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35.いろいろな確認が必要と思われます
しおりを挟む初回の調査会は、ほぼ顔合わせと今後の調査協力の打ち合わせであったのに、濃い内容となってしまった。魔法学校の生徒である若輩者の僕たちは、結局何の意見も出さずに終わったけれど。意見を出せるような雰囲気ではなかったということもある。
調査会の後は、王宮の王族の来客用テラスルームで、茶会をしようということになっていた。ラインハルト様のお気遣いは、素晴らしい。
「おや? あれはウーリヒ先生ですね。一緒にいるのは……」
僕たちが魔術師団の研究棟を出ようとしたところで、アルブレヒト様がつぶやかれた。
見ると、治療魔術師が詰めている魔術師棟の別館に、ウーリヒ先生とシモンが入って行こうとするところだった。
光魔法を生かすために治療技術を学んでいるという噂を聞いていたが、夏季休暇の間も魔術師棟に通わなければならないとは大変である。
アルノー・フォン・ウーリヒ先生は、もともとコンツ伯爵家の四男坊だ。継ぐべき爵位がないので、魔法学校の教師になったと、ご自分でおっしゃっていた。魔術師棟への勤務も勧められていたが、教師という仕事の方が自分に向いていると考えられたそうだ。確かに、授業はわかりやすく、熱心な先生だ。夏季休暇中に生徒の指導をなさっているぐらいであるし。
結婚した相手の身分によっては平民になられるとのことだが、休暇中に生徒の面倒を見ているのだから、そういう話もないのかもしれない。いや、勝手に想像してはいけないかな。
シモンのレヒナー男爵家は領地を持っていないので、特に友人の領地に招かれていなければ、王都に滞在しているはずだ。ウーリヒ先生にとっても、個人的に指導なさるのに、ちょうど良いだろう。
果たしてこれで、シモンは神子として覚醒をしやすくなるのだろうか?
「ウーリヒ先生は、夏季休暇中もレヒナー男爵令息に課外授業をされているようですね。
真面目なウーリヒ先生は、熱心なご指導をされているけれど、兄の見立てでは、レヒナー男爵令息が治療魔術師になるのは難しいということでした」
「そうなのですか?」
「ええ、魔力が不安定すぎて、他人の体に向けるのは望ましくないようですね」
「あの情緒不安定なところが、魔力の放出に影響しているのでしょうか」
ディートフリート様のお話にフローリアン様が反応される。このお二人の魔法談義は聞いているとためになる。
僕たちが魔法を使う時には、精神を安定させることが重要だと教え込まれる。実際に不安定な精神状態で膨大な魔法を使って暴走すると、周囲に迷惑をかけることもあれば、我が身を傷つけることもあるからだ。
今のシモンは、情緒不安定なように見える。春先の、出会ったばかりのころは、もう少しなんというか、ずる賢さが目立つぐらいの性格だったような気がする。
物語がうまく進んでいないから、焦っているのだろうか……?
王宮の来客用テラスルームは、二面がガラス張りになっていて、美しい園庭を見ながらお茶を楽しむことができる場所だ。ときどき僕は、ラインハルト様とここで過ごしているが、皆といても狭いとは感じない開放感がある。
話を聞いているだけで疲れ果てた様子のマルティン様が、紅茶にミルクをたくさん入れるように侍女に頼んでいらっしゃる。
確かに、最初の打ち合わせにしては、お話の内容が濃かったと思う。
「大変図々しいことですが、兄は、ラファエル様が、魔獣を凍らせて標本を作ってくださることを望んでいるのでしょう」
「氷魔法が使える魔術師など、魔術棟にもいらっしゃるでしょう?」
ディートフリート様が、ジークフリート様の考えを予想してお話をされる。しかし、魔術師団から氷魔法を使える魔術師を派遣してもらえるのではないのだろうか。
「ラファエル様は、ご自分の能力を軽く見積もっていらっしゃる。ラファエル様ぐらいの戦闘能力であれほど精度の高い氷魔法が使える者は、いないということですよ」
「……なるほど」
「魔術師団は、わたしのラファエルを、こき使う計画なのだね」
「ラファエル様にとっては、こき使うというほどのご負担にはならないと推察しますが」
「ふふ。まあ、そうだね」
ディートフリート様のお話を伺っていると、ラインハルト様がいたずらっぽく間に入ってこられた。アルブレヒト様は、ディートフリート様のおっしゃることを庇うように発言される。ディートフリート様は、ジークフリート様のお考えにご懸念を抱いていらっしゃるのだろう。
ジークフリート様は、僕を使うと言うほどの意識はないのだろう。しかし、同じ調査をするメンバーなのだから、それなりの働きを期待されているのだと思う。
ラインハルト様という王族が調査に参加することで、この活動に箔はつくけれど、主体となるのは各団でなければならない。その辺りを考えると、最初から僕の能力を当てにするのは筋が違う。
ラインハルト様のご懸念は、そのあたりのようであった。
もちろん、僕はいくらでも魔獣を狩らせていただくが、それは、あくまでも全体で計画して行動していくうえでのことだ。最初から僕が、魔獣を凍らせるのが前提になるわけではない。
ここにいるメンバーはわかっているのだろうが、改めて言葉にして意識していかなければ危ういことなのだと思う。
王族だから旗印に使って良い。学生だから便利に使って良い。団員ではないから詳しいことは教えなくても良い。
今のメンバーがそんなふうに考えているとは限らないけれど、それは、予め確認しておいた方が良いことだ。
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