を展開された。

 フィンク先生は、演習中にはいつでも介入できるようにしておられる。しかし、他の先生がたは戸惑った様子をしていらっしゃるものの、まだ危険とは判断してはいないようだ。
 手遅れになるまでには、何らかの対応をされることとは思うけれど、グスタフとレーネはギリギリの状態のように見えるし、シモンとハンスは棒立ちになっている。

 王妃様との話は、自然界の魔獣の凶暴化だった。しかし、原因がわからない以上、疑似魔獣には凶暴化が起きないとは断言できない。

 もし、疑似魔獣にも凶暴化が起きるのであれば……


 僕は、これから起きる可能性のある事態に対応できるよう、足を一歩前に踏み出した。



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