59 / 86
59.予想外のお話に言葉をなくしました
しおりを挟むリンドヴルムが飛来した星祭の翌朝、僕は貴賓室で朝食をいただいている。そして、ラインハルト様が笑顔でスープをすくったスプーンを僕の口に運んでいらっしゃる。
手づから食べさせてくださることを最初はお断りしたのだが、ラインハルト様がそれを聞いてくださることはなかった。
いや、予想の範囲内ではあるのだが。
昨日から、非日常的な場面に遭遇し続けていて、流石の僕も遠い目になる。
昨夜、星を眺めた後のラインハルト様は、貴賓室で僕の看病をするとおっしゃって、僕の傍を離れようとなさらなかったのだ。その様子に困り果てた侍従がどこかへ行ったと思ったら、ヘンドリック殿下がお部屋にいらっしゃって、ラインハルト様を連れ去って行かれた。
おかげで僕は一晩安静に休むことができた。だが、朝になって目覚めるとそのことがすぐにラインハルト様に連絡されたらしく、早々にこの部屋にやって来られたのだ。
「ラファエル、パンをもう少し食べるかい?」
「いえ、ラインハルト様、まだ今日の診察が終わっておりませんのでこれぐらいにしておきます」「そうか、そうだね。明日までは安静にしなければならないのだしね」
テーブルを片付けるよう侍女に命じられてから、ラインハルト様は、僕を抱き上げてベッドに運んでくださった。
歩いても大丈夫だと思うのだけれど、僕に抵抗をする気力は残っていない。ラインハルト様のご機嫌がよろしくていらっしゃるのだから、何も言うことはない。
僕はベッドに横になり、ラインハルト様は椅子に座って僕の手を握る。うん、ラインハルト様は、看病する気満々だ。
もう、ベッドからは起き上がりたいのだけれど、許してはくださらない。
オスカー兄上も早い時刻から訪れてくれたのだけれど、起きることを許してはくださらない。過保護な二人の様子に、僕はため息を吐いた。
その後、治療魔術師による診察を受けた。治療魔術師によると順調に回復しているらしく、明日には自宅に帰っても良いことになった。ただし、鍛錬は一週間ほど禁止だ。これは辛い。
午後になって、ヘンドリック殿下がお越しになって、昨日の星祭の一件をお話ししてくださった。
そうはいっても、まだまだ調査中のことが多いので、現在わかっている事実関係だけではあるが。
ラインハルト様とオスカー兄上は、既にその内容について知らされているという。ラインハルト様は、僕の傍にずっといらっしゃったように思うのに、いつの間に。
僕がラインハルト様を見あげると、美しい微笑を浮かべられた。
正式な会議には僕も召喚されることになっている。アルブレヒト様やディートフリート様、マルティン様もその会議には出席されるご予定だ。
「ラファエルには、大変な役割を押し付けてしまう形になったね」
「いえ、あの場面では僕しか引き受けることができる者がおりませんでした。リンドヴルムの毒の件も、慎重に行動すべきだったと反省しております」
「いや、味方と思っている魔法騎士に切りかかられたのだから、あれ以上のことはできなかっただろう。わたしの義弟になるラファエルがあのように働いてくれて誇らしいと思っているよ」
「光栄でございます」
ヘンドリック殿下はまず僕を労ってくださってから、お話をしてくださった。
もともと、星祭の日に魔獣が来るであろうことは魔術師団の調査でわかっていた。それは、わざわざ魔獣を来襲させるように計画している者たちがいたからである。そうであるからこそ、王都の市民を守るための万全の対策をとったのだ。
魔獣の種類は特定されていなかったが、各団員の星祭休暇を返上させて戦力を投入したため、市街地の被害はほとんどなく、また、市民の身体への被害もなく終わることができた。
もちろん、未だに魔獣への警戒は解いてはいないが、現在入手している情報では、襲撃者の側に再度魔獣を来襲させるだけの余力は今のところはないだろうということだ。
本日から王都には星祭のための露店や大道芸人などが出て、賑わいを取り戻すことになっている。昨日の今日で皆がそのような気持ちになるのかどうかわからないが、平常に戻ったと示すことが優先されたのだろう。
防衛のために、星祭休暇返上の各団員は配置されているのだが。彼らの特別手当の予算化が課題だと言って、ヘンドリック殿下は苦笑いをされた。
魔獣を凶悪化させてシュテルン王国を混乱させようとする計画に携わった者のうち、末端の人物については既に何名かが特定されているという。今後行われる正式な会議では、それが明らかにされることだろう。
「魔獣たちの魔石にどのような魔法がかけられていたのか、あるいは、かけられていなかったのかについては急ぎ分析中だ。しかし、リンドヴルムが来襲することは計画になかったことなのだろうと考えている。
あの神子と名乗る少年がリンドヴルムの前から連れ去られて行ったであろう。あれは、ワイバーンとは違って、リンドヴルムが彼の言うことを聞かないとわかっていたからだろうと推察している」
「ヘンドリック殿下、ワイバーンはレヒナー男爵令息の言うことに従ったであろうという見立てなのでしょうか?」
「あの少年はそのような名前だったか。
ああ、シュテルン魔法学校に来襲したワイバーンは、あの少年が命じたらその通りにあの場から引き揚げたのだろう? 同じことが起きる予定だったのだと思っている」
「協力者であると……?」
「そうだな。どのような理由かはわからないが、彼は魔獣の凶暴化と王都への魔獣の来襲を計画していた者たちに協力していたのだろう」
予想を超えたヘンドリック殿下のお話に、僕は言葉をなくした。
シモンは主人公ではなかったのか。それなのに犯罪に協力していたと?
『ヒカミコ』には、いくつかのバージョンがあるのならば、主人公であるシモンが犯罪者であるものがあっても不思議ではないのだろうか。
439
あなたにおすすめの小説
婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。
フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」
可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。
だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。
◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。
◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。
お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。
僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!
「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!
だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる
尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる
🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟
ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。
――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。
お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。
目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。
ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。
執着攻め×不憫受け
美形公爵×病弱王子
不憫展開からの溺愛ハピエン物語。
◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。
四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。
なお、※表示のある回はR18描写を含みます。
🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません
くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、
ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。
だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。
今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。
義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。
竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。
あれこれめんどくさいです。
学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。
冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。
主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。
全てを知って後悔するのは…。
☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです!
☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。
囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317
転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話
鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。
この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。
俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。
我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。
そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。
【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?
MEIKO
BL
【完結】伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷う未来しか見えない!
僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げる。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなのどうして?
※R対象話には『*』マーク付けます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる