【本編完結】断罪必至の悪役令息に転生したので断罪されます

中屋沙鳥

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39.王宮のお茶会は楽しかったのです

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「わたしも凍結した獲物を見に行ったのだが、かなりの大きさのアポピスであったな。あれほどの大きさのものに対するのであれば、討伐をする人員を増やした方が良いのだろうか」

 そうおっしゃるヘンドリック殿下は、今回も王妃様とのお茶会に飛び入り参加されている。今日は、手土産に梨のムースとバターサンドクッキーをお持ちくださった。非常に美味しい。
 そして、僕の隣には、ラインハルト様が座っていらっしゃる。ヘンドリック殿下とラインハルト様の間で、情報は共有されているはずだ。したがって、このお茶会は、僕の話を聞いてくださるための設えとなっているのだろうと思う。ありがたいことである。

「前回の『狩』のときには、獲物らしい獲物はおりませんでしたので、人を増やしても空振りになるかもしれません。むしろ、今回の捕獲が僥倖であったと思われます。逃げた方が、良かったのではないでしょうか」
「おや、あの獲物を凍結してしまったラファエルがそう言うのかい?」
「いえ、あれは、あの場にいたメンバーの協力があればこそです。なにより氷魔法に長けていらっしゃるクリューガー研究員がいらっしゃったため、完璧な凍結がなしえたのだと思います」

 ヘンドリック殿下は半分揶揄っておられるのだと思う。メンバーを増員しようとご提案くださっているのだから、今回の捕獲に無理がなかったとはいえないのだ。

「兄上、ビュッセル侯爵家のローレンツとヴァネルハー辺境伯家のゲレオンを、協力員にしてはと申しておりましたが、今後の捕獲作業に積極的に参加させてはどうでしょう。
 今は、市民に被害が出ないように凶暴化した魔獣に対処せねばならない状況です。あまり各団の手勢を割くことは、できぬでしょう」
「ふむ、ラインハルトが推薦しておったので少し調べたが、二人とも実技の評点が、大層良いようだな。しかし、ゲレオン・フォン・ハッセンは領地に帰っているのではないか?」
「ヴァネルハー領の魔獣出現状況は、通常通りと聞いております。変化がなければ早めに王都にやってくると。その場合は、書簡にて連絡があるでしょう」

 ビュッセル侯爵令息とヴァネルハー辺境伯令息のことは、すでに各団に話は通しているので、いつから捕獲に参加するかを次の会議で談ずることになるだろう。

 ただ、今回のような場合は逃げることを第一に考えた方が良いだろう。何があってもラインハルト様には、お逃げいただかなければならない。

 どのように、逃げる判断をしていくのかということも、ヘンドリック殿下にご助言いただく。もちろん、各団の優秀な方々がいらっしゃるのだから、判断はお願いするのだけれど。

「……お三人の方が戦闘をしているときに、一度は撤収した方が良いのではと考えたのですが、そのときにはすでにそのような状況ではありませんでした」
「そうだな、逃げるという発想が誰にもなかったと思う。わたしも、撤収するか否か迷っている間に戦闘が始まってしまった」

 ラインハルト様も、逃げ時を逸したとお考えのようだ。

 今回、アポピスを前にして、なぜか誰も逃げる判断をしなかった。逃げるのであれば、戦闘に入る前でなければならない。魔獣に近づけば近づくほど、逃げられなくなるのだ。誰かを置いていくというのであれば、別だけれど。

 それは、とても不思議なことのように思う。

 なぜ、王族であるラインハルト様だけでも逃げるべきだという判断を誰もしなかったのであろうか?
 戦闘に夢中になる僕ですら、撤収することを考えたというのに。

 いや、もしかしたら、皆も気づいたら撤収できなくなっていただけかもしれない。

 ジークフリート様に至っては、犠牲になるのもやむを得ないとお考えだった。撤収の選択肢は口にされていない。

 まるで、強制力が働いているかのようだ。まさかとは思うが、『ヒカミコ』の物語で必要なことなのだろうか。

 次に同じ状況になったときのことを、考えておかなければならないのだから、会議で相談をしておく必要があるだろう。

 僕の身を挺してでも、ラインハルト様を御守りせねば。

「ラファエル、其方はラインハルトを庇おうとして、逃げることができないと思うておるのかもしれぬ。しかし、今の状況では、ともに逃げることがラインハルトを守ることだと考えを変えた方が良さそうじゃの。前も言ったであろう。守り守られろと」

 王妃殿下は、美しい笑顔で僕にそうお話しになった。
 それを聞いたラインハルト様は僕の手を強く握り、ヘンドリック殿下は大きく頷かれている。

「はい、ラファエル、ラインハルト様の身をお守りするために、ともに撤収する道を探ることにいたします」
「うむ、よきことじゃ」

 僕の返事を聞かれて、王妃殿下は満足気に頷かれ、ヘンドリック殿下はうれし気に微笑まれた。

「ラファエル、わたしとラファエルとが、ともに生きていくということだよ」

 そして、ラインハルト様はそうおっしゃると、僕を抱き寄せて額と頬にキスをなさったのだった。
 僕は、ラインハルト様の頬にキスを返す。

「仲が良くて結構じゃのう」
「ああああ、わたしもこんな習慣をつけておけばよかった!」


 王妃殿下とヘンドリック殿下も楽しそうで、良いお茶会になったと思われる。




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