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第二章 冒険者登録編
第83話 思い出
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俺が中学生になったころには、既に両親は冒険者として活動していた。最初は脱サラして二人揃って冒険者やるなんて大丈夫かと心配になったけど、親父も母さんも冒険者になってからメキメキと頭角を現すと、有名どころの仲間入りをするまでになっていた。
その時には二人は俺にとって憧れの存在になっており、大きくなったら俺も冒険者になるのだと両親に宣言した。親父も母さんもそれは良いことだと言って喜んでいた。
あの頃の俺は確かにそれを願っていたし、喜んだ両親も俺を鍛えてくれるようになっていた。
だけどそんな俺の思いを打ち砕くような出来事がおきた。忘れもしない俺が十七歳になった時のあの年の六月六日――大規模なスタンピードが発生した。
ダンジョン災害とも呼ばれるこの現象は、ダンジョンから数多くのモンスターが地上に出現し人々に襲い掛かる異常事態のことである。
しかもこの時のスタンピードは関東を中心に同時多発的に発生した。この影響で政府が緊急事態宣言まで発令した程だった。そして当然だがこれに即座に対応したのが冒険者ギルドでありそこに所属する冒険者だった。
俺の両親もこの緊急事態ですぐに動いた。その時の俺は、きっと親父と母さんならこの事態を沈静化するのも時間の問題だろうと楽観的に考えていた。
だけどそんな考えが浅はかだったことを俺は思い知らされることとなった。結局事態が落ち着くまでに十日以上の時間を有しその間に犠牲者の数も増えていき最終的には死傷者が一万人を超える大惨事となってしまったからだ。
そして――その日、俺は病院の集中治療室の前にいた。面会謝絶の表示があり俺はガラス越しに親父の姿を確認するのが精一杯だった。酸素呼吸器をされ体中から管が伸びていた。顔は包帯で確認出来ず、何よりショックだったのは――親父の四肢がなかったことだ。
「なんだよこれ、なんでこんなことになってんだよ……」
胸が詰まる思いだった。それでも絞り出すように発した言葉がこれだった。そんな俺の肩に両手が乗った。振り返るとそこには母さんの姿があった。
母さんは親父ほど重症ではなく意識もはっきりとしていたが、それでも体中に巻かれた包帯が痛々しかった。
「お父さんはね頑張ったんだよ。皆の命を守ろうとしてそれで」
「だからって自分が危険な目にあってちゃ仕方ないだろう!」
母さんの話を聞いても納得ができなかった。勿論冒険者という仕事をしている以上、危険と隣り合わせなのは肌で感じていた。だが実際に目の当たりにすると冷静ではいられなかった。
「大体なんでこんな怪我を、冒険者ならスキルで何とかしてくれるんじゃないのかよ!」
「そういうわけにはいかないの。緊急事態もあって政府も一般人の治療を優先させるようギルドに伝えていてね。私たちはどうしても後回しになってしまうのよ」
「……それで親父は治るのかよ」
「――怪我は時間が経てば、ただ失った手足はもう……」
そこまでいって母が喉をつまらせた。俺の脳裏に冒険者として活躍し頼もしい笑顔を向けていた父の姿が浮かんだ。だけどその姿は今後もう――
「ふざけんなよ。親父はこんな目にあったのに、あいつら感謝すらしてねぇだろうが!」
ネットでは冒険者に対する誹謗中傷で溢れかえっていた。犠牲者が多かったこともあり怒りの矛先が冒険者やギルドに向けられていたからだ。
政府は冒険者の助けがなければ犠牲者はこの十倍を超えていたと説明を繰り返していたが、それでも好き勝手書く奴は現れる。それを目にしたこともあり当時の俺は冒険者という仕事に疑問を持ち始めていた。
「こんな怪我までしてあんな言われ方して、これじゃあ冒険者なんてなんの役にもたたないじゃないかよ!」
「やめて……お父さんの前で……」
母さんが俺をなだめようとしたのか、そんな事を言ってきた。だけどそんな言葉で止まれる訳がなかった。
「もう親父だって限界だろ! こんな姿になってまで何でこんな目にあったのに全て無駄じゃねぇか!」
振り返って叫ぶ俺の目に映ったのは悲しそうな顔をした母さんの姿だった。その目には涙が溜まっていた。
「保育園をね黒竜が襲っていたの。あの人は子どもたちの命を守ろつと単身でその竜に挑んだの。私や他の冒険者は他のモンスターに対処するのに精一杯で動けなかった。それでもあの人は未来ある子どもたちの為に一人で必死に戦って守ってみせたの。その代償は大きかったけど、私はお父さんの行為を誇りに思うわ」
そう言って母さんが俺を抱きしめた。
「だから、貴方はそんなことを言わないで。唯一の息子の貴方に無駄だったなんて言われたら必死に守ったお父さんが報われないもの。だからお願いよ――」
母さんのむせび泣く声が聞こえた。俺はそれ以上何も言えなかった。頭ではわかっていた。父さんがやったことがどれだけ偉大なことか。だけどそれを飲み込むには俺の精神はまだ幼すぎたんだ。
それにしても、なんで今さらこんな光景が。これは、そうか夢か。あの日の夢、だとして俺は一体どうなって? そう思った直後目の前が白く染まりそして――
「――知らない天井だな」
意識が覚醒した俺の第一声がこれだった。いや、本当なんとなく言いたくなってしまっただけなんだが、ここは一体?
たしか俺は、そうだ! 於呂の凶行を止めようとしてそれで、撃たれた!? 思い出した俺は反射的に飛び起きた。そこで気がついた、俺がベッドの上にいたことに。
そして――
「風間さん!」
「ワンワン!」
「ピキィィイィイッ!?」
「マァ! マァ~~~~!?」
俺の耳に届いたのは秋月の声であり、モコとラムとマールの声。同時に三匹が俺に飛びついてきて、俺も慌ててしまった。俺が受け止めると三匹が俺にヒシッと抱きついて泣いていた。
そうか、俺はあの時に銃で撃たれてここに、どうやら皆に随分と心配を掛けてしまったみたいだな――
その時には二人は俺にとって憧れの存在になっており、大きくなったら俺も冒険者になるのだと両親に宣言した。親父も母さんもそれは良いことだと言って喜んでいた。
あの頃の俺は確かにそれを願っていたし、喜んだ両親も俺を鍛えてくれるようになっていた。
だけどそんな俺の思いを打ち砕くような出来事がおきた。忘れもしない俺が十七歳になった時のあの年の六月六日――大規模なスタンピードが発生した。
ダンジョン災害とも呼ばれるこの現象は、ダンジョンから数多くのモンスターが地上に出現し人々に襲い掛かる異常事態のことである。
しかもこの時のスタンピードは関東を中心に同時多発的に発生した。この影響で政府が緊急事態宣言まで発令した程だった。そして当然だがこれに即座に対応したのが冒険者ギルドでありそこに所属する冒険者だった。
俺の両親もこの緊急事態ですぐに動いた。その時の俺は、きっと親父と母さんならこの事態を沈静化するのも時間の問題だろうと楽観的に考えていた。
だけどそんな考えが浅はかだったことを俺は思い知らされることとなった。結局事態が落ち着くまでに十日以上の時間を有しその間に犠牲者の数も増えていき最終的には死傷者が一万人を超える大惨事となってしまったからだ。
そして――その日、俺は病院の集中治療室の前にいた。面会謝絶の表示があり俺はガラス越しに親父の姿を確認するのが精一杯だった。酸素呼吸器をされ体中から管が伸びていた。顔は包帯で確認出来ず、何よりショックだったのは――親父の四肢がなかったことだ。
「なんだよこれ、なんでこんなことになってんだよ……」
胸が詰まる思いだった。それでも絞り出すように発した言葉がこれだった。そんな俺の肩に両手が乗った。振り返るとそこには母さんの姿があった。
母さんは親父ほど重症ではなく意識もはっきりとしていたが、それでも体中に巻かれた包帯が痛々しかった。
「お父さんはね頑張ったんだよ。皆の命を守ろうとしてそれで」
「だからって自分が危険な目にあってちゃ仕方ないだろう!」
母さんの話を聞いても納得ができなかった。勿論冒険者という仕事をしている以上、危険と隣り合わせなのは肌で感じていた。だが実際に目の当たりにすると冷静ではいられなかった。
「大体なんでこんな怪我を、冒険者ならスキルで何とかしてくれるんじゃないのかよ!」
「そういうわけにはいかないの。緊急事態もあって政府も一般人の治療を優先させるようギルドに伝えていてね。私たちはどうしても後回しになってしまうのよ」
「……それで親父は治るのかよ」
「――怪我は時間が経てば、ただ失った手足はもう……」
そこまでいって母が喉をつまらせた。俺の脳裏に冒険者として活躍し頼もしい笑顔を向けていた父の姿が浮かんだ。だけどその姿は今後もう――
「ふざけんなよ。親父はこんな目にあったのに、あいつら感謝すらしてねぇだろうが!」
ネットでは冒険者に対する誹謗中傷で溢れかえっていた。犠牲者が多かったこともあり怒りの矛先が冒険者やギルドに向けられていたからだ。
政府は冒険者の助けがなければ犠牲者はこの十倍を超えていたと説明を繰り返していたが、それでも好き勝手書く奴は現れる。それを目にしたこともあり当時の俺は冒険者という仕事に疑問を持ち始めていた。
「こんな怪我までしてあんな言われ方して、これじゃあ冒険者なんてなんの役にもたたないじゃないかよ!」
「やめて……お父さんの前で……」
母さんが俺をなだめようとしたのか、そんな事を言ってきた。だけどそんな言葉で止まれる訳がなかった。
「もう親父だって限界だろ! こんな姿になってまで何でこんな目にあったのに全て無駄じゃねぇか!」
振り返って叫ぶ俺の目に映ったのは悲しそうな顔をした母さんの姿だった。その目には涙が溜まっていた。
「保育園をね黒竜が襲っていたの。あの人は子どもたちの命を守ろつと単身でその竜に挑んだの。私や他の冒険者は他のモンスターに対処するのに精一杯で動けなかった。それでもあの人は未来ある子どもたちの為に一人で必死に戦って守ってみせたの。その代償は大きかったけど、私はお父さんの行為を誇りに思うわ」
そう言って母さんが俺を抱きしめた。
「だから、貴方はそんなことを言わないで。唯一の息子の貴方に無駄だったなんて言われたら必死に守ったお父さんが報われないもの。だからお願いよ――」
母さんのむせび泣く声が聞こえた。俺はそれ以上何も言えなかった。頭ではわかっていた。父さんがやったことがどれだけ偉大なことか。だけどそれを飲み込むには俺の精神はまだ幼すぎたんだ。
それにしても、なんで今さらこんな光景が。これは、そうか夢か。あの日の夢、だとして俺は一体どうなって? そう思った直後目の前が白く染まりそして――
「――知らない天井だな」
意識が覚醒した俺の第一声がこれだった。いや、本当なんとなく言いたくなってしまっただけなんだが、ここは一体?
たしか俺は、そうだ! 於呂の凶行を止めようとしてそれで、撃たれた!? 思い出した俺は反射的に飛び起きた。そこで気がついた、俺がベッドの上にいたことに。
そして――
「風間さん!」
「ワンワン!」
「ピキィィイィイッ!?」
「マァ! マァ~~~~!?」
俺の耳に届いたのは秋月の声であり、モコとラムとマールの声。同時に三匹が俺に飛びついてきて、俺も慌ててしまった。俺が受け止めると三匹が俺にヒシッと抱きついて泣いていた。
そうか、俺はあの時に銃で撃たれてここに、どうやら皆に随分と心配を掛けてしまったみたいだな――
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