【本編完結】断罪必至の悪役令息に転生したので断罪されます

中屋沙鳥

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25.魔法騎士団から勧誘を受けました

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「だああああああっ!」

 威嚇するような声を上げながら、ガウク分隊長が僕に向かってくる。

 僕が訓練を受けるはずなのに、あちらが積極的にかかってくるのか。
 ちなみに、礼や挨拶はしていない。

 やはりこれは、訓練ではなく私闘なのだろう。魔法騎士が、ただの魔法学校の生徒を威嚇しながら木刀を向けてかかってくる。これこそが、いじめというやつだと思うけれども。
 そして、僕は防具をつけていない。ガウク分隊長は、完全に僕を害する気だと判断して良いだろう。

 ちらりとシモンの方を見ると、隣にウーリヒ先生がいらっしゃる。特訓の一環として、魔法騎士団に連れてこられたのだろうか。
 楽し気なシモンの様子を見て、自分の役割を思う。僕は、悪役令息だ。
 シモンはこの状況をそれほど重く受け止めていないように見える。まるで、見物客のような風情だ。それとは正反対に、ウーリヒ先生の顔色は悪い。

 僕はまだ、悪役令息としての本領を発揮できていない。ここで魔法騎士団の分隊長を叩きのめすことで、悪役令息にふさわしいと認められるのかもしれない。魔法騎士団には、すでにシモンによって僕が悪役だと広められているようであるし。
 
 よし、頑張ろう。良い機会だ。

 ガウク分隊長は木刀に火の魔法を纏わせている。木刀が燃えたりはしないが、攻撃された側は火傷をする可能性が高いものだ。魔法騎士団所属の治癒魔術師はいるだろうが、防具をつけていない素人相手の訓練で使う戦法ではない。

 しかし、分隊長級にしては動きが悪いような?

 僕は、振り下ろされた木刀を躱すと、それを持つ手首を風の魔力を纏わせた自分の木刀で跳ね上げると、ごき、という硬質で不快な音がした。

 あ、これは骨が折れたな。

「うぎゃあああっ」

 ガウク分隊長が変な叫び声を上げる。一応手加減したけれど、手首は骨が脆いところだから折れやすい。まあ、訓練と言いつつ防具をつけていないのだから仕方ないし、魔法学校の子ども相手に火の魔法を全開でかけてきたのだから、諦めてもらおう。
 だけど、彼は身体強化をしていなかったのだろうか。
 ガウク分隊長の右手から木刀が離れたので、これが通常の模擬対戦であれば僕の勝利だが、その判断は誰がするのだろうか。すぐに治療魔術師に手当てをしてもらったほうが良いと思うのだけれども。

「おのれええええっ!」
「まだ、終わりませんか?」

 ガウク分隊長は気合の入った声と同時に、今度は近距離で火炎魔法を向けてきた。危ないことこの上ない。
 僕は、とっさに防護壁を構築してそれを防ぎながら、ガウク分隊長の右側面に回り、足を払って転倒させてから背中を踏みつけ、項に氷魔法を纏わせた木刀を突きつけた。なかなかに騒がしい御仁だ。

「ひっ」
「訓練は終了ということでよろしいでしょうか?」
「いっいいっ! これぐらいにしておいてやるっ! 訓練は終わりだっ」
「ありがとうございました」

 ガウク分隊長の声を聞いた魔法騎士が、駆け寄ってきて介抱を始めたので僕は礼をする。あまりにもあっけない展開で、拍子抜けした。魔法騎士団の将来が心配だ。

 この人が分隊長で大丈夫なのだろうか。実地演習の時のバウマン分隊長は、腕が立つという印象だったのだけれど。
 そう思って首を傾げていると、ラインハルト様とマルティン様が、僕の近くに歩いて来られた。

「ラインハルト殿下。無事に終わりましてございます」
「ラファエル、流石だったね。戦っている姿も、美しかったよ」
「ありがとうございます」

 ラインハルト様は労いのお言葉をかけてくださるとともに、僕の頬にキスをなさった。

「あれか、魔法学校の……」「ああ、妹が言っていたが殿下が溺愛していると」「いやあ、目の毒だな」

 魔法騎士の皆さんがざわざわしているようだ。ラインハルト様は王子殿下なのだから、目の前に現れたら何かと気になるのだろうな。

「ラインハルト殿下、戦闘訓練場内ですので、移動しましょう」
「ああ、マルティン、そうであったな。ラファエル、行こうか」
「はい、ラインハルト殿下」

 マルティン様が急かすように、場所の移動をラインハルト様へ進言された。いつまでも訓練場内にいては、訓練を妨害することになるのだから、当然のご判断だ。僕はいつものように、ラインハルト様に腰を抱かれて移動した。
 周囲を見回すと、シモンはいつの間にかいなくなっているようだった。ウーリヒ先生もいらっしゃらないので、二人で移動したのだろうか。

 僕たちが、訓練場の横にある待機場所になっているところへ移動すると、そこにはビュッセル侯爵令息とヴァネルハー辺境伯令息、そして、魔法騎士が二名いた。魔法騎士のうち一人はクレッケル部隊長、もう一人はゼクレス分隊長だと自己紹介をしてくださった。

「それにしても、ヒムメル侯爵令息の戦いぶりは素晴らしい。我が魔法騎士団に勧誘したいぐらいだ」
「過分な評価を、ありがとうございます」
「クレッケル部隊長、ラファエルはわたしの伴侶になるのだから、勧誘は控えるように」
「は、かしこまりましてございます。いや、噂通りでいらっしゃる」

 クレッケル部隊長は、バウマン分隊長とガウク分隊長の上司にあたるらしい。本来は、バウマン分隊長が僕たち魔法学校の生徒をご指導くださる予定だった。しかし、ガウク分隊長が僕に対して行ったことについての聞き取り等があるため、ゼクレス分隊長がご指導くださるということになった。

「たとえ何があろうとも、魔法騎士が学校の生徒にあのような訓練まがいの制裁を加えることは許されない。誇りある魔法騎士団が、どのような訓練をしているか伝えるための指導をすることを約束する」

 僕たちに訓練の概要を教えてくださるゼクレス分隊長はそう言ってから、僕たちに訓練をしてくださった。

 充実した訓練を終えてから、僕たちは魔法騎士団長室へ向かった。



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