最も嫌われている最凶の悪役に転生ー物語の主人公に殺されるエンドを回避するため善行を積みます!ー

灰色の鼠

文字の大きさ
33 / 77

第33話 歪んだ愛

しおりを挟む

 星屑の跡地から北東へ真っ直ぐ進めば、海にたどり着く。  

 その海に最も近い場所に、町がある。  
 魔王軍との長きにわたる戦争で難民となった魔族と人族が送られる『理想郷《アルカディア》』だ。

 アズベル大陸(人の大陸)で住処を失った魔族と人族を船で最も安全な土地と言われる『理想郷』へ運び、そこで降ろす。  

 人々は大昔に残された廃墟で生活させられ、あとは放置されている状態だ。
 先代から今に至るまで勇者が管理している、ふざけた場所である。  

 本来の目的地からは遠回りになってしまうが、様子だけでも見に行きたい。




 ————




 砂漠を進むと、赤茶色の峡谷のような場所にたどり着いた。
 相変わらず天候は良好で、溶けてしまいそうなほど暑い。

 道中、B級魔物のサンドワームと遭遇したが、地面に潜られて面倒だったので、潜った穴めがけて風属性と炎属性の混合魔術を放ち、大爆発を起こした。  
 他にも潜んでいたサンドワームを十匹以上も巻き込んだ。

 芋虫の死骸があまりにもグロテスクだったため、エリーシャは気分を害していたが、貴重なタンパク質でもあるので、少し解体した。  
 食える部位を剥ぎ取り、荷物にしまった。

 エリーシャは「食べるんですか!?」と信じられない表情を浮かべていたが、前世でボーイスカウトに所属していた俺にとっては普通のことだ。

 試しに味見をしてみたが、苦い。  
 それに泥と砂の味もするが、大丈夫、貴重なタンパク源だ。

 なんやかんやで、エリーシャとはよく話すようになった。彼女の方から話題を振ることはあまりなかったが、旅を始めて一週間が経過した今、そろそろ慣れてきたらしい。  
 それでも、信頼されているとは言い難い。

「……どうしても、わからないんです」

 いつもの夜。  
 いつもの野営。  
 焚き火の前で、エリーシャがぽつりと口を開いた。

「私との転移が予想外のものでしたら、わざわざ私の面倒を見る必要はないはずです。それなのに、どうして私を置いていかなかったんですか……?」

 言われてみれば、確かにそうだ。  
 本来のロベリア人格なら、エリーシャを助ける理由なんてないだろう。  

 むしろ、足手まといなので、寝ている彼女を無視して置いていったはずだ。

「私があの時、庇ったからですか?」

 ラインハルの聖剣が振り下ろされそうになった時、エリーシャは俺を庇ってくれた。  
 確かに命をかけてくれたことには恩を感じているが、それだけではない。  

 単純に、俺はエリーシャに死んでほしくないのだ。

 彼女が死んでしまったら、この先不利になるのは間違いない。  
 だが、個人的な私情もある。

 ——ラインハルと、長生きしてほしい。

 それだけが、この作品のメインヒロインであるエリーシャが幸せになれる道だからだ。  
 甘い考えだと思われるかもしれないが、俺だって元はラインハル目線でこのゲームを遊んでいた。

 エリーシャはヒロインで、とても素直で可愛らしい子だ。  
 ドジで、お人好し、花が大好きで、常に誰かの幸せを願っている。  

 主人公が大好きだが、鈍感な馬鹿(主人公)はそのあからさまな気持ちにも気づけず、手さえほとんど繋いだことがない。

 純粋無垢で清潔な処女なのだ。

「勘違いしないでください。ラインハルのためにやったことですから。彼には殺人鬼になってほしくなかった。だから私は貴方を庇ったのです……」

「ふっ。歪んでるな、貴様も」

 唯一の欠点は、ラインハルしか見ていないところだ。  
 ラインハルが間違ったことをすれば、エリーシャも一応は意見を言うが、誰かが傷つけられても主人公が無事なら、それで良しという思考だ。

 正直、その依存性には共感できない。

「歪んでいる、ですか?」

「ラインハルのためと言っているが、最初に問題を起こしたのはあいつだ。許されると思っているのか?」

「許されるに決まっているじゃないですか! だって彼はとっても優しいんです! 誤解もあったとは思いますけど、ちゃんと話し合って謝れば……」

「その話し合いを拒んだのもあいつだ」

「っ!」

 エリーシャは黙った。  
 さすがに言い返せなかったのだろう。  
 被害者より加害者の意見を優先していたのだから、相当ショックだろう。

「貴様が俺を庇ったからどうとか、関係ない。俺と一緒にいる以上は、死ぬことは許さん」

「どうして?」

「……こっちの都合が悪くなるからだ」

 意味深に言ってしまった。  
 それでも、エリーシャはそれ以上は質問してこなかった。

 もう寝ることにした。  
 見張りばかりで疲れた。  
 今回だけは、1時間だけでも睡眠をとろう。  

 何も言わず、俯いたままのエリーシャから視線を外し、壁に寄りかかる。  
 今夜は、星がよく見える。  

 俺はそのまま眠りについた。




 ————




 目を覚ますが、まだ夜中だ。  
 小1時間しか寝ていないのだから、暗いのは当たり前だ。  
 とりあえず、エリーシャの様子を確認することにした。  

 まだ怒っているのか、拗ねているかもしれない。  
 それとも、すでに寝ているかもしれない。  
 だが、生存確認は常に怠らない。  

 恐る恐る、彼女が座っていた場所を確認した。  

 だが、誰もいなかった。  

 周囲を見渡したが、気配すら一切感じられない。  

 まさか——エリーシャが、一人で……!  

 寝ている間に逃げられてしまった。  
 この大陸での単独行動が死に繋がると、散々説明したはずなのに。  

 早く、見つけないと——
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。 途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。 鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒! 素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。 裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。 彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。 そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。 死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。 その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。 しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、 主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。 自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、 寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。 結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、 自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……? 更新は昼頃になります。

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

悲報 スライムに転生するつもりがゴブリンに転生しました

ぽこぺん
ファンタジー
転生の間で人間以外の種族も選べることに気付いた主人公 某人気小説のようにスライムに転生して無双しようとするも手違いでゴブリンに転生 さらにスキルボーナスで身に着けた聖魔法は魔物の体には相性が悪くダメージが入ることが判明 これは不遇な生い立ちにめげず強く前向き生きる一匹のゴブリンの物語 (基本的に戦闘はありません、誰かが不幸になることもありません)

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

おっさんが雑魚キャラに転生するも、いっぱしを目指す。

お茶飲み人の愛自好吾(あいじこうご)
ファンタジー
どこにでも居るような冴えないおっさん、山田 太郎(独身)は、かつてやり込んでいたファンタジーシミュレーションRPGの世界に転生する運びとなった。しかし、ゲーム序盤で倒される山賊の下っ端キャラだった。女神様から貰ったスキルと、かつてやり込んでいたゲーム知識を使って、生き延びようと決心するおっさん。はたして、モンスター蔓延る異世界で生き延びられるだろうか?ザコキャラ奮闘ファンタジーここに開幕。

処理中です...