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第74話 人の残虐性
しおりを挟むどういうわけか魔力が練られなくなっているため、集団相手との戦闘はこちらが不利だ。
窓をぶち破って逃げ出してやる。
勢いを乗せて、窓へと駆ける。
「まさか、窓から!」
妖精の一人が叫ぶ。
そうだよ、不利な状況なら逃げるのも一つの戦略だ。
バコン!
窓ガラスに鼻をぶつけて引っくり返る。
あれ、割れなかったんだけど……。
ていうか体の力が段々と脱力していっているんだけど、まさかこれが原因なのか?
やむを得ない!
普通に鍵を開ける。
身をのりだし、落ちる。
ダイナミックではなく、ノーマル逃走である。
しかし、かなり上の階に部屋があったので、このまま地面に落下したら重傷だ。
もう一度、手元に魔力を込める。
風属性魔術【衝撃】!!
火事場の馬鹿力で魔術が発動。
僅かな距離まで迫ってきた地面の間に強風が発生して、落下の勢いを殺してくれた。
そのまま一回転して地面に着地する。
心臓バクバクだ。
逃げるための賭けに出たものの失敗していたかもしれない。
「凄まじい魔力量だな傲慢の魔術師。部屋に仕掛けた『魔力吸引の結界』を三時間前に受けてもなお魔術を発動させるとは、恐れ入った」
だが、すでに周りを妖精達が包囲していた。
アレンの側で仕えていた騎士を筆頭にだ。
「……これは妖精王の命令なのか?」
「そうだ、人族の戯言に付き合う気はないとのことでな。ここまで来るのにかなりの時間をかけたようだが交渉は決裂だ。大人しく帰るか、我々に処されるか選べ」
え、ちょっと待て。
つまりアレンは俺らさんざん利用した挙句に、ポイ捨てしたってことなのか?
あの羽虫野郎、ぶっ飛ばしてやる。
って言いたいところだが、この騎士の言っていることが本当とは思えなかった。
「なら王と会わせろ。直接本人から聞こう」
「ふん、何処までも図々しいな下等種族が。妖精王はもう貴様らとは顔を会わせるつもりが無いと仰っていた」
やはり、こいつらの独断か。
邪魔なスナッチャーを討伐すれば少しは信頼されると思ったのだが、やはり半数がまだ許してくれはしないのか。
「人族だろうが魔族だろうが、こちら側は救う気はない。さっさと諦めて、国と共に滅ぶことだな」
「……断る、捕らえるのなら捕らえろ。こちらに帰る意思はない」
「やはり人族は往生際が悪いな。そこまで処されたいのなら望み通りにしてやる」
まともに魔術が使えないのでは、どうしようもない。
とりあえず反対思想を掲げる妖精どもに捕らえられることにした。
―――――
「準備はできたかい諸君! 今宵は理想郷からやってきた人族と魔族との親睦を深めるための祝杯を挙げるぞ! …………あれ?」
アレンは、テンションを高く会場へと突入したのだが、祝いをするにはあまりにも質素な空間のままだった。
料理も酒もなく、パーティーの準備などされていなかった。
「妖精王よ、祝杯は中止になりました」
「中止だって?」
そこには平然とした顔のオルクスが待っていた。
アレンは首を傾げ、怪訝そうに返した。
「主催者は私だ、中止にした覚えがないんだけど?」
「実は先ほど、ロベリア殿が交渉を無かったことにしたいと告げて帰ってしまわれたのです。非常に残念ではありますが、これでは肝心の親睦も成り立ちませんゆえ、中止という形が妥当かと」
「ふむ、そうなのね、残念だよ」
アレンは失望した顔をオルクスに向けた。
「君なら賛成してくれると思ったんだけどなぁ。まだ信用できないからって、ずいぶんと勝手な真似をしてくれたようだね?」
すぐそばにあった柱にヒビが入る。
あまりの威圧に耐えられなかったのだろう。
まさか、ここまでアレンが激情するとは思わなかったのかオルクスは青ざめた表情になる。
「オルクス、君はまだ人族を憎しんでいるのか? だからなのか? どうなんだ?」
「まさか……私情で身勝手な真似はしませんよ……私は妖精王の御意志に背いたりはしません」
「なら、目をそらないでよ」
「っ……」
やはり王の素質を持つ者はすべてお見通しのようだ。
オルクスはそれに尊敬しながらも不安に思うのだった。
「流石ですね……貴方には誤魔化しなど効かない、感服しました」
諦めたようにオルクスは言った。
そしてロベリア達を高度の魔術『魔力吸引の結界』で弱めて捕らえたこと、地下へと幽閉したことを白状した。
あまりにも呆気ないのである。
しかしアレンが次にとった行動は、謁見の間に戻って玉座に座り込むことだった。
「妖精王?」
「これもまた試練だ。君達の気が済むまで勝手にしていいよ」
「ロベリア殿に協力をしないのですか?」
「まあね、私の言葉だけじゃ納得しない人が多すぎる。なら彼等自身で、信頼を勝ち取るしかないんじゃないかな」
「……お言葉ですが、多くの民はまだ人族にされた非道な行いの数々を忘れてはおりません」
妖精王国にいる民は、かつて人魔大陸で起きた戦争を体験している。
百年も前の戦争なのだが妖精は生命を与えるとされる羽のおかげで生き長らえている不老不死のような種族だ。
かつて人族から受けた残虐な行いを彼等は忘れていないのだ。
オルクスもその一人である。
「奴等とはもう二度と関わり合いたくないがために、繁殖をせず我々はこの森に身を潜めているのです。私も到底許すのとができません」
「……今の人族も同じだと思うのかい?」
手を震わせるオルクスにアレンは尋ねた。
「当然です! 人は百年程度で変わったりはしません! きっと、我々の喉元に噛みつこうと隙を伺っているのです!」
「そうかな? けどねオルクス、俺はそうじゃないと思う」
時々、アレンの一人称が変わったりするが些細なことなのでオルクスは言及したりはしない。
「好きにしてもいい。けど、本当に変わっていないかどうかは、その目でしっかりと確認してみるんだね」
その言葉には重みがあった。
命令をされたわけではないのにオルクスは、それが自分の使命なのではないかと感じるのだった。
しかし、ロベリア達の生き死を任せられたのなら、オルクスは自分のやり方で彼等を処刑する考えを変えたりはしなかった。
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