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21.守り守られる ~ラインハルト~
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校内での合同演習を補習の形で無事に終了し、王都郊外の森で実地演習を行うことになった。
実地演習を行うにあたって、生徒会に依頼したいことがあるからと、わたしたち生徒会役員は、学長室に呼ばれた。
ホフマン学長は、生徒会の三年生が、森での魔獣討伐と本部での看護業務とを担うように指示された。例年であれば、予備メンバーは自由に森を巡回して演習の指導・援助を行い、それ以外のメンバーは演習に組み込まれる。しかし、今年は魔獣の凶暴化が激しいため、わたしたちは討伐を中心に行い、指導・援助は騎士団と魔法騎士団との手勢に任せることになるようだ。
王子のわたしを無傷で帰すために、他学年の援助をしなくても良いと言っているということも考慮に入れた方がよさそうだ。
もちろん、不測の事態が起きればわたしたち……、ラファエルとマルティンが中心となって対応することになるだろうが、そのようなことは起こさないようにするのが騎士団と魔法騎士団の役目だ。
学長自身もラファエルとマルティンの戦闘能力と、ディートフリートの防護魔術をあてにしているのだろうというような発言をしていた。
その予想に違わず、彼らは身を挺してわたしを守ってくれることだろう。
学長室を出て生徒会室へ向かう途中で、ラファエルが物思いに沈んでいることに気づいた。ラファエルは、最近考え事をしていることが多くなった。ラファエルがわたしの前でわたし以外のことを考えているのかと思うと、黒いものが胸の中にこみ上げてくる。
心の狭い婚約者は嫌われると、兄上からの助言を受けたので耐えているが、気になるものは仕方ない。
「ラファエルは、廊下を歩いているというのに、また何か考え事をしているようだね」
わたしはラファエルの腰を抱き寄せて、囁いた。ラファエルは少し動揺した様子でわたしを見あげた。もちろん、他の者が見てもラファエルが動揺していることはわからないだろう。
そもそも、考え事をしているかどうかがどうしてわかるのかと先日もマルティンに聞かれたところだ。愛する婚約者のことなのだから、わかるのが当たり前だと思うのだが。
「申し訳ございません。学長のお話を受けまして、どのような状況になっても、身を挺してラインハルト殿下をお守りせねばと考えてしまい」
わたしのことを考えていたと告白するラファエル。その美しさに胸を打たれる。わたしは氷河を切り出したような薄い水色の瞳を見ながら、思わず笑顔になってしまった。これも、外から見れば王子らしい洗練された微笑であったはずだ。多分。
いや、そんなことより、ラファエルはわたしを守ることを考えていたと言ったのか?
「ああ、わたしのラファエルはなんて可愛いのだろうね!」
「は? え?」
わたしは愛しいと思う気持ちが抑えられず、ラファエルを抱きしめた。
可愛い、愛しい、美しいラファエルが、身を挺してわたしを守るということを真剣に考えている。わたしにとって、このように喜ばしいことがあるだろうか。もちろん、ラファエルはわたしの身の安全を優先していることを知ってはいるが、危機が予想される状況でまずわたしのことを考えてくれるとは。
私の婚約者は、なんと素晴らしいのだろうか。
わたしは、ラファエルの髪の匂いを確かめて幸福感を味わう。
周囲からは悲鳴やざわめきが聞こえて来る。わたしたちが仲良くしている様子を見るのは、魔法学校の生徒たちには嬉しいことであると、フローリアンからもブリギッタからも聞いているので、皆はおそらく歓声を上げているのだろう。
「ラインハルト殿下、ここは校内の廊下ですからお控えくださいますように。皆は喜んでおりますが……」
「だから、早く認識阻害の魔法を会得されませと申しておりますのに。皆に見せびらかすようなものでございますよ」
「大きな問題ではないのだから、かまわぬであろう」
「はあ……」
アルブレヒトとディートフリートが、苦言を呈するような物言いをするが、その表情は苦言とは程遠いもので、むしろ状況を楽しんでいるかのように見える。
そうはいっても、ラファエルを抱きしめた状態で移動するのは難しいのはわかっている。わたしは、再びラファエルを強く抱きしめてから、彼を解放した。
ラファエルは、わたしに注意されたと思っているようで少しばかり元気がない。その様子も可愛らしいので、わたしはラファエルの腰を抱き、手をつないで、彼をエスコートしながら生徒会室に帰った。
その間、学校の生徒たちの歓喜の視線と、側近たちの生温い視線の両方を浴びていたのは言うまでもない。
しかし、ラファエルはそもそもわたしの護衛ではなく婚約者である。わたしを守るという気持ちが強すぎるのは気になるところだ。今後、自分も周囲から守られる対象であるとの自覚を強く持たせるよう働きかける必要があるだろう。
母上によると、わたしがいないときには、自分が守られる対象であると理解しているらしい。
わたしのラファエルは、なんて可愛いのだろうか。他の表現が思い当たらない。
「ラファエルのことは、ラインハルトが守ってやるのが一番じゃ。まあ、お互いに守り守られ、という関係のように見えておるから安心せい」
母上はそう言って笑っていた。
実地演習を行うにあたって、生徒会に依頼したいことがあるからと、わたしたち生徒会役員は、学長室に呼ばれた。
ホフマン学長は、生徒会の三年生が、森での魔獣討伐と本部での看護業務とを担うように指示された。例年であれば、予備メンバーは自由に森を巡回して演習の指導・援助を行い、それ以外のメンバーは演習に組み込まれる。しかし、今年は魔獣の凶暴化が激しいため、わたしたちは討伐を中心に行い、指導・援助は騎士団と魔法騎士団との手勢に任せることになるようだ。
王子のわたしを無傷で帰すために、他学年の援助をしなくても良いと言っているということも考慮に入れた方がよさそうだ。
もちろん、不測の事態が起きればわたしたち……、ラファエルとマルティンが中心となって対応することになるだろうが、そのようなことは起こさないようにするのが騎士団と魔法騎士団の役目だ。
学長自身もラファエルとマルティンの戦闘能力と、ディートフリートの防護魔術をあてにしているのだろうというような発言をしていた。
その予想に違わず、彼らは身を挺してわたしを守ってくれることだろう。
学長室を出て生徒会室へ向かう途中で、ラファエルが物思いに沈んでいることに気づいた。ラファエルは、最近考え事をしていることが多くなった。ラファエルがわたしの前でわたし以外のことを考えているのかと思うと、黒いものが胸の中にこみ上げてくる。
心の狭い婚約者は嫌われると、兄上からの助言を受けたので耐えているが、気になるものは仕方ない。
「ラファエルは、廊下を歩いているというのに、また何か考え事をしているようだね」
わたしはラファエルの腰を抱き寄せて、囁いた。ラファエルは少し動揺した様子でわたしを見あげた。もちろん、他の者が見てもラファエルが動揺していることはわからないだろう。
そもそも、考え事をしているかどうかがどうしてわかるのかと先日もマルティンに聞かれたところだ。愛する婚約者のことなのだから、わかるのが当たり前だと思うのだが。
「申し訳ございません。学長のお話を受けまして、どのような状況になっても、身を挺してラインハルト殿下をお守りせねばと考えてしまい」
わたしのことを考えていたと告白するラファエル。その美しさに胸を打たれる。わたしは氷河を切り出したような薄い水色の瞳を見ながら、思わず笑顔になってしまった。これも、外から見れば王子らしい洗練された微笑であったはずだ。多分。
いや、そんなことより、ラファエルはわたしを守ることを考えていたと言ったのか?
「ああ、わたしのラファエルはなんて可愛いのだろうね!」
「は? え?」
わたしは愛しいと思う気持ちが抑えられず、ラファエルを抱きしめた。
可愛い、愛しい、美しいラファエルが、身を挺してわたしを守るということを真剣に考えている。わたしにとって、このように喜ばしいことがあるだろうか。もちろん、ラファエルはわたしの身の安全を優先していることを知ってはいるが、危機が予想される状況でまずわたしのことを考えてくれるとは。
私の婚約者は、なんと素晴らしいのだろうか。
わたしは、ラファエルの髪の匂いを確かめて幸福感を味わう。
周囲からは悲鳴やざわめきが聞こえて来る。わたしたちが仲良くしている様子を見るのは、魔法学校の生徒たちには嬉しいことであると、フローリアンからもブリギッタからも聞いているので、皆はおそらく歓声を上げているのだろう。
「ラインハルト殿下、ここは校内の廊下ですからお控えくださいますように。皆は喜んでおりますが……」
「だから、早く認識阻害の魔法を会得されませと申しておりますのに。皆に見せびらかすようなものでございますよ」
「大きな問題ではないのだから、かまわぬであろう」
「はあ……」
アルブレヒトとディートフリートが、苦言を呈するような物言いをするが、その表情は苦言とは程遠いもので、むしろ状況を楽しんでいるかのように見える。
そうはいっても、ラファエルを抱きしめた状態で移動するのは難しいのはわかっている。わたしは、再びラファエルを強く抱きしめてから、彼を解放した。
ラファエルは、わたしに注意されたと思っているようで少しばかり元気がない。その様子も可愛らしいので、わたしはラファエルの腰を抱き、手をつないで、彼をエスコートしながら生徒会室に帰った。
その間、学校の生徒たちの歓喜の視線と、側近たちの生温い視線の両方を浴びていたのは言うまでもない。
しかし、ラファエルはそもそもわたしの護衛ではなく婚約者である。わたしを守るという気持ちが強すぎるのは気になるところだ。今後、自分も周囲から守られる対象であるとの自覚を強く持たせるよう働きかける必要があるだろう。
母上によると、わたしがいないときには、自分が守られる対象であると理解しているらしい。
わたしのラファエルは、なんて可愛いのだろうか。他の表現が思い当たらない。
「ラファエルのことは、ラインハルトが守ってやるのが一番じゃ。まあ、お互いに守り守られ、という関係のように見えておるから安心せい」
母上はそう言って笑っていた。
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