ラストダンスは僕と

中屋沙鳥

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「エティエンヌ様、しばらくパトリック殿下のサロンへの出入りは控えてください」

 いつになく慇懃な態度で、マチアス様が僕にそう言った。アンヌ嬢が、僕にサロンに出入りして欲しくないと言っているからと。
 そんな理由らしい。

「聖女であるアンヌ嬢の言うことは何よりも優先されます」

 マチアス様は彼らしくない口調で僕にそう言うと、僕の答えを待たずにその場を立ち去った。

「なんていうことなの!」
「許されることではありませんね」

 一緒にいたマリー様とエルザ様が、僕のかわりに怒ってくださる。僕にも怒れと言うけれど、本人のいないところで怒っても仕方ない。

「エティエンヌ様、卒業までは、わたしのサロンに来てくださいまし」

 マリー様は笑顔で僕にそう言ってくれた。それからの僕は、マリー様とエルザ様とともに、卒業までの学院での生活を送ることになる。そして、特別に配置された護衛が、いつも僕の側にいた。
 それからも、僕はたびたび男子生徒にアンヌ嬢への嫌がらせをやめるように言われていた。

 何もしていないのにね。

 僕に苦情を言いに来るのは、家同士の付き合いがない男子生徒ばかりだ。護衛に追い払ってもらうようにしたけれど。

 学院では、パトリック殿下が、ついに婚約者をアンヌ嬢に挿げ替えることが決定したという噂が広まっていた。僕がサロンに行かなくなったから、そんなふうに皆が考えても仕方ないだろう。僕自身は、僕が婚約者候補から外れたとは聞いていない。僕はまだ婚約者候補であって、正式な婚約者ではない。しかし、本当にそういうことになれば、王家から正式な連絡があるだろう。
 政治的なことを考えれば、婚約者候補の挿げ替えなんてことがすぐにできるわけがない。みんな、自分のことじゃないから、噂をして楽しんでいるだけなのだろう。

 その合間に領地へ行って、僕の品種改良の成果を確認してきた。卒業まではあと少しだ。


 ある日、学院の中庭の白い薔薇が満開だというので、マリー様とエルザ様、何人かの子息と令嬢と昼休みに食事をしていた。
 

「あーら、捨てられた人はこんなところでご飯を食べてるのね」

 楽し気な声のする方を見ると、ピンクブロンドにピンクの瞳の小柄な少女、アンヌ嬢が薄ら笑いを浮かべてそこに立っていた。以前と違って、可愛い顔に可愛らしさは宿っていない。

「イイことを教えてあげようと思ったの。パトリックはねえ、あたしが他の男の人と話をするのをやめて欲しいんですって。ヤキモチ妬きなのねえ。
 うふふ。あんたは誰といてもなんにも思われなかったみたいだけど」

 甲高い笑い声を上げながら、アンヌ嬢が勝ち誇ったように僕たちの前に立っていた。何だろうかこの違和感は。

「無礼な。殿下を呼び捨てにするなんて」

 エルザ様はまずそれが気になったようだ。真面目な人だ。

「あんたのロランだってあたしに夢中よ。負け犬が吠えるのはやめなさいよ」

 僕は手をかざして、更に言い返そうとするエルザ様を止めた。
アンヌ嬢の本当の目的は何なのだろう。僕はそのことを考えながら、彼女の顔を見ていた。

「ちょっと、エティエンヌって、相変わらず怖い顔をしてんのね。何とか言いなさいよ」

 どうしてアンヌ嬢は僕の顔が怖いのだろうか。しかしとりあえず……

「僕は、君に話すようなことは何もない。用はそれだけかい?」
「なによ! 捨てられたのにお高くとまってんじゃないわよ!」

 すごい勢いだ。パトリック殿下には優しく話しているのだろうか。不安になる。
 暴言をやり過ごして食事を再開した僕たちを見て、ふるふると震えながら怒っていたアンヌ嬢は、「聖女の力で、あんたの……えっと、公爵家を破滅させてやる!」と叫んでその場を去って行った。

 聖女の力は癒しであって、破壊ではないと思うのだが、どういうことだろうか?

「あれは……、おそらくブランシャール公爵家と言いたかったのでしょうね」

 マリー様の呟きに、みんなは静かに頷いた。僕はアンヌ嬢の仇敵らしいのにどうして名前を憶えていないのだろうか。アンヌ嬢は、ご令嬢方の家名もあまり覚えていないという。

「あの方に夢中な男子生徒の方は、あの方が自分のことをよく知っていて、導いてくれるとおっしゃるのです。不思議に思いますわ」

 令嬢のおひとりが、そのようなことをぽつりと漏らした。


 嫌なことを忘れるように、翌日から僕はまた領地へ行った。予定通りの行動ではあるのだけれど。品種改良は卒業の日に間に合った。成果を手にして王都に帰るが、僕の気持ちは重い。

 これからどんな展開があるのだろうか。

 僕は、平穏な幸せが欲しいだけなのに。

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