139 / 236
date et dabitur vobis
octo
しおりを挟む
疑問の形ではあるが、確認を取る気などまるでないという様子で、天弥が口を開いた。
「それも、かまへんけど」
そう答えながらも、斎との会話を思い出し背筋が凍りつく。斎の言葉が正しければ、今現在、天弥と一緒にいるのはナイアルラトホテップと呼ばれる神である。
「ではお邪魔します」
天弥は室内へと足を踏み入れた。その後に続くかのように大きな黒い影が動き、サイラスは釣られてその影へと視線を向ける。
「な、なんや、それは!?」
予想もしなかったものが目の前に現れ、思わず後退る。
「ちょ、ちょー待ってや!」
後退る足がもつれ、バランスを崩しそうになり、壁に手を付いて身体を支えた。天弥はサイラスの視線をたどり、自分のすぐ傍にいる存在へと目を向けた。
「これは、少し目立つ姿だったので、お願いして変えてもらったんです」
笑顔を絶やさずに、天弥はサイラスの表情に浮かぶ疑問に答える。
「これなら、散歩中に見えますよね?」
サイラスは思わず首を横に振る。
「見えへんて……」
サイラスは呟きながら、天弥のすぐ傍に寄り添うトラやライオン程の大きさをした黒豹を見つめた。豹にしては大きすぎるのに加え、何とも形容しがたい畏怖を纏っている。斎の言葉通りなら、この存在はナイアルラトホテップという名の神である。ライオンの姿なら、スフィンクスとつく別名があるので理解できるが、なぜ豹なのか少し悩む。
「そうですか」
特に気にした様子も無く、天弥と黒豹は完全に室内に入り込むと、玄関のドアを閉めた。
「お邪魔します」
靴を脱ぎ揃えると、案内も得ずに奥へと向かう。黒豹は一瞬、サイラスへと視線を向けると、天弥の後に続いた。その後を、サイラスが追う。
リビングへ入ると、ソファーに横たわる大きな黒豹と、その後ろ足のすぐ傍に座る天弥の姿を捉えた。何とも言えない現実感の無い風景に、軽く肩をすくめるとキッチンへと向かう。
冷蔵庫を開け、中から500mlのコーラ飲料のペットボトルを二本取り出すと、食卓の上に積まれているポテトチップスの袋も、二つ手に取った。
リビングへと戻ったサイラスは、手にしたものを一応、天弥と黒豹の前に置いてみた。だが、テーブルの上に置かれたそれらに、天弥も黒豹も興味どころか、視線すら向けようとしなかった。
「ほんで、こんな時間にどうしたんや?」
天弥と向かい合うように、床の上に座り込んだ。どんな理由であろうと、わざわざ出向いてくれたのだ。出来れば身柄を確保したい、そう思いながらサそのすぐ傍に横たわる黒豹へと視線を向けた。
黒豹は大きな身体をソファーに横たえ、我関せずという感じで尻尾を振り回している。それが、後ろ足のすぐ傍に腰を下ろす天弥の身体にぶつかったり、絡みついたりしている。
「返事を聞きに来ました」
天弥の声に、サイラスは視線を黒豹から戻した。
「返事って何や?」
天弥の言葉の意味を理解していながら、わざと聞き返す。
「家族に会いたくはないですか?」
以前、サイラスの耳元で囁いた言葉を、天弥は再び口にする。
「今さら会いに行っても、向こうも迷惑やろ?」
「それも、かまへんけど」
そう答えながらも、斎との会話を思い出し背筋が凍りつく。斎の言葉が正しければ、今現在、天弥と一緒にいるのはナイアルラトホテップと呼ばれる神である。
「ではお邪魔します」
天弥は室内へと足を踏み入れた。その後に続くかのように大きな黒い影が動き、サイラスは釣られてその影へと視線を向ける。
「な、なんや、それは!?」
予想もしなかったものが目の前に現れ、思わず後退る。
「ちょ、ちょー待ってや!」
後退る足がもつれ、バランスを崩しそうになり、壁に手を付いて身体を支えた。天弥はサイラスの視線をたどり、自分のすぐ傍にいる存在へと目を向けた。
「これは、少し目立つ姿だったので、お願いして変えてもらったんです」
笑顔を絶やさずに、天弥はサイラスの表情に浮かぶ疑問に答える。
「これなら、散歩中に見えますよね?」
サイラスは思わず首を横に振る。
「見えへんて……」
サイラスは呟きながら、天弥のすぐ傍に寄り添うトラやライオン程の大きさをした黒豹を見つめた。豹にしては大きすぎるのに加え、何とも形容しがたい畏怖を纏っている。斎の言葉通りなら、この存在はナイアルラトホテップという名の神である。ライオンの姿なら、スフィンクスとつく別名があるので理解できるが、なぜ豹なのか少し悩む。
「そうですか」
特に気にした様子も無く、天弥と黒豹は完全に室内に入り込むと、玄関のドアを閉めた。
「お邪魔します」
靴を脱ぎ揃えると、案内も得ずに奥へと向かう。黒豹は一瞬、サイラスへと視線を向けると、天弥の後に続いた。その後を、サイラスが追う。
リビングへ入ると、ソファーに横たわる大きな黒豹と、その後ろ足のすぐ傍に座る天弥の姿を捉えた。何とも言えない現実感の無い風景に、軽く肩をすくめるとキッチンへと向かう。
冷蔵庫を開け、中から500mlのコーラ飲料のペットボトルを二本取り出すと、食卓の上に積まれているポテトチップスの袋も、二つ手に取った。
リビングへと戻ったサイラスは、手にしたものを一応、天弥と黒豹の前に置いてみた。だが、テーブルの上に置かれたそれらに、天弥も黒豹も興味どころか、視線すら向けようとしなかった。
「ほんで、こんな時間にどうしたんや?」
天弥と向かい合うように、床の上に座り込んだ。どんな理由であろうと、わざわざ出向いてくれたのだ。出来れば身柄を確保したい、そう思いながらサそのすぐ傍に横たわる黒豹へと視線を向けた。
黒豹は大きな身体をソファーに横たえ、我関せずという感じで尻尾を振り回している。それが、後ろ足のすぐ傍に腰を下ろす天弥の身体にぶつかったり、絡みついたりしている。
「返事を聞きに来ました」
天弥の声に、サイラスは視線を黒豹から戻した。
「返事って何や?」
天弥の言葉の意味を理解していながら、わざと聞き返す。
「家族に会いたくはないですか?」
以前、サイラスの耳元で囁いた言葉を、天弥は再び口にする。
「今さら会いに行っても、向こうも迷惑やろ?」
0
あなたにおすすめの小説
女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる