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19.ラファエルの考え事とは ~ラインハルト~
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ラファエルは、順調に王子の伴侶としての資質を高めていった。わたしの婚約者は美しいだけではなく、強くて賢い。
「ラインハルト様のためなら、いくらでも頑張ることができます」
そう言うラファエルの桃色に染まる頬にキスをすれば、ラファエルもわたしの頬にキスを返してくれる。
「もう、お二人を見ていると甘すぎて砂糖を吐きそうです」
「お願いですから、早く認識阻害の魔法を会得されませ」
側近として傍にいてくれるアルブレヒトとディートフリートは、わたしとラファエルの様子を見てそんなことを言う。
「気になるのなら、見ないようにすれば良いではないか」
「いえいえ、お二人の仲が良いのは側近として幸せでございますから」
「ええ、美しいお二人が寄り添っていらっしゃるのを見るのは、目の保養でございます」
「仲のよろしいところを近くで拝見できるのは運が良いことだと、日々感じておりますよ」
マルティンまでが調子に乗って軽口を言う。
まったく。彼らは迷惑に思っているかのようなことを言うかと思えば、微笑ましいと思っているかのようなことを言う。それも、わたしたちが信頼関係を結べているからこそだ。
婚約者だけでなく、側近にも恵まれている。これもわたしにとっては、幸運なことである。
わたしたちは最終学年となり、皆と楽しく過ごしたシュテルン魔法学校もあと一年で卒業だ。卒業してすぐに、ラファエルと正式な婚約式を行い、その後一年で婚姻を結ぶことになる。
生徒会の仕事も六月をもって終了となる。ちょうど、魔獣討伐の実地演習を終えて、演習の総括を行う頃に新しい生徒会役員が選出されるのだ。
順風満帆だと思っていたのだが。
三年生になってからのラファエルの様子が、これまでとは違うように思う。
「最近、ラファエルが、考えに耽っていることが多くなったのだ」
「ラインハルト殿下のことをお考えなのでは?」
「ラファエルが、ラインハルト殿下のこと以外に考える可能性があるのは……
魔獣討伐に効果的な魔法の使い方ぐらいではありませんか?」
「ああ、魔獣が凶暴化しているって言われておりますしね」
側近たちに話をしても、まったく解決する見込みはない。
ラファエルは、カフェテリアでも、上の空の状態で南側の植栽に目を向けている。
「ラファエル、何か悩みでもあるのかい? ビーフストロガノフが減っていないよ?」
「いえ、ラインハルト殿下、取るに足らぬ些細なことでございます」
わたしは、ラファエルの顎に手をやり、強制的に自分の方を向かせた。氷河を切り出したような薄い水色の瞳に目を合わせると、戸惑うような表情を見せた。
ラファエルは王子の伴侶としての教育が始まってからは、あまり表情を出さなくなってしまった。今この状況でも、わたし以外の人間からは、まったくの無表情に見えているはずだ。
愛の力によってわたしには、ラファエルの表情がわかるけれど。
わたしは、ラファエルの手触りの良い髪を梳くようにして頭をなでてから、顔を寄せ、耳に唇が触れそうな距離で注意をした。
「ラファエル、わたしといる時は、わたしのことを中心に考えるようにね」
「……かしこまりました」
ラファエルは、わたしの言葉に従って、ビーフストロガノフを口に運び、黙々と食べ進め始める。
ラファエルにせっかく触れたのだから、手を下ろしてしまうのは惜しい。そう考えたわたしは、しばらくの間、ラファエルの頭を撫で続けた。
マナー違反だが、ラファエルが可愛らしいのが悪い。少しぐらい良いだろう。
「ラインハルト殿下、ここはカフェテリアの中でございます。ほどほどにされますように」
「ラインハルト殿下、認識阻害の魔法を早く会得されませ」
「アルブレヒト、ディートフリート、外野は黙っていなさい。これぐらいのことで……」
「これぐらいのこととは……」
「はあ……」
アルブレヒトとディートフリートから、呆れたような声が聞こえる。いつものことなのだから、気にするのをやめれば良いのだ。
二人の言うことには耳を貸さず、わたしはラファエルの頭を撫でて、愛で続けた。
「カフェテリアで失神者がでなきゃいいな……」「目の毒……」「溺愛も考えものですわね」
マルティンとフローリアン、ブリギッタは、小さな声で私を非難している。
そして三人は、わたしたちの方を見ないようにして、食事を続けている。たまに美しい婚約者を愛でることぐらい、許してほしいものだ。
カフェテリアの中の、他の生徒たちも、見て見ぬふりをしているようだが……
ふと、先ほどラファエルが見ていた庭園の方を見ると、ピンクブロンドの一年生がこちらを凝視していた。
あれは確か、新入生歓迎会で許可なくわたしの名を呼び、あろうことかわたしの体に触れようとした一年生だ。
確か……レヒナー男爵令息と言ったか。
そういえば、先ほどから騒がしかった。新入生歓迎会でも、礼儀作法が身についておらず、不敬な態度であったが、今でもそのままであるのか。
あのときも、ラファエルが率先して注意を与えていた。王子の婚約者にふさわしい、素晴らしい行動だった。
もしかしたら、ラファエルはカフェテリアでの礼儀作法について気になっていたのかもしれない。
なるほど、真面目なラファエルなら、ありそうなことだ。
わたしは、そのときはそう考えていた。
◇◇◇
「ああんっ……いくうっ……いっちゃううっ」
「ううっ、そんなにっ、しめんなよっ」
「もっとおっ、おくっ……おくついてえええ……ああああん」
「くそっ……きもちいーなー」
「はうんっ…あんっあんっ」
粘着質な水音と体を打ち付けるような音、そして喘ぎ声が聞こえてくる。
ピンクブロンドの髪が揺れ、それに覆いかぶさるように金茶色の髪の少年が見える。彼らは、下半身に何も身に着けない姿で、腰を振っている。
わたしとアルブレヒト、ディートフリート、マルティンは、しばしその場で固まった。
図書館の裏手からおかしな気配がするので確認しに行ったわたしたちは、見てはならないものを見てしまったのである。
「あれは、バーデン伯爵令息とレヒナー男爵令息ですね」
アルブレヒトがぽそりと腰を振っている二人の名前を口にした。
「レイプの可能性がある……ようには見えませんが、一応、教員室に連絡をしましょう」
「そうだな……」
「ええ、そうしましょう」
わたしたちは、ディートフリートの言葉に頷くと、急いで教員室にその状況を知らせに行った。
いや、逃げるようにという言葉の方が、良いのかもしれない。
マルティンは、最初から最後まで沈黙していた。常ならぬ事象を目にして、衝撃を受けていたのだろう。
後日、二人は見た通り合意の上だったというのをそれとなく教えてもらって、胸をなでおろしたのは言うまでもない。
それにしても、あのように誰が来るかわからない場所で性行為をするとは、信じられない。
校内で恋愛関係になり、体をつなげようとする生徒はいるが、もっと人気のない場所を選ぶのが通常であると思う。
よく知らないことではあるが。
学校では身分の隔てなく様々な経験をすることが美徳とされているが、このようなことも経験として知る必要があるのだろうか。
だいたい、図書館の裏は、かなり開放された場所で、人が通ることが想像できる場所だ。一年生だから、そのようなことがわからなかったのか、人目に付くことを気にしていなかったのか。謎でしかない。
その後、数回に渡って、わたしたちはレヒナー男爵令息が腰を振っている場面を目撃することになる。
レヒナー男爵令息。彼はどうやら、一年生の複数の人間と関係を持っているようだった。
「早く、生徒会役員の任期が終わって、見回りから解放されたいですね」
アルブレヒトのつぶやきは、見回りを受け持っているわたしとディートフリート、マルティンの心の叫びでもあった。
「ラインハルト様のためなら、いくらでも頑張ることができます」
そう言うラファエルの桃色に染まる頬にキスをすれば、ラファエルもわたしの頬にキスを返してくれる。
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「お願いですから、早く認識阻害の魔法を会得されませ」
側近として傍にいてくれるアルブレヒトとディートフリートは、わたしとラファエルの様子を見てそんなことを言う。
「気になるのなら、見ないようにすれば良いではないか」
「いえいえ、お二人の仲が良いのは側近として幸せでございますから」
「ええ、美しいお二人が寄り添っていらっしゃるのを見るのは、目の保養でございます」
「仲のよろしいところを近くで拝見できるのは運が良いことだと、日々感じておりますよ」
マルティンまでが調子に乗って軽口を言う。
まったく。彼らは迷惑に思っているかのようなことを言うかと思えば、微笑ましいと思っているかのようなことを言う。それも、わたしたちが信頼関係を結べているからこそだ。
婚約者だけでなく、側近にも恵まれている。これもわたしにとっては、幸運なことである。
わたしたちは最終学年となり、皆と楽しく過ごしたシュテルン魔法学校もあと一年で卒業だ。卒業してすぐに、ラファエルと正式な婚約式を行い、その後一年で婚姻を結ぶことになる。
生徒会の仕事も六月をもって終了となる。ちょうど、魔獣討伐の実地演習を終えて、演習の総括を行う頃に新しい生徒会役員が選出されるのだ。
順風満帆だと思っていたのだが。
三年生になってからのラファエルの様子が、これまでとは違うように思う。
「最近、ラファエルが、考えに耽っていることが多くなったのだ」
「ラインハルト殿下のことをお考えなのでは?」
「ラファエルが、ラインハルト殿下のこと以外に考える可能性があるのは……
魔獣討伐に効果的な魔法の使い方ぐらいではありませんか?」
「ああ、魔獣が凶暴化しているって言われておりますしね」
側近たちに話をしても、まったく解決する見込みはない。
ラファエルは、カフェテリアでも、上の空の状態で南側の植栽に目を向けている。
「ラファエル、何か悩みでもあるのかい? ビーフストロガノフが減っていないよ?」
「いえ、ラインハルト殿下、取るに足らぬ些細なことでございます」
わたしは、ラファエルの顎に手をやり、強制的に自分の方を向かせた。氷河を切り出したような薄い水色の瞳に目を合わせると、戸惑うような表情を見せた。
ラファエルは王子の伴侶としての教育が始まってからは、あまり表情を出さなくなってしまった。今この状況でも、わたし以外の人間からは、まったくの無表情に見えているはずだ。
愛の力によってわたしには、ラファエルの表情がわかるけれど。
わたしは、ラファエルの手触りの良い髪を梳くようにして頭をなでてから、顔を寄せ、耳に唇が触れそうな距離で注意をした。
「ラファエル、わたしといる時は、わたしのことを中心に考えるようにね」
「……かしこまりました」
ラファエルは、わたしの言葉に従って、ビーフストロガノフを口に運び、黙々と食べ進め始める。
ラファエルにせっかく触れたのだから、手を下ろしてしまうのは惜しい。そう考えたわたしは、しばらくの間、ラファエルの頭を撫で続けた。
マナー違反だが、ラファエルが可愛らしいのが悪い。少しぐらい良いだろう。
「ラインハルト殿下、ここはカフェテリアの中でございます。ほどほどにされますように」
「ラインハルト殿下、認識阻害の魔法を早く会得されませ」
「アルブレヒト、ディートフリート、外野は黙っていなさい。これぐらいのことで……」
「これぐらいのこととは……」
「はあ……」
アルブレヒトとディートフリートから、呆れたような声が聞こえる。いつものことなのだから、気にするのをやめれば良いのだ。
二人の言うことには耳を貸さず、わたしはラファエルの頭を撫でて、愛で続けた。
「カフェテリアで失神者がでなきゃいいな……」「目の毒……」「溺愛も考えものですわね」
マルティンとフローリアン、ブリギッタは、小さな声で私を非難している。
そして三人は、わたしたちの方を見ないようにして、食事を続けている。たまに美しい婚約者を愛でることぐらい、許してほしいものだ。
カフェテリアの中の、他の生徒たちも、見て見ぬふりをしているようだが……
ふと、先ほどラファエルが見ていた庭園の方を見ると、ピンクブロンドの一年生がこちらを凝視していた。
あれは確か、新入生歓迎会で許可なくわたしの名を呼び、あろうことかわたしの体に触れようとした一年生だ。
確か……レヒナー男爵令息と言ったか。
そういえば、先ほどから騒がしかった。新入生歓迎会でも、礼儀作法が身についておらず、不敬な態度であったが、今でもそのままであるのか。
あのときも、ラファエルが率先して注意を与えていた。王子の婚約者にふさわしい、素晴らしい行動だった。
もしかしたら、ラファエルはカフェテリアでの礼儀作法について気になっていたのかもしれない。
なるほど、真面目なラファエルなら、ありそうなことだ。
わたしは、そのときはそう考えていた。
◇◇◇
「ああんっ……いくうっ……いっちゃううっ」
「ううっ、そんなにっ、しめんなよっ」
「もっとおっ、おくっ……おくついてえええ……ああああん」
「くそっ……きもちいーなー」
「はうんっ…あんっあんっ」
粘着質な水音と体を打ち付けるような音、そして喘ぎ声が聞こえてくる。
ピンクブロンドの髪が揺れ、それに覆いかぶさるように金茶色の髪の少年が見える。彼らは、下半身に何も身に着けない姿で、腰を振っている。
わたしとアルブレヒト、ディートフリート、マルティンは、しばしその場で固まった。
図書館の裏手からおかしな気配がするので確認しに行ったわたしたちは、見てはならないものを見てしまったのである。
「あれは、バーデン伯爵令息とレヒナー男爵令息ですね」
アルブレヒトがぽそりと腰を振っている二人の名前を口にした。
「レイプの可能性がある……ようには見えませんが、一応、教員室に連絡をしましょう」
「そうだな……」
「ええ、そうしましょう」
わたしたちは、ディートフリートの言葉に頷くと、急いで教員室にその状況を知らせに行った。
いや、逃げるようにという言葉の方が、良いのかもしれない。
マルティンは、最初から最後まで沈黙していた。常ならぬ事象を目にして、衝撃を受けていたのだろう。
後日、二人は見た通り合意の上だったというのをそれとなく教えてもらって、胸をなでおろしたのは言うまでもない。
それにしても、あのように誰が来るかわからない場所で性行為をするとは、信じられない。
校内で恋愛関係になり、体をつなげようとする生徒はいるが、もっと人気のない場所を選ぶのが通常であると思う。
よく知らないことではあるが。
学校では身分の隔てなく様々な経験をすることが美徳とされているが、このようなことも経験として知る必要があるのだろうか。
だいたい、図書館の裏は、かなり開放された場所で、人が通ることが想像できる場所だ。一年生だから、そのようなことがわからなかったのか、人目に付くことを気にしていなかったのか。謎でしかない。
その後、数回に渡って、わたしたちはレヒナー男爵令息が腰を振っている場面を目撃することになる。
レヒナー男爵令息。彼はどうやら、一年生の複数の人間と関係を持っているようだった。
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