シンデレラは王子様と離婚することになりました。

及川 桜

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第三章 溺愛のマリッジブルー

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「駐車場まででいいと言われた。それより早く準備しろと一喝された。なんだ、下に降りるのか?」

「はい、式場の打ち合わせに行こうと思いまして」

「おいおい、俺を置いていくなよ」

「社長も行かれますか?」

「当然だろ、俺の結婚式だ」

 そして社長はそのままで、私と高城さんはエレベーターに乗り込んだ。

「日程早められないかな」

「ホテルと交渉してみます。参列者の都合もあるので難しいかとは思いますが」

「身内だけでいい。披露宴は必要ない」

「それでしたら、大幅に短縮できるかもしれません。交渉してみます」

「うん」

 二人の会話を聞きながら、まるで自分とは関係のない話を盗み聞きしてしまっているような気分だ。

 私には選択する権利もないのかな。自分の結婚式なのに。

 いや、これは仕事の一環と思った方がいいのか。感情を入れず、ただ流れに身を任せていればいい。

(……本当にこれでいいの?)

 顔がどんどんこわばっていく。階数が表示される液晶を意味もなくじっと見つめながら、ぎゅっと拳を握りしめた。

 車に乗って着いた先は、都内屈指の最高級ホテル。広い敷地には色とりどりの庭園が広がっていて、上品な噴水が中心となって周囲を取り囲んでいた。

 高くそびえ立つ白亜の建物で、その壁面には品の良い優美な装飾が施されていた。

 一度は泊まってみたいと思っていたホテルで、まさか自分の結婚式を挙げることになるとは。人生とはなにが起こるかわからない。

「いいか、これからは俺に敬語を使うなよ。結婚するのに、上司と部下みたいな会話だったらウェンディングプランナーが怪しむだろ」

「えぇ、今から⁉」

「そうそうその調子」

 社長は満足げに笑った。

 敬語なしなんて無理! と思って出た言葉がまさかの砕けた口調だった。とても自然に敬語抜きで話していたため、自分でも驚いた。そもそも社長が友達口調で話してくるので、それにつられてしまうのだ。

 正面エントランスに車を停めると、そこには私たちを待っていたらしいホテルのスタッフの方が待機していた。

 高城さんはホテルオーナーと話があるらしく、ここで別れることになった。ホテルのスタッフだと思った方はブライダルコンシェルジュの方で、私と社長をブライダルサロンへと案内してくれた。

 重厚感のある入り口の扉を開けると、まるで別世界に入り込んだかのよう。

 壁面は白色で薄い桃色の小花がアクセントになっている。高級感溢れるシャンデリアに、部屋の隅に飾られているショーケースの中には、煌びやかなティアラやネックレスなどが美しく並んでいた。

 ふかふかのソファに腰かけると、甘く優雅な香りをはなっている紅茶が出された。

 ブライダルコンシェルジュの方は、髪を夜会巻きにして黒のスーツをかっこよく着こなしていた。話し方や立ち居振る舞いが洗練されていてベテラン感が出ている。

 社長とコンシェルジュの方が熱心に話しているのを横目で見つつ、私はずっと上の空だった。

 現実感がまったくない。こんな素敵な場所で、結婚式を挙げる。さらに結婚相手は、日本中の女子が憧れる伊龍院財閥の御曹司だ。職業はモデルや俳優といっても納得してしまうほどの容貌を持つ上に頭もいい。

 我が身に突如降ってきた幸運に狂喜乱舞してもおかしくない状況なのに、私の心は晴れなかった。

 嬉しくないわけではないのだ。高級感溢れるキラキラの世界が嫌いなわけじゃない。白を基調としたサロンの内装はロココ調で、紅茶のカップだって青い小花柄がとても可愛い。

 自分に似合うかどうかは置いておいて、可愛いものに囲まれると自然と胸が高揚する。

 ワクワクしてくる自分もいるのだ。非現実的な世界に飛び込んだようなドキドキ感。

 でも素直に喜んでいいとも思えず、自分の結婚式なのに自分のものではないような残念な気持ちもあって、とにかく複雑な心境だ。

「それではウェディングドレスを選んでいただきましょう」

 コンシェルジュの方の言葉に、ハッと顔を上げる。

「ドレス? 今から?」

 社長が優しい眼差しを向けて頷いた。

 ウェディングドレスの試着。憧れるでしょう、そりゃ、私だって女子なのだから。

 ウェディングドレスの試着室に足を踏み入れると、憂鬱な気分が一瞬で吹き飛んで心を鷲掴みにさせるような美しい光景が広がっていた。

「うわ~!」

 まず目に飛び込んできたのは、真っ白なレースが広がったドレスたちが、ラックにずらりと並んでいる姿。

 まるで小さな宝石が散らばっているかのようにキラキラと輝いている。目を輝かせながら一つ一つのドレスを見ていく私に、社長の顔が綻んだ。

「どれをお選びになっても似合うでしょうね」

 コンシェルジュの方の言葉に、社長は自慢げに、「世界中の誰よりも似合うと思いますよ」と腕を組みながら言った。
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