【本編完結】断罪必至の悪役令息に転生したので断罪されます

中屋沙鳥

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46.ついに神子覚醒となったのでしょうか

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 演習場に、ワイバーンの群れが飛来する。

 ディートフリート様とマルティン様は、すぐに戦闘態勢に入る。審判をする予定だったフィンク先生も同様だ。

「ラファエル、わたしの守りはまかせたからね」
「かしこまりましてございます。このラファエルが守るからには、ラインハルト様の御身に傷をつけることなどあり得ないでしょう」

 ラインハルト様は、美しく微笑んだのちに、顔を凛々しく引き締められた。素晴らしい。

 ここでのラインハルト様は、魔獣討伐の現場に残って王家としての責任を果たすことになっている。常ならば、決勝戦を行う予定であったディートフリート様とマルティン様が、ラインハルト様をお守りするのであるが、お二人ともワイバーンとの戦闘にかかっておられる。護衛騎士も周りにいるとはいえ、僕が中心となってラインハルト様をお守りしなければならない。

 何があろうとも、ラインハルト様をお守りして見せる。

 ワイバーンを討伐したかったなどという気持ちは封じておくべきだ。うん。

 ヘンドリック殿下とイルゼ様には、護衛とともに安全な場所へ避難していただく。もっとも、この状況での安全な場所と言うのがわからないので、多くの護衛とともに近くにある頑丈な校舎へ行っていただくのだ。もちろん、イルゼ様が防護魔法でヘンドリック殿下を守ってくださるので大事には至らないと考えている。
 そして今日は、騎士団、魔法騎士団、魔術師団からもそれぞれ団員が派遣されてきているので、その面々がワイバーン討伐の対応にあたる。


「マルティン、次に魔法を放った時点でいったん防護壁を解除する」
「わかった、そこで風魔法でワイバーンの頭の上まで放り上げてくれ」
「うまくやってくれ」
「ディートフリート、まかせておけ」

 ディートフリート様の魔法で飛び上がったマルティン様は、ワイバーンの首を一刀で断ち切る。
 ディートフリート様とマルティン様は、連携してワイバーンを屠っていく様子は、まるで、決勝戦を潰された鬱憤を晴らしているかのようだ。

 ラインハルト様は、状況を見ながら騎士に指示を出して観客席の人々の避難がうまくいくように取り計らっていらっしゃる。ワイバーンの討伐については、各団から派遣された人物に任せているが、その状況の報告を受けていらっしゃるのだ。生徒の中で、誰が討伐に加わっているかも把握しなければならない。
 ホフマン学長は、学校内の施設で避難やけが人の治療場所に使えるところを先生がたと手配されている。
 それぞれの役割分担を果たしているが、うまく動くことができているのは、魔獣が現れたときの想定をしていたからだ。魔獣の凶暴化に対応するための会議では、収穫祭の時期に魔獣が大量発生するのではないかという予測を立てていたのだ。

 ワイバーンは、竜種の中では小型の魔獣だが、魔獣の中では知能が高く、獲物を狙うのであれば、弱いところを狙う。人間であれば子どもや小柄な者だ。それなのにここに現れたワイバーンは、そういう人間がいる観客席ではなく、それなりに戦える、ある程度大柄な人間がいる演習場に向かって飛び込んでくるのだ。

 おかしい。

 ワイバーンは、王都郊外の森で出会ったヘルハウンドやコカトリス、アポピスのように、常ならぬ行動をしている。
 そう考えると、一連の魔獣の凶暴化には同じ特徴があるといえる。

 どうして魔法学校の演習場で異常事態が、起きるのか、それも解析しなければならないのだが……

 そのようなことを考えていた時だった。

 ギエエエエエエエエエエエエエエ!

 大きな雄叫びが、周囲の空気を震わせる。
 演習場に大きな影が差す。

 見上げた空には、ひと際大きなワイバーンがいた。ワイバーンとしては、規格外の大きさだ。

「どうしてあんなに大きな個体が……」「あんな大きさのワイバーンがいるのか?」

 ラインハルト様の護衛騎士が声を上げている。

 あれは、凍らせて保存した方が良いのだろうか?
 おそらく、これまでに見た巨大化した魔獣たちと同じものだと思われるのだから。

 僕は、ラインハルト様の護衛をしなければならない。あのワイバーンを凍らせる氷魔法を行使するためには、許可をいただく必要がある。

 どうすればいいのか。

 その判断を迷った時間はどれぐらいだったのかわからない。だけど、あの彼が行動を起こすには十分な時間だったようだ。

「魔獣さん! お願いだから、自分のおうちに帰って!」

 演習場に響く甲高い叫び声。

 シモンだ。

 どうしてシモンはあのように大きな声をだすことができるのだろう。

 観客席の前列まで走りこんで来たシモンの後ろには、ウーリヒ先生が見える。どうやらともに行動しているようだ。もしも、シモンの監視を兼ねていらっしゃるのであれば、これは大きな失態なのではないか。

 シモンが、胸の前で手を組み祈るような仕草をすると、その手からきらきらと光る魔力が放出されて、空にいる規格外の大きさのワイバーンを包み込んだ。
 それを見ていると、目の前が歪む感覚がした。

 僕は、思わず胸元にあるラインハルト様の瞳の色をした首飾りの石を強く握りこむ。

「魔獣さん、お願い! おうちに帰って!」

 ギエエエエエエエエエエ!

 繰り返されたシモンの呼びかけに答えるように鳴き声を上げた規格外のワイバーンは、その身を翻すと、他のワイバーンを引き連れて空の向こうに飛び去って行った。

「いったい、何が起きたんだ……」

 僕たちの周囲から、そんな声が聞こえる。そう、多くの人が、何が起きたのだろうかと、思っているだろう。
 皆が空を見上げてワイバーンを見送っている。

「神子様だ!」「そうだ! 神子様だ!」

 期せずして、どこからかそのような声が上がる。

 どうしてそのような声が上がるのだろうか。この世界の『神子』は、光魔法で人の体の損傷を治療する者のことを指す。
 魔獣を従える者を『神子』というのは、シモンが合同演習で発言していたものでしか聞いたことがない……

 それなのに、なぜこんな声が上がるのか。これは物語の補正なのか。

 これは、『神子覚醒』ということになるのだろうか。


「ラファエル、不安になることはない」
「ラインハルト様……」

 僕の不安な気持ちを察してくださったのだろう。ラインハルト様は、そう言いながら僕を抱き寄せて、こめかみにキスをなさった。

 空を見上げながらにたりと笑うシモンに薄気味悪いものを感じながら、僕はラインハルト様の腕に身を委ねる。

 今までに感じたことのないような、大きな不安。



 この収穫祭の後の祈りを終わらせてから訪れる指示を、僕は予想できていたといえるだろうか。





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