【完結】嘘も恋も、甘くて苦い毒だった

綾取

文字の大きさ
20 / 20

春の光の

しおりを挟む
 晴れた昼下がり。
木漏れ日が差し込む学園の中庭に、ユリウスとレオンハルトの姿があった。
「まさか、あなたが僕とエリシアの噂を真に受けていたなんて。」
ユリウスが笑いながら言うと、レオンハルトは少しばつが悪そうに目を逸らした。
「最初は疑っていた。けれどエリシアは、あの頃と何も変わっていなかった。
まっすぐで、優しくて、そして不器用なほど真剣だった。俺のほうこそ、信じることから逃げてたんだと思う」
「エリシアは、誰かに疑われても、その人のことを信じ続ける強さがある。
それはレオンハルト、あなたが彼女に与えたものかもしれないよ」
ふうと、レオンハルトが息を吐いた。
「あの頃、髪飾りを拾ったときに、こんな日が来るなんて思いもしなかったな」
ユリウスが目を細め、彼の肩を軽く叩いた。
「じゃあ、せっかくだしもう一度拾ってあげたら? エリシアは良く無くしものをするから。」
レオンハルトは小さく笑い、うなずいた。

 中庭の反対側、桜の下ではエリシアとリリィ、そしてセドリックが並んで座っていた。
「ようやく、少し穏やかになってきたわね」
リリィがつぶやくと、セドリックが頷いた。
「そうだね。リリィ嬢の活躍で色々解決したようだし。」
「そうね。あなたもレオンハルト様を気にかけていらしたようだから安心なさったでしょう。エリシアもレオンハルト様と順調そうだし。」
「エリシアのおかげだよ。レオンハルトはずっと長く自分の殻に閉じこもり僕にでさえ本当には心を開いてはくれなかった。人を信じられず苦しんでいたんだ。」
「私はただ、側にいてお話していただけです。」
「みんなに誤解されて苦しい事もあったけど、こうしてまた笑える日が来て良かった。
ありがとうリリィ、いつもあなたが力になってくれていたから。」
「言ったでしょ、私はいつでもあなたの味方だって」
セドリックとリリィはお互いに視線を交わして、どちらからともなく微笑み合う。
この春、新しい何かが少しずつ芽吹いていくような、そんな空気が流れていた。
そこへ、遠くから声がした。
「エリシア!」
振り返ると、レオンハルトが、少し照れたように立っていた。
「少し、話せるか?」
エリシアは微笑み、すぐにうなずいて立ち上がる。

 その姿を、少し離れた場所から誰かがそっと見つめていた。
──メリッサだった。
 彼女はまだクラスに溶け込んではいなかったけれど、以前のような高慢さはない。
遠巻きに話すクラスメイトたちの視線を感じる。
その中の一人が、意を決したように声をかけた。
「あの、メリッサ。ちょっといい?」
彼女は一瞬戸惑ったように振り返り、それでも以前のような見下した目つきではなく、やわらかな声で答えた。
「ええ。なにかしら?」
「その、メリッサ、前より話しかけやすいっていうか最近、少し雰囲気が違うわね。前は、ちょっと壁があったようだけど。」
「そうね。私、自分でも気づいてなかったけどずいぶん意地悪で高慢だったみたい。少し反省したの」
「なんだか、メリッサが素直に話すの、不思議だけどちょっと嬉しいわ」
ぎこちないけれど、確かに向き合おうとする声。
 そして、メリッサもまた、それをはねのけることはしなかった。
「私も、うまくは話せないけど少しずつでもいいかしら。友達って、そうやって始まるものよね?」
数人のクラスメイトが驚いたように見つめる。
でもその顔には、どこか安堵の色が浮かんでいた。
 そのやり取りは、かすかだけど確かな「変化」の始まりだった。
──メリッサの中にある“なにか”が、確かに変わり始めていた。

風に揺れる桜の花びら。
新たな季節の匂いが、学園を包んでいた。
 誰もが、それぞれの想いを抱きながら、未来へと歩き出す。
 すれ違って、立ち止まって、それでもまた繋がっていく。
 この春は、そんな始まりの光で満ちていた。

そして、少女の髪には、あの日拾われた小さな髪飾りがそっと輝いていた。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

告白相手を間違えた令嬢に待っていたのは、暴君皇帝からの寵愛でした。

槙村まき
恋愛
 イヴェール伯爵令嬢ラシェルは、婚約前の最後の思い出として、ずっと憧れていた騎士団長に告白をすることにした。  ところが、間違えて暴君と恐れられている皇帝に告白をしてしまった。  怯えるラシェルに、皇帝は口角を上げると、告白を受け入れてくれて――。  告白相手を間違えたことから始まる恋愛ストーリー。 全24話です。 2月5日木曜日の昼頃に完結します。 ※小説家になろうに掲載している作品を改題の上、連載しています。

婚約者から悪役令嬢と呼ばれた公爵令嬢は、初恋相手を手に入れるために完璧な淑女を目指した。

石河 翠
恋愛
アンジェラは、公爵家のご令嬢であり、王太子の婚約者だ。ところがアンジェラと王太子の仲は非常に悪い。王太子には、運命の相手であるという聖女が隣にいるからだ。 その上、自分を敬うことができないのなら婚約破棄をすると言ってきた。ところがアンジェラは王太子の態度を気にした様子がない。むしろ王太子の言葉を喜んで受け入れた。なぜならアンジェラには心に秘めた初恋の相手がいるからだ。 実はアンジェラには未来に行った記憶があって……。 初恋の相手を射止めるために淑女もとい悪役令嬢として奮闘するヒロインと、いつの間にかヒロインの心を射止めてしまっていた巻き込まれヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:22451675)をお借りしています。 こちらは、『婚約者から悪役令嬢と呼ばれた自称天使に、いつの間にか外堀を埋められた。』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/572212123/891918330)のヒロイン視点の物語です。

【完結】私の愛する人は、あなただけなのだから

よどら文鳥
恋愛
 私ヒマリ=ファールドとレン=ジェイムスは、小さい頃から仲が良かった。  五年前からは恋仲になり、その後両親をなんとか説得して婚約まで発展した。  私たちは相思相愛で理想のカップルと言えるほど良い関係だと思っていた。  だが、レンからいきなり婚約破棄して欲しいと言われてしまう。 「俺には最愛の女性がいる。その人の幸せを第一に考えている」  この言葉を聞いて涙を流しながらその場を去る。  あれほど酷いことを言われってしまったのに、私はそれでもレンのことばかり考えてしまっている。  婚約破棄された当日、ギャレット=メルトラ第二王子殿下から縁談の話が来ていることをお父様から聞く。  両親は恋人ごっこなど終わりにして王子と結婚しろと強く言われてしまう。  だが、それでも私の心の中には……。 ※冒頭はざまぁっぽいですが、ざまぁがメインではありません。 ※第一話投稿の段階で完結まで全て書き終えていますので、途中で更新が止まることはありませんのでご安心ください。

機械仕掛けの夜想曲

恋愛
名ピアニストである伯爵令嬢フローリア・ベルクレイン。素晴らしい演奏技術を持つ彼女だが、完璧すぎる旋律故に「機械仕掛けの演奏」と陰口を叩かれていた。さらにそのことで婚約解消をされ、妹に乗り換えられてしまう。妹にもそれをなじられ、心が折れてしまったフローリアは「少し休みたい」とピアノを弾くことをやめてしまう。 そして、ある夜、アルベルト・シュタインヴァルトが突如来訪。「人命を救うために、フローリア嬢のピアノの演奏技術が必要だ」と告げる。それにフローリアがとった行動は……。 ※他のサイトにも重複投稿してます。

[異世界恋愛短編集]私のせいではありません。諦めて、本音トークごと私を受け入れてください

石河 翠
恋愛
公爵令嬢レイラは、王太子の婚約者である。しかし王太子は男爵令嬢にうつつをぬかして、彼女のことを「悪役令嬢」と敵視する。さらに妃教育という名目で離宮に幽閉されてしまった。 面倒な仕事を王太子から押し付けられたレイラは、やがて王族をはじめとする国の要人たちから誰にも言えない愚痴や秘密を打ち明けられるようになる。 そんなレイラの唯一の楽しみは、離宮の庭にある東屋でお茶をすること。ある時からお茶の時間に雨が降ると、顔馴染みの文官が雨宿りにやってくるようになって……。 どんな理不尽にも静かに耐えていたヒロインと、そんなヒロインの笑顔を見るためならどんな努力も惜しまないヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 「お望み通り、悪役令嬢とやらになりましたわ。ご満足いただけたかしら?」、その他5篇の異世界恋愛短編集です。 この作品は、他サイトにも投稿しております。表紙は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:32749945)をおかりしております。

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

婚約者が他の令嬢に微笑む時、私は惚れ薬を使った

葵 すみれ
恋愛
ポリーヌはある日、婚約者が見知らぬ令嬢と二人きりでいるところを見てしまう。 しかも、彼は見たことがないような微笑みを令嬢に向けていた。 いつも自分には冷たい彼の柔らかい態度に、ポリーヌは愕然とする。 そして、親が決めた婚約ではあったが、いつの間にか彼に恋心を抱いていたことに気づく。 落ち込むポリーヌに、妹がこれを使えと惚れ薬を渡してきた。 迷ったあげく、婚約者に惚れ薬を使うと、彼の態度は一転して溺愛してくるように。 偽りの愛とは知りながらも、ポリーヌは幸福に酔う。 しかし幸せの狭間で、惚れ薬で彼の心を縛っているのだと罪悪感を抱くポリーヌ。 悩んだ末に、惚れ薬の効果を打ち消す薬をもらうことを決意するが……。 ※小説家になろうにも掲載しています

処理中です...