31 / 77
第31話 混沌とした大陸
しおりを挟むエリーシャが目覚めたのは、洞窟のような場所だった。
薄暗い、湿気た洞窟である。
どうやら寝ていたらしく、体には誰かの上着が掛けられていた。
とても大きい、黒い見覚えのあるローブだ。
何故、ここに居るのかが思い出せない。
ロベリアから発せられた光に飲み込まれ、そこで意識が途絶えたのだ。
けど、この洞窟には自分以外に誰かがきっといるはず。
まだ近くに、このローブの持ち主がいるのかもしれない。
ローブを丁寧にたたみ、エリーシャは洞窟の探索を開始した。
微かだが風が吹いている。
それも、かなり大きな音を発している風だ。
音を辿って狭い通路を進んでいき、数分して彼女は出口にたどり着いた。
嵐だ。
外は、到底出歩くことが出来ないほど強い嵐に見舞われていた。
遠い先には、山を飲み込むほど巨大な竜巻が渦巻いており、その周りを十秒間隔で雷が落ちていた。
ありえない光景である。
しかも、そのすぐ隣にも同じ大きさの竜巻がもう一つ……。
息を飲み、エリーシャは後ずさりする。
そんな長い時間、出口に立っていないのに雨で体のそこらがビショビショになってしまった。
それに強風で目を開けるのもやっとである。
急いでエリーシャは洞窟の奥へと戻ろうとしたが、人影が立っていた。
自分がやってきた方向に大男が一人。
「ひっ……!?」
エリーシャは恐怖のあまり、へこたれてしまった。
何故なら男の全身が赤黒い血で染まっていたからだ。
それを前にして怖がらない人なんていない。
絶望的すぎる状況である。
まるで獲物を発見したかのような鋭い双眼を向けられ、堪えきれずエリーシャは、
「ギャアアアァァァ!」
洞窟の最奥に響くほどの声で、絶叫した。
――――
どうやらこの洞窟はゴブリンどもの巣だったらしい。
RPG定番の雑魚モンスターであり、俺が来てすぐに攻撃をしてきやがった。
なので、こちらも容赦なく洞窟に存在するありとあらゆるゴブリン数百匹を排除させてもらった。
ボスのような奴もいたのだが欠伸が出るほど弱かった。
そこにあった乾いた木の枝や葉っぱなどを回収して、眠らせていたエリーシャの元へと戻るのだが俺を見るや絶叫されてしまった。
ゴブリンどもの返り血で濡れた俺の姿は、どうやらホラーものらしい。
そして現在。
焚火で濡れてしまったエリーシャの服、なによりも下着を乾かしていた。
まさか怖さのあまり漏らすとは、彼女には悪いことをしてしまった。
いや、寧ろラッキーだったかもしれない。
焚火で暖をとるエリーシャが着ているのは、俺の貸したローブ一枚だけの状態である。
エロいが、そういう思考はナシにしているので顔には出さない。
俺は紳士だ、賢者だ、そう自分に言い聞かせる。
「おい、平気か?」
「いえ……まったく」
冷たい返事だ。
そりゃ、そうだろう。
何処か分からない場所でロベリアと二人っきりとか、居心地が悪すぎる。
「此処は、どこなんですか? できれば早く、みんなの所に返して欲しいんですけど」
「できればやっている」
光に飲み込まれて別の場所に移動した。
原因は、たぶんノアから貰った指輪なんだろうな。
「ある魔術師から魔術道具であるこの指輪を貰ったのだが、どうやら所有者が危険な目に遭うか、死にそうになったら転移魔術が発動するよう施されているらしい。それも飛ばされる場所はランダム」
ダンジョン攻略で戦闘不能になったら指定の場所に緊急避難させるアイテムなど珍しくはないのだが、まさか行ったことのない場所に飛ばされるとは困ったものだ。
「同時に所有者の傷をも癒す効果があるらしい。おかげで死なずに済んだ」
「そ、それは……ごめんなさい」
「いい、別に貴様のせいではないからな」
現在地はおおよそ見当はついている。
洞窟の外で起きている異常気象、あの場所しかあり得ない。
「うぅ……ラインハル」
不安そうにしているエリーシャには悪いのだが事態は深刻だ。
かつて千年も前、神話の時代。
人族と魔族の軍勢が争っていた大陸があった。
数百年も戦争が続いたせいで大陸の隅々は荒れ、ありとあらゆる生物が死滅。
戦争が終わった後、そこは殺伐とした場所になってしまった。
ほとんど強い種族、魔物しか生息しておらず国や町、村なんて稀にしかない。
森も少ないし、異常気象が起きることも珍しいことではない。
この混沌とした『人魔大陸』では当たり前のことなのだ。
15
あなたにおすすめの小説
落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!
たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。
途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。
鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒!
素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。
裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!
宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~
紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。
そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。
大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。
しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。
フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。
しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。
「あのときからずっと……お慕いしています」
かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。
ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。
「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、
シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」
あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。
序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた
砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。
彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。
そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。
死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。
その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。
しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、
主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。
自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、
寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。
結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、
自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……?
更新は昼頃になります。
【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件
エース皇命
ファンタジー
前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。
しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。
悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。
ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~
於田縫紀
ファンタジー
図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。
その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。
悲報 スライムに転生するつもりがゴブリンに転生しました
ぽこぺん
ファンタジー
転生の間で人間以外の種族も選べることに気付いた主人公
某人気小説のようにスライムに転生して無双しようとするも手違いでゴブリンに転生
さらにスキルボーナスで身に着けた聖魔法は魔物の体には相性が悪くダメージが入ることが判明
これは不遇な生い立ちにめげず強く前向き生きる一匹のゴブリンの物語
(基本的に戦闘はありません、誰かが不幸になることもありません)
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
おっさんが雑魚キャラに転生するも、いっぱしを目指す。
お茶飲み人の愛自好吾(あいじこうご)
ファンタジー
どこにでも居るような冴えないおっさん、山田 太郎(独身)は、かつてやり込んでいたファンタジーシミュレーションRPGの世界に転生する運びとなった。しかし、ゲーム序盤で倒される山賊の下っ端キャラだった。女神様から貰ったスキルと、かつてやり込んでいたゲーム知識を使って、生き延びようと決心するおっさん。はたして、モンスター蔓延る異世界で生き延びられるだろうか?ザコキャラ奮闘ファンタジーここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる