親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃

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第四章 モンスターバトル編

第177話 やっぱりうっかりな風間

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「それにしても、ふむ……モンスターバトル、か」

 小澤マスターが腕を組んで唸るように呟いた。モンスターバトルに出ることについて好意的だったが、今の表情はいつもの朗らかさを失い、僅かに真剣な色が宿っている。

「何か問題でもあるんですか?」

 秋月が不安げに問うと、マスターは小さく息を吐いて言った。

「いや、別にモンスターバトルそのものはいいんだ。楽しい競技だし、腕試しにはもってこいだろう。だがな……」

 マスターは周囲を確認し、声のボリュームを下げた。

「裏もあるんだよ。人目に触れない“非公認”の闘技場がな。金と名声目当てに、ルール無用のバトルをやってる連中がいる。情報が回りにくい新人を狙って引き込むケースもあるらしい」

 まさに裏社会の香りだ。俺も秋月も思わず真顔になる。

「風間、お前なら大丈夫だと思ってるが……くれぐれも、甘い話には乗るなよ」
「はい。気をつけます」

 モコたちも心配そうにこちらを見ている。ラムがぷるぷる震え、マールが手を握ってきた。

 それにしても裏の闘技場か――

「――っと、なんだ?」

 部屋内の固定電話が鳴り小澤マスターがそれに応じた。

「ん、俺だ。……あぁ、来てるぞ。おう。おい風間、お前に連絡が入ってるぞ。香川からだ」
「え? 香川さん?」
「何か登録事項について気になることがあるそうだ。まぁこの後でも顔を出してやってくれ」

 小澤マスターから話を聞いた後、俺たちは部屋を離れ、ギルドの窓口に向かった。そこで香川さんは、いつもの事務的な空気で俺たちを出迎えた。

「来てくれて助かるわ。ちょっと確認したいことがあって」
「なんでしょう?」
「住民票の件だけど……風間さん、住所変更してないでしょう?」

 思わず固まり声が漏れる。

「あっ……うっかりしてたかも」
「全く。貴方、今は放置ダンジョンに住んでるんでしょ? それなら流石に住所も変えた方がいいわ」
「た、確かに」

 秋月が頬を掻き、俺は頭を擦った。

「申し訳ないです。だけど、ダンジョンを住所に指定出来るんですか?」
「そうね。本来中々ありえない話だけど、冒険者なら定住の実態があれば申請は通る。既にギルドでも確認済みですからね。これなら証明があれば住民登録は可能なのよ」
「へえ……制度が意外と柔軟なんですね」
「だから、出来れば今日のうちにでもこの書類にサインして、役所で冒険者証と一緒に提出しておくことね」
「ありがとうございます」

 香川さんは事務的ながらも、やることはしっかりやってくれる。

「それと、もうひとつ。査定の結果が出たわよ」

 香川さんがファイルを手にして差し出されたので、俺と秋月で内容を確認した。

 ファイルによると品質評価はA。形も良く、味の濃さも高評価だ。今回持ちこんだ作物は合計で二万二八〇〇円の値段がついた。

「おぉ……!」

 思わず声が漏れた。箱に丁重に詰めて持ち込んだけど、今回の量でこの金額は上々だ。

「やったな。これなら継続的に収穫できれば、生活費もダンジョン税もなんとかなるかも……!」

 俺の言葉に秋月も笑みを浮かべたのだが、そこで香川さんから声が掛かる。

「その話が出るなら、ついでにもうひとつ言っておくわ。ダンジョンで採れた作物を売るなら、その収益もちゃんと申告しておいてね。立派な“収入”扱いだから。ダンジョン税にも乗っかるわよ」
「…………あっ」
「…………うっかりしてた……」

 俺と秋月が同時に沈黙したのを見て、香川さんはため息をついた。

「まったく……。貴方たち、放置ダンジョンだからと言って税金まで“放置”は出来ないわよ。十分気をつけることね」
「き、肝に銘じておきます」
「本当に色々とありがとうございます」

 頭を下げる俺たちの横で、モコが「ワン!」と元気に鳴いた。

 ……うん。しっかりしないとな。ダンジョン生活って、意外とちゃんと現代社会の一部なのだから――
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