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date et dabitur vobis
undeviginti
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斎はメガネを外す。イルミネーションが輝き出し、十分に明るいと天弥は思ったが口には出さず、ゆっくりと目を閉じた。すぐに、唇が重ねられた。
少し長く重なり合った唇が離れると、天弥は斎の胸に顔を埋める。
「他の階も見てみるか?」
天弥は頷いた。斎の腕の力が抜ける。
「じゃあ行くか」
そう言い、斎は天弥に背を向けて歩き出した。天弥はその場に立ち止まり、後姿を見つめる。そしてそっと胸に手を当てた。
「ごめんね……。後、少しだけ……」
少し俯きながら。小さな声で呟く。
「天弥」
斎が呼ぶ声が聞こえ、顔を上げた。付いて来ている筈の天弥の姿が無く、斎は足を止めて振り返っていた。慌てて斎に向かって駆け出す。
「どうした?」
駆け寄ってきた天弥に尋ねる。
「お腹が空いたなーって考えてました」
笑みを浮かべて答えた。斎はその笑みと、いつもの食い気が優先の天弥に安心する。
「何が食べたいか、考えとけ」
「はい」
斎が歩き出す。今度は天弥も一緒に歩き出した。
土曜日の夕刻、茜色に染まった西日が差し込むホテルの一室で、斎は木製の椅子に座り、口に咥えた煙草に火を点けた。愛用のジッポーの蓋を閉める音が響くと同時に、深く煙を吸い込むとゆっくりとそれを吐き出した。手にしたジッポーを胸ポケットに入れようとした時、指に違和感を覚え視線を向けた。夕日に彩られたシンプルなプラチナの指輪が、左手の薬指に輝いていた。
海や夜景を見に行った火曜日の夜、夕食を何にするか話している時に天弥が一軒の店の前で足を止めた。そこは宝飾店で、ショーウィンドウの一点を見つめる天弥の視線を追うと指輪が目に入った。欲しいのかと尋ねると、一瞬の沈黙の後、天弥は力なく首を横に振った。その様子に、思わず天弥の手を引き店の中へと入ってしまった。
咥えていた煙草を手にし、その灰を灰皿へと落とした。再び煙草を咥えると、指に光る指輪へと視線を戻した。
店内へ入ると、天弥は自分の姿を隠すかのように、斎の背後から出て来ようとはしなかった。おそらく、自分の性別を気にしての事だったと思うが、どこをどう見ても男には見えないため、その行動は無用のものだっただろう。
店員に指輪が欲しい事を告げると、すぐに恋人へのプレゼントなのかを聞かれ、肯定すると幾つかの商品が目の前に並べられた。天弥にどれが欲しいのか尋ねると、やっと背後から顔を出し、並べられた指輪へと視線を向けた。光り輝く透明な石が付いた指輪を少し眺めると、天弥は視線を伏せた。
斎を通り越し、店員は天弥に話しかけながら色々と尋ねていき、高校生だという事を知ると今度はシンプルなデザインや可愛らしいデザインのものを並べ始めた。その頃には斎の背後から姿を現し、瞳を輝かせながら指輪を見つめていた。
店員は斎に向かい、天弥の事を綺麗なお嬢さんですねと何度も言っていた。天弥は制服姿ではあったが、その細く華奢な身体と綺麗過ぎる顔では、男だと言っても信じてはもらえないだろうと思う。
少し長く重なり合った唇が離れると、天弥は斎の胸に顔を埋める。
「他の階も見てみるか?」
天弥は頷いた。斎の腕の力が抜ける。
「じゃあ行くか」
そう言い、斎は天弥に背を向けて歩き出した。天弥はその場に立ち止まり、後姿を見つめる。そしてそっと胸に手を当てた。
「ごめんね……。後、少しだけ……」
少し俯きながら。小さな声で呟く。
「天弥」
斎が呼ぶ声が聞こえ、顔を上げた。付いて来ている筈の天弥の姿が無く、斎は足を止めて振り返っていた。慌てて斎に向かって駆け出す。
「どうした?」
駆け寄ってきた天弥に尋ねる。
「お腹が空いたなーって考えてました」
笑みを浮かべて答えた。斎はその笑みと、いつもの食い気が優先の天弥に安心する。
「何が食べたいか、考えとけ」
「はい」
斎が歩き出す。今度は天弥も一緒に歩き出した。
土曜日の夕刻、茜色に染まった西日が差し込むホテルの一室で、斎は木製の椅子に座り、口に咥えた煙草に火を点けた。愛用のジッポーの蓋を閉める音が響くと同時に、深く煙を吸い込むとゆっくりとそれを吐き出した。手にしたジッポーを胸ポケットに入れようとした時、指に違和感を覚え視線を向けた。夕日に彩られたシンプルなプラチナの指輪が、左手の薬指に輝いていた。
海や夜景を見に行った火曜日の夜、夕食を何にするか話している時に天弥が一軒の店の前で足を止めた。そこは宝飾店で、ショーウィンドウの一点を見つめる天弥の視線を追うと指輪が目に入った。欲しいのかと尋ねると、一瞬の沈黙の後、天弥は力なく首を横に振った。その様子に、思わず天弥の手を引き店の中へと入ってしまった。
咥えていた煙草を手にし、その灰を灰皿へと落とした。再び煙草を咥えると、指に光る指輪へと視線を戻した。
店内へ入ると、天弥は自分の姿を隠すかのように、斎の背後から出て来ようとはしなかった。おそらく、自分の性別を気にしての事だったと思うが、どこをどう見ても男には見えないため、その行動は無用のものだっただろう。
店員に指輪が欲しい事を告げると、すぐに恋人へのプレゼントなのかを聞かれ、肯定すると幾つかの商品が目の前に並べられた。天弥にどれが欲しいのか尋ねると、やっと背後から顔を出し、並べられた指輪へと視線を向けた。光り輝く透明な石が付いた指輪を少し眺めると、天弥は視線を伏せた。
斎を通り越し、店員は天弥に話しかけながら色々と尋ねていき、高校生だという事を知ると今度はシンプルなデザインや可愛らしいデザインのものを並べ始めた。その頃には斎の背後から姿を現し、瞳を輝かせながら指輪を見つめていた。
店員は斎に向かい、天弥の事を綺麗なお嬢さんですねと何度も言っていた。天弥は制服姿ではあったが、その細く華奢な身体と綺麗過ぎる顔では、男だと言っても信じてはもらえないだろうと思う。
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