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78.事件の顛末を聞きました
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その後、卒業パーティーは副学長の司会で進行され、無事に終了した。日を改めようにも明日には領地へ帰る者もいるし、これからの学校としての展望も示すことができないので、仕方ないことだった。
ただ、このパーティーに出席した者には、一生心に残る思い出ができたのは確実だろう。良い思い出かどうかはわからないが。
皆、最初は戸惑っていたものの、最後は楽しんでパーティーを終えることができたと信じることにする。
「一連の事件については、すでにホフマンとウーリヒが主犯で、一部の学校職員が協力者だということはわかっていた。卒業式の翌日に、容疑者として確保する予定だったのだ」
ラインハルト様が王宮のサロンで、僕たちに事件のことについてお話ししてくださった。卒業パーティーがあったのは二週間ほど前のことだ。ここに出席しているのは、アルブレヒト様とブリギッタ様、ディートフリート様、フローリアン様、マルティン様、そして僕だ。
「ホフマンは、自分の教え子たちの前で暴走した。これ自体はありうることだとは思っていた。だから、魔術師団は、精神汚染魔法から防護するための魔道具を全員に配布したのは知っての通りだ。
教育者として、そのようなことをしないのではないかという、強い意見もあったのだけれどね」
卒業パーティーに出席する皆に配られたのは、一日程度効果がある簡易な魔道具だった。何もなければ良い。しかし、万が一ホフマン学長が暴走したら大変なことになる。そういう想定だったのだ。
魔術師団はあの魔道具を組み立てるのに、三日間泊まり込みをされたそうだ。お気の毒である。
ホフマン学長は、ロルバッハ魔法騎士団長……ロルバッハ公爵の伴侶の兄にあたる。ロルバッハ公爵は、ホフマン学長が教育者としての矜持まで捨てるとは思っていらっしゃらなかった。卒業式や卒業パーティーでは自重するはずだと会議では発言なさっていたようだが、結局義理の兄に裏切られることになったのだ。
いずれにしても、ロルバッハ公爵は、魔法騎士団長というお立場から退くことになった。姻族が罪を犯したこともその理由であるのだが、もっと大きな理由がある。
「ホフマンとウーリヒが、ロルバッハ公爵閣下を王位につけたいというのが、今回の犯罪の動機だということには驚きました」
「そうだ、しかも叔父上ご本人はそのようなことを望んでいらっしゃらなかったのに……」
アルブレヒト様がため息を吐きながら、そうおっしゃり、ラインハルト様も悲し気に相槌を打たれた。
ウーリヒ先生は自分が魔法学校在学中からロルバッハ公爵を尊敬していて、当時王太子だった現国王よりもロルバッハ公爵の方が国王に相応しいと思っていたそうだ。
もともとウーリヒ先生の研究分野は、人の注目を集めるようなものではなかった。ロルバッハ公爵はそれを理解してくれたからという理由で。
一年ほど前に魔核を操作することで魔獣が凶暴化する研究に成功したウーリヒ先生は、王都近辺を荒らし始めた。魔法騎士団が活躍することにより、魔法騎士団長であったロルバッハ公爵の名声を上げることができると考えたからだ。魔獣の凶暴化だけを見れば、ウーリヒ先生が主犯だったのだといえる。
ただしそのころは、ロルバッハ公爵を王に据えることまでは考えていなかったようだ。
そして、ホフマン先生は、妹の伴侶であるロルバッハ公爵が国王になれば、自分も権力を持つことができると考えていた。しかし、現実はそうではない。それは心に思う、叶うことのない夢に過ぎなかった。
しかし、シモンの光魔法の発現とその予言めいた言葉が、彼らに欲を持たせた。
『僕はこの光魔法の力で神子として認められ、王妃になるという運命を持って生まれたんだ』
シモンは、演習場でオウルベアの疑似魔獣を光魔法で回復させた後、ホフマン学長とウーリヒ先生にそう訴えた。シモンは、彼が知ることができない王子殿下や高位貴族の子息の過去を知っていた。それも神子としての力だと言われて、ホフマン学長とウーリヒ先生はその話を信じることにした。
『ヒカミコ』では、ラインハルト様と結ばれることでそういう立場になるのだが、ホフマン学長は、シモンを使えばロルバッハ公爵が国王になれるのではないかと考えた。
ロルバッハ公爵の幼い子息とシモンを結婚させれば良い。
そうすれば予言は成就する。
二人は、叶わない夢だと思っていたことに手が届くかもしれないと思ってしまった。
演習場での事件によって、ウーリヒ先生が魔獣の凶暴化させていることを知ったホフマン学長は、それを国家転覆に使うよう説得した。それによって、自分たちがふさわしいと思う人物を国王にしようと。
なんと浅薄なことを考えたのだろうか。
そして、シモンの言葉を予言と考えたのであれば、ロルバッハ公爵ではなくラインハルト様が国王になるというものであったろうに。
「レヒナー男爵令息は、妄想が激しいという印象でしたけれど、あの発言を大人が、それも教師という立場の人が信用したのですか?」
「ああ、二人ともレヒナー男爵令息は本当に神子だと思ったと言っている。どうしてそんな風に信じ込んでしまったのかはわからないね」
マルティン様は、心底不思議そうに首をひねっていらっしゃる。ラインハルト様は、僕の話を聞いているからシモンにも同じような記憶があるのだろうと思っていらっしゃるが、それは口に出せないだろう。しかし、とにかくホフマン学長とウーリヒ先生は、それをある程度信じてよい予言だと判断して行動したということのようだ。
精神汚染魔法に使う魔道具は、シュテルン魔法学校の禁書の部屋の片隅に放置されていたそうだ。ウーリヒ先生はそれを見つけたことで、余計にシモンが王妃になる未来が現実化するのだと考えたという。
そんな危険なものが放置されていたことに驚く。それを受けて、魔法学校の内部は、王家が主体となって調査されることに決まった。
しかし、魔獣魔核を操作して凶暴化させたことといい、骨董品のような精神汚染魔法の魔道具を改造して実用化させたことといい、ウーリヒ先生は本当に天才だったのだろう。
そして、シモンの光魔法は精神汚染魔法を増幅して相手に届けるために使われた。
結局、シモンはホフマン学長とウーリヒ先生に利用されていただけのように思う。
「それにしても、ラファエル様がしつこく狙われていたのは、どうしてなのでしょうか」
「そうですわね。ラインハルト殿下の婚約者ですけれど、ご自身に王位継承権がおありなわけではないでしょう?」
「確かに、王位を簒奪するにはあまり関係ないような……」
フローリアン様が疑問呈せられたのを皮切りに、ブリギッタ様とディートフリート様が同様の疑問を口にされる。
「それについては、レヒナー男爵令息が、自分が王妃になる邪魔をするのがラファエルだと言ったからということのようだ。そして、自分たちが用意した魔獣を全て凍らせて、魔術師団に提供してしまったのだから、ホフマンとウーリヒにとっても邪魔な存在だったのだろう」
ラインハルト様は、淡々とした様子でそうおっしゃった。通常、ロルバッハ公爵を王位につけたいのであれば、王位継承権第一位のヘンドリック殿下の命を狙ったのと同様に、第二位の王位継承権を持つラインハルト様の命を狙うものだろう。
ホフマン学長の考えの中には、ラインハルト様を庇って僕が命を落とすことにより、ヒムメル侯爵家が現王家から離れるようにすることがあったようだ。また、ヴァネルハー辺境伯令息を抱き込むことで、自分たちに強力な味方を増やすという計画もあったという。
いずれも失敗に終わったのだが。杜撰すぎる計画に、僕たちは皆で首を傾げた。
「まあ、ラファエルがいなくなれば、わたしが再起不能になると思われていたのかもしれないけれどね」
ラインハルト様はそうおっしゃると、僕の頬にキスをなさった。僕もいつものようにラインハルト様の頬にキスをお返しする。
「……確かに、それはそうかもしれませんね」
ディートフリート様が絞り出した声に、皆が頷いて、仲が良くて結構だなどとおっしゃっている。恥ずかしい。
ホフマン学長には、極刑が言い渡される予定だ。学校関係者の中にいた協力者も同様に極刑となるだろう。
ウーリヒ先生は尋問中に亡くなった。ラインハルト様は皆にはそうおっしゃった。
本当は、ウーリヒ先生は、魔術師団の地下牢で魔術の研究に使われることになるはずだ。おそらくこの中では、ラインハルト様とディートフリート様、そして僕だけが真実を知ることとなるだろう。他の方もそのことに気づいておられるのかもしれないが、それは知らないでいる方が自分の身が安全であるとわかっていらっしゃるはずだ。
「レヒナー男爵令息は、どうなるのでしょうか?」
フローリアン様が首を傾げて質問をされる。皆がラインハルト様の返答を待った。
ただ、このパーティーに出席した者には、一生心に残る思い出ができたのは確実だろう。良い思い出かどうかはわからないが。
皆、最初は戸惑っていたものの、最後は楽しんでパーティーを終えることができたと信じることにする。
「一連の事件については、すでにホフマンとウーリヒが主犯で、一部の学校職員が協力者だということはわかっていた。卒業式の翌日に、容疑者として確保する予定だったのだ」
ラインハルト様が王宮のサロンで、僕たちに事件のことについてお話ししてくださった。卒業パーティーがあったのは二週間ほど前のことだ。ここに出席しているのは、アルブレヒト様とブリギッタ様、ディートフリート様、フローリアン様、マルティン様、そして僕だ。
「ホフマンは、自分の教え子たちの前で暴走した。これ自体はありうることだとは思っていた。だから、魔術師団は、精神汚染魔法から防護するための魔道具を全員に配布したのは知っての通りだ。
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魔術師団はあの魔道具を組み立てるのに、三日間泊まり込みをされたそうだ。お気の毒である。
ホフマン学長は、ロルバッハ魔法騎士団長……ロルバッハ公爵の伴侶の兄にあたる。ロルバッハ公爵は、ホフマン学長が教育者としての矜持まで捨てるとは思っていらっしゃらなかった。卒業式や卒業パーティーでは自重するはずだと会議では発言なさっていたようだが、結局義理の兄に裏切られることになったのだ。
いずれにしても、ロルバッハ公爵は、魔法騎士団長というお立場から退くことになった。姻族が罪を犯したこともその理由であるのだが、もっと大きな理由がある。
「ホフマンとウーリヒが、ロルバッハ公爵閣下を王位につけたいというのが、今回の犯罪の動機だということには驚きました」
「そうだ、しかも叔父上ご本人はそのようなことを望んでいらっしゃらなかったのに……」
アルブレヒト様がため息を吐きながら、そうおっしゃり、ラインハルト様も悲し気に相槌を打たれた。
ウーリヒ先生は自分が魔法学校在学中からロルバッハ公爵を尊敬していて、当時王太子だった現国王よりもロルバッハ公爵の方が国王に相応しいと思っていたそうだ。
もともとウーリヒ先生の研究分野は、人の注目を集めるようなものではなかった。ロルバッハ公爵はそれを理解してくれたからという理由で。
一年ほど前に魔核を操作することで魔獣が凶暴化する研究に成功したウーリヒ先生は、王都近辺を荒らし始めた。魔法騎士団が活躍することにより、魔法騎士団長であったロルバッハ公爵の名声を上げることができると考えたからだ。魔獣の凶暴化だけを見れば、ウーリヒ先生が主犯だったのだといえる。
ただしそのころは、ロルバッハ公爵を王に据えることまでは考えていなかったようだ。
そして、ホフマン先生は、妹の伴侶であるロルバッハ公爵が国王になれば、自分も権力を持つことができると考えていた。しかし、現実はそうではない。それは心に思う、叶うことのない夢に過ぎなかった。
しかし、シモンの光魔法の発現とその予言めいた言葉が、彼らに欲を持たせた。
『僕はこの光魔法の力で神子として認められ、王妃になるという運命を持って生まれたんだ』
シモンは、演習場でオウルベアの疑似魔獣を光魔法で回復させた後、ホフマン学長とウーリヒ先生にそう訴えた。シモンは、彼が知ることができない王子殿下や高位貴族の子息の過去を知っていた。それも神子としての力だと言われて、ホフマン学長とウーリヒ先生はその話を信じることにした。
『ヒカミコ』では、ラインハルト様と結ばれることでそういう立場になるのだが、ホフマン学長は、シモンを使えばロルバッハ公爵が国王になれるのではないかと考えた。
ロルバッハ公爵の幼い子息とシモンを結婚させれば良い。
そうすれば予言は成就する。
二人は、叶わない夢だと思っていたことに手が届くかもしれないと思ってしまった。
演習場での事件によって、ウーリヒ先生が魔獣の凶暴化させていることを知ったホフマン学長は、それを国家転覆に使うよう説得した。それによって、自分たちがふさわしいと思う人物を国王にしようと。
なんと浅薄なことを考えたのだろうか。
そして、シモンの言葉を予言と考えたのであれば、ロルバッハ公爵ではなくラインハルト様が国王になるというものであったろうに。
「レヒナー男爵令息は、妄想が激しいという印象でしたけれど、あの発言を大人が、それも教師という立場の人が信用したのですか?」
「ああ、二人ともレヒナー男爵令息は本当に神子だと思ったと言っている。どうしてそんな風に信じ込んでしまったのかはわからないね」
マルティン様は、心底不思議そうに首をひねっていらっしゃる。ラインハルト様は、僕の話を聞いているからシモンにも同じような記憶があるのだろうと思っていらっしゃるが、それは口に出せないだろう。しかし、とにかくホフマン学長とウーリヒ先生は、それをある程度信じてよい予言だと判断して行動したということのようだ。
精神汚染魔法に使う魔道具は、シュテルン魔法学校の禁書の部屋の片隅に放置されていたそうだ。ウーリヒ先生はそれを見つけたことで、余計にシモンが王妃になる未来が現実化するのだと考えたという。
そんな危険なものが放置されていたことに驚く。それを受けて、魔法学校の内部は、王家が主体となって調査されることに決まった。
しかし、魔獣魔核を操作して凶暴化させたことといい、骨董品のような精神汚染魔法の魔道具を改造して実用化させたことといい、ウーリヒ先生は本当に天才だったのだろう。
そして、シモンの光魔法は精神汚染魔法を増幅して相手に届けるために使われた。
結局、シモンはホフマン学長とウーリヒ先生に利用されていただけのように思う。
「それにしても、ラファエル様がしつこく狙われていたのは、どうしてなのでしょうか」
「そうですわね。ラインハルト殿下の婚約者ですけれど、ご自身に王位継承権がおありなわけではないでしょう?」
「確かに、王位を簒奪するにはあまり関係ないような……」
フローリアン様が疑問呈せられたのを皮切りに、ブリギッタ様とディートフリート様が同様の疑問を口にされる。
「それについては、レヒナー男爵令息が、自分が王妃になる邪魔をするのがラファエルだと言ったからということのようだ。そして、自分たちが用意した魔獣を全て凍らせて、魔術師団に提供してしまったのだから、ホフマンとウーリヒにとっても邪魔な存在だったのだろう」
ラインハルト様は、淡々とした様子でそうおっしゃった。通常、ロルバッハ公爵を王位につけたいのであれば、王位継承権第一位のヘンドリック殿下の命を狙ったのと同様に、第二位の王位継承権を持つラインハルト様の命を狙うものだろう。
ホフマン学長の考えの中には、ラインハルト様を庇って僕が命を落とすことにより、ヒムメル侯爵家が現王家から離れるようにすることがあったようだ。また、ヴァネルハー辺境伯令息を抱き込むことで、自分たちに強力な味方を増やすという計画もあったという。
いずれも失敗に終わったのだが。杜撰すぎる計画に、僕たちは皆で首を傾げた。
「まあ、ラファエルがいなくなれば、わたしが再起不能になると思われていたのかもしれないけれどね」
ラインハルト様はそうおっしゃると、僕の頬にキスをなさった。僕もいつものようにラインハルト様の頬にキスをお返しする。
「……確かに、それはそうかもしれませんね」
ディートフリート様が絞り出した声に、皆が頷いて、仲が良くて結構だなどとおっしゃっている。恥ずかしい。
ホフマン学長には、極刑が言い渡される予定だ。学校関係者の中にいた協力者も同様に極刑となるだろう。
ウーリヒ先生は尋問中に亡くなった。ラインハルト様は皆にはそうおっしゃった。
本当は、ウーリヒ先生は、魔術師団の地下牢で魔術の研究に使われることになるはずだ。おそらくこの中では、ラインハルト様とディートフリート様、そして僕だけが真実を知ることとなるだろう。他の方もそのことに気づいておられるのかもしれないが、それは知らないでいる方が自分の身が安全であるとわかっていらっしゃるはずだ。
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