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nosce te ipsum
septem
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嬉しそうな顔で、天弥が尋ねる。
「俺は食わないから、全部食っていい」
天弥は満面に笑みを浮かべた。
「ありがとうございます」
嬉しさに弾む声で礼を述べ、天弥はチョコレートの箱を受け取る。嬉しそうに土産の箱を抱え込む天弥を確認すると、斎は車を発進させた。
車を走らせながら、近場で天弥が喜びそうな場所を考える。
「水族館にでも行くか?」
提案に、天弥は笑みを浮かべた。
「行きたいです」
すぐに、目的地に向かって車を走らせた。
殺風景な室内でサイラスは、事務机に向かい両肘を付きながら祈るように両手を合わせていた。何時間、ここにこうして座っていたのか、すでにどうでも良くなっている。
いきなりの事で感情的になってしまったが、落ち着いて考えてみれば、羽角が自ら姿を消したとは限らない。何よりも、自分に連絡が来ないことが変なのだ。望まない形で姿を隠さざるを得ないという状況も考えられる。その場合、不本意ではあるがここに居るのが一番の得策になる。
目の前に置かれた紙の束を手に取る。そこには、斎の詳細なデータが記されていた。羽角は姿を消す前に、これと同じ物を受け取ったと聞いた。
これは、何度、読み返しても気分が悪くなるものだ。だが、羽角が興味をしめす内容であることは間違いない。
次々と紙を捲っていく。よく、これだけ集めたというぐらい、現在の斎の細胞サンプルがある。入院していて意識が無かったとはいえ、生殖細胞まであるのは驚きだった。
内容は、六年前の斎の細胞サンプルとの詳細な比較、現在のサンプルの詳細な実験データ、五年前に挫折した計画の再開についてが記されている。
六年前のものと比較するまでも無く、現在の斎のデータは異常だ。予想はしていたが、細胞の再生速度が速すぎる。損傷が再生速度を上回らない限り、負傷などで命を落とすことは無い。
そして、五年前に行われていた計画の再開。当初は、意識が戻らない北河絢子を見限り、そのクローンを作ろうとしていた。公には、ヒトクローンは未だ成功していないことになっている。倫理的問題以前に、動物のクローン体には何らかの欠損があり、技術的に無理だということになっている。
実際問題、クローンを作ったとしてもテロメアが短いために、短命である。だが、これに記されているデータによると北河絢子のテロメアは、細胞分裂を何度繰り返しても短縮することが無かった。
動物組織から取り出した初代培養細胞は、分裂回数が制限されている。一定数の分裂を行うと細胞周期が停止し、それ以上は分裂できなくなってしまう。その制限を越えた分裂回数、細胞老化の停止などから、確かにクローンを作ることは可能だと思われる。
だが、計画は挫折した。クローン作成の初期段階の細胞周期の停止を行うことが出来なかったのだ。分化した核を飢餓状態に置くことが、何度試みても無理だったのだ。
その次に計画されたのが、いわゆるインブリードだった。突然変異で出来た種類を安定させるために、その親や兄弟、姉妹とかけあわせて安定させる。犬や猫など、変わったものが出来るとそうやって品種を作り上げるのだ。
「俺は食わないから、全部食っていい」
天弥は満面に笑みを浮かべた。
「ありがとうございます」
嬉しさに弾む声で礼を述べ、天弥はチョコレートの箱を受け取る。嬉しそうに土産の箱を抱え込む天弥を確認すると、斎は車を発進させた。
車を走らせながら、近場で天弥が喜びそうな場所を考える。
「水族館にでも行くか?」
提案に、天弥は笑みを浮かべた。
「行きたいです」
すぐに、目的地に向かって車を走らせた。
殺風景な室内でサイラスは、事務机に向かい両肘を付きながら祈るように両手を合わせていた。何時間、ここにこうして座っていたのか、すでにどうでも良くなっている。
いきなりの事で感情的になってしまったが、落ち着いて考えてみれば、羽角が自ら姿を消したとは限らない。何よりも、自分に連絡が来ないことが変なのだ。望まない形で姿を隠さざるを得ないという状況も考えられる。その場合、不本意ではあるがここに居るのが一番の得策になる。
目の前に置かれた紙の束を手に取る。そこには、斎の詳細なデータが記されていた。羽角は姿を消す前に、これと同じ物を受け取ったと聞いた。
これは、何度、読み返しても気分が悪くなるものだ。だが、羽角が興味をしめす内容であることは間違いない。
次々と紙を捲っていく。よく、これだけ集めたというぐらい、現在の斎の細胞サンプルがある。入院していて意識が無かったとはいえ、生殖細胞まであるのは驚きだった。
内容は、六年前の斎の細胞サンプルとの詳細な比較、現在のサンプルの詳細な実験データ、五年前に挫折した計画の再開についてが記されている。
六年前のものと比較するまでも無く、現在の斎のデータは異常だ。予想はしていたが、細胞の再生速度が速すぎる。損傷が再生速度を上回らない限り、負傷などで命を落とすことは無い。
そして、五年前に行われていた計画の再開。当初は、意識が戻らない北河絢子を見限り、そのクローンを作ろうとしていた。公には、ヒトクローンは未だ成功していないことになっている。倫理的問題以前に、動物のクローン体には何らかの欠損があり、技術的に無理だということになっている。
実際問題、クローンを作ったとしてもテロメアが短いために、短命である。だが、これに記されているデータによると北河絢子のテロメアは、細胞分裂を何度繰り返しても短縮することが無かった。
動物組織から取り出した初代培養細胞は、分裂回数が制限されている。一定数の分裂を行うと細胞周期が停止し、それ以上は分裂できなくなってしまう。その制限を越えた分裂回数、細胞老化の停止などから、確かにクローンを作ることは可能だと思われる。
だが、計画は挫折した。クローン作成の初期段階の細胞周期の停止を行うことが出来なかったのだ。分化した核を飢餓状態に置くことが、何度試みても無理だったのだ。
その次に計画されたのが、いわゆるインブリードだった。突然変異で出来た種類を安定させるために、その親や兄弟、姉妹とかけあわせて安定させる。犬や猫など、変わったものが出来るとそうやって品種を作り上げるのだ。
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