apocalypsis

さくら

文字の大きさ
131 / 236
nosce te ipsum

viginti quattuor

しおりを挟む
 天弥とは十二年前に何度か会っていたというだけで、何も特別な事はなかったはずだ。
「運命? みたいなものです。後は、僕が少し関渉しました」
 全て計算をされ、目前の天弥の手のひらで踊らされていただけだった。いつも傍に居てくれた天弥の感情も、想いも、作られたものだった。
「先生も簡単に落ちてしまいましたし、少し物足りなかったぐらいです」
 楽しそうに、天弥は斎を見つめ笑う。最初は、目の前の天弥に何もかも奪われた。感情や想いなど関与せず、ただひたすら目の前の存在が欲しいと願った。だが、失ってから会いたいと望んだのは、ずっと一緒に居た方だった。
「それでも俺は……、天弥が好きなんだ。あいつが傍にいないとダメなんだ……」
 その言葉に、天弥の表情から笑みが消える。収まったはずのざわめきが、また微かに蠢いた。
「許してもらえるまで、何度でも謝る。そして出来ることなら、もう一度やり直したい」
 一途に自分を想い続けてくれた天弥を、裏切り傷つけた。自分がどれだけ都合の良いことを言っているのか理解している。それでも、このまま終わりになるのは嫌だった。
「天弥は僕だと、何度言えば理解してもらえるのですか?」
 何も感情のこもらない表情と声音を、天弥は斎へと向けた。
「それに、先生が好きだというあれは、自ら閉じこもったんです。もう、先生には会いたくないんじゃないですか?」
 天弥の言葉が、斎の胸に深く突き刺さる。
「あまり虐めないで欲しいですね」
 低くてよく通る声が、斎と天弥の間に割り込んできた。
「そんなに追い詰めてしまうと、彼とゲームを楽しめなくなってしまう」
 天弥はその言葉に、抱きついている相手へと視線を移した。
「分かりました」
 相手の顔を見上げ、天弥は素直にその言葉に従う。
「それで、この後はどうするのですか?」
 天弥を見下ろし、異質な闇が尋ねる。天弥は再び斎へと視線を向けた。
「そうですね……。約束を守る必要も無くなりましたし、僕のものではないものに興味はありませんし……、ここに留まる理由はないですね」
 何かを考え込む表情をした後、天弥の表情がゆっくりと変わる。
「先生」
 今まで見たことのないような極上の笑みを、天弥は斎へと向けた。
「さようなら」
 斎にとって、もっとも残酷な言葉を口にする。それと同時に天弥たちの周りの闇が揺らいだ。
「天弥?」
 周囲の闇と同化し、天弥の姿が消えた。慌てて、今まで天弥がいた場所へと駆け出す。しかし、そこには天弥が存在していたという痕跡は何も無く、斎を取り巻いていた畏怖をもたらす存在の残痕もなかった。
 うるさく叫び続ける感情を抱え、天弥の名を何度も呼ぶ。人知を超える存在に成す術も無く、斎はつい先程まで天弥が存在していた場所に立ち尽くした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

10秒で読めるちょっと怖い話。

絢郷水沙
ホラー
 ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...