【本編完結】断罪必至の悪役令息に転生したので断罪されます

中屋沙鳥

文字の大きさ
78 / 86

78.事件の顛末を聞きました

しおりを挟む
 その後、卒業パーティーは副学長の司会で進行され、無事に終了した。日を改めようにも明日には領地へ帰る者もいるし、これからの学校としての展望も示すことができないので、仕方ないことだった。
 ただ、このパーティーに出席した者には、一生心に残る思い出ができたのは確実だろう。良い思い出かどうかはわからないが。
 皆、最初は戸惑っていたものの、最後は楽しんでパーティーを終えることができたと信じることにする。


「一連の事件については、すでにホフマンとウーリヒが主犯で、一部の学校職員が協力者だということはわかっていた。卒業式の翌日に、容疑者として確保する予定だったのだ」

 ラインハルト様が王宮のサロンで、僕たちに事件のことについてお話ししてくださった。卒業パーティーがあったのは二週間ほど前のことだ。ここに出席しているのは、アルブレヒト様とブリギッタ様、ディートフリート様、フローリアン様、マルティン様、そして僕だ。

「ホフマンは、自分の教え子たちの前で暴走した。これ自体はありうることだとは思っていた。だから、魔術師団は、精神汚染魔法から防護するための魔道具を全員に配布したのは知っての通りだ。
 教育者として、そのようなことをしないのではないかという、強い意見もあったのだけれどね」

 卒業パーティーに出席する皆に配られたのは、一日程度効果がある簡易な魔道具だった。何もなければ良い。しかし、万が一ホフマン学長が暴走したら大変なことになる。そういう想定だったのだ。
 魔術師団はあの魔道具を組み立てるのに、三日間泊まり込みをされたそうだ。お気の毒である。

 ホフマン学長は、ロルバッハ魔法騎士団長……ロルバッハ公爵の伴侶の兄にあたる。ロルバッハ公爵は、ホフマン学長が教育者としての矜持まで捨てるとは思っていらっしゃらなかった。卒業式や卒業パーティーでは自重するはずだと会議では発言なさっていたようだが、結局義理の兄に裏切られることになったのだ。

 いずれにしても、ロルバッハ公爵は、魔法騎士団長というお立場から退くことになった。姻族が罪を犯したこともその理由であるのだが、もっと大きな理由がある。

「ホフマンとウーリヒが、ロルバッハ公爵閣下を王位につけたいというのが、今回の犯罪の動機だということには驚きました」
「そうだ、しかも叔父上ご本人はそのようなことを望んでいらっしゃらなかったのに……」

 アルブレヒト様がため息を吐きながら、そうおっしゃり、ラインハルト様も悲し気に相槌を打たれた。
 ウーリヒ先生は自分が魔法学校在学中からロルバッハ公爵を尊敬していて、当時王太子だった現国王よりもロルバッハ公爵の方が国王に相応しいと思っていたそうだ。
 もともとウーリヒ先生の研究分野は、人の注目を集めるようなものではなかった。ロルバッハ公爵はそれを理解してくれたからという理由で。

 一年ほど前に魔核を操作することで魔獣が凶暴化する研究に成功したウーリヒ先生は、王都近辺を荒らし始めた。魔法騎士団が活躍することにより、魔法騎士団長であったロルバッハ公爵の名声を上げることができると考えたからだ。魔獣の凶暴化だけを見れば、ウーリヒ先生が主犯だったのだといえる。
 ただしそのころは、ロルバッハ公爵を王に据えることまでは考えていなかったようだ。
 そして、ホフマン先生は、妹の伴侶であるロルバッハ公爵が国王になれば、自分も権力を持つことができると考えていた。しかし、現実はそうではない。それは心に思う、叶うことのない夢に過ぎなかった。

 しかし、シモンの光魔法の発現とその予言めいた言葉が、彼らに欲を持たせた。

『僕はこの光魔法の力で神子として認められ、王妃になるという運命を持って生まれたんだ』

 シモンは、演習場でオウルベアの疑似魔獣を光魔法で回復させた後、ホフマン学長とウーリヒ先生にそう訴えた。シモンは、彼が知ることができない王子殿下や高位貴族の子息の過去を知っていた。それも神子としての力だと言われて、ホフマン学長とウーリヒ先生はその話を信じることにした。
 『ヒカミコ』では、ラインハルト様と結ばれることでそういう立場になるのだが、ホフマン学長は、シモンを使えばロルバッハ公爵が国王になれるのではないかと考えた。
 ロルバッハ公爵の幼い子息とシモンを結婚させれば良い。

 そうすれば予言は成就する。

 二人は、叶わない夢だと思っていたことに手が届くかもしれないと思ってしまった。
 演習場での事件によって、ウーリヒ先生が魔獣の凶暴化させていることを知ったホフマン学長は、それを国家転覆に使うよう説得した。それによって、自分たちがふさわしいと思う人物を国王にしようと。

 なんと浅薄なことを考えたのだろうか。
 そして、シモンの言葉を予言と考えたのであれば、ロルバッハ公爵ではなくラインハルト様が国王になるというものであったろうに。

「レヒナー男爵令息は、妄想が激しいという印象でしたけれど、あの発言を大人が、それも教師という立場の人が信用したのですか?」
「ああ、二人ともレヒナー男爵令息は本当に神子だと思ったと言っている。どうしてそんな風に信じ込んでしまったのかはわからないね」

 マルティン様は、心底不思議そうに首をひねっていらっしゃる。ラインハルト様は、僕の話を聞いているからシモンにも同じような記憶があるのだろうと思っていらっしゃるが、それは口に出せないだろう。しかし、とにかくホフマン学長とウーリヒ先生は、それをある程度信じてよい予言だと判断して行動したということのようだ。

 精神汚染魔法に使う魔道具は、シュテルン魔法学校の禁書の部屋の片隅に放置されていたそうだ。ウーリヒ先生はそれを見つけたことで、余計にシモンが王妃になる未来が現実化するのだと考えたという。
 そんな危険なものが放置されていたことに驚く。それを受けて、魔法学校の内部は、王家が主体となって調査されることに決まった。
 しかし、魔獣魔核を操作して凶暴化させたことといい、骨董品のような精神汚染魔法の魔道具を改造して実用化させたことといい、ウーリヒ先生は本当に天才だったのだろう。

 そして、シモンの光魔法は精神汚染魔法を増幅して相手に届けるために使われた。

 結局、シモンはホフマン学長とウーリヒ先生に利用されていただけのように思う。

「それにしても、ラファエル様がしつこく狙われていたのは、どうしてなのでしょうか」
「そうですわね。ラインハルト殿下の婚約者ですけれど、ご自身に王位継承権がおありなわけではないでしょう?」
「確かに、王位を簒奪するにはあまり関係ないような……」

 フローリアン様が疑問呈せられたのを皮切りに、ブリギッタ様とディートフリート様が同様の疑問を口にされる。

「それについては、レヒナー男爵令息が、自分が王妃になる邪魔をするのがラファエルだと言ったからということのようだ。そして、自分たちが用意した魔獣を全て凍らせて、魔術師団に提供してしまったのだから、ホフマンとウーリヒにとっても邪魔な存在だったのだろう」

 ラインハルト様は、淡々とした様子でそうおっしゃった。通常、ロルバッハ公爵を王位につけたいのであれば、王位継承権第一位のヘンドリック殿下の命を狙ったのと同様に、第二位の王位継承権を持つラインハルト様の命を狙うものだろう。
 ホフマン学長の考えの中には、ラインハルト様を庇って僕が命を落とすことにより、ヒムメル侯爵家が現王家から離れるようにすることがあったようだ。また、ヴァネルハー辺境伯令息を抱き込むことで、自分たちに強力な味方を増やすという計画もあったという。

 いずれも失敗に終わったのだが。杜撰すぎる計画に、僕たちは皆で首を傾げた。

「まあ、ラファエルがいなくなれば、わたしが再起不能になると思われていたのかもしれないけれどね」

 ラインハルト様はそうおっしゃると、僕の頬にキスをなさった。僕もいつものようにラインハルト様の頬にキスをお返しする。

「……確かに、それはそうかもしれませんね」

 ディートフリート様が絞り出した声に、皆が頷いて、仲が良くて結構だなどとおっしゃっている。恥ずかしい。

 ホフマン学長には、極刑が言い渡される予定だ。学校関係者の中にいた協力者も同様に極刑となるだろう。
 ウーリヒ先生は尋問中に亡くなった。ラインハルト様は皆にはそうおっしゃった。
 本当は、ウーリヒ先生は、魔術師団の地下牢で魔術の研究に使われることになるはずだ。おそらくこの中では、ラインハルト様とディートフリート様、そして僕だけが真実を知ることとなるだろう。他の方もそのことに気づいておられるのかもしれないが、それは知らないでいる方が自分の身が安全であるとわかっていらっしゃるはずだ。


「レヒナー男爵令息は、どうなるのでしょうか?」

 フローリアン様が首を傾げて質問をされる。皆がラインハルト様の返答を待った。


しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる

尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる 🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟 ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。 ――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。 お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。 目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。 ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。 執着攻め×不憫受け 美形公爵×病弱王子 不憫展開からの溺愛ハピエン物語。 ◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。 四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。 なお、※表示のある回はR18描写を含みます。 🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。 🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません

くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、 ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。 だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。 今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。

竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。 あれこれめんどくさいです。 学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。 冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。 主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。 全てを知って後悔するのは…。 ☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです! ☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。 囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317

転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話

鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。 この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。 俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。 我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。 そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

処理中です...