親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃

文字の大きさ
38 / 190
第二章 冒険者登録編

第37話 山守の母

しおりを挟む
 山守の母に案内されて大広間に向かった。しかし廊下が長い。中庭もあって鹿威ししおどしの涼し気な音色も聞こえてきた。

 ふと前を行く山守の母を見たが歩く姿勢に乱れが一切感じられず美しい。

「……何かお母さんの事ずっと見てない?」

 すると、俺の袖を引っ張った山守がそう言って目を細めてきた。

「お母さんはお父さんとラブラブだから狙ってもダメだからね」

 そして何故か不機嫌そうに注意されてしまった。いやいや誤解だから!

「違うって。姿勢が綺麗だなと思ってさ。なにかしてるのかなって」
「あ、そうなんだね。うん、お母さん普段は生け花を教えたりしているから」

 なるほど。それで合点が言った。更に山守が言うには華道と茶道の両方に通じているようだ。

「凄い人なんだな」
「ワン!」
「ピキュ~」

 山守の話を聞いてモコとラムも感心しているよ。そうこうしている内に俺たちは広間に通された。
 
 襖で仕切られていて建物の外観通りの和室だ。痛み一つ感じられない畳が敷き詰められていて手入れが行き届いているのがわかる。

「楽にしてくださいね」

 山守の母はそう言ったがなんとなく正座になってしまった。するとなんとモコも俺の真似をして正座で座ってみせた。

「モコ大丈夫か?」
「ワン!」

 元気に答えるモコ。どうやら大丈夫らしい。しかしチョコンっと正座するモコの姿は行儀良さの中に愛らしさも相まってなんとも言えない気持ちになる。

「モコちゃんお行儀いいですね~♪」
「ワン♪」

 紅葉に褒められてモコもご満悦な様子だ。

「あらあらすっかりモコちゃんと仲良しね」

 そう言って口元に指を添えて微笑む山守の母親。見た目の若々しさも相まって一つ一つの所作には目を見張る者がある。

「改めまして、私、秋月あつきと紅葉の母の月見でございます」

 そう言って二人の母親である月見がお辞儀をした。そういえば山守の名前は秋月だったな。とにかく月見の所作につられて思わず俺もそれに倣う。

「は、はい。改めまして風間 晴彦と申します」

 自分なりに言葉を選んで返礼する。しかし本当に行儀がいいな。

「えっと、そこで事後報告になってしまい申し訳ありませんが、今は落葉さんの管理していたダンジョンで過ごさせてもらってます。出来ればこの子たちと一緒に今後もダンジョンで生活させてもらえればと思っているんですが……」
「はい。秋月が問題なければ一向に構いません。山を相続したのも娘ですからね。それに人柄はよくわかりましたので。貴方は信用できます」

 ニコッと微笑み優しい言葉を掛けてくれて安堵した。

「それでは折角ですからお茶を御用意しますね」
「いや、そんなお構いなく!」
「わざわざ来ていただいたのですからご遠慮なさらず」
 
 そう言って月見が部屋を出ていった。しかしお茶の先生に淹れてもらうとか、なんとも贅沢な気もする。

「そういえばお父さんはどうしてるかな」

 待っている間に秋月がそんなことを言った。そう言えば母親がいるなら当然父親もいるわけか。

「パパは道場だと思うよ~」
「え? 道場?」
 
 モコと遊んでいた紅葉が思い出したように言った。それに俺も疑問の声をあげてしまう。

「あ、そうなんだ。えっと風間さん実はね――」

 秋月が何かをいいかけたその時、広間の外からドスドスと豪快な足音が近づいてきた。そして閉められていた襖がガラリと開けられ熊のようにガタイの良い男性が入ってきた。

「むぅ!」

 そして俺を見るなり眉間に皺を寄せ唸り声を上げた。あれ? 何故だろう背中に悪寒を感じたのだけど。

「あ、お父さん。ちょうどよかったこの人が」
「ゆるさぁあああぁあああぁああああぁああああぁああんッ!」
「わわっ!」
「ワン!?」
「ピキィ!?」

 秋月の説明が終わる前に男性が咆哮を上げた。さっきの悪寒は思い過ごしじゃなかった! ひょっとしてこの人怒ってらっしゃる!? 

 その声の大きさにモコとラムも驚いて俺の背中に回ってきたよ。しかも鬼のような形相で俺を睨んできているし、これってヤバいのかも――
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

小さなフェンリルと私の冒険時間 〜ぬくもりに包まれた毎日のはじまり〜

ちょこの
ファンタジー
もふもふな相棒「ヴァイス」と一緒に、今日もダンジョン生活♪ 高校生の優衣は、ダンジョンに挑むけど、頼れるのはふわふわの相棒だけ。 ゆるふわ魔法あり、ドキドキのバトルあり、モフモフ癒しタイムも満載! ほんわか&ワクワクな日常と冒険が交差する、新感覚ファンタジー!

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
 ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。  ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。  ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。  ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。  なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。  もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。  もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。  モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。  なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。  顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。  辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。 他のサイトにも掲載 なろう日間1位 カクヨムブクマ7000  

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。 バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。 追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。 シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。

おばさん冒険者、職場復帰する

神田柊子
ファンタジー
アリス(43)は『完全防御の魔女』と呼ばれたA級冒険者。 子育て(子どもの修行)のために母子ふたりで旅をしていたけれど、子どもが父親の元で暮らすことになった。 ひとりになったアリスは、拠点にしていた街に五年ぶりに帰ってくる。 さっそくギルドに顔を出すと昔馴染みのギルドマスターから、ギルド職員のリーナを弟子にしてほしいと頼まれる……。 生活力は低め、戦闘力は高めなアリスおばさんの冒険譚。 ----- 剣と魔法の西洋風異世界。転移・転生なし。三人称。 一話ごとで一区切りの、連作短編(の予定)。 ----- ※小説家になろう様にも掲載中。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

処理中です...