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24.魔法騎士団の演習場で大騒ぎです
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ラファエル視点に戻ります。
★★★★★★★
実地演習では、常よりは魔獣の数は多く、凶暴なものが多かった。しかしながら、フィンク先生によると、僕たちが遭遇したヘルハウンド以外は想定内だったそうだ。
群れの中心となっていた超大型のヘルハウンドを僕が倒したときに、その周囲にいたヘルハウンドも倒れていったことについては、現在調査中だ。原因がはっきりわからなければ、防ぎようがないし、王都の森に限った現象ではないことも考えられる。
いずれにしても、調査結果が出ないことには何もできない。
僕はといえば、あれ以降、魔法騎士団から訓練参加のお誘いをいただいている。僕たち魔法学校の生徒の中には、将来のために在学中から魔法騎士団や魔術師団等の業務研修をする者がいる。マルティン様は、騎士団と魔法騎士団の合同訓練に参加していらっしゃるし、ディートフリート様は、魔術師団の研究室に入り浸っていらっしゃる。
「生徒会の任期が終わったら、魔法騎士団の訓練に参加してみようか」
「よろしいのですか?」
王宮に向かう馬車の中で、ラインハルト様が僕に魔法騎士団の訓練への参加を勧めてくださった。今は馬車に二人きりだ。無表情である必要がないと思った僕は、笑顔をラインハルト様に向ける。
「わたしと一緒に参加できるときだけになるけれどね。父上からも、ラファエルのお父上からも、許可を取っているから」
「はい、ありがとうございます。ラインハルト様が一緒に来てくださるのでしたら、僕も安心です」
「喜んでもらえて、わたしもうれしい」
ラインハルト様は、僕がもう少し鍛錬に時間を取りたいと思っていることを察してくださったのだろう。王子の伴侶になるための教育にかなり時間を取られているため、鍛錬はかなり工夫して行っているのだ。
ラインハルト様は僕の額にキスをしてから、肩を抱き寄せて僕の髪に顔を寄せていらっしゃる。
また、匂いを確認なさっているのだろうか。
生徒会の引継ぎを終わり、季節は夏に向かっていく。
ラインハルト様と一緒に過ごせるのも、あとわずかなのだろうか。
胸が痛い。
だけど、ラインハルト様が幸せになるのであれば、どんなことでも耐えられるはずだ。
魔法騎士団の訓練へ初めて参加することになったその初日、僕は、魔法騎士団の演習場にある、戦闘訓練場の脇の回廊にいた。
「お前が、身分をかさに着て、可愛らしい一年生をいじめているという輩かあああ!」
「僕、いつもあのラファエルセンパイに、意地悪されてるんですうう!」
「は?」
「え?」
演習場の戦闘訓練場に沿った回廊で、僕に長剣を向けた魔法騎士らしき男が大声を出している。その男の腕にすがりついて叫び声を上げているのは、ピンクブロンドにエメラルドの瞳の可愛らしい一年生だ。
そう、シモンである。
シモンは、どうして魔法騎士団の演習場にいるのだろうか。
たしか、光魔法を使いこなすために魔法実技担当のウーリヒ先生から特訓を受けていると聞いていたのだが。
僕の隣では、僕たちとともに魔法騎士団の訓練に参加することになっているビュッセル侯爵令息とヴァネルハー辺境伯令息が、呆れた顔をして変な声を出している。
かなり無礼だと思っているのだろう。僕も、そう思う。
思っているだけで、表情にも声にも出していないけれども。
ところでこれは、魔法騎士団でも僕が悪役令息という認識が、広がる場面なのだろうか。学校外へ噂が広がる一環として。
実は、魔法騎士団本部までは、ラインハルト様とマルティン様も、僕たちとご一緒してくださっていた。魔法騎士団長へのご挨拶にあたって、あまり大勢で伺ってはご迷惑だろうと、ラインハルト様と、これまでも訓練に参加していたマルティン様のお二人で向かわれたのだ。
ちょうど、ラインハルト様と別行動となったところで、このようなことが起きるのは、物語の展開上必要なことだからなのだろうか。
あの魔法騎士は僕を詰るつもりであるらしいが、初対面であるし、自己紹介だけはしておこう。訓練服についている階級章は分隊長のようだ。実地演習のときにお世話をしてくださったバウマン分隊長とは、かなり雰囲気が違う。
「初めてお目にかかります。僕は……」
「挨拶なんぞ受ける気はない! お前のような卑怯者には、この誇り高い魔法騎士団の訓練に参加する資格はないということだ!
聞いているぞ、自分の婚約者に話しかけるシモンに嫉妬して意地の悪いことを言っているそうだな!」
挨拶もしてはいけないのか。なかなか対応が難しい。
僕の婚約者が誰であるかがわかれば、納得していただけると思うのだが、悪役令息としてはこれを受けねばならぬのだろうか。
「何かあれば報告しろと父が言っていたのですが、このようなことを報告せねばならぬのでしょうかね」
ビュッセル侯爵令息がぽつりとつぶやく。彼のお父上は魔法騎士団の副団長だ。自分の上司の子息の前であのような態度を取るということは、自分が絶対正義だと信じているのだろう。
まあ、僕が悪役令息と思えば、あの分隊長殿の態度は正しいと言って良い。
物語の強制力だろうと考えれば、わかるような気がする。
「よし、そんなに参加したいのなら、俺が一対一の対戦形式で訓練をしてやる。戦闘訓練場に出ろっ!」
「がんばってくださあい! 僕、応援してますっ」
僕が何も言っていないのに、この分隊長殿の中で話は進行している。そして、シモンの中でも同じように話が進行しているようだ。
ここで僕がこの分隊長殿と模擬戦闘を行っても、シモンには何の影響もないような気がするのだけれども。はて。
「あーあー。ヒムメル侯爵令息のことをまったく知らないのですね。
それにしても、あの言動はすごいな。あんな魔法騎士は、僕の領地にはいません。王都は平和ですね」
ヴァネルハー辺境伯令息が呆れたようにつぶやいている。うん、ヒムメル侯爵領にもああいう魔法騎士はいない。
僕が、どう対応したものかと迷っていると、回廊の向こうから人の来る気配がした。
「ガウク分隊長! 貴殿は何をしているのだ……?」
聞き覚えのある声のする方に目をやると、バウマン分隊長がこちらに向かっているのが見える。
そして、僕を詰ろうとしている分隊長の名前が、ガウクであるというのもそれでわかった。ガウクといえば、バーデン伯爵家の分家だ。男爵家だったと記憶している。
シモンの同級生であるバーデン伯爵令息経由で、お互いに知り合ったのだろうか。
バーデン伯爵令息は、実地演習にも自らシモンと同じチームに入りたいと志願していたようであるし、二人は仲が良いのであろう。
まあ、それは、後で調べればいいことだ。
「可愛い一年生をいじめているというシュテルン魔法学校の三年生に制裁を下すところだ。バウマンは黙っていろ」
「え? 三年生というと……」
演習場を見渡したバウマン分隊長と僕の目が合う。僕が頷くと、バウマン分隊長の顔色がみるみる青くなっていく。
訓練をしてやるという名目にするはずだったのに、制裁と言ってしまっているし。このガウク分隊長は、分隊長の地位にいて大丈夫なのだろうか。
ところで、ビュッセル侯爵令息は、手帳に何かを記入し始めているようだ。危機管理のできる人物なのだな。
「ガウク分隊長っ! やめろっ! 学校の生徒相手に私闘をする気か?」
「うるさいっ バウマン! 平民は黙っていろ!」
「ガウク分隊長っ! 命が惜しくないのか」
「馬鹿にするなっ! 平民風情が!」
僕には身分をかさに着てシモンを虐めていると言ったのに、バウマン分隊長にはあのようなことを言うのか。
最低だ。どんな目にあわせても良いかもしれない。
そして、名前を聞いたことがないということは、それほど強くはないだろう。僕の能力をご存じのバウマン分隊長も、ガウク分隊長の心配をされていたことだし。
油断をしてはいけないけれど。
ふと、バウマン分隊長の後ろを見ると、ラインハルト様とマルティン様がいらっしゃる。もしかしたら、バウマン分隊長が案内してこられたのだろうか。
マルティン様が、バウマン分隊長に何やらお話しされていて、彼の顔色がさらに悪くなっていくのが見える。
「さあ、卑怯者! 早く出てこいっ!」
ガウク分隊長が戦闘訓練場の中央で大声を上げている。戦闘訓練場の周囲には、何人かの魔法騎士が見学に来ているようだ。
僕は、ラインハルト様と目を合わせる。ラインハルト様は、僕を見ると微笑んで、大きく頷かれた。
どうやら、ガウク分隊長を叩きのめす許可をいただけたようだ。
僕は、ラインハルト様に向かって礼を取り、模擬戦用の木刀を手にして、戦闘訓練場に足を踏み入れた。
★★★★★★★
実地演習では、常よりは魔獣の数は多く、凶暴なものが多かった。しかしながら、フィンク先生によると、僕たちが遭遇したヘルハウンド以外は想定内だったそうだ。
群れの中心となっていた超大型のヘルハウンドを僕が倒したときに、その周囲にいたヘルハウンドも倒れていったことについては、現在調査中だ。原因がはっきりわからなければ、防ぎようがないし、王都の森に限った現象ではないことも考えられる。
いずれにしても、調査結果が出ないことには何もできない。
僕はといえば、あれ以降、魔法騎士団から訓練参加のお誘いをいただいている。僕たち魔法学校の生徒の中には、将来のために在学中から魔法騎士団や魔術師団等の業務研修をする者がいる。マルティン様は、騎士団と魔法騎士団の合同訓練に参加していらっしゃるし、ディートフリート様は、魔術師団の研究室に入り浸っていらっしゃる。
「生徒会の任期が終わったら、魔法騎士団の訓練に参加してみようか」
「よろしいのですか?」
王宮に向かう馬車の中で、ラインハルト様が僕に魔法騎士団の訓練への参加を勧めてくださった。今は馬車に二人きりだ。無表情である必要がないと思った僕は、笑顔をラインハルト様に向ける。
「わたしと一緒に参加できるときだけになるけれどね。父上からも、ラファエルのお父上からも、許可を取っているから」
「はい、ありがとうございます。ラインハルト様が一緒に来てくださるのでしたら、僕も安心です」
「喜んでもらえて、わたしもうれしい」
ラインハルト様は、僕がもう少し鍛錬に時間を取りたいと思っていることを察してくださったのだろう。王子の伴侶になるための教育にかなり時間を取られているため、鍛錬はかなり工夫して行っているのだ。
ラインハルト様は僕の額にキスをしてから、肩を抱き寄せて僕の髪に顔を寄せていらっしゃる。
また、匂いを確認なさっているのだろうか。
生徒会の引継ぎを終わり、季節は夏に向かっていく。
ラインハルト様と一緒に過ごせるのも、あとわずかなのだろうか。
胸が痛い。
だけど、ラインハルト様が幸せになるのであれば、どんなことでも耐えられるはずだ。
魔法騎士団の訓練へ初めて参加することになったその初日、僕は、魔法騎士団の演習場にある、戦闘訓練場の脇の回廊にいた。
「お前が、身分をかさに着て、可愛らしい一年生をいじめているという輩かあああ!」
「僕、いつもあのラファエルセンパイに、意地悪されてるんですうう!」
「は?」
「え?」
演習場の戦闘訓練場に沿った回廊で、僕に長剣を向けた魔法騎士らしき男が大声を出している。その男の腕にすがりついて叫び声を上げているのは、ピンクブロンドにエメラルドの瞳の可愛らしい一年生だ。
そう、シモンである。
シモンは、どうして魔法騎士団の演習場にいるのだろうか。
たしか、光魔法を使いこなすために魔法実技担当のウーリヒ先生から特訓を受けていると聞いていたのだが。
僕の隣では、僕たちとともに魔法騎士団の訓練に参加することになっているビュッセル侯爵令息とヴァネルハー辺境伯令息が、呆れた顔をして変な声を出している。
かなり無礼だと思っているのだろう。僕も、そう思う。
思っているだけで、表情にも声にも出していないけれども。
ところでこれは、魔法騎士団でも僕が悪役令息という認識が、広がる場面なのだろうか。学校外へ噂が広がる一環として。
実は、魔法騎士団本部までは、ラインハルト様とマルティン様も、僕たちとご一緒してくださっていた。魔法騎士団長へのご挨拶にあたって、あまり大勢で伺ってはご迷惑だろうと、ラインハルト様と、これまでも訓練に参加していたマルティン様のお二人で向かわれたのだ。
ちょうど、ラインハルト様と別行動となったところで、このようなことが起きるのは、物語の展開上必要なことだからなのだろうか。
あの魔法騎士は僕を詰るつもりであるらしいが、初対面であるし、自己紹介だけはしておこう。訓練服についている階級章は分隊長のようだ。実地演習のときにお世話をしてくださったバウマン分隊長とは、かなり雰囲気が違う。
「初めてお目にかかります。僕は……」
「挨拶なんぞ受ける気はない! お前のような卑怯者には、この誇り高い魔法騎士団の訓練に参加する資格はないということだ!
聞いているぞ、自分の婚約者に話しかけるシモンに嫉妬して意地の悪いことを言っているそうだな!」
挨拶もしてはいけないのか。なかなか対応が難しい。
僕の婚約者が誰であるかがわかれば、納得していただけると思うのだが、悪役令息としてはこれを受けねばならぬのだろうか。
「何かあれば報告しろと父が言っていたのですが、このようなことを報告せねばならぬのでしょうかね」
ビュッセル侯爵令息がぽつりとつぶやく。彼のお父上は魔法騎士団の副団長だ。自分の上司の子息の前であのような態度を取るということは、自分が絶対正義だと信じているのだろう。
まあ、僕が悪役令息と思えば、あの分隊長殿の態度は正しいと言って良い。
物語の強制力だろうと考えれば、わかるような気がする。
「よし、そんなに参加したいのなら、俺が一対一の対戦形式で訓練をしてやる。戦闘訓練場に出ろっ!」
「がんばってくださあい! 僕、応援してますっ」
僕が何も言っていないのに、この分隊長殿の中で話は進行している。そして、シモンの中でも同じように話が進行しているようだ。
ここで僕がこの分隊長殿と模擬戦闘を行っても、シモンには何の影響もないような気がするのだけれども。はて。
「あーあー。ヒムメル侯爵令息のことをまったく知らないのですね。
それにしても、あの言動はすごいな。あんな魔法騎士は、僕の領地にはいません。王都は平和ですね」
ヴァネルハー辺境伯令息が呆れたようにつぶやいている。うん、ヒムメル侯爵領にもああいう魔法騎士はいない。
僕が、どう対応したものかと迷っていると、回廊の向こうから人の来る気配がした。
「ガウク分隊長! 貴殿は何をしているのだ……?」
聞き覚えのある声のする方に目をやると、バウマン分隊長がこちらに向かっているのが見える。
そして、僕を詰ろうとしている分隊長の名前が、ガウクであるというのもそれでわかった。ガウクといえば、バーデン伯爵家の分家だ。男爵家だったと記憶している。
シモンの同級生であるバーデン伯爵令息経由で、お互いに知り合ったのだろうか。
バーデン伯爵令息は、実地演習にも自らシモンと同じチームに入りたいと志願していたようであるし、二人は仲が良いのであろう。
まあ、それは、後で調べればいいことだ。
「可愛い一年生をいじめているというシュテルン魔法学校の三年生に制裁を下すところだ。バウマンは黙っていろ」
「え? 三年生というと……」
演習場を見渡したバウマン分隊長と僕の目が合う。僕が頷くと、バウマン分隊長の顔色がみるみる青くなっていく。
訓練をしてやるという名目にするはずだったのに、制裁と言ってしまっているし。このガウク分隊長は、分隊長の地位にいて大丈夫なのだろうか。
ところで、ビュッセル侯爵令息は、手帳に何かを記入し始めているようだ。危機管理のできる人物なのだな。
「ガウク分隊長っ! やめろっ! 学校の生徒相手に私闘をする気か?」
「うるさいっ バウマン! 平民は黙っていろ!」
「ガウク分隊長っ! 命が惜しくないのか」
「馬鹿にするなっ! 平民風情が!」
僕には身分をかさに着てシモンを虐めていると言ったのに、バウマン分隊長にはあのようなことを言うのか。
最低だ。どんな目にあわせても良いかもしれない。
そして、名前を聞いたことがないということは、それほど強くはないだろう。僕の能力をご存じのバウマン分隊長も、ガウク分隊長の心配をされていたことだし。
油断をしてはいけないけれど。
ふと、バウマン分隊長の後ろを見ると、ラインハルト様とマルティン様がいらっしゃる。もしかしたら、バウマン分隊長が案内してこられたのだろうか。
マルティン様が、バウマン分隊長に何やらお話しされていて、彼の顔色がさらに悪くなっていくのが見える。
「さあ、卑怯者! 早く出てこいっ!」
ガウク分隊長が戦闘訓練場の中央で大声を上げている。戦闘訓練場の周囲には、何人かの魔法騎士が見学に来ているようだ。
僕は、ラインハルト様と目を合わせる。ラインハルト様は、僕を見ると微笑んで、大きく頷かれた。
どうやら、ガウク分隊長を叩きのめす許可をいただけたようだ。
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