親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃

文字の大きさ
41 / 190
第二章 冒険者登録編

第40話 秋月の実力

しおりを挟む
「ねぇお父さん。今度は私とやろうよ」

 麦茶を飲み小休止を終えると秋月が楓に向けて挑戦的なセリフを吐いた。あの強い父親に挑むとか娘とは言え随分と勇猛に思える。

「そうだな。たまにはいいか」

 そして楓が立ち上がり秋月と一緒に中央に移動した。

「お姉ちゃんがんばって~」
「ワンワン!」
「ピキィ~♪」

 紅葉の応援に合わせてモコとラムも声を上げていた。雰囲気的には秋月を応援しているようだな。

「体格差が凄いな。これで勝負になるのだろうか?」
「うふふ。確かに娘は小柄ですが中々やるんですよ」

 一緒に見ていた月見が笑って答えた。そう言えば彼女もあの楓を軽々と投げ飛ばしていたな。あれには本当に驚いたけど――

「はぁッ!」
「むんッ!」

 父娘の試合が始まった。裂帛の気合とともに激しい組み手争いが始まった。これは、凄いな。まるで世界大会で見るような激しさだ。

 そして楓も秋月も互いに一歩も引かない。手加減してるかと思ったが互いに顔は真剣そのものだ。そして秋月が一旦後方に飛び退いたわけだが。

「だったらこっち!」

 言うが早いか秋月が飛び込んだ。文字通り跳躍して楓との距離を詰めたんだ。かと思えば回し蹴り!?

「そう来たか。だが軽い!」

 楓が秋月の蹴りを受け止めた。一瞬これはありなのか? と思ったけど良く考えたら山守流柔術は総合的な流派だったな。

 ただ、楓の言うように確かに小柄な秋月では体重を乗せても父親には通用しない気もするが――

「何ッ!?」
 
 楓が目を見開いた。蹴りを受け止められた秋月だがそのまま絡まるような動きで楓の背後に回り込み首を絞めに入ったんだ。

「回し蹴りはフェイントといったところかしら。ウフフッ、危険だから普段はおいそれと狙えない技ね」
 
 月見が楽しそうに笑っていた。綺麗な母親なんだけど父娘の闘いに動揺もせず笑っていられるって本当肝が座ってらっしゃる。

「どう? ギブアップ?」
「ウググググウウゥウ!」

 しかし楓にも意地があるのか絞めてる腕に手を掛け強引に外しに入った。

「ちょ、力凄!」
「フンッ!」

 強引に引っこ抜きそのまま秋月の襟を取り投げた。秋月の背中が畳に叩きつけられる。

「決着ね。だけど惜しかったわね」
「いや、凄い勢いで叩きつけられましたけど!?」

 呑気に結果を口にする月見をよそに俺たちは秋月に駆け寄った。

「大丈夫か秋月!」
「ワンワン!」
「ピキュ~!」

 俺とモコとラムが声を掛けると秋月がスクッと立ち上がる。

「はぁ、やっぱりお父さんには勝てないかぁ」
「へ? えっとなんでもない?」
「ん?」

 俺が問いかけると秋月がきょとんっとした顔で俺を見てきた。

「アッハッハ! そんな心配は無用だ。娘の受け身は完璧だからな。昔崖から落ちた時も受け身のおかげで無傷だったぐらいだ」

 いやいや、それはとんでもなさすぎませんかね。とは言え平然と立っている秋月を見るに心配は不要だったようだな。

「もしかして俺なんかよりずっと冒険者向きなんじゃ……」
「え? そ、そうかな?」
「何? 冒険者だと! いかんいかん大切な娘をそんな危険な仕事につけさせてたまるか!」

 率直な感想を述べたのだけどどうやら父親の楓は秋月が冒険者をやることには反対らしい。

 でも、今の試合を見るに冒険者より危険なことをしていたような気がしないでもない。

「しかし、君は冒険者になったんだったな」
「あ、はい。まだ仮登録の段階ですけどね」

 俺が答えると楓が何かを考えるように顎を擦ってみせた。

「それなら武器を使った戦いも知っておくと良さそうだ。ジョブは一体どんなものになっているんだ?」
「あ、はい。実は農民で、戦闘向きじゃないですよね」

 質問に答えたが実際口にしてみて冒険者向けじゃないなと思ってしまう。

「なるほど農民か。確かにそれだけ聞くと戦闘向きに思えなさそうだが実際はそうでもないぞ」

 そう言って深く頷いたかと思えば楓が一旦その場を離れた。それから少しして戻ってきたわけだが幾つかの道具が抱えられていた。

「農民だとこのあたりか。これらを武器に使えば農民でも戦えるだろう」

 そう言って楓が畳に並べたのは小型の鎌、柄の長い大鎌、そして鍬だった。全て農具として使われているものだな。確かに農民にはピッタリな気もするけどこれで本当に戦えるんだろうか?
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

小さなフェンリルと私の冒険時間 〜ぬくもりに包まれた毎日のはじまり〜

ちょこの
ファンタジー
もふもふな相棒「ヴァイス」と一緒に、今日もダンジョン生活♪ 高校生の優衣は、ダンジョンに挑むけど、頼れるのはふわふわの相棒だけ。 ゆるふわ魔法あり、ドキドキのバトルあり、モフモフ癒しタイムも満載! ほんわか&ワクワクな日常と冒険が交差する、新感覚ファンタジー!

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
 ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。  ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。  ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。  ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。  なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。  もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。  もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。  モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。  なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。  顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。  辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。 他のサイトにも掲載 なろう日間1位 カクヨムブクマ7000  

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。 バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。 追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。 シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。

おばさん冒険者、職場復帰する

神田柊子
ファンタジー
アリス(43)は『完全防御の魔女』と呼ばれたA級冒険者。 子育て(子どもの修行)のために母子ふたりで旅をしていたけれど、子どもが父親の元で暮らすことになった。 ひとりになったアリスは、拠点にしていた街に五年ぶりに帰ってくる。 さっそくギルドに顔を出すと昔馴染みのギルドマスターから、ギルド職員のリーナを弟子にしてほしいと頼まれる……。 生活力は低め、戦闘力は高めなアリスおばさんの冒険譚。 ----- 剣と魔法の西洋風異世界。転移・転生なし。三人称。 一話ごとで一区切りの、連作短編(の予定)。 ----- ※小説家になろう様にも掲載中。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

処理中です...