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veritas liberabit vos
triginta tres
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「親鸞ですか?」
胡桃沢は頷いた。
「そうじゃ……。これを相対的な善悪だと、三歳の子供が言っておった」
軽くため息を吐き、何かを考え込むように胡桃沢が答えた。
「あの子には、善も悪もなかった。知識や思想的にはもちろん知っておったが、善悪の向こう側、善も悪も超えた、別の所におったようじゃった」
「Es giebt gar keine moralischen Phanomene, sondern nur eine moralische Ausdeutung von Phanomenen.....」
昔の天弥のことを聞いているうちに、斎は思わず頭に浮かんだ言葉を口にする。
「あぁそうじゃ、まさしくそのニーチェのような存在だったのぉ」
斎は無言で俯き、手にした本を見つめる。
「二度、別人のような天弥と会いました」
ニーチェの言葉通り、絶対的に正しい道徳的基準など存在しない。確かにあの時の天弥は、絶対的真理や普遍的認識を否定したかのような存在であった。
本を持つ斎の手が微かに震える。
「一度目は分かりませんが、二度目はこの本を手にしたら現れました」
胡桃沢の視線が、本へと移る。
「この本は、何なんですか?」
少し震える声をした斎の問いに、胡桃沢がため息を吐いた。
「そこにタイトルが書いてあるじゃろ」
確かに、タイトルは書かれている。だが、これは書いてある通りに受け取ってもよい物ではない。
「しかし、これは!」
「存在しないものだと、なぜ言い切れるのかのぉ?」
斎の言葉を遮り、胡桃沢が問いかける。
「とは言え、わしも十七年前まではそれの存在を信じていなかったのは確かじゃし……」
軽く肩を落としながら、言葉を続けた。
「すべては二十五年前、羽角がその本を見つけたことから始まったんじゃ」
記憶を辿るように、胡桃沢がゆっくりと話し始めた。
「もちろん、わしはその本が本物だとは信じてはおらんかった。しかし羽角はずっとその本を調べ続けておった。そして十七年前、その本を使い、封印されたものを呼び出そうとしたんじゃ」
胡桃沢の言葉に、斎は驚きと戸惑いを隠せずにいた。そのような、創作の中の出来事にも似たことが現実で実際に行われたとは、俄には信じがたいものであった。
「呼び出すって……、そんな馬鹿なことが……」
斎の動揺にも構わず、胡桃沢は言葉を続ける。
「今、わしが言えるのは、それぐらいじゃのぉ」
「天弥は? 天弥は、この本とどう係わってるんですか?」
この話は終いと言える状況になり、斎は思わず問い詰める。
「すまないが、あの子の事はよく解らなくてのぉ……」
胡桃沢は、すまなそうな表情と声音を斎へと向けた。
「ただ、羽角は異様とも思える程の執着を、あの子には持っておったのぉ」
「執着……ですか?」
胡桃沢が頷いた。それを見て、一気に入ってきた情報の整理が追いつかず、斎は無言で考え込む。
「少し、考えてみます」
胡桃沢は頷いた。
「そうじゃ……。これを相対的な善悪だと、三歳の子供が言っておった」
軽くため息を吐き、何かを考え込むように胡桃沢が答えた。
「あの子には、善も悪もなかった。知識や思想的にはもちろん知っておったが、善悪の向こう側、善も悪も超えた、別の所におったようじゃった」
「Es giebt gar keine moralischen Phanomene, sondern nur eine moralische Ausdeutung von Phanomenen.....」
昔の天弥のことを聞いているうちに、斎は思わず頭に浮かんだ言葉を口にする。
「あぁそうじゃ、まさしくそのニーチェのような存在だったのぉ」
斎は無言で俯き、手にした本を見つめる。
「二度、別人のような天弥と会いました」
ニーチェの言葉通り、絶対的に正しい道徳的基準など存在しない。確かにあの時の天弥は、絶対的真理や普遍的認識を否定したかのような存在であった。
本を持つ斎の手が微かに震える。
「一度目は分かりませんが、二度目はこの本を手にしたら現れました」
胡桃沢の視線が、本へと移る。
「この本は、何なんですか?」
少し震える声をした斎の問いに、胡桃沢がため息を吐いた。
「そこにタイトルが書いてあるじゃろ」
確かに、タイトルは書かれている。だが、これは書いてある通りに受け取ってもよい物ではない。
「しかし、これは!」
「存在しないものだと、なぜ言い切れるのかのぉ?」
斎の言葉を遮り、胡桃沢が問いかける。
「とは言え、わしも十七年前まではそれの存在を信じていなかったのは確かじゃし……」
軽く肩を落としながら、言葉を続けた。
「すべては二十五年前、羽角がその本を見つけたことから始まったんじゃ」
記憶を辿るように、胡桃沢がゆっくりと話し始めた。
「もちろん、わしはその本が本物だとは信じてはおらんかった。しかし羽角はずっとその本を調べ続けておった。そして十七年前、その本を使い、封印されたものを呼び出そうとしたんじゃ」
胡桃沢の言葉に、斎は驚きと戸惑いを隠せずにいた。そのような、創作の中の出来事にも似たことが現実で実際に行われたとは、俄には信じがたいものであった。
「呼び出すって……、そんな馬鹿なことが……」
斎の動揺にも構わず、胡桃沢は言葉を続ける。
「今、わしが言えるのは、それぐらいじゃのぉ」
「天弥は? 天弥は、この本とどう係わってるんですか?」
この話は終いと言える状況になり、斎は思わず問い詰める。
「すまないが、あの子の事はよく解らなくてのぉ……」
胡桃沢は、すまなそうな表情と声音を斎へと向けた。
「ただ、羽角は異様とも思える程の執着を、あの子には持っておったのぉ」
「執着……ですか?」
胡桃沢が頷いた。それを見て、一気に入ってきた情報の整理が追いつかず、斎は無言で考え込む。
「少し、考えてみます」
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