【本編完結】断罪必至の悪役令息に転生したので断罪されます

中屋沙鳥

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43.収穫祭が始まりました

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 収穫祭は三日間にわたって開催される行事だ。戦闘の試合は一日目に準々決勝までが行われ、三日目に準決勝と三位決定戦、決勝が行われる。三日目には王家も試合を観覧されて、優勝者の表彰を行われる。今年は、ヘンドリック殿下が優勝者の表彰をされるとのことだ。
 収穫祭中は、料理店の屋台を楽しむだけでなく、講堂での演劇や演奏会、催場での芸人の演技などを楽しむこともできる。

 この二年間、生徒会に関わっていたせいで収穫祭を楽しめなかった僕たちは、三日間を純粋に楽しむことにする。

「今年も、新しい店を知ることができそうで、楽しみですね」
「ええ、王都で食事をするときの参考になりますわ」
「持ち帰りができるお店も充実していますね。ディートフリート様とマルティン様のランチと間食は、何がいいでしょうか」

 アルブレヒト様とブリギッタ様は、デートでお使いになる店を見つける相談をしていらっしゃる。仲が良くて微笑ましいことだ。フローリアン様は、持ち帰りできるお店のメニューを確認している。
 ラインハルト様と僕は、食べ歩きをすることは許されていない。人間は、食べるという行為をしているときには無防備になりやすいので、危険だからだ。収穫祭には校外の人間が数多く学校を訪れるため、僕たちはいつもより多くの護衛を連れ歩いている。立ち歩きぐらいのことで、護衛に負担を強いることなど許されないだろう。
 つまり、護衛をしやすいように、僕たちは、カフェテリアへ買った料理を持ち込み、試合前のマルティン様とディートフリート様と合流して食事をする予定だ。

 料理を出す屋台の間には、休憩できるテントがいくつか用意されているので、飲み物や軽い菓子などは、そこで飲食することもできる。

 ディートフリート様とマルティン様はシードに入っていらっしゃるので、試合は午後からになる。しかし、戦闘の試合の出場者は、午前中から演習場近くにある会場に詰めることになっていて、食事時間だけカフェテリアに行くことが許されているのだ。出場者は試合の時間によって、食事時間を変えるのが通常である。

 僕たちは、屋台や演劇を楽しんでから、ディートフリート様とマルティン様と待ち合わせをして食事をした。
 お二人は先に演習場にお帰りになったが、僕たちは午後の試合が始まるまで、カフェテリアで過ごすことにする。

「ねえ、ゲレオン、午後一番の試合なのにカフェテリアにいてもいいの? 演習場まで僕と一緒に行こうよー」

 カフェテリアに甲高い声が響いた。

 シモンだ。

「ゲレオンは、もう、出ていくところだ、お前が邪魔をしたんだろう」
「ええー、グスタフ、いっしょにランチしただけじゃない。邪魔なんかしてないよー」
「レヒナー、お前が俺たちのいるテーブルに来ただけで、いっしょに食事をしたわけじゃない。
 とにかく、俺の邪魔をするな」
「ゲレオンってば、邪魔なんかしてないって。ひどいよー」

 ヴァネルハー辺境伯令息とグスタフが、シモンに絡まれているようだ。彼らはシモンを置いて出ていく。

「シモン、あいつら試合前で気が立っているのだから、放っておけばいいよ」
「せっかく、シモンが親切にしてくれているのにねえ」
「ほら、こっちの料理も美味しいから食べてから、試合を見に行こう」
「そうだね! ああっこれ美味しーい」

 シモンは、春先のように令息たちに囲まれているようだ。奇妙な言動が続いていて遠巻きにされていたようだったのに、人気を取り戻したのだろうか。

 まあ、シモンは主人公だけあって可愛いから、多少不思議なことをしていても受け入れてもらえるのかもしれない。

「ラファエル様、気になりますか?」
「はい。グスタフとゲレオンも、あのようにきつい言葉を使うのだなと思いまして」

 本当は、シモンの言動の方が気になっているのだけれど……

「あら、流石に彼らも、ラファエル様にあのようなお言葉を聞かせることはありませんでしょう」

 アルブレヒト様の問いに僕が答えると、ブリギッタ様から意外な言葉が返って来た。
 

「僕に聞かせることはない……?」
「ああ、ラファエル、グスタフもゲレオンも其方には良いところを見せようとしているからな」

 僕の疑問に、ラインハルト様が答えてくださり、小型の焼き菓子を僕に食べさせてくださった。まるで、子どものように扱われて恥ずかしいが、ラインハルト様は、ときどき手づからものを食べさせようとなさるのだ。

「ラファエル様は、彼らの憧れの魔法騎士でいらっしゃいますからね」

 フローリアン様の言葉に、僕は首を傾げた。ラインハルト様が食べさせてくださった菓子を咀嚼中であったので何も言えなかったのだけれど。

「わたしのラファエルは、戦い上手な魔法騎士だから、同じように強くなりたいのだろう」

 ラインハルト様はそう言って僕の額にキスをなさる。あいにく、僕は未だ咀嚼中なのでキスをお返しすることができない。

「ああ、そういうことにしておきましょう」

 アルブレヒト様が、曖昧に笑ってそのようなことをおっしゃっていたが、その真意を測りかねて僕は首を傾げていた。



 そして僕たちも、試合を観覧するために演習場へ向かった。




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