親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃

文字の大きさ
61 / 190
第二章 冒険者登録編

第60話 ダンジョンにマスターがやってくるらしい

しおりを挟む
「何か大きな声がしたけど大丈夫でしたか?」
「あ、あぁ。なんというかあのギルドマスターが偉く興奮しててね」
「あぁ~」

 俺が説明すると秋月が苦笑した。納得はしてるようだが一緒にギルドに行っているから、マスターが何に興奮しているかは察しがついたのだろう。可愛いに目がない人みたいだからなぁ。

「とりあえずマール。これからギルドマスターの小澤さんが来るけど、顔は厳ついけどマールみたいなモンスターが大好きな人だから安心して欲しい」
「マ~♪」

 マールが任せて~と言わんばかりに両手をパタパタさせた。うむ、こんな可愛い姿を見たらマスターが卒倒してしまうかもしれない。

「ギルドマスターが来るなら、何かおもてなしをしたほうがいいのかな?」
「どうかな。一応は公務員扱いみたいだから、そういうのは受け取れないかもだし。でもコーヒーぐらいは準備して、って昨晩のあいつらのせいで大分なくなったんだったな」

 結構めちゃくちゃしてくれたからな。色々買い足さないといけないんだった。

「それなら私が必要そうな物を買ってきますよ。風間さんは待ってる必要あるでしょうから。それに車なので早いし」
「いや、流石に申し訳ない気もするんだが」
「気にしないでください。では行ってきますね」
「待って、それならこれ」
 
 俺は秋月に一万円を手渡した。

「おつりはいらないから」
「いや、流石に多すぎですよ」
「ガソリン代も掛かるだろう? 寧ろ足りなかったら言って欲しい」

 秋月は遠慮していたが流石にそういうわけにはいかないからな。そして秋月を送り出した後で俺たちも作業に入ろうと思ったんだがそこで着信がまた来た。

「ギルドマスターどうかしましたか?」
『あぁウッカリしてたんだが、ダンジョンの被害を確認したいから現場はそのままにしておいてもらえるか?』
「あ、なるほど。丁度いま掃除しようと思ってたので良かったです」
『わるいな。その分の埋め合わせはするから待っててくれ』

 そこまで話して通話を終えた。それにしても埋め合わせ? 一体どうするんだろうか。

 とにかく暫く待つ必要があるな。その間に秋月が帰ってこられるかはマスターの来るタイミング次第か。ただその前に一つ問題があることを思い出した。

――グゥ~。

「お腹、減ったよな?」
「ワウ……」
「ピキィ~……」
「マ~……」

 モコ、ラム、マールが力なく鳴いた。そうなのだ。あの連中のせいで朝食べる物もない。秋月が買い物に出てくれたけど車とは言えそこまで早くは戻ってこれないだろう。

 さて、どうしようか。残った食材を確認するが封のあけられたものは、何をされたかわからない以上手を付けにくいからな。

「――ここが放置ダンジョンか」
「ん?」
 
 ふと声がしたので振り返るとダンジョンの出入り口に一人の男性が立っていた。年齢は二十代前半ぐらいか? 髪をオールバックにさせていて整った顔をしているが、切れ長の瞳からはどことなく冷たい印象も感じられた。

「えっと、貴方は?」
「――帝《みかど》。姉貴から言われてきた」

 そう名乗って俺に買い物袋を手渡してきた。これは――

「これは?」
「姉貴からだ。受け取れ」
「いやいや、そもそも姉貴って誰かもわからないんだけど!」

 一方的な話しすぎて思っていたことがそのまま口に出た。いや本当、いきなりそれを言われてもな。困っていると向こうも顔を背け面倒くさそうに髪を掻き毟った。

「はぁ、説明してないのかよ。たく、俺の姉貴は輝夜だよ」

 輝夜――あ、鬼姫 輝夜か!

「えっとつまり鬼姫さんの弟?」
「そうだ。だが俺を鬼姫とは呼ぶなよ」

 強い口調で言われてしまった。鬼姫というのが嫌なのか? いや、もしかして――

「姫、とつくのが嫌だとか?」
「――チッ、ほら」

 舌打ち混じりに俺に袋を突きつけてきた。この感じ図星だったようだな。そして中身がチラッと見えたがどうやら食材のようだった。

 もしかしたら昨晩のことを気にして差し入れを彼に頼んでくれたのかもしれない。だとしたらとてもありがたいのだが。

「本当にいいのか?」
「くどい」
「わかった。丁度困っていたしありがたく受け取っておくよ」

 俺は帝と名乗った彼から買い物袋を受け取った。そして袋を掲げてモコたちに見せてあげる。

「よかったな皆。彼が食材を届けてくれたぞ」
「ワン!」
「ピキィ~!」
「マァ~!」
「お、おい! なんだよこいつら」

 俺が三匹にそう伝えると、モコ、ラム、マールが帝にヒシッと抱きついた。その行動に戸惑う姿がちょっとおかしかった。

「皆、君に感謝しているんだよ。ありがとうな」
「チッ、俺は頼まれて届けただけだっつの。用は済んだから行くぞ」
「まぁ待てって」
 
 立ち去ろうとする帝の腕を俺は掴んだ。

「何だよ」
「折角だから朝飯を食べていけよ。これから作るからさ」
「は? 別に俺は――」

 そこまで言った彼のお腹からグゥという音が聞こえてきた。どうやら空腹ではあるようだな。

「ハハッ、お腹は正直だな。待ってろよすぐ作るから」
「――チッ」

 そして俺は皆の為に朝食の準備にとりかかるのだった――
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
 ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。  ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。  ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。  ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。  なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。  もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。  もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。  モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。  なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。  顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。  辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。 他のサイトにも掲載 なろう日間1位 カクヨムブクマ7000  

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

実家の裏庭がダンジョンだったので、口裂け女や八尺様に全自動で稼がせて俺は寝て暮らす〜元社畜のダンジョン経営〜

チャビューヘ
ファンタジー
過労死寸前でブラック企業を辞めた俺が手に入れたのは、祖父の古民家と「ダンジョン経営システム」だった。 しかもバグで、召喚できるのは「口裂け女」「八尺様」「ターボババア」など日本の怪異だけ。 ……最高じゃないか。物理無効で24時間稼働。これぞ究極の不労所得。 元SEの知識でシステムの穴を突き、怪異たちに全自動でダンジョンを回させる。 ゴブリンは資源。スライムは美容液の原料。災害は全て収益に変換する。 「カイトさん、私……きれい?」 「ああ。効率的で、機能美すらある」 「……褒めてる?」 「褒めてる」 口裂け女は俺の言葉で即落ちした。チョロい。だがそれでいい。 ホワイト待遇で怪異を雇い、俺は縁側で茶をすする。 働いたら負け。それが元社畜の結論だ。 これは、壊れた男と健気な怪異たちが送る、ダンジョン経営スローライフの物語。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

異世界カードSHOP『リアのカード工房』本日開店です 〜女神に貰ったカード化スキルは皆を笑顔にさせるギフトでした〜

夢幻の翼
ファンタジー
自分のお店を経営したい! そんな夢を持つアラサー女子・理愛(リア)はアルバイト中に気を失う。次に気がつけばそこでは平謝りする女神の姿。 死亡理由が故意か過失か分からないままに肉体が無い事を理由に異世界転生を薦められたリアは仕方なしに転生を選択する。 だが、その世界では悪事を働かなければ自由に暮らして良い世界。女神に貰ったスキルを駆使して生前の夢だった店舗経営に乗り出したリア。 少々チートなスキルだけれど皆を笑顔にさせる使い方でたちまち町の人気店に。 商業ギルドのマスターに気に入られていろんな依頼も引き受けながら今日も元気にお店を開く。 異世界カードSHOP『リアのカード工房』本日も開店しています。

私のスキルが、クエストってどういうこと?

地蔵
ファンタジー
スキルが全ての世界。 十歳になると、成人の儀を受けて、神から『スキル』を授かる。 スキルによって、今後の人生が決まる。 当然、素晴らしい『当たりスキル』もあれば『外れスキル』と呼ばれるものもある。 聞いた事の無いスキル『クエスト』を授かったリゼは、親からも見捨てられて一人で生きていく事に……。 少し人間不信気味の女の子が、スキルに振り回されながら生きて行く物語。 一話辺りは約三千文字前後にしております。 更新は、毎週日曜日の十六時予定です。 『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しております。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

追放された俺の木工スキルが実は最強だった件 ~森で拾ったエルフ姉妹のために、今日も快適な家具を作ります~

☆ほしい
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺は、異世界の伯爵家の三男・ルークとして生を受けた。 しかし、五歳で授かったスキルは「創造(木工)」。戦闘にも魔法にも役立たない外れスキルだと蔑まれ、俺はあっさりと家を追い出されてしまう。 前世でDIYが趣味だった俺にとっては、むしろ願ってもない展開だ。 貴族のしがらみから解放され、自由な職人ライフを送ろうと決意した矢先、大森林の中で衰弱しきった幼いエルフの姉妹を発見し、保護することに。 言葉もおぼつかない二人、リリアとルナのために、俺はスキルを駆使して一夜で快適なログハウスを建て、温かいベッドと楽しいおもちゃを作り与える。 これは、不遇スキルとされた木工技術で最強の職人になった俺が、可愛すぎる義理の娘たちとのんびり暮らす、ほのぼの異世界ライフ。

処理中です...