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第72話 同盟国の旗
しおりを挟む近頃、妖精王国の周辺に出没している怪物がいるという。
三メートルの高さ、真っ黒い球体。
六本の脚がはえており、顔面らしき部分には口しかなく絵に描いたような怪物の姿をしている。
その正体は、対妖精兵器『スナッチャー』。
かつて人魔大陸で起きた戦争で、妖精が魔王軍として人族陣営を圧倒していた時に生み出された非人道的な生物兵器である。
妖精の羽から撒き散らされる再生効果を無力化する攻撃手段をもっており、目がない理由は通常より嗅覚に優れているからだ。
その高い嗅覚は妖精に対してのみ発揮される限定的な能力で、このスナッチャーにより多くの妖精が殺され戦線から離脱したという。
魔王にこれ以上の戦いは出来ないと意義をたて、魔王は寛大にも妖精の意見を尊重して魔王軍から脱退させた話は有名だ。
それほどスナッチャーは妖精達にとっての天敵である。
まさか、また解き放たれるとは思わず妖精王は俺達に依頼をした。
周辺にいるスナッチャーをすべて殲滅するようにと。
それを達成すれば理想郷への援助を約束すると言った。
「……気持ち悪いな」
「右に同じ」
シャレムが同意する。
まるで某アニメの黒い顔のないアレに似ているな。
歯並びが人間的だし、妙にリアル。
ゲームで見ていたイラストとは比べ物にならないほどのインパクトだ。
「うぅ……私ちょっと苦手かも」
砂漠の迷宮最奥にいたあの魔物を想起させる姿をしているためエリーシャが一番嫌そうな顔をしていた。
だけど妖精王の協力を得るためには仕方がない。
俺はアレンに「何でもする」と言った。
言葉の通り何でもだ。
こちらにもう余裕はない。
何の成果もなく帰ることはできない。
窮地を脱することができるのなら何でもしよう。
たとえ妖精の下で働けと命令されようと従うつもりだ。
「対象の数は不明。どのような動きをするかも分からない」
「うん、できるだけ接近戦に持ち込まないようにするわね」
「オデもみんなを守る」
「僕ぁ……応援してっからな?」
皆の準備は万端のようだ。
応援団(一人)もいるし問題なし。
「いつもの連携で行くぞ」
エリーシャとゴエディアが前に出て、俺は後方からの
さあ、殲滅の始まりだ。
―――――
「妖精王。どうして彼らの話を信用しようと思ったのですか?」
親衛隊の隊長兼秘書のオルクスは、玉座に座り込み暇そうにしているアレンに聞いた。
アレンは薄い笑みを見せながら返した。
「完全に信用したわけじゃないさ。こちら側の利益も考えた上だよ。私達にとってスナッチャーは天敵、それを排除してくれる人間が現れたんだから寧ろ有難いって思った方がいいんじゃないかな?」
「ならばスナッチャーを片付けた後に、奴等が何かを仕出かす前に殺しましょう」
「はぁ……君達はどうして毎回そうやって何かと理由を付けて殺そうとするのか。私には理解できないよ」
「そうですか? 効率的な解決法かと」
妖精は気まぐれな種族なのだ。
だからこそ、この世界にはこのような言葉が存在する。
『妖精は隣人でさえ殺す』
実に物騒な言葉なのだが事実である。
「絶対に殺さないでくれよ……」
「どうしてですかっ!」
「もう潮時なんだよ。人族からは永遠に身を潜めることは出来ない。だから私達が壊滅の一端を辿る前に、逆に彼等と繋がりを作ってみようじゃないか」
「何を仰っているのですか? 妖精は滅びませんよ、この羽があるかぎり私達は不死身当然です!」
「……そうかい」
アレンは苦笑いし、天井を見上げるようにして玉座に体重を乗せる。
ロベリア達のことは知り合ったばかりの人族にしか過ぎないのは、否定できない。
スナッチャーを放った首謀者と裏で繋がりを持っており、妖精王国を陥れようとしている可能性もあるかもしれない。
だけどロベリアのあの目を見たアレンは、ほんの少しだけ賭けようと思ったのだ。
(オルクス、私は予感がして仕方ないんだよ……彼等が、この世界に何かをもたらすかもしれないってね)
アレンは直接口にはしなかった。
同胞らを納得させるためには結局、ロベリア達の働き次第なのだ。
――――
人魔大陸。
北西部にある乾いた土地を移動する、数千を越える軍勢がいた。
リグレル王国、エレメン王国、アステール帝国の同盟国の旗が掲げられており、大半が馬で移動をしていた。
「―――数週間前に放ったスナッチャーの生命反応が次々と途絶えているな。かなり厄介な奴等に絡まれたかもしれん」
金色のロングヘア、真紅の鋭い瞳。
帝国の軍服を身に付けた女性は、隣で馬を走らせる青年に告げた。
「……分かった。あとは俺達の手にかかっているな。背中は任せたぞカルミラ」
カルミラと呼ばれた軍人の女性は、ダルそうに適当に頷いた。
「……おうおう、了解しましたよ勇者さんよ」
勇者ラインハルは、その態度になにかを言うわけでもなく、いつも通り馬を走らせるのだった。
同盟国の軍勢が目指すのは、妖精王国フィンブル・ヘイムである。
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