最も嫌われている最凶の悪役に転生ー物語の主人公に殺されるエンドを回避するため善行を積みます!ー

灰色の鼠

文字の大きさ
66 / 77

第66話 悪役の料理と、すれ違い

しおりを挟む


『黒猫帽子亭』という酒場で食事をとっていた。

 いつものように四人で席を囲んで食事をとっていると、硬いパンを頬張っていたシャレムが余計なことを口にする。
 カウンター奥、目の前にいる店主に聞こえるぐらいの声量でだ。

「味薄いし硬ってぇな……やっぱロベリアの飯の方がずっと美味いや」

 料理に難癖をつけるシャレム、しかも店主のオススメランチを。
 自信作だったのだろうか、カウンターの奥で店主は怒りに満ちた表情でシャレムを睨みつけている。

「このスープも野菜が不味いし、使っている肉も合わないし最悪だろ。ゴエディアもそう思うだろ?」

「全然、なんでも美味しい」

「ほらな」

 何が「ほらな」だよ。
 まったく共感されてねーじゃねーか。
 てか人の作った物を目の前で貶すな。
 マナーのなってない客だと思われるぞ。

「おい、そこの猫。今なんつった?」

「だーかーら。このお店の飯が、僕の舌には合わないって言ってんの。やっぱ外食するよりロベリアの飯を食った……方が……」

 シャレムの背後には、鬼の形相の店主がいた。
 あまりにも恐ろしくシャレムは自分の発言に後悔をしたが、時すでに遅し。
 店の外に叩き出されてしまった。

 店の前で砂ぼこりが舞い上がり、突然吹き飛んできた猫に通行人たちは騒然とした。

「ただでさえ貴重な食料に文句垂れるな馬鹿野郎!」

 店主はそういい厨房の方へと戻っていった。
 座っているカウンターの前だけど。
 自業自得とはいえ、あんな叱られかたをされたらトラウマになってしまうだろう。

「もう、シャレムちゃんったら!」

 シャレムを心配してエリーシャが店の外へと出ていってしまう。
 ゴエディアは食べるので夢中で、一連の出来事を見ていなかった。
 そうだよ、これだよこれ。

 シャレムもゴエディアの行儀の良さを見習って、黙って食べていれば蹴りだされることはなかったのに。
 賢者のくせに学ばない奴だ。

「そんで、あんた」

 店主に睨みつけられる。
 口の物を咀嚼し
ながら俺は顔を上げた。
 俺、別になんにもしてないんだけど?

「さっきの馬鹿猫、随分とあんたの料理を気に入ってたそうじゃねぇか?」

 馬鹿猫とは懐かしい響きだな。
 誰に言ったっけ。
 ああ、大森林テトの姫君の愛称だったな。

「そんなナリして料理ができるのか? ああ?」

「ちょっ! ダメですよ店長! 彼、あの有名な人ですよ。あんまり失礼なことを言うと、殺されちゃいますよ?」

 若い青年が騒ぎを聞きつけ、店主を制止した。
 別に、殺したりはしないんだけど。
 ロベリアなら店ごと吹き飛ばしていただろうな。

「うるせぇ! 馬鹿にされたまま引き下がれるかよ! そんなに料理が得意ならやってみせろよ! なあ!」

「プライドよりも命を優先してください! お願いします! 店長が死んじゃったら誰が俺の給料を払うんですか!?」

「なんだとテメェ! 俺の命より金かっ!」

「ごへっ!?」

 あ、殴られた。
 なに、漫才を見せつけられてるの?
 野次馬まで出来ちゃってるし、入る店を間違えたのかもしれない。
 いや、あれもこれもシャレムのせいだったな。

「ろべりあ?」

 椅子から立ち上がり上着を脱ぎ、袖をまくり上げる。

 青年の襟を掴み、キレ散らかす店主を通りすぎ厨房の中に入る。

「そこまで言うのなら見せてやる……一人暮らしの飯とやらを」

 認めたくないものだな。
 自分自身の、独身男性ゆえの過ちというものを。

 三倍の速さで、完成してやんよ。

 


 数時間後。
 店が繁盛した。

 店主は、さきほどのシャレムの発言を許してくれた。

 満面の笑顔である。
 よかったよかった。
 これで一件落着だと言って終わりたかったのだが。

 店主が俺の店を継いでくれと、急に言い出してきた。
 頭を下げ、俺の息子になってくれとまで頼み込まれ、娘まで紹介された。

 店を継ぐ気もないし、結婚を前提に付き合っている恋人もいると告げた。
 そしてゴエディアと共に、その店からさっそうと逃げ去るのだった。

「待ってくれー! ロベリアさーん!」

 悲痛な声で、呼び止めようとする店主を乗り越えて。
 かなりの速度で走っていたため途中、誰かとぶつかってしまった。

 だが急いでいるため、顔を確認せず「すまない……!」とだけ謝り、先を急いだ。

 



 ―――――





 
「うぅ、酷いものだ。こんなか弱い少女にぶつかっておいて、手も貸さないとは……」

 誰かとぶつかり尻もち付いてしまったラケルは立ち上がり、砂ぼこりを払った。

 今度、ぶつかってきた人物を見つけたときに仕返しをしてやると若干イラついていたが、相手の顔を見ていないので分かりようもない。

 人魔大陸では日常茶飯事だろう、と仕方なく納得しながら彼女は町の宿屋を目指す。
 今度は、この町で情報収集するのだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。 途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。 鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒! 素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。 裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。 彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。 そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。 死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。 その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。 しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、 主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。 自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、 寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。 結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、 自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……? 更新は昼頃になります。

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

悲報 スライムに転生するつもりがゴブリンに転生しました

ぽこぺん
ファンタジー
転生の間で人間以外の種族も選べることに気付いた主人公 某人気小説のようにスライムに転生して無双しようとするも手違いでゴブリンに転生 さらにスキルボーナスで身に着けた聖魔法は魔物の体には相性が悪くダメージが入ることが判明 これは不遇な生い立ちにめげず強く前向き生きる一匹のゴブリンの物語 (基本的に戦闘はありません、誰かが不幸になることもありません)

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

おっさんが雑魚キャラに転生するも、いっぱしを目指す。

お茶飲み人の愛自好吾(あいじこうご)
ファンタジー
どこにでも居るような冴えないおっさん、山田 太郎(独身)は、かつてやり込んでいたファンタジーシミュレーションRPGの世界に転生する運びとなった。しかし、ゲーム序盤で倒される山賊の下っ端キャラだった。女神様から貰ったスキルと、かつてやり込んでいたゲーム知識を使って、生き延びようと決心するおっさん。はたして、モンスター蔓延る異世界で生き延びられるだろうか?ザコキャラ奮闘ファンタジーここに開幕。

処理中です...