174 / 190
第三章 放置ダンジョンで冒険者暮らし編
第173話 どんどん育つ作物
しおりを挟む
秋月の運転で俺たちは放置ダンジョンへと戻ってきた。正直なところ、帰りは俺が運転を代わろうかとも思ったんだけど、秋月は「運転好きだから」とにこやかに断ってきた。
それ以上に、祖父である落葉さんの形見の車だって話も前に聞いたことがある。大切な車だからこそ、他人にハンドルを握らせたくないって気持ちもあるんだろうな。
俺は営業時代、社用車ばかりだったし、プライベートで車を持ったことがない。今後のことを考えればあってもいいとは思うけど……費用面とか、ダンジョン暮らしの生活スタイルを考えると、まだ難しいか。
そんなことを考えながら、車内でたわいのない会話を交わしているうちに、ダンジョンに到着した。買ってきた荷物は俺とモンスターたちで分担して運ぶことに。
秋月も「手伝うよ」と言ってくれたけど、運転してくれた上にそこまで甘えるのは悪い気がして、ここは休んでもらうことにした。
「後はこれを運ぶだけだな」
「ゴブッ!」
「ワン!」
「ピキィ♪」
「マァ♪」
「モグゥ!」
残っていたのは、ゴブが作ってくれた折りたたみ式のテーブルとイス。見た目こそ素朴だけど、構造は頑丈で収納にも便利な一品だ。皆で協力してそれを運んでいると――
「風間さん、すごいよ! ちょっと来てみて!」
興奮気味の秋月が外から駆け寄ってきた。目を輝かせながら俺を手招きしている。
とりあえずテーブルとイスを所定の場所に運び入れ、秋月の指さす方向へ視線を向けると――畑の一角に、真っ赤に色づいたトマトがたわわに実っていた。
「マジか……もう収穫できるのかよ……」
正直、言葉が出なかった。種を蒔いてからそこまで経っていないのに、この育ちっぷりは異常だ。まるで何か加速する力でも働いてるみたいだ。
「わぁ……こんなに早く実がなるなんて……!」
秋月も目を見張っていた。あまりの成長スピードに、もはや畑の常識が通じないことを改めて痛感する。
そういえば、これも作物だし、鑑定スキルが使えるかもな。ためしに手のひらで実ったトマトの近くにかざしてみる。
『陽熟実トマト:ダンジョンの陽気を吸って育った強化作物。摂取により集中力が増し、睡眠や混乱などの状態異常にも掛かりにくくなる。視界の明瞭さも一時的に向上し、周囲の状況を把握しやすくなる。熱を通すことで味が深まり、効果の持続時間が延びる』
「……またとんでもない効果がついてるな、これ」
前の魔根人参の時も驚いたけど、今回のトマトもなかなかどうしてヤバい性能だ。こんなの食べて平気なんだろうか。人間用として安全なのか、やっぱちょっと心配になる。
「このトマト、美味しそうだよね。人参もだけど、料理に使ってもいいかも」
秋月がそう言うと――
「ワンワン!」
「ピキィ!」
「マァ~♪」
「ゴブゥ♪」
「モグゥ♪」
モンスターたちが一斉に喜びの声を上げた。料理、というワードに反応したようで、モコは尻尾を振って跳ね回り、ゴブは口元をぺろりと舐めている。皆ノリノリだな。
ただ、俺としては、念のため誰かに確認したい気もする。特にこの手の特殊な作物に詳しい人とか――
そのとき、タイミングを見計らったようにスマフォが震えた。表示された名前は、小澤マスター。
「マスター? どうかされましたか?」
通話を繋ぐと、元気いっぱいの声がスピーカーから響いてきた。
『おう! 別に急ぎじゃねぇけどな。調子はどうかと思ってよ。特にモンスターたちは元気か? 可愛らしいモンスターたちはどうだ! また新しい仲間が増えたりしてないか!』
いきなりハイテンションで畳みかけられて、思わず笑いがこぼれる。相変わらずモンスター大好きだな、この人。
「流石に新入りは増えてませんが、実はダンジョンの畑で育ててた人参とトマトが、今日見たら収穫できてまして」
『ほう、そいつはすごいな。どんなもんが育ったんだ?』
「はい、実は――」
俺はマスターに、鑑定スキルで判明した人参とトマトの情報を説明しはじめた。思えば、これは俺たちの暮らしにとって、かなり大きな“収穫”かもしれない――。
それ以上に、祖父である落葉さんの形見の車だって話も前に聞いたことがある。大切な車だからこそ、他人にハンドルを握らせたくないって気持ちもあるんだろうな。
俺は営業時代、社用車ばかりだったし、プライベートで車を持ったことがない。今後のことを考えればあってもいいとは思うけど……費用面とか、ダンジョン暮らしの生活スタイルを考えると、まだ難しいか。
そんなことを考えながら、車内でたわいのない会話を交わしているうちに、ダンジョンに到着した。買ってきた荷物は俺とモンスターたちで分担して運ぶことに。
秋月も「手伝うよ」と言ってくれたけど、運転してくれた上にそこまで甘えるのは悪い気がして、ここは休んでもらうことにした。
「後はこれを運ぶだけだな」
「ゴブッ!」
「ワン!」
「ピキィ♪」
「マァ♪」
「モグゥ!」
残っていたのは、ゴブが作ってくれた折りたたみ式のテーブルとイス。見た目こそ素朴だけど、構造は頑丈で収納にも便利な一品だ。皆で協力してそれを運んでいると――
「風間さん、すごいよ! ちょっと来てみて!」
興奮気味の秋月が外から駆け寄ってきた。目を輝かせながら俺を手招きしている。
とりあえずテーブルとイスを所定の場所に運び入れ、秋月の指さす方向へ視線を向けると――畑の一角に、真っ赤に色づいたトマトがたわわに実っていた。
「マジか……もう収穫できるのかよ……」
正直、言葉が出なかった。種を蒔いてからそこまで経っていないのに、この育ちっぷりは異常だ。まるで何か加速する力でも働いてるみたいだ。
「わぁ……こんなに早く実がなるなんて……!」
秋月も目を見張っていた。あまりの成長スピードに、もはや畑の常識が通じないことを改めて痛感する。
そういえば、これも作物だし、鑑定スキルが使えるかもな。ためしに手のひらで実ったトマトの近くにかざしてみる。
『陽熟実トマト:ダンジョンの陽気を吸って育った強化作物。摂取により集中力が増し、睡眠や混乱などの状態異常にも掛かりにくくなる。視界の明瞭さも一時的に向上し、周囲の状況を把握しやすくなる。熱を通すことで味が深まり、効果の持続時間が延びる』
「……またとんでもない効果がついてるな、これ」
前の魔根人参の時も驚いたけど、今回のトマトもなかなかどうしてヤバい性能だ。こんなの食べて平気なんだろうか。人間用として安全なのか、やっぱちょっと心配になる。
「このトマト、美味しそうだよね。人参もだけど、料理に使ってもいいかも」
秋月がそう言うと――
「ワンワン!」
「ピキィ!」
「マァ~♪」
「ゴブゥ♪」
「モグゥ♪」
モンスターたちが一斉に喜びの声を上げた。料理、というワードに反応したようで、モコは尻尾を振って跳ね回り、ゴブは口元をぺろりと舐めている。皆ノリノリだな。
ただ、俺としては、念のため誰かに確認したい気もする。特にこの手の特殊な作物に詳しい人とか――
そのとき、タイミングを見計らったようにスマフォが震えた。表示された名前は、小澤マスター。
「マスター? どうかされましたか?」
通話を繋ぐと、元気いっぱいの声がスピーカーから響いてきた。
『おう! 別に急ぎじゃねぇけどな。調子はどうかと思ってよ。特にモンスターたちは元気か? 可愛らしいモンスターたちはどうだ! また新しい仲間が増えたりしてないか!』
いきなりハイテンションで畳みかけられて、思わず笑いがこぼれる。相変わらずモンスター大好きだな、この人。
「流石に新入りは増えてませんが、実はダンジョンの畑で育ててた人参とトマトが、今日見たら収穫できてまして」
『ほう、そいつはすごいな。どんなもんが育ったんだ?』
「はい、実は――」
俺はマスターに、鑑定スキルで判明した人参とトマトの情報を説明しはじめた。思えば、これは俺たちの暮らしにとって、かなり大きな“収穫”かもしれない――。
91
あなたにおすすめの小説
小さなフェンリルと私の冒険時間 〜ぬくもりに包まれた毎日のはじまり〜
ちょこの
ファンタジー
もふもふな相棒「ヴァイス」と一緒に、今日もダンジョン生活♪
高校生の優衣は、ダンジョンに挑むけど、頼れるのはふわふわの相棒だけ。
ゆるふわ魔法あり、ドキドキのバトルあり、モフモフ癒しタイムも満載!
ほんわか&ワクワクな日常と冒険が交差する、新感覚ファンタジー!
俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~
シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。
目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。
『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。
カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。
ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。
ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。
ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。
ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。
ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。
なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。
もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。
もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。
モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。
なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。
顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。
辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。
他のサイトにも掲載
なろう日間1位
カクヨムブクマ7000
本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?
今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。
バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。
追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。
シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。
おばさん冒険者、職場復帰する
神田柊子
ファンタジー
アリス(43)は『完全防御の魔女』と呼ばれたA級冒険者。
子育て(子どもの修行)のために母子ふたりで旅をしていたけれど、子どもが父親の元で暮らすことになった。
ひとりになったアリスは、拠点にしていた街に五年ぶりに帰ってくる。
さっそくギルドに顔を出すと昔馴染みのギルドマスターから、ギルド職員のリーナを弟子にしてほしいと頼まれる……。
生活力は低め、戦闘力は高めなアリスおばさんの冒険譚。
-----
剣と魔法の西洋風異世界。転移・転生なし。三人称。
一話ごとで一区切りの、連作短編(の予定)。
-----
※小説家になろう様にも掲載中。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』
チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。
その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。
「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」
そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!?
のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる