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emitte lucem et veritatem
unus
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四時間目の授業中、サイラスは朝からずっと機嫌の良い天弥を見た。予定よりも一週間早く来てしまったため、まだ教科書が揃っていない。そのため、今日も天弥と机を合わせている。
天弥が、もっと嫌な奴なら良かったのに、そう思う。例え、成瀬天弥本人ではなくとも、自分の願いに連なる相手であることには変わりはしない。この天弥も、自分がどんなに望んでも叶わないものを、最初から手にしている相手なのだ。
先日出会ったのが本来の成瀬天弥で、今ここに存在しているのは別人格という訳ではなく、早い話が別人ということになる。その事を知っているのは、本来の天弥とハズミ、自分しかいない。送られてきた資料を見る限り、彼らは真実を知らない。
問題は、御神本 斎だ。真実は何もしらないはずだが、それも時間の問題だと思われる。だが今現在、胡桃沢斉明は日本国内に居ないため、多少の時間は稼げるだろうと、サイラスは考える。
そして本来の成瀬天弥、彼が何をしようとしているのかが分からない。斎に真実を伝えていないみたいだが、彼に何をさせたいのか予測すら出来ない。
「サイラスくん」
天弥の呼び声で、意識が引き戻される。
「ん? どないした?」
サイラスは天弥へと視線を向けた。
「授業、終わったよ」
その言葉にサイラスは辺りを見回す。すでに生徒達は昼食の準備に取りかかっていた。
「先生が、サイラスくんも連れて来なさいって言うから、一緒に行こうか?」
「先生が? そう言ったんか?」
「うん」
優しい笑みを浮かべながら、天弥が頷く。
「ほな、お邪魔しようかな」
昼食が入った紙袋を手に取り、サイラスは立ち上がった。
「天弥、なんか今日は朝から機嫌がええな」
教室を出て歩き出したところで、サイラスが天弥に尋ねる。
「え? そうかな?」
少し俯きながら天弥が答えた。
「なんかええ事でもあったんか?」
少し面白そうに尋ねるサイラスの言葉に、天弥の顔が朱に染まる。
「えっと……、その……」
言葉に詰まりながら、天弥は昨日の放課後の事を思い出す。
放課後、強く抱きしめられ、激しい口付けと何度も繰り返し『好きだ』と耳元で囁かれた、斎の甘い声。それらを思い出すと身体が熱を帯び、息をするのも忘れてしまうぐらい全身が痺れ、鼓動が激しくなる。
「あー、言い難いんやったら、別にええで」
そうは言ったものの、天弥の態度は分かりやすい。斎と何か良い事でもあったのだろうと即座に思いつく。
「うん……」
気まずそうに無言で歩く天弥の横を、サイラスも同じように無言で歩く。言葉にも視線にも困りながら歩く天弥の目が、前方から近づいてくる女生徒を捉えた。表情が一瞬で変わる。
「花乃」
立ち止まると手を振り、視界の中の妹の名を呼ぶ。サイラスも釣られて足を止める。
天弥に気がついた花乃は、立ち止まり戸惑の表情を浮かべる。この場から逃げ出すのも不自然な行動であり、かといって兄とは出来るだけ顔を会わせたくないというのが本音だ。
「あれ、天弥の妹なんか?」
天弥が、もっと嫌な奴なら良かったのに、そう思う。例え、成瀬天弥本人ではなくとも、自分の願いに連なる相手であることには変わりはしない。この天弥も、自分がどんなに望んでも叶わないものを、最初から手にしている相手なのだ。
先日出会ったのが本来の成瀬天弥で、今ここに存在しているのは別人格という訳ではなく、早い話が別人ということになる。その事を知っているのは、本来の天弥とハズミ、自分しかいない。送られてきた資料を見る限り、彼らは真実を知らない。
問題は、御神本 斎だ。真実は何もしらないはずだが、それも時間の問題だと思われる。だが今現在、胡桃沢斉明は日本国内に居ないため、多少の時間は稼げるだろうと、サイラスは考える。
そして本来の成瀬天弥、彼が何をしようとしているのかが分からない。斎に真実を伝えていないみたいだが、彼に何をさせたいのか予測すら出来ない。
「サイラスくん」
天弥の呼び声で、意識が引き戻される。
「ん? どないした?」
サイラスは天弥へと視線を向けた。
「授業、終わったよ」
その言葉にサイラスは辺りを見回す。すでに生徒達は昼食の準備に取りかかっていた。
「先生が、サイラスくんも連れて来なさいって言うから、一緒に行こうか?」
「先生が? そう言ったんか?」
「うん」
優しい笑みを浮かべながら、天弥が頷く。
「ほな、お邪魔しようかな」
昼食が入った紙袋を手に取り、サイラスは立ち上がった。
「天弥、なんか今日は朝から機嫌がええな」
教室を出て歩き出したところで、サイラスが天弥に尋ねる。
「え? そうかな?」
少し俯きながら天弥が答えた。
「なんかええ事でもあったんか?」
少し面白そうに尋ねるサイラスの言葉に、天弥の顔が朱に染まる。
「えっと……、その……」
言葉に詰まりながら、天弥は昨日の放課後の事を思い出す。
放課後、強く抱きしめられ、激しい口付けと何度も繰り返し『好きだ』と耳元で囁かれた、斎の甘い声。それらを思い出すと身体が熱を帯び、息をするのも忘れてしまうぐらい全身が痺れ、鼓動が激しくなる。
「あー、言い難いんやったら、別にええで」
そうは言ったものの、天弥の態度は分かりやすい。斎と何か良い事でもあったのだろうと即座に思いつく。
「うん……」
気まずそうに無言で歩く天弥の横を、サイラスも同じように無言で歩く。言葉にも視線にも困りながら歩く天弥の目が、前方から近づいてくる女生徒を捉えた。表情が一瞬で変わる。
「花乃」
立ち止まると手を振り、視界の中の妹の名を呼ぶ。サイラスも釣られて足を止める。
天弥に気がついた花乃は、立ち止まり戸惑の表情を浮かべる。この場から逃げ出すのも不自然な行動であり、かといって兄とは出来るだけ顔を会わせたくないというのが本音だ。
「あれ、天弥の妹なんか?」
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