【完結】嘘も恋も、甘くて苦い毒だった

綾取

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過去の裏切り

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 夜の静かな書斎に、レオンハルトはひとり佇んでいた。
窓の外では冷たい風が木々を揺らしている。
──エリシア。
 彼女とは、幼い頃に一度だけ会った婚約者。
キラキラした瞳に、美しい長い巻き髪を持つ、愛くるしい女の子だった。
 あの時、彼女は大切な髪飾りをなくして、木陰で泣いていた。
 レオンハルトはそれに気づき、辺りを探してみた。
やがて、木の根元にキラリと光るものを見つけ、近づいてみると、それは間違いなく髪飾りだった。
彼はそれを拾い上げ、持っていたハンカチでそっと包み、エリシアのもとへと歩いていった。
 彼に気づいたエリシアは、涙を溜めたまま目を見開き、じっとこちらを見つめた。
 レオンハルトは彼女の頬をハンカチでそっと拭い、そして髪飾りを差し出した。
──それが、最初で最後の記憶だった。
その後すぐに彼女は迎えに連れられ、その日を境に再会することはなかった。
だが──
 今年から、同じ学園に通うことになっている。
再会の時は、すぐそこまで来ていた。
けれど……
(俺は、本当に会うべきなのか⋯?)
自然と、記憶の奥底にしまっていた過去が、蘇ってくる。
──数年前。
 レオンハルトには、心から信頼していた親友がいた。
 剣の腕が立ち、明るく誠実な彼は、誰からも好かれる存在だった。
ふたりは何でも話せる、いや話さずとも分かり合えると思える仲だった。
 学園でも切磋琢磨しあい、いつも一緒にいる2人はみんなに注目される存在だった。

彼には、愛する恋人もいた。
レオンハルトは、互いを思い合うその二人を、微笑ましく見守っていた。
──あの日までは。
「レオンハルト、私……本当は以前からあなたのことが好きでした。彼に声をかけたのは、あなたに近づくきっかけが欲しかったから。でも気がついたら彼と付き合うようになっていて。でも、最初から想っていたのは、あなたなんです」
 ある日、彼女がそっとレオンハルトに打ち明けてきた。
最初は冗談だと思った。
けれど、その真剣な眼差しを見た瞬間、背筋が凍った。
「君は……彼の恋人だろう?」
彼女は小さく首を振った。
「でも本当に好きなのは、あなたなの……」
言葉を失った。
「だから、私と──」
 その先の言葉を聞くことなく、レオンハルトはその場を立ち去った。
彼女の想いを受け入れることも、誰かに伝えることもなく、ただ距離を置いた。
それが、最善だと思った。
──だが。

「俺の恋人に手を出したな!」
親友の怒りに満ちた声が、レオンハルトの胸を刺した。
「違う、俺は何も……」
必死に否定しても、彼の目は、もはやレオンハルトを信じてはいなかった。
「お前は昔から、何でも持っていた。生まれも、才能も……そして今度は、俺の大切な人まで!」
そう言い残し、親友は去っていった。
 まさか彼が自分に対し、そんな感情を持っていたとは思いもしなかった。
ただ、これまでの絆の深さから、いつか誤解が解けると信じていた。
 だが⋯それが最後だった。
親友は二度とレオンハルトの前に姿を現さなかった。
「私はあなたを選ぶのに……」
そう言った彼女の言葉を、レオンハルトは二度と聞きたくなかった。
 信じていたものが、音もなく崩れていった。
(俺には、全く身に覚えのないことだったのに……)
それ以来、レオンハルトは女性を遠ざけるようになった。
 誰かに好かれることが、怖くなった。
自分が関われば、また誰かが傷つく──自分自身も。
だから、誰とも深く関わらない。誰の気持ちにも応えない。
それが、彼の選んだ道だった。
──そして今。
 エリシアとの再会を前に、レオンハルトは迷っていた。
(俺は、彼女にどう接すればいい?)
あの頃のエリシアは、まだそのままでいるのか?
それとも……あの女のように、計算高くなってしまったのか?
誰かに好かれれば、また傷つけてしまうかもしれない──
(いっそ、会わない方がいいのでは……)
迷いながら、レオンハルトは窓の外を見つめた。
冷たい風が、木々の梢を揺らしていた。
──学園での再会の日が、静かに近づいていた。
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